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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
7/128

episode7「Beginning-2」

 一人の男が、王の寝室の前を歩いていた。

 黒く、艶のある長い髪はまるで女性のように美しかった。

「異常はない……な」

 周囲を注意深く見回しつつ、男はそう呟いた。

 ――――この城の者は、警戒心が足りなさ過ぎる……。

 心の内でそう呟き、男が寝室の前を通り過ぎようとした時だった。

「……!?」

 ゆっくりと。こちらへ歩いて来る足音が聞こえている。人影が、男の前方に二つ。

「貴様らは……?」

 右手を二つの人影へかざし、静かに男は問うた。

「マリオン、やれるか?」

 男の問いには答えず、静かに、人影の内一人が、もう片方へ問うた。

「無理だろ。俺ら戦闘タイプじゃねえし」

「お前の能力ならちゃっちゃとやれるだろ」

 一人がそう言うと、マリオンと呼ばれた男は舌打ちをする。

「仕方ねえ……ちょっと待ってろ」

「貴様ら、一体何者――――」

 男が言いかけた時だった。人影が一つ、瞬時にその場からかき消えた。

「な――――ッ!」

 男が表情を驚愕に歪めた時には既に遅く、男の背後には、先程の人影と思しき人物――――マリオンが立っていた。

「これ、疲れるんだよなぁ」

 嘆息し、マリオンは男の首筋へ素早く手刀を喰らわせた。

「が――――ッ」

 短く呻き声を上げ、男はその場に倒れた。

「俺の能力で城の外まで運ぶから、お前はアレクなんたらを連れ出せ」

「……了解」

 人影が小さく頷くと同時に、グッと人影の身長が伸び始める。短髪だった髪は、美しく艶のある長髪へと変わる。そしてマリオンを一瞥して嘆息すると、王の眠っている寝室のドアを軽く叩いた。



「で、何なのよ? すごいものって」

 よく晴れた午前中、ミラルが居候させてもらっている家の前までわざわざやってきたチリーとニシルにミラルが問うと、興奮気味のチリーがすげえ、と何度も繰り返した。

 答えになっていない。

「すごいと言うより……なんか不思議な感じだけどね」

 平静を装ってはいるが、ニシルもやや興奮気味の様子だ。

「だから何なのよそれは?」

「見てのお楽しみ。とりあえず僕らについて来てよ」

 ミラルは正直なところ、午前中は家でゆっくりとしたかったのだが、この二人の様子から察するに、相当なものを見たのだろう。ついて行かなければならない辺り、どうやら移動不可能なものらしい。

「仕方ないわね」

 嘆息し、そう呟くとハイテンションに騒ぎながら、意気揚々と先頭を歩くチリーの後ろを、ミラルはニシルと共について行った。



 しばらく歩くと、この島の中心辺りとされる森の前に到着した。

「ココって子供だけで入っちゃダメだったと思うんだけど」

 ミラルの言う通り、この森への子供の立ち入りは、テイテスの王から直々に禁じられている。

 子供のみならず、この森は大人ですら入るのを躊躇う程だ。何があるのかは知らないが、王直々に立ち入りを禁じるくらいだ、余程危険なのかも知れない。

「十七年も生きた俺達を子供扱いすること自体おかしいぜ」

 腰に手を当て、胸を張って得意げな顔でチリーは言う。例えそうでも、チリーの言動は基本的に子供そのものなのだが……。

「だよね。僕らももう子供じゃないし、こんな森くらいどうってことなかったよ」

「どうってことなかったって……アンタ達入ったの!?」

 軽い口調で言うニシルの言葉に、ミラルは耳を疑う。

「猪とかが数匹いるだけで大したことじゃなかったしな」

「猪って……」

 ミラルからすれば猪は十分に大したことなのだが、彼らにはそうでもないようだ。

「行こう」

 大量に生えた雑草を踏み分けながら、チリーとニシルは奥へと進む。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 慌ててミラルも先を行く二人を追いかけた。

 森の中に入ると、見渡す限り大自然。小鳥が囀り、小動物や虫がミラル達の足元を駆け巡る。まるでジャングルだ。

「結構奥だったよな?」

 目の前で行く手を阻む枝を押し退けながらチリーが問うと、ニシルはコクリと頷く。

「うん。結構歩いたよね」

 会話から察するに彼らは、ミラルが起床するかなり前からこの森の探索を始めていたらしい。

「この森、猪出るんでしょ? 大丈夫なの?」

 心配そうにミラルが問うと、ニシルがクスリと笑った。

「大丈夫だよ。僕らで一通り倒しといたから」

 軽々とニシルは言うが、二人がかりとは言え普通の少年が倒せる程、猪は甘くない。が、彼らは普通ではなかった。

 先日のように彼ら二人はほぼ毎日、キリトと共に特訓を行っている。その日々の積み重ねが、二人を強くしたのだろう。

「そう言えば、今日はキリトさんと特訓しなくて良いの?」

「ああ、今日は親父が寝てたからな。無しになった」

 親父――――というのはキリトのことだ。

 過去にゲルビアで傭兵をやっていたキリトは、万が一の時のためにと、チリーとニシルを鍛えている。キリトが二人を鍛え始めたのはミラルがこの島に来た後からだが、それでも既に五年はやっている。故に、二人が強いのも当然である。

「それにしても……アンタ達何でまた森なんかに入ったのよ?」

 呆れ顔でミラルが問うと

「「暇だったから」」

 と、二人はほぼ同時に笑いながら答える。

「他にすることがなかったのね……」

 ミラルは呆れて溜息を吐いたが、二人まったく気にしない様子で、森の奥へとドンドン進んで行った。



 森の中を歩き始めて随分と経ったハズなのだが、一向に目的地に辿り着く気配がない。

 しばらく歩き続けているため、鍛えている二人はともかく、ミラルの足には次第に疲労が溜まりつつあった。

「まだなの……?」

 表情に疲労感を浮かべつつ、ミラルが問う。

「そろそろだ」

 チリーがそう答えてから三十秒もしない内に、ニシルが着いたよ、と前方を指差した。

「これ……」

 ミラルは目の前に広がる光景に息を飲んだ。

 先程まで景色は樹木や雑草に覆われていたのだが、その場所だけは樹木はおろか雑草すら生えておらず、裸の地面が広がっていた。まるで、その部分だけ焼き払われたかのようだった。

 そしてその中心――――恐らくこの島の中心とも言える部分。

「すげーだろ。俺達も昨日初めて見た時はビックリしたぜ……」

 黒い宝石のような何かが、そこには埋まっていた。元々黒かったというよりは、何らかの原因で色あせてしまったような色であった。その宝石のような何かは二つに割れてしまっており、本来なら一つの球体として存在していたであろう形である。その宝石のような何か……その破片の間にある地面には、球体が埋まっていたかのような窪みがあった。

「…………」

 ミラルは、この光景に言いようのない不安を覚えた。



 テイテスは、国としては非常に小規模である。

 世界の大半を占める大陸、アルモニア大陸に近接している島がテイテスで、正直国であること自体疑わしくなるような、そんな規模である。

 テイテスの大きさは比較するならアルモニア大陸の大国、ゲルビア帝国の首都パンドラと変わらない程度の大きさ――――つまり、大国と言えどもゲルビア帝国の首都内に収まりきる程度の小ささなのだ。

 故にテイテス内に区分はなく、村は一つ……つまり島全体が一つの村であり、一つの国なのだ。

 それ程小さなテイテスでも、王は存在する。

 この島、テイテスを国としたのは初代王のアレクサンダー一世である。現在はアレクサンダー三世が王に該当する。

 王も、法も、城も存在し、テイテスは小規模ではあるが一つの国として成り立ってはいる。


 一応王が存在することで国は成り立っているのだが、チリー達三人が森の中に侵入する三日前、いつもなら朝は早いアレクサンダー三世が、既に午後が近いと言うのに一向に目を覚まさない。

 王の側近を務める者の一人、アグライは今朝から不審に感じていた。

 それに、若くして側近となった男、トレイズも今朝から一度も見ていない。

 王とトレイズの失踪? この考えが正しいなら、トレイズはともかく王はなんとしても捜し出さねばならないだろう。が、まだそうと決まった訳ではない。

 王が、城内にいるかどうか確かめなくてはならない。

 アグライとトレイズを除いた他の者は、島内で何かが起きる訳ないと高をくくっているのか、基本的に警戒心に欠けている。

 王を起こす役目(と言っても王は基本的に自分で起きるのであまり必要ない)はアグライ自身なので、既に一度起こしに行っているのだが、ドアを叩いても王からの返事はなかった。

 昨日は非常に疲れている様子だったので、王はまだ眠っているのだろうと思ったアグライは、起こさぬようそのまま寝かせておくことにしていた。

 しかし、流石にこの時間まで目覚めないとなると、失踪していないにしても体調不良の可能性がある。勝手に部屋に入るなと命じられてはいるが、これからもう一度確認しに行き、返事がないようなら中に入ってみるしかない。

 そう思い、アグライは王の部屋へと向かった。


 王の部屋の前まで来ると、アグライはすぐに二度ドアをノックした。が、数秒待っても王からの返事はない。

「私です。アグライです。どこか調子が悪いのですか?」

 声をかけるが、返事はない。

「無礼をお許し下さい! 勝手ながら、部屋の中に入らせていただきます!」

 意を決して、アグライは部屋のドアを開いた。その瞬間に気が付く――――王が不用心に鍵を開けたままにしているハズがない、と。

「王……様……?」

 アグライは、口を開いたまま唖然とした。

 いつもなら王が眠っているハズのベッドの中に、王の姿がないのだ。高級な羽毛布団がはぐられ、シーツが露わになっている。

「王が……王が……!」



 アグライの報告により王、アレクサンダー三世の行方を追い、島中が捜索されたが一向に王の姿は見当たらなかった。

 アグライ達上層部は、国外へと何者かによって連れ出されたのではないかと判断した。殺されている可能性も高い。

 捜索隊を出そうかとも考えたが、アレクサンダー失踪を公にする訳にはいかない。国から数人の兵と、民間から数人、捜索隊を出すことが決定した。

 王の失踪が近隣諸国に知れれば、攻め入る隙を与えることになる。内国的にならともかく、王の失踪を国外に知られる訳にはいかないのだ。

 テイテスには兵と呼べる者が少なく、国全体の安定等を考えて数人残しておかなければならないので、捜索隊に出せる人数はごく少数だ。故に、民間からでも出さなければ人数が不足し、効率が悪くなるのだ。



 森から帰った後、城の付近を通ったチリー達は、木でつくられた看板の前に人だかりが出来ているのを発見した。

「おい、何の集まりだ?」

 チリーが二人に問うが、どちらも知らないらしく、不思議そうに小首を傾げている。

「あの、すいません。何かあったんですか?」

 傍にいた男性にミラルが尋ねる。

「ああ、ここからじゃ人が邪魔で看板が見えないのか」

 男性の言葉に、ミラル達はコクリと頷く。

「王様が、失踪したんだってさ」

「――――ッ!?」

 まるで他人事のように言う男性の言葉に、三人共が絶句した。

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