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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
69/128

episode69「Roots-2」

 アルケスタ。ゲルビア帝国内にある、別名知識の町と呼ばれる町だ。あらゆる書物や知識が詰まった町、特にアルケスタに存在する大図書館は世界最大規模の蔵書量だ。その中に、この世の全ての書物が詰まっていると言っても過言ではない。

 そんな、調べ物をするのに最適なアルケスタには、ゲルビア帝国直属の研究所がいくつも建てられている。

 このゲルビア帝国立遺伝子研究所も、その内の一つだった。

「博士、どうかね? 研究の方は」

 地下へと降りるエレベーターの中、ゲルビア帝国国王――ハーデンは隣にいる白髪の女性へ問うた。

「ええ、陛下の支援のおかげで順調です」

 女性はあまり表情を変えずにそう答えた。

 若い、女性だった。髪はこれでもかと言う程真っ白だというのに、彼女の年齢はせいぜい二十代真ん中辺りだろう。

「そうか……」

 ハーデンが満足げに答えるのとほぼ同時に、エレベーターは停止し、目的の階まで辿り着いたことを知らせるチャイムが鳴り響く。

「到着しました」

「よし、案内してくれ」

 女性は静かに頷くと、開いたエレベーターのドアの向こうへゆっくりと進んで行く。その隣を、静かにハーデンが歩く。

 真っ暗な廊下だった。足元の電球以外に光はなく、少し気を抜けば今にも転びそうだ。部屋は一つも見当たらず、どこか不気味な雰囲気を持った廊下だった。

「この先にいるのか?」

「はい。この奥の部屋のカプセル内で造られています。現在、九割方完成している状態です」

「もうそんなにか!」

 ハーデンの言葉に、女性は静かに頷く。それを見、ハーデンはニコリと微笑んだ。

「そうか……そうか……!」

「無礼を承知で質問させて下さい。陛下、何故このような研究を?」

 心底嬉しそうに呟くハーデンへ、女性は怪訝そうな顔で問うた。

「ふむ……」

 その問いへ、ハーデンは気分を害した様子はなかった。その様子に、女性は密かに胸をなでおろす。

「好奇心だよ。人類が人類を造り出すことで、我々は新たな境地へ辿り着ける。それに、この実験は神力研究の進歩ともなる」

「貴重な小赤石を、この実験に使っても良かったのでしょうか……」

「構わないよ。神力の塊である小赤石……それを体内に宿す生命がどんな力を得るのか……君だって気にならないわけではないだろう?」

 ハーデンの問いに、女性はコクリと頷いた。

 一人の研究者として、興味がないと言えば嘘になる。

「……着きました」

 会話をしている内に、一つの扉の前へ来ていた。ドアの上には「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた電灯が光っている。

 女性は白衣のポケットから鍵を取り出すと、ドアの鍵を開ける。

「入るぞ」

「はい」

 ドアを開け、女性はハーデンと共にドアの向こうへと入って行く。

 部屋の中央には巨大なカプセル。その下にはカプセルに繋がっているコードが大量に張り巡らされていた。カプセルの中は青白く光っており、中に入っている物がなんなのか、暗い部屋の中でも明確にわかる。

「見れば見る程そっくりだな……」

 カプセルを見、ハーデンは満足げに頷く。

「陛下の遺伝子を使用しましたから……」

 女性も、満足げにカプセルを見つめる。


 中に入っているのは、眠っているハーデンそっくりな男だった。




 ある日の午後、ゲルビア城付近の酒屋をアルドが訪れた時だった。どういう訳か、隅の方の席にちょこんとミラルが座っていた。いつものドレス姿ではなく、どこで手に入れたのか庶民の着ているような動きやすそうな格好で、ミラルはコップ一杯のジュースを少しずつ飲んでいた。彼女がミラルだと気付いたのはアルドだけらしく、他の者はミラルを見ても、酒屋に女の子が一人? と訝しげな顔をする程度で、大きな反応は示さなかった。

 アルドは嘆息すると、すぐにミラルの元へ歩み寄った。ミラルはアルドへ気がついたのか、視線をアルドへ向けたがすぐに視線を逸らす。

「ひーめっさま」

 ミラルの向かい側の椅子へ腰掛け、気軽に声をかける。

「……姫じゃないもん。ただの庶民だもん」

「へぇ、じゃあどちら様で?」

「あ、アルドには関係ないもん!」

「何で庶民が俺の名前呼び捨てなんだよ」

「あ」

 しまった、とでも言わんばかりに表情を変えたミラルを見、アルドはクスリと笑みをこぼす。

「またサボりか?」

「……だって、楽器なんて女王になるのと関係ないじゃない」

「そりゃそうだ」

 ミラルの言葉にそう言って笑い、アルドはミラルの頭の上にそっと手を置いた。

「でもな、関係はなくても意味はある。この世に意味のねえものなんてそんなにねえんだ。やっておいて、損はないと思うぜ?」

「……うん」

 コクリと頷くが、ミラルは城に帰ろうとはしなかった。無理矢理帰すのもかわいそうな気がしたのか、アルドも無理に帰そうとはせず、そのまま談笑した。

「ねえ、そういえばアルドはどうしてここに?」

「俺か? 俺はちょっと人を待っててな」

 アルドがそう言った時だった。酒屋のドアが開き、一人の男が店内に入って来る。その男を見、アルドは満足そうに微笑んだ。

「来た来た」

 男もアルドの方へ視線を向けると、微笑してこちらへ歩み寄って来る。

「久しぶりだな、白蘭」

 アルドがそう言うと、白蘭と呼ばれた男はああ、と頷いた。

「白蘭さん!」

「やあ姫様……っておいアルド、こんな所に何で姫様がいんだよ」

 ミラルへ笑顔を向けた後、すぐに呆れ顔でアルドを見る白蘭。

「サボりだってよ」

 冗談っぽく笑いながらアルドが言うと、白蘭は溜息を吐く。

「まあ、良いか」

「そうそう、気にすんな」

 そう言って、アルドは白蘭の右肩を叩きながら笑った。



 白蘭。というのはアルドの友人で、東国出身の青年だ。こうしてたまに遠路遥々ゲルビアに来ては、アルドに会いに来ている。

「それにしても、お前の能力は便利で良いねえ。神力? だったっけか?」

 白蘭はコクリと頷く。

「結構ややこしかったけど、『物体の中の物体を別の物体の中へ移す』で合ってるか?」

「ああ。そんな感じだ。まあ、移す対象は液体とかでも大丈夫だけどな」

 二人は納得して頷き合っているが、ミラルにはさっぱりわからない。

「どういうこと?」

「例えば、ですよ」

 白蘭はそう言って、水の入っているアルドのコップを自分の傍に寄せる。そして隣に、自分のコーヒーが入っていた空のカップを置いた。

「こっちの物体……つまりコップの中に入っている水を、その隣の物体……この空のカップの中に移すことが出来ます」

 そう言って、白蘭はコップへ手をかざすと、目を閉じる。と同時に、かざした白蘭の手から光が発せられる。

「――っ!」

 ミラルが驚いて目を丸くした頃には、既にコップの中に水は入っておらず、代わりに空だったカップの中へ水が入っていた。

「ま、こういうことです」

 そう言って笑うと、白蘭はカップの中の水をグイッと飲み干す。

「あ、テメエそれ俺の水だろーが!」

「細かいことは気にすんな。水なんてタダだろ」

「まあそうだけどよ……」

 どこか不服そうな表情で、アルドは店員を呼んで水をコップの中へ注がせる。

「でも、それだったら手で入れれば良いじゃない」

「姫様、この能力の使い道は何もコップの中の水をカップへ入れることじゃありません。要は『物体の中の物』であれば良いんです」

「……というと?」

「家という物体の中の物……つまり人間を、別の家という物体に移すことも出来ます」

「え……!」

「今日だって、俺は俺の家からゲルビアにある別荘へ自分を移すことでここまで来たんです」

 それには何か夢を感じたのか、ミラルはホントに!? と目を輝かせた。そんな彼女を見て微笑ましく思ったのか、アルドは優しく笑みを浮かべた。

「っつーかお前ぶっちゃけ最強だよな。敵の内臓を敵の身体から別の物体の中に移しちまえば負けねーじゃんよ」

「馬鹿言え。そんなに簡単な話じゃない。こういう移動が出来るようになったのだってつい最近の話だ。理論上は可能だが、今の俺じゃ出来ない。最初なんて、さっきやって見せたコップの水を移す程度のことしか出来なかったんだぞ」

「世の中そんなに甘くないってことかィ」

「そういうことだ」

 クスリと笑みを浮かべ、白蘭は席を立った。

「ん、もう行くのか?」

「ああ。ここにはしばらく滞在するつもりだから、別荘で荷物の整理しないといけないんだ」

「能力で一旦帰りゃ良いだろ?」

「いや、正直言うとそんな移動が出来る程力が残ってないんだ」

 苦笑しつつ、白蘭はそれじゃあな、と手を振って酒屋を後にした。

「おし、んじゃ姫様も城まで帰ろうぜ」

「えー」

 不満そうなミラルをやや強引に、城まで連れて行くアルドであった。

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