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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
67/128

episode67「Hostility-2」

 深い眠り。眠りの中、脳は記憶を整理する。

 チリーのこと。ニシルのこと。自分を育ててくれた人達のこと。キリトのこと。トレイズのこと。カンバーのこと。青蘭のこと。

 テイテスに、漂着する前のこと。

 濁流のように流れ込んで来た記憶。今はゆったりと流れ、整理されていく。

 自分が何者で、どこから来たのか。何があったのか。鮮明とは言えないまでも、思い出すことは出来る。

 本当の両親のことも。

 ――――アルド。

 支離滅裂とも言える程に混在した映像の中、ミラルは呟いた。

 それは誰の名だったか。

 ――――アルド。

 追い求めるかのようにもう一度呟くが、答えなど返ってくるハズはない。

 何故なら、アルドは――――



 ゆっくりと。ミラルは閉じていた目を開いた。

 最初に視界に入ったのは見覚えのない天井。未だ朦朧とする意識の中で、ミラルは声を聞いた。

「行くぞ」

 怒気の込められた、少年の声。それがチリーの物だと気付くのに、数刻とかからなかった。足音が聞こえ、チリーがこの場を去ったのだと理解する。

「ああもう! 訳わかんないよッ!」

 ニシルの怒号が聞こえると同時に、ミラルの意識は徐々に明確になっていく。

 そもそも何故、自分は気を失っているのか。

 ――――探しましたよ――――姫様。

 脳裏に蘇る、ニコラスの言葉。

 ああ、そうだ。思い出したのだ。その時に一度意識を失って……。

「ミラルさん?」

 目を開けているミラルの顔を、カンバーが覗きこんだ。カンバーはミラルが目を覚ましていることに気が付き、ニコリと微笑んだ。

「ミラルさんが目を覚ましました!」

「ミラルが!?」

 すぐに、ニシルがミラルの元へ近寄る。

「みんな……」

 呟き、ミラルはゆっくりと身体を起こした。

「……無事で良かった」

 腕を組み、微笑を浮かべつつミラルを見てトレイズが呟いた。そんなトレイズに、ミラルは微笑む。

「ごめんね、心配かけて」

「まったくだよ……。でも、ホント無事で良かった」

 そう言って、ニシルは安堵の溜息を吐いた。

「あ、そういえば……聞かせてもらえますか?」

 カンバーは麗達の方へ視線を向け、静かに問うた。

「貴方達とチリーさんの間に一体何があったんですか?」

「むしろこっちが聞きたいくらいです。どうしてチリーさんはあんなことを……?」

 そう問い返した伊織に、カンバーは目を見開いた。

「それ、おかしい……」

 ボソリと。呟いたミラルへ、一同の視線が集中する。

「私とチリーはずっと一緒に行動してたのよ? 確かに青蘭には会ったけど、チリーは何も悪いことなんてしていないハズよ」

「そんな……。私と青蘭君だって、一緒に行動してました。青蘭君に何かしたのは、むしろチリーさんの方です」

 二人の意見の食い違い。ニシルはキョトンと首を傾げた。

「とりあえず、何があったか説明してくれよ」

 ニシルの言葉に、二人は静かに頷いた。



 しばしの沈黙。ミラルと伊織の話を交互に聞き、その場へ沈黙が訪れた。

「チリーと青蘭、二人の行動に矛盾が生じているわね……」

 腕を組み、そう言って沈黙を破ったのは麗だった。

 チリーとミラルは、洞窟に入ってから常に同一行動を取っていた。それは青蘭と伊織も同様だった。

 故に、あり得ない。ミラルの知らない間に、チリーが青蘭を殴ったことも。伊織と光秀の知らない間に、青蘭がミラルを殴ったことも。どちらもあり得ないのだ。

「不可解だな」

 呟き、トレイズは嘆息する。

「彼らが二人ずついるとは思えませんし、ミラルさん達の出会った青蘭さんも、伊織さん達の出会ったチリーさんも、本来なら取るハズのない行動を取っています」

 カンバーの言葉に、光秀はコクリと頷いた。

「まるで誰かが、青蘭とそのチリーとか言うのを争わせようとしているって感じだな」

 そう言って、光秀は顔をしかめる。

「ってことは、誰かがチリーや青蘭に化けて、それで二人を争わせるように仕向けた……ってことになるのかな」

 ニシルがそう言うと同時に、ミラルは立ち上がる。

「ミラル?」

「私、止めて来る!」

 そう言い残し、ニシルの止める声も聞かずに、ミラルは部屋の外へと飛び出して行く。その後を、慌てて伊織も付いて行く。

「い、伊織ちゃん!?」

 更にその後ろを、光秀も追いかけて行く。

 そんな様子を眺め、麗は深く溜息を吐いた。

「……私達も行きましょう」



 激しくぶつかり合う大剣と刀。周囲に鳴り響くのは、その金属音と雨の音。

 互いが互いを、怒りに満ちた表情で睨み合う。

「テメエは……ミラルをぶん殴った……ッ!」

「お前は、伊織を傷付けたッ!」

「「だから――――」」

 振り降ろされたチリーの大剣を、青蘭は刀で受け止める。互いに、一歩も譲らない。大剣と刀を接触させたまま、二人は叫んだ。

「「許す訳にはいかないッッ!!」」

 黒く濁った雨の中、二匹の雄が雄叫びを上げた。


「待って!」


 不意に響く、少女の声。すぐに、チリーと青蘭は声のした方向へ視線を移す。

「青蘭は悪くない! これ以上戦わないでっ!」

「あァ!? コイツはお前をぶん殴ったんだぞ!?」

 完全に頭に血が上っているらしく、チリーも青蘭も先程の二人の発言におかしな点があることに気付いていない。

 チリーは伊織を傷付けていないし、青蘭はミラルをぶん殴ってなどいないのだ。

「青蘭君! 落ち着いて!」

 ミラルの後ろから、伊織の声が響く。青蘭はそれに動揺したのか、大剣を受け止める刀の力が弱まった。

 伊織の後ろには、麗達やニシル達もおり、不安げな様子でミラルと伊織を見ていた。

「私達の所へ現れたのは、チリーさんじゃない……!」

「何……? ふざけるな、アイツは間違いなく――――」

 青蘭が言いかけた時だった。

 彼らのすぐ傍に、ゆっくりと飛行船が降りて来る。チリー達の乗っている、あの飛行船だ。

「トレイズさん!」

 飛行船の中から、乗組員の一人が飛び出して来ると、チリーと青蘭を訝しげに見つつもトレイズの元へと駆け寄って来た。

「……どうした?」

「良かった……無事だったんですね……」

 そう言って、乗組員の男は安堵の溜息を吐く。

「東国に、ゲルビア兵がいるのを見かけたんですよ! それで、トレイズさん達に何かあったらまずいと思って……」

「それで、ここまで来たのか」

 コクリと。男は頷いた。

「ありがとう。助かった。あの馬鹿は俺が止めるから、飛行船の中まで運んでくれ」

「え、あの馬鹿って……」

 トレイズはチリー達へ一瞥くれると、ゆっくりと彼らの元へ歩み寄る。

「何だよお前らッ! コイツはミラルを――――」

 そう言いかけたチリーの肩へ、トレイズはそっと触れる。すると、雨で濡れていたチリーの身体はすぐにトレイズの能力によって凍らされていく。

「な――――」

 言葉を言い切らぬ内に、チリーの身体は硬い氷に包まれてしまっていた。

「トレイズ……!」

 何故邪魔をするのか、そう言いたげな視線で睨みつける青蘭の顔面を、トレイズは躊躇いなく殴り付けた。

「落ち着け。お前の敵は、チリーじゃない」

「何を……」

 言いかけ、青蘭は伊織達へ視線を向ける。

「貴方らしくもない。美しくないわ」

 そう言って、麗は静かに溜息を吐いた。

「運んでくれ」

 トレイズがそう告げると、乗組員の男は小さく頷き、氷に包まれたチリーの身体を担いだ。

 トレイズが運ぶのを手伝おうと手を差し出すと、男は小さく首を横に振った。

「このくらいの重さなら、私一人で大丈夫です」

「……そうか」

 頷き、トレイズは男の後ろを付いて行く。

「乗るぞ」

「乗るって……飛行船に?」

 ニシルの問いに、トレイズは小さく頷いた。

「これ以上ここにいる必要はない。アルケスタへ向かうぞ」

「……そうですね。青蘭さん達は、一緒に乗って行きますか?」

 カンバーの問いに、麗はいいえ、と答える。

「やめておくわ。今の青蘭とそこの彼を同じ空間においておくと、何をしでかすかわかったものじゃないもの」

 正論だった。

「では、乗りましょう」

 釈然としない気分のまま、トレイズ達は飛行船へと乗り込んだ。

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