表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
66/128

episode66「Hostility-1」

 重い足取りで、元来た道をチリー達は戻っていた。

 結局、地上へと逃げたのであろうニコラス達を追うことは出来なかった。ライアスも、いつの間にかどこかへ逃げたようだ。

 気絶しているミラルはカンバーが背負い、一同は元来た道を戻っていた。

 誰一人として会話することなく、ただひたすらに歩いていた。チリー達だけではなく、青蘭達もその道へ同行している。

 重い沈黙が、彼らの中で保たれていた。特にチリーと青蘭は、隣にいながら険悪な雰囲気を醸し出している。光秀と伊織も、何か言いたげな表情でチリーを睨んでいる。

 その状況を理解出来ず、ニシルとカンバーは訝しげな表情で彼らを見ていた。トレイズの表情にあまり変化はないが、一応は気にしているのだろう。彼らの方をジッと見ている。

 ピタリと。チリーと青蘭の視線が合った。互いが互いをギロリと睨みつけたまま、歩みを止めてしまっている。

「……どうしたの?」

 耐え切れず、ニシルが問いかけるが、二人は答えようともせずに睨み合っていた。

「……チリー」

 ボソリと。呟くように、しかし確かな怒気を込めて、青蘭は言った。

「何だよ……?」

 一層強く、チリーは青蘭を睨みつけた。

「後で話がある」

「話もクソもねえ。今ここでぶん殴ってやりてえくらいだ」

「奇遇だな。俺も同じ気分だ」

「そうかよ……ッ!」

 語気を荒げ、構えるとチリーは大剣を出現させた。それに対し、青蘭も素早く身構える。

「ちょ、何やってんだよ二人共ッ!」

 慌てて、仲裁しようとニシルが二人の間に入るが、二人共構えを解こうとしない。それどころか二人共がニシルを睨み付け――

「退け、ニシルッ!」

「邪魔だッ!」

 ほぼ同時に怒鳴られ、ニシルは顔をしかめる。

「うっさい単細胞生物共ッ! 落ち着けって言ってんだよ!」

 その様子を見、トレイズは嘆息するとニシルへと歩み寄り、その頭を軽く小突いた。

「落ち着け。お前が怒ってどうする」

「……ごめん」

 ニシルが引き下がったのを確認すると、トレイズはチリーと青蘭を交互に見る。

「チリー」

「……わかったよ」

 舌打ちし、チリーは大剣を消した構えを解いた。それを一瞥し、同じように青蘭も構えを解く。

 ライアスとの戦闘の疲れが出ているらしく、チリーは呼吸を荒くしている。それを見、伊織はそっと近づくと、チリーの身体に両手で触れた。すると、伊織の両手から温かな光が発せられ、チリーの身体を包み込んでいく。

「……伊織ッ!」

 チリーは自分の身体から、徐々に疲労感が抜けていくのを感じた。

「どうせ後で喧嘩するなら、条件は同じ方が良いでしょ?」

 伊織の言葉に、青蘭は苦々しげな表情で頷いた。

「……ありがとよ」

 ボソリとチリーはそう言ったが、伊織は答えなかった。チリーに対して、伊織も怒っていない訳ではないらしい。

 伊織はすぐにトレイズへ歩み寄り、痛そうにトレイズが右手で押さえている患部を見つめる。そしてゆっくりとトレイズの右手を退け、その患部へ両手で触れた。すると、先程と同じように伊織の両手から光が発せられる。

「これは……」

「傷、治しておきました」

 伊織がニコリと微笑むと、トレイズは小さくすまない、と呟いた。

「いえ、気にしないで下さい」



 その後も、微妙な雰囲気を保ったまま一同が歩いていると、やがてチリー達が洞窟へと入って来た入り口へと辿り着いた。

 チリー達の足音に気が付いたのか、襖がゆっくりと開き、中から桐香が顔を覗かせた。

「お帰りなさいませ」

 襖の外へ出ると、桐香は無表情なまま頭を下げた。

「……ただいま」

 それに対して答えたのは、カンバー一人だった。

「……その奥、入れてもらっても良いですか? ミラルさんを休ませたいのですが……」

 カンバーの言葉に、桐香はコクリと頷き、襖を開けた。



 一同は、青蘭達が法然を寝かせた部屋と同じような座敷へと案内された。桐香はテキパキと布団を敷くと、すぐにミラルを横たわらせた。

 ミラルはすぅすぅと寝息を立てており、苦しそうな様子は見られない。その様子に、チリーは安堵の溜息を吐いた。

「さて、これからどうしま――――」

 カンバーが言いかけた時だった。

「青蘭ッ」

 ギロリと。チリーは青蘭を睨み付ける。

「表出ろ」

「……わかった」

 正に一触即発、と言った様子であった。その様子を見、どうしたものかとカンバーは首を傾げる。

「二人共、とりあえず落ち着いて下さい……。一体何があったんですか?」

 カンバーの問いに、二人は答えようとしなかった。ただ睨み合い、無言で互いの怒りをぶつけあっている。

「行くぞ」

 短く、チリーは告げると、外へ向かって歩き出す。その後ろを、青蘭は静かに付いて行った。



 ギュッと。青蘭は刀の柄を握り締めた。

 ――――許せない。

 洞窟でのことを謝罪するどころか、チリーはこちらへ対して明らかに怒りを向けていた。

「謝るつもりはないようだな」

「そっちこそ」

 振り返りもせず、チリーはそう答えた。



 グッと。拳を握り締め、チリーは顔をしかめた。

 ――――ぶっ飛ばす。

 ミラルをあんな目に合わせておいて、謝るどころかチリーを睨みつけた青蘭へ、チリーは激しい怒りを感じていた。

「謝るつもりはないようだな」

 静かに、後ろで青蘭がそう言った。

 ――――謝るべきなのはそっちだろ!

 それに、こちらは謝罪を要求されるようなことをした覚えはない。

「そっちこそ」

 確かな怒りを込め、チリーは振り返らずにそう答えた。



 ゆっくりと階段を上り、チリー達は地上へと出た。しばらくぶりに地上へ出たことへ、心地良さを感じるが、二人にとっては、そんなことよりも怒りの方が勝っている。地上に対して、感慨を覚える暇はなかった。

 しばらく周囲を見渡し、青蘭は何か言いたげな表情を見せたが、すぐに前へゆっくりと進み始めた。その後ろを、チリーは静かについていく。

 地上では、雨が降っていた。

 濁った、黒くも見える雨が渇いた大地へ止め処なく降り注いでいる。

 雨が、チリー達を濡らした。

 階段のあった場所から少し離れ、チリーと青蘭は距離を取って向き合った。

「テメエをぶっ飛ばす。理由は言わなくてもわかってんだろうな」

 ギロリと青蘭を睨み付け、チリーは言い放つ。

「お前の態度を見て判断した。俺は、お前を許すつもりはない」

「同感だ」

「やはりな」

 沈黙。

 聞こえるのは、雨の降り注ぐ音のみだった。

 チリーが身構えると同時に、チリーの右手には大剣が握られた。それとほぼ同時に、青蘭はゆっくりと鞘から刀を抜き、その場へ鞘を投げ捨てた。

「青蘭ッッッ!」

「チリーッッッ!」

 ほぼ同時に叫び、そして駆け出した。

 青蘭目掛けて振り降ろされた大剣を、青蘭は刀で受け、弾く。バックステップで距離を取ろうとしたチリーとの距離を詰め、青蘭はチリーの腹部へ回し蹴りを繰り出す。チリーは足を上げて回し蹴りを防ぎ、後退する。

 上げていた足を下ろすと同時に踏み込み、青蘭へと大剣を横に薙いだ。青蘭は高く跳躍し、一度大剣の上へ着地して踏み台にすると、チリーの頭上でくるりと回転し、チリーの背後で着地する。

「――――ッ!」

 青蘭の能力。それは発動中、身体能力を格段に上げることだった。素早くチリーは振り返るが、青蘭は既に、チリーを斬らんと刀を振り上げていた。

 舌打ちし、チリーは横っ跳びに刀を回避すると、すぐに体勢を立て直し、青蘭へ横から大剣で斜めに切りかかる。

 青蘭は素早く刀でチリーの大剣を受け流し、チリーの頭部目掛けて裏拳を繰り出す。

 鈍い音がし、チリーの顔面に青蘭の裏拳が食い込む。

「が……ッ!」

 能力によって強化された青蘭の一撃。チリーは派手に後方へ吹っ飛んだ。

「クソがッ!」

 悪態を吐き、チリーは立ち上がるとすぐに体勢を立て直す。しかし既に、青蘭はチリーの目の前まで迫って来ていた。

 青蘭の薙いだ刀を、チリーは大剣でなんとか受け、弾く。それによって空いた青蘭の腹部へ、チリーは右足で思い切り前蹴りを喰らわせた。

「ぐッ……ッ!」

 呻き声を上げ、青蘭は後方へよろめいた。

「チリー……ッ!」

 憎しみすら込められているように聞こえる、青蘭の怒りの声。

「青蘭ッ!」

 青蘭を睨み付け、チリーは負けじと声を荒げた。

「チリー、お前は俺が『敵対することになるかも知れない』……そう言った時、何て答えたか覚えているか?」

「覚えてるさ……」

 正に今がその時。

 かつて仲間であった二人は、今正に敵対していた。

「お前の言う通り、俺達は……」

「「宿敵ライバルだ」」

 同時に、二人はそう言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ