表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
65/128

episode65「New people」

「姫……様……?」

 蒼白な顔で、ミラルはニコラスの言葉を繰り返す。それに対して、ニコラスはニコリと微笑んで頷いた。

「ゲルビア帝国第一王女ミラル……それが貴女様です」

 ペコリと。ニコラスは丁寧にミラルへ礼をした。

「何言ってんだ……? ゲルビア帝国第一王女って……」

 困惑した表情で、チリーはミラルへと視線を向ける。ミラルは蒼白な表情のまま身体を硬直させて動こうとしない。ミラル自身にも、何が何だかわからない状況なのだろう。

「王であるハーデン様、そしてその妻である王妃シルフィア様の間に生まれた帝国の姫君……。シルフィア様とよく似たそのお顔、間違いありません」

「お父様……お母様……」

 呟き、ミラルは頭を両手で押さえる。

「うっ……!」

「ミラルッ!」

 慌ててミラルの傍へ駆け寄り、チリーは安否を問うた。しかし、ミラルは頭を押さえたまま呻き声を上げるばかりだった。



 シトシトと。焦土へ雨が降り注ぐ。乾いた地を、汚れた雨が濡らしていく。

 濁った、黒くも見える雨粒。それを浴びていることを意に介さぬ様子で、大男が焦土の中を歩いていた。その隣には、金髪の男が歩いている。

「ディルク、後どのくらいだ?」

「もう少し……かな。連絡通りなら、ニコラスは既に赤石の場所へ到着しているハズだ」

 大男の問いに、ディルクと呼ばれた男はそう答える。

「お前、地下で何をしていた? 赤石を探すのはニコラスやダニエラ達の仕事だ。お前は今回、地下に行く必要はなかったハズだぞ」

「ちょっと野暮用でね……。そう言えばフォスカー、今回東国へ来た帝国の人間の中に、『化け物』は何体いる?」

 ディルクの問いに、フォスカーと呼ばれた大男は嘆息する。

「私と、ニコラスの二人だ。それよりディルク、我々のことを『化け物』などと呼ぶな」

「『化け物』は『化け物』だろう。俺みたいなただの人間にとっちゃ、お前らは立派な『化け物』だよ」

「化け物」という単語を強調しつつディルクはそう言うと、手に持っている機械の画面へと視線を向ける。

「ココだ」

「了解」

 短くそう答えると、フォスカーは体勢を低くし、右腕を振り上げた。

 太い、右腕だった。細身の女性のウエスト程あるような、太い右腕だ。無論、左腕も同様に太い。無駄な肉のない、筋肉質な両腕だった。

「良いかディルク」

 瞬時に、振り上げられたフォスカーの右腕が変化する。先の尖った、螺旋状の窪みが存在するそれは――――ドリルだった。

 フォスカーの右腕は、瞬時にドリルへと変化したのだ。

「我々は」

 右腕のドリルは、音を立てつつ凄まじい勢いで回転を始める。それを見、ディルクは肩をすくめた。

 ――――化け物染みた能力だ。

 心の内でそう呟き、ディルクは嘆息する。

新人類ニューピープルだッッ!」

 勢いよく、フォスカーは右腕のドリルを地面へ突き刺した。



 まるで濁流。

 凄まじい勢いで、まるで濁流の如く流れ込んで来る。映像が、情報が――――記憶が。

 長く押し留められてた記憶と言う名の流れは、ミラルの頭の中へと激しい勢いで流れ込んで来る。

 頭痛。頭を抱え、うずくまり、呻き声を上げるが頭痛は止まるどころか激しくなるばかりだった。頭痛が激しくなるにつれて、流れて来る記憶の量も増して行く。

「ミラルッ! おい、ミラル!」

 うずくまるミラルの肩を掴み、チリーが揺さぶっている。しかし、それに答えることも出来ない。それ程までに頭痛は酷かった。

「私……はっ……!」

 辿り着くのは、たった一つの真実。

 流れ込んで来た――――否、蘇ったのは過去の記憶。

 ――――私は、ゲルビア帝国第一王女……ミラル。



 ドサリと音を立て、その場にミラルは倒れた。

「おい、しっかりしろよ! おいッ!」

 倒れたミラルを揺さぶり、必死に声をかける。が、ミラルは目を閉じたままだった。息はしている。死んではいない。気絶しているだけだろう。

「テメエ……ミラルに何をした……ッ!?」

 チリーの問いに、ニコラスはクスリと笑みをこぼす。

「いえ、私は特に何も……」

「ミラルがゲルビアの王女って……どういうことだ……!?」

「そのままの意味ですよ。理解力がゴミレベルですね貴方」

 ニコラスが嘲笑すると同時に、チリーは怒りに顔を歪めると大剣を出現させる。しかし、それが無意味なことだとすぐに悟った。

 チリーの大剣は、どういう訳かニコラスに触れた時点で姿を消してしまう。

 ――――どんな能力も、無効化されればただのゴミです。

 恐らく、ニコラスの能力は「能力を無効化する」能力。チリーの能力であるこの大剣は、ニコラスには通用しないだろう。そう思い、チリーは大剣を消した。

「テメエ、何者だ……? ミラルの何を知っている?」

「私ですか? 私は――――」

 その瞬間、扉の向こうで轟音が鳴り響いた。



 不意に鳴り響いた轟音に、ニシルは肩をびくつかせた。

「な、何だ……?」

「この先からだな」

 トレイズはあくまで冷静にそう答え、洞窟の奥を見据える。

「すぐ近くです……。急ぎましょう!」

 カンバーの言葉に、二人はコクリと頷く。カンバーは二人が頷いたのを確認すると、すぐに駆け出した。その後ろを、ニシルとトレイズも駆けて行く。



「え、今の……何ですか?」

 突如鳴り響いた轟音。伊織は不安げに麗達へ問うた。

「……近いわね」

 麗の言葉に、青蘭は小さく頷く。

「妙な胸騒ぎがするな……急ぐぞ!」

 光秀の言葉に三人は頷くと、洞窟の奥へと駆け出した。

「赤石に……何かあったのかも知れない」

 ボソリと。青蘭は呟いた。



 唐突に、ニシル達は開けた場所に出た。前方には巨大な、古めかしい扉があり、その扉の付近でミラルが倒れている。そのすぐ傍には、険しい表情のチリーが。そしてそのチリーの視線の先には、細身の男が悠然と立っていた。細身の男の後方には、ヘルテュラの研究所でチリーと戦っていた少年がうずくまっている。

 更に――――

「青蘭!?」

 左の通路からは、青蘭が現れたのだ。その後ろには麗、そして他にも二人、ニシルの見たことのない人物が二人。恐らく青蘭の仲間だろう。

 青蘭はニシル達の存在に気付いたようだが、すぐにチリーの方へ視線を移し、険しい表情で見つめている。

 チリーが暴れていないことから察するに、倒れているミラルは無事なのだろう。恐らく、気絶しているだけだ。

 しかし、状況が把握出来ない。先程の轟音はこの辺りから聞こえてきた。あの轟音はチリー達が起こしたものだろうか。



「今の轟音……何なんだ!?」

 ニコラスへ、チリーが問う。

「おや、到着したようですね」

 ニコラスがそう言うと同時に、すぐ傍で轟音が鳴り響いた。

「――――ッ!?」

 チリーだけでなく、この場所に来ていたニシル達や、青蘭達までもがその光景に絶句した。

 扉が、破壊されている。

「ニコラス、赤石は手に入れたぞ」

 扉を破壊したのは、一人の大男だった。その大きさ、青蘭を凌ぐ高身長な上、硬い筋肉によって横幅も大きい。その男の太い右腕は、ドリルだった。回転を続けていたドリルは徐々に回転を緩め、やがてその回転を止める。すると、大男の右腕はドリルから人間の腕へと変化――――否、戻っていく。

「受け取れ」

 大男は左腕に握っていた何かを、ニコラスへと放った。

 紅く、赤く光沢するその物体は紛れもなく――――

「大切な赤石なんですから、もう少し丁重に扱いなさい。ゴミですか貴方は」

「……すまない」

 謝罪する大男を気にもとめず、ニコラスは受け取った物体――――赤石をまじまじと眺める。鶏の卵大程の、赤い石。

「これが……赤石」

 ニコラスが呟くのとほぼ同時、動き出そうとしたチリーより素早く動き、ニコラスの元へと駆けて来たのは青蘭と麗だった。

 青蘭は素早く持っていた刀を鞘から抜くと、ニコラス目掛けて薙いだ。ニコラスは後退してでそれを回避し、ニヤリと笑みを浮かべる。

「――――かわした!?」

「能力を使ってその程度のスピードですか……。ゴミ能力ですね」

 呟くニコラスの眼前へ、青蘭より遅れて到達した麗が右手を赤石へと伸ばす。が、その右手を、ニコラスは右手で払い落す。

「――――つっ!」

 小さく声を上げ、麗はすぐにその右手を引っ込める。その右手は、やや不自然に曲がっている。麗は怪訝そうな表情で、その右手を見つめている。

「麗さんッ!」

「気にしないで、それより早く赤石をっ!」

 麗の言葉に頷き、青蘭がニコラスへと駆けるが、その行く手を大男に阻まれる。

「ニコラス、行くぞ。ディルクが待っている」

「そうですね」

 ニコラスがコクリと頷くと、大男は体勢を低くする。その背中へ、ニコラスは飛び乗った。

「逃げんのかッ!?」

 チリーの言葉に、ニコラスは笑みを浮かべる。

「ええ。逃げます。今回の目的は、赤石を手に入れることだけですから『白き超越者』と姫君に関しては、また別件ですので」

「さっきの一撃……異常だわ。貴方、何者なの?」

 右腕を押さえつつ、麗はニコラスへ問うた。

「私――――いえ、我々ですか。我々は……」

 新たな人類。そう呟き、ニコラスは言葉を続け――――


新人類ニューピープルです」


 静かに、そう答えた。

ニュー……人類ピープル……?」

「アルケスタに行けば、わかるんじゃないですか? 特に貴方は……アルケスタへ行っておくべきです」

 そう言ったニコラスの視線の先にいたのは、チリーだった。

「ニコラス、喋り過ぎだ」

 大男の言葉に、ニコラスは失礼、とだけ答える。

 大男は右腕をドリルへ変化させると、近くの岸壁へと突き刺す。ドリルは凄まじい勢いで回転を開始し、岩壁へと穴を開ける。ここから穴を掘って逃げるつもりだ。

「逃がすかッ」

 氷塊を出現させ、トレイズがニコラスへ飛ばすのと、

「ふざけんじゃねえぞッ!」

 抜刀し、光秀がニコラスへ斬撃を飛ばすのは同時だった。

「――――駄目だッ! 意味がねえ!」

 チリーが叫んだ時には既に遅く、氷塊と斬撃はニコラスへ触れた途端消滅した。

「――――ッ!」

「それでは」

 目を見開き、驚愕しているトレイズと光秀に対して笑みを浮かべ、ニコラスが手を振ると同時に、大男は右腕のドリルで、勢いよく穴を掘り始め、その奥へと駆けて行く。

「待ちやがれッ!」

 チリーが叫ぶ頃には、既にニコラス達は穴の向こうへと姿を消していた。

「そん……な……赤石が……」

 ペタリと。ニシルがその場へ膝を付く。その表情には、絶望の色が映されていた。

「奪われた」

 新人類を名乗るニコラス達に、彼らの赤石きぼうは奪われた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ