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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
64/128

episode64「Under ground-10」

 全身に疲労感がある。大剣による突進は、チリーの体力を必要以上に浪費するらしい。

 すぐにでも横になりたい気分だったが、そういう訳にもいかない。

 チラリと、チリーは巨大な扉へと視線を向けた。恐らく、赤石はあの扉の先にある。既にゴールは目の前にある。

「っと」

 ゆっくりと立ち上がり、チリーは服についた土を手で払う。

「奥に行くの?」

「ああ」

 ライアスへそう答えると、チリーはゆっくりと扉へと歩いて行く。

「行くぞ、ミラル」

「う、うん」

 ゴクリと生唾を飲み込み、緊張した面持ちでミラルはチリーの後ろを歩く。

「邪魔、しないんだな」

 ライアスへ背を向けたままチリーが呟くと、ライアスはクスリと微笑する。

「疲れてるからね」

「そうかい」

 振り向かず、チリーは笑みを浮かべた。



 ゆっくりと。洞窟の中を進んで行く。進んでいるのか、戻っているのかもわからないような状態だが、今は進む以外に選択肢は存在しない。

 青蘭達は無事だろうか。そんなことを考えたが、すぐに麗はかぶりを振った。

 ――――彼らなら、大丈夫。

 彼らは、強い。青蘭も光秀も、ちょっとやそっとでやられるような人間ではないし、何より彼らの傍には伊織がいる。ある程度の傷は彼女の能力で治すことが出来る。

 心配はいらないだろう。

 そんなことを考えつつ奥へと進んでいると、何やら人影が見えて来る。背の高い人間が二人、少女のような人影が一人。

 念のため、懐から小刀を取り出しておき、ゆっくりと彼らへ歩み寄って行く。

 一歩。二歩。三歩。近付くにつれ、彼らのシルエットは明確になっていく。

「――――麗ッ!」

 三人の内一人の男が、麗の方を振り返って表情を驚愕に歪めた。すぐに彼が光秀だと気付いた麗は、小刀を懐の中へ戻す。

「無事だったんですね!」

 少女は伊織、そしてもう一人の男性は青蘭だった。彼らは麗を見るやいなや、嬉しそうに表情を明るくした。

「心配、かけたわね」

 そう言って嘆息する麗に、伊織は全くです、と少しおどけた様子で答える。

「どこか怪我、ないですか?」

 伊織の問いに首を横に振ると、麗はギロリと光秀を睨みつけた。

「光秀……」

「わ、悪い……。俺が……迂闊だった……いや、迂闊でした……」

 麗の迫力に、完全に委縮している光秀は申し訳なさそうにペコペコと何度も頭を下げた。

「……まあ良いわ。光秀には後で償ってもらうとして……」

 クスリと笑った後、麗はすぐに青蘭の方へ視線を向ける。

「何かあったのかしら?」

「……」

 答えようとしない青蘭に、麗は嘆息するとまあ良いわ、と呟いた。

「話したくないのなら後で良いわ。それより、奥へ進みましょう」

 麗の言葉に、三人はコクリと頷き、洞窟の奥の方へと歩いて行った。



 巨大な扉の前、チリーとミラルはその扉の迫力に息を飲んでいた。

 木製の、頑丈そうな扉だ。やろうと思えば破壊出来なくもないが、今のチリーにそんな体力は残っていない。

「この奥に……赤石が……?」

「多分、な」

 ミラルの問いにそう答え、チリーが扉へ手を伸ばした――――その時だった。

「おや、先客がいましたか」

「――――ッ!?」

 不意に、男性の声が洞窟内に響いた。

 慌ててチリー達が声のした方向へと視線を向けると、そこには背の高い男性が一人、余裕ありげに笑みを浮かべたままそこに立っていた。

 背が高いと言うよりは、細長いと表現した方がしっくり来る程に細い男で、彼の黒髪は短く刈り込まれている。目が細く、まるで閉じているのではないかと思う程に糸目だった。右手にはトランシーバーのような物を持っており、先程まで通話していたかのように耳に当てている。

「ニコラス……ッ!」

 男を見、立ち上がると同時にライアスはそう呟いた。すると、ニコラスと呼ばれたその男はニコリと微笑む。

「おや……その様子だと……」

 ニコラスはトランシーバーをポケットへしまうと、ゆったりとした動作でライアスの元へ歩み寄り、ライアスの顔を覗き込むと再び笑みを浮かべた。

「貴方、負けました?」

 クスリと。ニコラスは微笑する。

「……ッ」

 答えず、口惜しげに顔をしかめるライアスを見つめ、ニコラスは厭らしく笑う。

「その能力だけが取り柄でしたのに……それすら敗れてしまっては……良いとこないですねえ……。ゴミですねゴミ」

「僕が……ゴミ……ッ!?」

 ライアスがギロリとニコラスを睨み付けると、ニコラスは笑みを崩さぬまま、そうです、と静かに答えた。

「それに貴方、ハーデンに利用されてるだけですし」

「利用……? 違う、僕はハーデンに恩返しをしているだけだ」

「馬鹿ですか貴方。脳みそがゴミで出来てます?」

 問いには答えず、ライアスはすぐに立ちあがるとニコラス目掛けて右手を突き出した。その右手には神力が迸っている。

「私からすれば、ゴミですよゴミ」

 頭部目掛けて突き出されたライアスの右手を、ニコラスは容易に回避すると、その右手をガッシリと掴んだ。そしてそのまま右手ごとライアスの身体をニコラス自身の方へ近づけ、ライアスの腹部に膝蹴りを喰らわせる。

「ぐ……ッ!」

 呻き声を上げ、ライアスはその場に膝を吐き、苦しげに咳き込み始める。ニコラスはそのライアスの肩を掴み、ゆっくりとライアスを立ち上がらせると、まるで人形か何かを捨てるかのように、右へ放った。

「テメエ……ッ!」

 チリーはニコラスを睨み付けると、すぐに大剣を出現させてニコラスへと駆け出した。

「怒りに任せて突撃……。ゴミの如く価値のない行動です」

「ゴミゴミうッせェんだよガリガリ野郎がァッ!」

 勢いよく大剣を振り上げ、チリーはニコラスの頭上目掛けて振り降ろす。

「ゴミをゴミと呼んで、何か問題でも?」

 チリーの大剣を、ニコラスは右手で受ける――――と同時に、チリーの大剣はその場から一瞬にして姿を消した。

「な……ッッ……!?」

 驚愕に表情を歪めつつも、チリーはバックステップでニコラスから距離を取り、再び大剣を出現させる。

「うらァッ!」

 掛け声と共に、チリーはニコラス目掛けて大剣を薙いだ。しかし、それもニコラスの手によって受けられ、それと同時に大剣は姿を消す。

「どうなってんだ……ッ!?」

「何で……消えるの?」

 後方で、口元に手を当ててミラルが呟く。

「どんな能力も、無効化されればただのゴミです」

「誰がゴミだって……!?」

 チリーは構え直すと、すぐにニコラス目掛けて殴りかかった。大剣は出現させても意味がないと悟り、素手での戦闘に持ち込むつもりなのだ。

 しかし、ライアスとの戦闘で疲労したチリーに、まともな戦いが出来るハズもない。チリーの拳は、容易くニコラスによって避けられる。そしてニコラスは素早くチリーの腹部へ右拳を叩き込む。

「が……ッ!」

「チリーっ!」

 苦しそうに呻き声を上げ、その場へ膝を付いたチリーの元へ、ミラルはすぐに駆け寄る。

「その様子ですと、まだ気が付いてないようですね……」

 ニコラスは体勢を低くすると、苦悶の表情を浮かべるチリーの顔を覗き込む。

「『白き超越者』、やはり赤子から育てたのは失敗でしたか……」

「超越者……?」

 チリーが問うたが、ニコラスは答えようとしない。ただ意味深げに笑みを浮かべているだけだった。

「超越者って……どういうことだよ……?」

 よろめきつつも立ち上がり、チリーは再度ニコラスへ問いかけた。

「さあ、何でしょうね」

 微笑した後、ニコラスはミラルの方へと視線を向けた。

「な、何よ……?」

 チリーを庇うようにチリーの前へ出ると、ミラルはチリーを守るかのように両手を大きく広げた。

「人間というのは、髪型や服装で随分と印象が違うものですね」

 ミラルを眺めつつ、ニコラスはそんなことを呟いた。訳がわからず、ミラルは顔をしかめる。

「道理で気付かない訳です」

 ゆっくりと。ニコラスはミラルへ歩み寄って行く。警戒し、身を縮めるミラルへ、ニコラスはニコリと微笑んだ。


「探しましたよ――――姫様」


 ピタリと。その瞬間、ミラルの中で時が止まった。

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