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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
63/128

episode63「Under ground-9」

 ゆっくりと。チリーは大剣を構える。少しの間離れていただけなのに、柄を握り締めるその感触は随分と懐かしく感じられた。確かめるように何度も柄を握り直し、チリーはニヤリと笑みを浮かべる。

「仕切り直しだな……!」

 立ち上がったライアスは、そう言ったチリーをギロリと睨みつけた。

「今のは腹が立った……かな」

 呟くようにそう言ったライアスの瞳には、殺意の色が宿っていた。しかし気圧されることなく、チリーは不敵に笑った。

「悪いが、いつまでもお前と戦ってる訳にはいかねえんだ……!」

「僕は、いつまでかかろうとも、君を殺さなければならない」

 そう言った後、ハーデンのために、とライアスはボソリと付け足した。

「ミラル、下がってろ」

 ミラルがコクリと頷き、数十歩後退したのを確認すると、チリーはライアスへ大剣の刃先を向ける。

「……!」

 チリーが構えたのは、刺突の構え。それを見た瞬間、すぐにミラルはこれからチリーが何をしようとしているのか把握する。

「今度は、絶対負けねえ」

 今にも暴れ出しそうな勢いで、身体の奥底から溢れる神力。

 ――――もう二度と、砕かれはしない……!

 心の内で硬く誓い、神力を大剣へと集中させる。

「へぇ……驚いたよ。それだけの神力があるなんて」

 嘆息した後、ライアスは神力の迸る右手を突き出し、チリー目掛けて一気に駆け出した。

「その剣じゃ、僕の能力には勝てない……!」

「そう思ってんのは――――」

 チリーが言いかけると同時に、大剣の柄からは膨大な量の神力が放出される。その凄まじい勢いで、大剣はチリーごとライアス目掛けて突っ込んで行く。

「テメエだけだァァァァッッ!!」

 チリーは凄まじい勢いでライアス目掛けて突っ込んで行く。が、それを阻んだのは神力の迸るライアスの右手だった。

「な――――!?」

 チリーの大剣を破壊せんとして放出される、ライアスの神力。しかし、神力の勢いが拮抗しているのか、チリーの大剣は破壊されない。しかし、激しい音を立てつつチリーの突進はライアスの右手によって阻まれていた。

「――――砕くッ!」

「――――貫くッ!」

 二人が叫ぶと同時に、互いの神力が更に力を増した。

 地面が、岩壁が、漏れ出した神力によって抉れていく。その様子を見、ミラルは息を飲んだ。

「す、すごい……」

 お互い一歩も譲らない。互いの力は互いの間で激しくぶつかり合っていた。飛び散る神力が、お互いの身体を傷付けた。



 凄まじい威力で、大剣がライアス目掛けて突っ込んで来る。神力を――――破壊の力を宿した右手で、ライアスはその大剣を防ぐが、チリーは少しも勢いを落とさない。そればかりか、徐々に勢いを増していく程だ。

 負けじとライアスも右手に力を込める。

 ――――強い……!

 素直に、そう感じた。少し前までは、自分より劣っていると判断していたチリーが、自分より強い力でこちらへと突進して来るのだ。

 破壊の能力――――それは、ライアスを一度も敗北させることはなかった。それ程までに強大で、それ程までに強い力。

 その、最強であるハズの自分の能力が今、一人の少年に敗れかけている。否、敗れる訳にはいかない。

「僕は……ッッ……!」

 表情を一層険しくし、更に右腕へ力を込める。すると、少しだけチリーが後方へ押されるが、すぐにチリーは更に力を込めて押し返す。

「負けない……ッ!」

 ――――ハーデンの、ために。

 何故戦うのか。一度、誰かに問われたことがある。

 兵士でもない自分が、神力使いというだけでハーデンに従い、言われた通りに戦い、敵を殺害する。そんなライアスを、不思議に思ったゲルビア兵の一人が、ライアスにそう問うたのだ。

 その問いに、ライアスは常にこう答えている。

 ――――ハーデンのために。

 そう、ハーデンのために、だ。

 行くあてのない自分を、ハーデンは必要だと言ったのだ。邪魔なだけだと感じていた力を、「才能」だと言ってくれたのだ。

 唐突に脳裏を過る、過去の映像。

 血にまみれた部屋、立ちすくむ自分。その手は、赤く紅く染まっていた。

 ――――僕はただ、両親に触れただけなのに。

 強大過ぎる力の覚醒は、当時のライアスにはあまりにも早過ぎた。コントロール出来ない力は、己の力とは言わない。

 神力使いとして覚醒したライアスは、触れた物を容赦なく破壊し尽くした――――両親さえも。

 訳もわからず呆然と立ち尽くしているライアスの元へ、破壊音を聞き付けた野次馬達がぞろぞろと群がり、口々に何かを言っていた。それでも、ライアスはただその場へ立ちつくすばかりだった。

 やがて彼の元にはゲルビア兵が現れ、野次馬達は取り払われた。

 両親を殺した自分は、捕まるのだろうか。そんな風に考えていたライアスの元へ姿を現したのは、他でもないハーデンだった。

「君のその力は、才能だ。使いこなせれば、この国の役に立つ」

 そう言って、ハーデンはライアスの右手を取った。破壊することを恐れ、すぐにライアスはその手を振り払おうとしたが、ハーデンの手は破壊されなかった。

「私と来なさい。ライアス」

 それ以来、なし崩し的に城で暮らしていたライアスは、やがてハーデンに対して感謝の念を抱くようになっていた。

 ――――両親を殺した、この悪魔のような力を、ハーデンは才能だと言い、認めてくれた。

 そういう風に考えるようになっていた。

「――――だからッ!」

 過去の映像を振り払うかのようにかぶりを振り、ライアスは負傷した左手をチリー目掛けて突き出す。

「負けられない……ッ!」

 ライアスの力が、更に強まった。



「ぐ……ッ」

 左手を突き出したライアスの力が、強まった。拮抗していた力のバランスは崩れ、チリーの身体は大剣ごと少し後ろへ押し出される。

「俺には……お前がそこまでする理由がわからねえ」

 呟き、チリーは真っ直ぐにライアスを見据える。

「今のお前の表情見りゃわかる……。お前も、何か抱えてんだろうなって、それくらい俺にだって想像がつく」

 でもな、と付け足し、チリーは強く大剣の柄を握り締める。


「だからって、俺が負けて良い理由にはならねえ! テメエには絶対勝つッッッ!」


 大剣の柄から、更に強く神力が放出された。

「な――――ッ!?」

 驚愕に表情を歪めているライアスの神力は、チリーの神力によって相殺されていく。少しずつ、ライアスの両手はチリーの神力に押されるように曲がっていく。チリーの突進を、防ぎ切れなくなった証拠だ。

「僕が……負け――――」

 ライアスが言いかけた時には既に、ライアスの神力は完全に相殺されていた。

 ピタリと。大剣の柄から、神力の放出が止まると同時にライアスはその場へ仰向けに倒れていく。

 ドサリと音を立て、ライアスはその場へ倒れた時には、チリーは大剣をその場から消していた。

「ハァッ……ハァッ……ッ」

 荒い呼吸をしつつ、チリーは倒れているライアスへ視線を向ける。

「止め……刺さないの……?」

 倒れたまま、チリーへ視線を向けないままにライアスは問うた。

「既に倒れた相手に……止めがいんのかよ……?」

「ここで倒さないと……また、襲い掛かるよ」

「そん時は……そん時だ」

 ドサリと。チリーはその場へ腰を降ろした。

「チリー!」

 戦いが終わったことを確認したミラルは、すぐにチリーの元へ駆け寄った。

「甘いね」

「甘いさ」

「命取りだ」

「それでも、良い」

 嘆息し、チリーは上を見上げた。

「お前を殺す気にはなれなかった」

 静かにそう答えたチリーに、ライアスは薄らと笑みを浮かべた。

 つい先ほどまで敵対していたチリーに、今はわずかだが友情さえ感じられるような……そんな感情を抱いていた。

「やっぱり、甘いよ」

「それでも良いさ」

 クスリと。二人は笑みを浮かべた。ライアスは身体を起こし、チリーと目を合わせる。そしてもう一度、二人で少しだけ笑った。

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