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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
62/128

episode62「Under ground-8」

 ジットリと。チリーの額を厭な汗が流れた。

 ――――二つ同時には出せないか。

 正に、ライアスの言う通りである。チリーは、大剣を二つ同時に出すことは出来ない。

 破壊された後、もう一度出現させることは可能だが、大剣がその場に残っているのではどうにもならない。自分の手を離れた状態では、消すことも出来ないのだ。

 ライアスに、大剣を踏み台にされたあの時、うっかり手放すのではなく即座に消しておけば、何も問題はなかったのだが……。

「へぇ、これが君の剣……」

 大剣で、地面をコンコンと叩きつつ、興味深げにライアスは大剣を眺めている。

「これ、壊すと君は出し直すよね。だから――――」

 軽い動作で、ライアスは大剣を自分の後方へ投げ捨てる。大剣は音を立て、ライアスの後ろで落下した。

「これは壊さない」

「素手で戦えってか……」

「そういうこと」

 ニコリと。ライアスは笑みを浮かべた。

「チリー……!」

 心配げに声を上げ、ミラルはチリーの方へ駆け寄ろうと一歩踏み出す。しかし、足音でそれに気付いたチリーは振り向かずに、ミラルを右手で制止する。

「来るな……! 来るんじゃねえ……」

 ライアスの能力。触れた物を破壊する能力は、あまりに危険過ぎる。迂闊にミラルを近寄せる訳にはいかない。ライアスの能力は相当な破壊力を持っている。あの両手に、ミラルを触れさせる訳にはいかない。邪魔とあれば、ライアスはミラルを容易に殺すだろう。

「……ッッ……!」

 一瞬、チリーの脳裏を過る悲惨な映像。ライアスの能力で、頭部を粉砕されるミラルの姿……。

 その映像をかき消すように、チリーはかぶりを振ると、ライアスの方へ視線を戻した。

 大剣が使えないとなると、素手でライアスと戦わなければならない。あの、破壊の能力と素手で戦うのだ。

 ゆっくりと。チリーは額の汗を拭う。

「僕だって素手だし、丁度良いんじゃないかな」

「お前程危険な素手は見たことねーよ」

「それもそうだね」

 チリーの言葉にクスリと笑みを浮かべ、ライアスはチリー目掛けて駆け出した。そして素早く、チリーの顔面目掛けて右手を突き出す。チリーは伸ばされたライアスの手首を左手で弾き、ライアスの右手の軌道を逸らす。

 右拳を握り、ライアスの腹部目掛けて突き出そうとし――――チリーはピタリと右拳を止めた。

 掴まれる。このまま右拳を突き出せば、ライアスの左手に掴まれ、拳ごと腕を破壊されるのは明白だった。素手で戦うには、ライアスはあまりに危険な相手だ。

 チリーが戸惑った隙に、ライアスはチリーの顔面目掛けて左手を伸ばす。チリーは体勢を低くして左手を回避すると、右足でライアスの足を払う。

「――――ッ」

 一瞬驚いたような表情をし、ライアスはその場へドサリと背中から倒れる。が、その体勢からチリー目掛け、右足を突き出した。

 チリーは舌打ちしつつ、バックステップでライアスの右足を避ける。その隙に、ライアスは立ち上がり素早く体勢を立て直す。そしてチリー目掛けて駆け、右手をピクリと動かした。

 ――――来る!

 咄嗟にそう判断し、チリーが横へ逸らした時だった。

 ニヤリと。ライアスは笑みを浮かべると同時に、チリーの腹部目掛けて右足で蹴りを繰り出す。

「――――フェイントッ!?」

 右手の動作はフェイント。チリーがそう気付いた時には既に遅く、ライアスの右足はチリーの腹部へ食い込んでいた。

「チリーっ!」

 後方から、ミラルの声が響く。それを意に介さぬ様子で、ライアスは笑みを浮かべたまま足を戻し、体勢を崩したチリーの頭部目掛けて左手を突き出した。

「――――ッッ!」

 腹部へ走る激痛に耐えつつ、チリーは必死に首を後方へ逸らし、ライアスの左手を回避する。

「避けた……!」

 この回避を好機と見たチリーは笑みを浮かべると、体勢をやや低くし、ライアスの左手目掛けてアッパー気味に右拳をぶち込んだ。

「あッ……ッッ!」

 ライアスの左手に走る激痛。不自然に曲がった左手を、驚愕の表情で見つつライアスはすぐにチリーから距離を取る。

「蹴りのお返しだ……ッ!」

「……割に合わないね……!」

 左腕を右手で押さえ、表情を苦痛で歪めながらライアスは吐き捨てるようにそう答えた。

「大剣ぶっ壊されたお返しもある」

「大剣だけで許してあげたんだ。感謝しなよ」

「上からもの言ってんじゃねえよ。腕、もう片方ぶち折ってやろうか?」

 そう言って、チリーはニヤリと笑った。

「遠慮しとくよ」

 そう答え、ライアスはチリー目掛けて駆け出した。



 神力の迸る右手が、チリー目掛けて伸ばされる。チリーはそれを、危なっかしい動作で避けている。

 ライアスは左手を負傷しているのにも関わらず、左手を使わないこと以外に、動きに変化はない。

「チリー……!」

 胸の前で両手を握り合わせ、不安げにミラルは呟いた。

 チリーはキリトとの修行で、素手の先頭に慣れてはいるものの、ミラルから見た感じではどこか戦いにくそうだ。

 ミラルは、ライアスの後方にある大剣へ視線を向ける。

 ――――大剣がないせいで、チリーは苦戦している……?

 ライアスの能力は、見たところ触れた物を破壊する能力。そんな能力相手に、素手で戦うのはかなり厳しいものがある。武器でもあれば少しは安全なのだが、チリーは今武器である大剣を失っている。

 ――――あの大剣、なんとか私の手でチリーへ届けられないかしら……?

 チリーはライアスからの攻撃を防ぐので手一杯だ。とてもじゃないが、大剣を回収しに行く余裕などなさそうだ。しかし、大剣がなければこのまま苦戦し続けることになる……。

「私が……やらなきゃ……!」

 自分を勇気づけるように、一人ミラルは頷く。そして、そっと一歩踏み出した。

 ――――ライアスは戦闘に集中している……気を付ければ、気付かれずに大剣に近付ける!

 決して気付かれてはいけない。気付かれれば、ライアスはすぐにでもミラルを殺すために向かって来るだろう。

 本当は、何もしない方が良いとわかっている。それでも、何か役に立ちたかった。いつも自分を守ってくれる少年を――――チリーを、どんな形でも良い、助けたい。どんなことでも良い、役に立ちたい。

「が……ッ!」

 不意に聞こえる、チリーの呻き声。見れば、チリーの頭部にライアスの回し蹴りが直撃していた。

 ドサリと。チリーはその場へ倒れる。

「お返し」

「割に合わねえな……」

「そんなことないでしょ? こっちは腕折れてるし」

 呟いたチリーへ、左手をぶらつかせながらライアスはそう言った。

「だから、そりゃ大剣ぶっ壊されたお返しもあんだよボケ」

 悪態を吐きつつ、チリーは立ち上がると笑みを浮かべた。

 そんな様子を見、ミラルは一層大剣をチリーのために回収しなくてはならない、と感じた。破壊の能力に警戒しつつ素手で戦う――――それは、戦いの経験がないミラルにでもわかる程、戦い辛い状況だ。せめて、少しでも楽に出来れば……

 そう思い、ミラルは大剣へ向かってそろそろと歩き出した。



 先程の蹴りで、口の中が切れている。チリーは口内の血を、唾液と共に足元へ吐き捨てた。そして薄らと血の付いた口元を拭う。

 すぐにでも攻撃を仕掛けたい気分だが、やはり迂闊には攻めることが出来ない。あの右手に、腕か足を掴まれれば一巻の終わりだ。かと言って、防戦一方なのは性に合わない。

 どうしたものかと思索するが、一向に良い案は浮かばない。

 ――――せめて、大剣が手元に戻れば……!

 舌打ちし、ライアスの後方へ視線を向ける。そこには、ライアスによって投げ捨てられた己の大剣が落ちている。

「剣、使いたい?」

「いらねえよ、お前相手なら」

「嘘ばっかり」

 強がるチリーへそう言うと、ライアスはクスリと笑みをこぼし、駆け出そうとする――――が、

「っと」

 ピタリと足を止め、ライアスは後ろへ振り向いた。

「――――っ!?」

 そこには、大剣へと忍びよるミラルの姿があった。既に、大剣はミラルの目と鼻の先である。

「ミラルッ!」

 チリーが叫ぶとほぼ同時に、ライアスはミラルへ素早く近寄る。

「邪魔、しないでよね」

 一切の感情を表さない、冷たい表情でライアスはそう告げた。ミラルは驚愕と恐怖で動けないらしく、一言も発さないままその場で震えている。

「困るんだよね、そういうの」

 神力の迸る右手を、そっとライアスはミラルへ向けた。

「砕け散れ……!」

 ライアスが、ミラルの頭部へ右手で触れかけた――――その時だった。


「ミラルに手ェ出してんじゃねェよッッ!!」


 飛び蹴り。全力で駆けたチリーは、跳躍するとライアス目掛けて飛び蹴りを繰り出したのだ。不意を突かれたライアスは、避けることが出来ず、チリーの飛び蹴りを後頭部へモロに受けた。

「が……ッッ……!?」

 その場へうつ伏せに倒れるライアスへ一瞥もくれず、着地したチリーはすぐにミラルの元へ駆け寄る。

「大丈夫か!?」

「え、あ……うん……。あ、ありがとう……」

「ありがとう、じゃねえよ! 無茶しやがってッ!」

 ミラルの両肩を両手で握り、揺さぶるようにしてチリーはそう言った。

「ご、ごめんなさい……」

 謝るミラルに、チリーは嘆息すると近くに落ちている大剣を拾い上げる。

「でも、ま……」

 大剣を握り締め、確かめるように縦に振った後、よろよろと起き上がってくるライアスへと視線を向ける。

「助かったぜ、ミラル」

 ミラルを自分の後ろへ押しやり、身構えるとチリーはニッと笑った。

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