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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
61/128

episode61「Under ground-7」

 二つに分かれた道の、左を選んでチリー達は先へ進んでいた。

 青蘭との一件が原因で、チリーの機嫌は最悪で、あれから一言も会話をしないままチリー達は歩いていた。

 流石のチリーもいい加減、罠の避け方がわかって来たらしく、もうミラルが忠告する必要はなくなっていた。そのせいで、余計に沈黙は深くなっていく。

 ――――裏切られた。否、元々目的は別々だ。こうなるのは当然だったのかも知れない。

 チリー達はテイテスのため。青蘭達は東国のため。赤石を求める目的はそれぞれ違うのだ。ゲルビアとチリー達が敵対するのと、理由は同じ……。

「クソ……ッ」

 沈黙を破り、チリーは悪態を吐く。

「ねえチリー……。本当に、青蘭は私を殴ったの?」

「ああ。俺の目の前でな……」

 脳裏を過る、ミラルが殴られた瞬間の光景。再び怒りが込み上げ、チリーは拳を強く握り締めた。

「許せねえよ……ッ」

 仲間だと、思っていた。目的は別々になろうとも、仲間であることに変わりはないと、そう信じていた。

 もう、青蘭のことを考えるのはやめた方が良い。そう思い、チリーはかぶりを振った。

 これ以上苛々しても仕方がない。今は、ゲルビアや青蘭達よりも早く赤石の在処へ辿り着くことの方が先決だ。

「ミラル、急ぐぞ」

「……うん」

 ミラルが頷いたのを確認し、チリーは歩を早めた。



 しばらく進んでいると、唐突に開けた場所へ出た。チリー達の出て来た通路の他に、この場所へと続いている通路が、左右に一つずつ存在していた。

「あれ……」

 ミラルが指差す方向。チリー達の正面には、巨大な、古めかしい扉が存在した。

「まさかこの奥に……」

 呟いたミラルを見、チリーは小さく頷いた。

「行くぞ……」

 緊張した面持ちでチリーが言うと、ミラルはコクリと頷いた。

 ゆっくりと。二人で扉へと近づいて行く――――その時だった。


「待ってよ」


 不意に聞こえる、少年の声。慌ててチリー達が声のした方向へと視線を向ける。

 右の通路から、ゆっくりとその少年はこちらへ歩いて来る。

 肩まで伸びた髪を、後ろで一つに縛っている、どこか中性的な外見をした少年……。

「久しぶりだね、チリー」

 少年ライアスはチリーを見、ニコリと微笑んだ。



「……トレイズ!」

 ニシル達がしばらく進んでいると、岩壁にもたれかかっているトレイズを発見した。ニシル達はすぐに、トレイズの元へと駆け寄る。

「大丈夫!?」

 心配そうにそう言ったニシルへ、トレイズは頷いて見せる。

「なんとかな」

「火傷、ですか?」

 カンバーが問うと、トレイズは小さく頷いた。

「そこの奴にやられてな」

 トレイズの指差した方向には、氷漬けにされたエルヴィンの姿があった。

「すご……」

 驚嘆の声を上げ、ニシルはそっと氷塊エルヴィンへ触れる。ひんやりとした、冷たい感触。

「よっ」

 ニシルの掛け声と共に、ニシルの右手から高熱が発せられる。右腕が痛むが、それを気にせずニシルは氷塊を溶かしていく。

「ニシル……?」

 氷塊を溶かし切ると、ドサリと音を立ててその場へエルヴィンが倒れた。それを一瞥し、トレイズは不思議そうな表情でニシルを見る。

「いや、凍ったままここに放置ってのは惨いかなぁって。死ぬよりキツいよ、多分」

 そう言って悪戯っぽく笑うニシルを見、トレイズは微笑する。

「ニシルさん。どうやら俺達は、奥へ向かうどころか逆走していたみたいですね」

「……だね。そう言えばトレイズ、チリー達は?」

 先へ言った、とトレイズは答えてゆっくりと立ち上がる。

「もう良いんですか?」

「ああ。むしろ休み過ぎたくらいだ。行くぞ」

 トレイズの言葉に二人は頷き、トレイズを先頭に奥へと進んで行く。

 しばらく進んで行くと、道が二つに分かれていた。

「片方は、僕達がさっき通った道だよね」

 ニシルの言葉に、カンバーはコクリと頷く。

「ええ。もう片方の道を行きましょう」

「そうだな」

 トレイズがそう答えたのを確認し、カンバーは左の道へと進んで行く。その後ろを、ニシルとトレイズは付いて行った。



 ギロリと。チリーはライアスを睨みつけた。それに対してライアスは、然程気にする様子もなく、余裕たっぷりな表情でチリーを見ている。

「この間は世話になったな……!」

 チリーの脳裏を過るのは、己の剣が砕かれる瞬間。しかし、もうその光景に怯えはしない。

 もう、心だけは負けない。

「変わったね」

 呟き、ライアスは笑みを浮かべる。

「うん、強くなった。前にあった時よりずっと」

 どこか嬉しげに、ライアスはそう言った。

「私達に何の用よ……?」

 ミラルの問いに、ライアスはクスリと笑う。

「正直、僕に赤石とかは関係ない。ハーデンが喜ぶなら持って帰るけど、赤石に関して僕は何も言われてない。関係ないんだよ」

 でも、と付け足し、ライアスはチリーを真っ直ぐに見据えると、言葉を続けた。

「僕がここに来たのは、チリーを殺すため」

 ニヤリと。笑みを浮かべるライアス。

「さあ、この間の続きをやろう」

 ライアスがそう告げた途端、チリーはすぐにミラルを自分の後ろへ追いやった。

「ミラル、退いてろ」

「う、うん」

 チリーの言葉に大人しく従い、ミラルはチリーの後ろへと退いた。

「前は勿体なくて壊さなかったけど、今度は容赦しない」

「人を玩具みてえに言いやがって……! 来いよ、玩具おれは主人に反逆するぜ?」

 ニヤリと笑い、チリーは身構えると同時に、右手に大剣を出現させる。

「前より力を感じる……。本当に、強くなったね」

 そう言ってライアスは右手をかざす。すると、その右手で何らかのエネルギーらしきものが迸り始めた。

 ――――神力。神力使いとしてのライアスの能力は、触れた物を破壊すること。ライアスの右手で迸っているソレは、そのための神力だろう。

 素早く、ライアスはチリー目掛けて駆け出し、その右手をチリーの顔面目掛けて突き出した。チリーは顔を逸らして右手を避けると、ライアス目掛けて大剣を薙いだ。しかし、ライアスは左手でその大剣を止める。見れば、ライアスは左手にも神力を迸らせていた。放出されずに留められた神力が、チリーの大剣を阻んでいる。

「チッ」

 舌打ちし、チリーはすぐに大剣をライアスの左手から離し、バックステップでライアスから距離を取る。そしてすぐに、ライアスへ駆け寄り、両手で大剣を振り上げる。

「らァッ!」

 掛け声と共に大剣を振り降ろすが、ライアスは素早く左へ身をかわして大剣を回避する。そのまま振り降ろされた大剣は、轟音と共に地面を少し砕いた。

 大剣へ一瞥もくれず、ライアスは横からチリーの頭部へ右手を突き出す。

「喰らうかよ!」

 チリーは方向を転換し、右手を大剣から離すと、ライアス目掛けて横に右拳を振った。その右腕を、ライアスは右手で掴む。

「壊すよ?」

「……ッッ!」

 すぐに、チリーは右足でライアスの腕を蹴り上げる。蹴り上げられ、ライアスは無意識の内にチリーの右腕を持つ右手を離した。すかさず、チリーは右腕を引っ込める。

「危ねえ……」

 右腕を見つつ何度か縦に振り、無事であることを確認すると、チリーは再び大剣でライアスへ切りかかる。

 斜めに振られた大剣を、ライアスは後退してかわすと跳躍し、大剣を踏み台にして更に跳躍する。そして上空から、チリーの頭部目掛けて右手を突き出す。

 ライアスが踏み台にした際、一時的に大剣の重量は増した。その結果、不意に重量の増した大剣を持っていられず、チリーの両手は緩み、大剣はチリーの手を離れ、その場へ音を立てて落ちた。

「クソ……ッ!」

 チリーは大剣を持っていないまま、大きくバックステップすることでライアスの右手を回避する。

 そして聞こえる、凄まじい破壊音。ライアスの右手は地面に触れ、放出した神力が地面を大きく抉った。

「惜しかったなぁ」

 残念そうに呟き、ライアスはチリーを見据える。

「チリー!」

 心配そうに、後方でミラルが叫ぶ。

「へえ、彼女?」

 笑みを浮かべ、ライアスが問う。

「うるせえよ。テメエには関係ねえだろ」

 チリーが睨むと、ライアスはそうだね、と小さく頷いた。

「あれ、剣は出さないの?」

 傍に転がっているチリーの大剣を見、ライアスはクスリと笑った。

 ライアスの言葉には答えず、苦虫を噛み潰したかのような表情で、チリーは舌打ちした。

「ああ、そうか」

 ゆっくりと。ライアスは大剣を拾い上げる。

「二つ同時には出せないか」

 嫌らしい笑みを、ライアスは浮かべた。

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