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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
60/128

episode60「Under ground-6」

「敵って……何言ってんだよ……?」

 表情を驚愕に歪め、恐る恐るチリーが問うた。すると、青蘭は薄らと笑みを浮かべる。

「俺もお前も、別々の目的で赤石を求めている。なら、敵対するのは当然だろう?」

 なるほど、理に適った理屈ではある。しかし、敵と言う言葉がチリーには納得いかない。彼は――――青蘭は、短い間とは言え共に旅をした仲間の一人だ。しばらく離れていたとは言え、簡単に敵対宣言をされるとは思えない。思いたくない。

「どうしたの、青蘭……?」

 やや怯えた目で、そう言ったミラルへと青蘭は視線を向ける。

「どうもしないさ。ただ、俺とお前達は敵同士……。それだけだ」

「青蘭……テメエそれ本気で言ってんのか……?」

 頭に来たらしく、表情をしかめてチリーが問う。

「ああ。俺は本気だ。冗談でこんなこと、言う必要がないだろう」

 そう言って、青蘭はゆっくりとチリーへ歩み寄り――――チリーの顔面を思い切り殴りつけた。

「……ッッ……!?」

 仰け反り、困惑した表情でチリーは顔を抑える。

「これが証拠だ」

 ニヤリと。青蘭が笑みを浮かべた。

「ちょっと青蘭っ! 何するのよ!?」

 チリーの前へ出、ミラルはキッと青蘭を睨み付ける。

「敵を殴って、何か問題があるのか?」

 そう、青蘭は平然と言ってのけた。

「何ですって……!?」

「退け!」

 勢いよく、振られた青蘭の右腕が、ミラルの顔面へ食い込んだ。

「な――――ッ!?」

 チリーが驚愕に表情を歪めると同時に、ミラルは派手に吹っ飛び、岩壁へ頭部を強かにぶつける。

「ミラルッッ!!」

 グッタリとしたまま、ミラルはそのまま動かない。頭部からは、ダラリと赤い血が流れ出ていた。

 次の瞬間、チリーは身体中の血が頭へ上ったかのような錯覚をした。

「っと。やり過ぎたか」

「青蘭ッッ!」

 瞳孔の開いた目で青蘭を睨み付け、怒号を上げてチリーは勢いよく青蘭の胸ぐらを掴んだ。

「テメエッ! 今自分が何やったかわかってんのかッ!? ふざけんじゃねえぞクソ野郎がァァッ!」

 凄まじい剣幕でまくし立てるチリーを、然程気にする様子もなく、青蘭は鼻を鳴らした。

「女一人くらいで、やかましい」

 その一言で、チリーの頭の中は一瞬でドス黒い感情で埋め尽くされた。

「ふざッけんなァッ!」

 掴んでいた胸ぐらを離し、チリーは青蘭を思い切り殴りつけた。鈍い音と共に、青蘭は後方へ派手に吹っ飛んでいく。

「ぶっ殺してやるッッ!」

 瞬時に、チリーは大剣を出現させると、倒れている青蘭目掛けて素早く駆けた。そして跳躍すると、大剣を倒れている青蘭目掛けて振り降ろす。

「チッ」

 舌打ちし、青蘭はゴロリと転がって大剣を回避する。

 チリーの振り降ろした大剣は、轟音と共に地面を砕いた。と同時に、すぐにチリーへ視線を青蘭へ向ける。

「逆上しやがって……!」

 悪態を吐くと、青蘭はすぐにチリーへ背を向け、その場から走り去って行く。

「待てッ! ふざけんなテメエッ!」

 追いかけたが、青蘭はその先にある、二つに分かれた道のどちらかへ逃げていた。どちらへ行くか迷っている間にふと我に返り、チリーは追いかけることよりもミラルの安否を確認することを優先すべきだと気付く。

「青蘭……ッ! 青蘭ッッッ!!」

 怒りと憎しみを込めて、かつての友の名を、チリーは叫んだ。



 ミラルの元いた場所へ戻ると、ミラルはまだ岩壁にもたれかかったままだった。すぐに駆け寄り、ミラルの身体を揺さぶる。

「おい! ミラル! しっかりしろッ! おいッ!」

 激しく揺さぶるべきではない。しかし、怒りと焦りでチリーは正常な思考を失っていた。

「ん……」

 ゆっくりと。ミラルが閉じられていた口を開けた。

「ミラル!?」

 ミラルの目はゆっくりと開かれ、チリーを捕らえる。

「あれ、チリー……? 私……」

 キョロキョロと辺りを見回し、ミラルは首を傾げる。

「お前、大丈夫なのか……?」

「大丈夫って、何が?」

 心配そうに問うチリーへ、ミラルはキョトンとした表情で問う。

「何って、頭…………え?」

 血が、ない。先程、確かに彼女の頭部から流れ出ていたハズの血は、どういう訳か姿を消している。それどころか――――


 ミラルの頭部には、傷そのものがない。


 学のないチリーでも、このくらいは当然わかる。これは絶対に、おかしい。

「えっと確か……青蘭が変で、私……殴られたの?」

 不思議そうに、ミラルはそう問うた。恐る恐る、チリーはミラルの後頭部――――傷があったハズの場所へそっと触れた。

「え、何……?」

 やはり、ない。傷口などそこには存在しなかった。その代わりに手の甲で感じた、岩壁へ付着した液体へ触れた感覚。そっと、チリーはミラルの後頭部から手を離し、手の甲を見る。

「――――ッ!?」

 付着していたのは、血だった。

「ねえ、何があったの?」

 ゆっくりと立ち上がり、ミラルは服についた土や砂を両手で払う。彼女の背後には、血の付着した岩壁。

 それを見、チリーは確信する。

 ミラルは怪我をしなかった訳ではないのだ。

 では、何故? 何故ミラルは無傷で、平然と立っていられるのか。

 思索してみるが、到底答えなど見つかるハズもなく、チリーは嘆息する。

「お前はさっき、青蘭に殴られたんだ」

「え……? 青蘭……に?」

 そう言って、ミラルの不可解な傷口のことで一度頭から消えていた、青蘭への怒りが再びチリーの中で沸き上がる。

「アイツ……ッ!」

 グッと拳を握り締め、青蘭の言葉を反芻する。

 ――――どうもしないさ。ただ、俺とお前達は敵同士……。それだけだ。

「それだけ……だとッ……!」

 思い切り、握り締めた右拳を岩壁へ叩き付ける。岩壁に、拳一つ分の穴が穿たれた。

 普通なら、彼の体格からは考えられない怪力。しかし、今のチリーとミラルには、それを気にする程の精神的余裕は存在しなかった。

 裏切られた。仲間だと思っていた青蘭に、こうも容易く裏切られたのだ。

「ごめん、私のせいで……」

 それはどういう意味か。殴られたことに対する謝罪か、気絶したことに対する謝罪か。

「何でお前が謝るんだ……?」

 呟くようにそう言い、チリーは洞窟の奥へ視線を向けた。青蘭の走り去った、その先へ。

「アイツ……ッ! 絶対に許さねえッ!」

 まるで、慟哭。チリーの頬は、悔し涙で濡れていた。



 ニシル達は、長い坂道を上っていた。まるで山道のような傾斜で、正直苦痛だった。しかし、上っているということは上へ向かっているということだ。上へ、赤石のある場所へと向かうルートへ戻るためには、行かなければならない道だった。

「チリー達、大丈夫かな」

 ボソリと。ニシルが心配そうに呟く。

「大丈夫でしょう。トレイズもついてますし、滅多なことにならないと思います」

「まあ、そうだろうけどね……」

 そんな会話をしていると、不意に前を歩いていた麗がこちらを振り返る。

「チリー……。青蘭がよく口にしていた名前ね」

「青蘭が?」

 ニシルの問いに、麗は小さく頷いた。

「ええ。自分を助けてくれた、命の恩人だと、誇らしげに語っていたわ」

 命の恩人……。エリニアでの、仮面の男と戦った時のことだろう。当時神力を使えなかったニシルは、仮面の男との戦いには参加していない。

「そしてその仲間も、みんな良い奴らだ、とこれもまた誇らしげだったわ。まるで私達のことが不満みたいじゃない、美しくないわ」

 あまり表情に変化は見受けられないが、麗の表情は微かに拗ねたようにも見えた。それに気付き、まるで彼女の素を見てしまったかのような気分になり、ニシルは微笑する。

「青蘭……と言いますと、俺がこの旅に参加する前、一緒に旅をしていた人物ですよね?」

「うん」

 カンバーへそう答え、ニシルは言葉を続ける。

「良い奴だったよ、本当に。僕らのまとめ役みたいな立ち位置だった気がするよ。今じゃトレイズとカンバーがやってくれてるけどね」

 そう言って、ニシルは懐かしそうに微笑んだ。

 それからしばらく、カンバーと青蘭について話していると、徐々に坂道が平坦に変わっていく。上へ辿り着いたのだろうか。

 そのまま少し歩くと、道は完全に平坦になっていた。

 前方は岩壁。どちらが奥へ続いているのか、先程まで下にいたニシル達にはわからない。

「どうするカンバー? 僕の直感は左へ行けと喚いている」

「喚く程必死なんですね、貴方の直感」

 呆れ気味にそう言い、カンバーは左へ行きましょう、と呟いた。

「そう。私は右へ行くわ。ここでお別れね」

 そう言って、麗は別れの言葉すらロクに言わず、右へスタスタと進んで行った。

「それじゃ、僕らも行こうか」

 ニシルの言葉に、カンバーはコクリと頷き、左の道へと歩いて行った。

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