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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
6/128

episode6「Beginning-1」

「核」と呼ばれる物質がある。

 テイテスと呼ばれる島国は、その「核」と呼ばれる謎の超物質によって構成されている。「核」は周囲にある物質を引き寄せ、一つの島を形成しているのだ。

「核」はテイテスの初期王によって作られたが、その詳しい作成方法などは未だ謎である。「核」について詳しく知る者は、テイテス内でも王族の者だけである……。





「うおらァッ!」

 潮風が吹き、波の音が響く海岸の砂浜で、少年の声が響いた。

 白髪の少年が、拳を振り上げ、大柄な男に殴りかかって行く。

 男は後ろで一つに縛った長い髪を揺らしながら素早く少年の拳をかわし、少年の腕をガッシリと掴むと、グッと力を込めて握った。

「ぐ……ッ!」

 右腕に感じる痛みに歯を食いしばりながら、少年は空いているもう片方の手で男の顔面目掛けて拳を突き出した。が、その拳は男の顔面に届く寸前で男の手によって止められる。

「クソ……ッ!」

 少年が悪態を吐く。

「チリー、もう少し考えて――――」

 男が言いかけたその時だった。

「うおおッ!」

 後ろから小柄な少年が殴りかかって来ていた。

「良い奇襲だ」

 呟き、男はチリーと呼ばれた少年の腕と拳を掴んでいる両手を、大きく回転させた。

「な――――ッ!?」

 チリーが声を上げた時には既に遅く、少年の身体は驚く程あっさりと、まるで風車のように回転し、砂浜の上にドサリと倒れた。

「が、殺気が隠せていない」

 男の背後から殴りかかって来る少年の顔面に、男は素早く右手で裏拳を放った。

「うわッ!?」

 鈍い音と共に、少年の顔面に男の裏拳が炸裂する。

 鼻に当たったらしく、少年は鼻血を流しながらその場へ仰向けに倒れた。

「まだまだ甘――――うお、ニシル! 大丈夫か!?」

 男は振り返り屈むと、鼻血を流しながら倒れている少年の顔を覗き込む。

「アンタの……せいだよ」

 ニシルと呼ばれた少年は、力なく答えると目を閉じ、カクンと首から力を抜いた。

「ニシルゥゥゥゥゥッッ!!」

「いや、死んでねえから」

 ニシルの身体を抱きよせ、絶叫する男の後ろから、立ち上がったチリーが冷静に言い放つ。

「なんだよノリが悪いな」

 男は呆れたように呟くと、抱き寄せていたニシルの身体から手を離した。

 ドサリと音を立ててニシルの身体は再び砂浜の上に倒れる。

「うわ、扱い酷!」

 ニシルは目を開けると、身体を起こし、鼻血を拭うと立ち上がって服についた砂をはらった。

「はいはいそこまで。休憩にしましょ」

 パンパンと手を叩く音がして、三人が音のした方向へ同時に視線を移すと、そこには栗色の長い髪をした少女が、バスケットを腕にかけて呆れ顔で立っていた。

「おぉ、ミラルちゃん。いつもすまないね」

 ミラルと呼ばれた少女はいえいえ、と微笑むと、バスケットの中をごそごそと漁り、中から箱を取り出し、蓋を開けると三人に見えるように傾けた。

「サンドイッチ。食べるでしょ?」

「ありが――――」

 男が言い終わるより早く、チリーとニシルの二人は素早くミラルの眼前まで迫る。

「いただきッ!」

 チリーが箱の中のサンドイッチに手を伸ばすが、届くより先にミラルが箱を持ち上げた。

「ちょっとは待ちなさい! 大体アンタはそそっかし――――」

 言いかけ、ミラルは両手で持っていた箱を片手に持ち替えると、空いた左腕の肘で背後から忍び寄るニシルの腹部に肘打ち喰らわせた。

「ぐっ……!」

 完全に不意をつかれ、ニシルは苦しそうに腹部を押さえてうずくまった。

「ニシルも! 別にあげない訳じゃないんだから……どこかに座って落ち着いて食べれば良いじゃない」

 そう言って、ミラルは軽く溜息を吐いた。

「ミラルちゃん、あの木の上で良いんじゃないか?」

 男が打ち上げられたのであろう大木を指差す。

「一昨日からあったものだから、既に乾いてるだろ。あそこに座って食べようじゃないか」

 男がニッと笑うと、ミラルもつられて微笑んだ。



 四人は、大木の上に右から男、チリー、ミラル、ニシルの順番で並んで座ってサンドイッチを食べていた。

 箱はミラルの膝の上に置かれ、チリーとニシルが競うようにサンドイッチを食べては次のサンドイッチを手に取り、まるで二人で早食い競争でもしているかのようだった。

「おいおいお前ら、折角ミラルちゃんが作って来てくれたんだ。もうちょっと味わって食べろ」

「ふぁふぁふふぁふぇふぁふぁふぃふぃふふぃふふぁふぇふぃふぁふふぁふぉ!?」

 口の中にサンドイッチを詰めたまま喋るチリーの頭を、男はバシンと叩いた。

「口の中に物を入れたまま喋るな!」

 チリーは痛そうに顔を歪めた後、サンドイッチを飲み込んだ。

「早く食べなきゃニシルに食われちまうだろ!?」

 チリーがそう言っている間にもニシルはサンドイッチをドンドン口に運んでいる。そして飲み込んではうめえ、と呟き、次のサンドイッチに手を伸ばしている。

「キリトさん、大丈夫です。もう一箱ありますから」

 そう言って微笑むと、ミラルはバスケットからもう一つ箱を取り出した。

 箱の中のサンドイッチがなくなったのを確認すると、ミラルは蓋を閉じ、バスケットの中に戻すと、先程取り出した箱の蓋を開け、膝の上に乗せた。

「ふぉふぇふぃふぉふふぇ!(俺にもくれ!)」

 口にサンドイッチを詰めたまま、チリーは箱からサンドイッチを取り出し、無理矢理口に突っ込んだ。

「ごほっ! ごほっ!」

「馬鹿! 焦って食べるから!」

 むせ始めたチリーを見ると、ミラルは慌ててバスケットから水筒を取り出し、チリーに手渡した。

「さ、さんきゅ……」

 チリーは手渡された水筒の蓋を素早く開けると、中の水をガブガブと勢いよく飲んだ。

「やれやれ、行儀が悪いな」

 嘆息し、キリトと呼ばれた男は箱から一つ、サンドイッチを手に取った。

「でも、育てたのはキリトさんですよ」

 そう言ってミラルがクスクスと笑う。

「いやいや、そういう面は母さんに任せていてだな……」

 ゴホンと咳払いをし、キリトはサンドイッチを口に入れた。

「それにしても、ミラルちゃんもこの島にかなり馴染んだなぁ……」

「そうですね。もう十年も経ちますし……」

「もうあれから……十年か」

 十年前、一人の少女が小舟に乗ってこの島、テイテス島に流れ着いた。最初に発見したのはチリーとニシルの二人であった。

 二人は記憶をなくして錯乱している少女を何とか落ち着かせ、何とか大人達と相談して、テイテス島へ住まわせるに至ったのだった。

 その少女こそ、今こうしてチリー達とサンドイッチを食べているミラルのことである。

 未だにミラルがこの島に流れ着く前の記憶は戻っておらず、戻る気配もないらしい。

 しかしこの島で暮らしている時間の方が島に流れ着く前より長くなっているため、徐々にミラル自身も無理に過去の記憶を思い出そうとしなくなっていた。

「私は、すごく好きですよ……今の生活」

 そう言って、ミラルは目を細めた。

「昔のこととか、もう気にならないのか?」

 キリトの問いに、ミラルは首を横に振った。

「気にならないと言った嘘になります。でも、今の生活を壊すような記憶なら……私はいりません」

「好きなんだな。この島のことが」

「島も。島の人達も大好きです」

 そう言って微笑み、ミラルはサンドイッチを頬張っているチリーとニシルの二人を交互に見た。

「あ……」

 ボソリと。箱に手を伸ばしたチリーが間の抜けた声を上げた。

 ミラルが箱を見ると、既に箱の中は空になっていた。隣では得意気にニシルが両手にサンドイッチを持っている。

「両手持ちは反則だろおいッ!」

 抗議の声を上げたチリーを、ニシルはフフンと鼻で笑った。

「最初からルールなんてないのさ」

「よし、お前の言いたいことはよくわかった。ちょっと表出ろ」

「いやココ表だから」

 クスクスと笑うニシルに腹を立てたのか、チリーは勢いよく立ち上がるとニシルの目の前まで歩み寄り、ニシルの頭を小突いた。

「痛っ!」

「先手必勝!」

「何が先手だッ!? ただの不意打ちだろバカチリ!」

 ニシルまでもが勢いよく立ち上がり、チリーの頭を小突いた。すぐにチリーがやり返し、いつの間にか取っ組み合いのケンカが勃発していた。

「やれやれ……」

 そんな二人を眺めながら、ミラルは嘆息し、箱や水筒をバスケットの中に片づけた。

 しばらく眺めている内に、力尽きたのか二人はその場に仰向けに倒れ、やるじゃねえか、そっちこそ、などと満足気な顔で話していた。無駄に青春している二人だった。

「なあミラル、お前島の外のこととか覚えてないのか?」

 不意に、チリーは身体を起こすとミラルに問うた。

 続けてニシルも身体を起こし、うんうんと興味深げな表情で頷いた。

「前にも言ったでしょ? 私は何も覚えてないわ」

 そう言って、ミラルは嘆息する。

「チリー、島の外に興味があるのか?」

 キリトが問うと、チリーはニッと笑った。

「当然だろ。俺はこんなちっぽけな島に留まるつもりはないぜ」

「それは僕も同感。やっぱり、外の世界が見てみたいよね」

 二人は顔を見合わせ、嬉しげに頷き合った。

「まあ、だったら俺を倒せるくらいには強くなることだな」

 キリトは立ち上がると、二人の頭の上にポンと手を置いた。

「今に見てろよ馬鹿親父! 顔面に風穴空けてやるぜ!」

「おう、楽しみにしておいてやろう」

 キリトはニッと笑うと、二人の頭から手を離した。

 そんな光景を眺め、ミラルは微笑んだ。

 ミラルはこんな時間が好きだった。何でもないようなこの瞬間が……。

 まるで、こんな平穏な時間が、過去になかったかのように、大切に思えていた。

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