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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
59/128

episode59「Under ground-5」

 燃え盛る炎が、飛来する氷塊を凄まじい勢いで溶かしていく。

 大量の氷塊を、各方向から同時にエルヴィン目掛けて発射するも、エルヴィンは自分の周囲に炎の壁を出現させることで全ての氷を防いだ。

 舌打ちし、トレイズは右手をかざす。すると、その右手で氷が徐々にある物へと形成されていく。

「……ほぅ」

 それを一瞥し、エルヴィンは興味深げに声を上げた。

 それは、剣。細く長い、氷によって形成された剣。

「……行くぞ」

 呟き、トレイズはエルヴィンへ、その剣で切りかかる。エルヴィンは余裕の表情でそれを回避し、トレイズの顔目掛けて右手をかざす。

 次の瞬間には、エルヴィンの右手の前に大人の拳大程度の火球が出現していた。その火球は、トレイズ目掛けて勢いよく発射される。

 舌打ちしつつ、トレイズは顔を逸らして火球を回避する。その際、髪の一部がかすったらしく、トレイズの耳元で髪の焼ける小さな音がした。

 トレイズは数歩後退し、すぐにエルヴィン目掛けて剣を刺突する。

「剣とは言え、所詮は氷」

 呟き、エルヴィンは剣の刃先へ、自分の手の平を向けた。

「ッ!?」

 エルヴィンの右手の平で燃え盛る、高熱の炎。それは、突き出されたトレイズの剣を徐々に溶かしていく。

 すぐにトレイズは剣を手から離し、エルヴィンから距離を取る。

「とことん、相性が悪いようだな」

 険悪な表情で呟くトレイズを一瞥し、エルヴィンはニヤリと笑みを浮かべる。

「炎と氷。まあ、相性は最悪だろうな」

 そう言って、エルヴィンは右手を軽く薙いだ。すると、その軌道上に小型の火球が数個出現する。

 そして次の瞬間、全ての火球が一斉にトレイズ目掛けて飛来する。

 ――――防ぎようがない……!

 飛来する火球の内、幾つかは回避することが出来たが、その内二、三個はトレイズの身体へ直撃する。

「……あ……ッッ……!」

 苦痛。恐らく直撃した部分は軽い火傷になっているだろう。小型の物だったのは幸いだ、もし大型の火球を喰らっていれば、大火傷は避けられなかっただろう。

 この氷の能力で、エルヴィンの炎へ対抗する方法は……?

 瞬時に頭の中を回転させ、思索する。普通に氷で攻撃しても無意味だ。あの炎で溶かされる。

 ――――ニシルと戦うくらい、こっちが不利だな。

 心の内で呟き、嘆息する。相手はニシルではない。ニシルの能力は熱。身体の各部位から高熱を発する能力。それに対してこの男、エルヴィンの能力は炎。炎を出現させ、自在に操る能力……。

「……そうか」

 エルヴィンは、ニシルのように身体の各部位から、熱を発することが出来る訳ではない。あくまで自分と同じ、手等を利用して操ることしか出来ないハズだ。

 スッと。トレイズは右手をエルヴィンの頭部目掛けてかざす。

「……?」

 訝しげな顔をするエルヴィン。トレイズはそれを無視し、右手の前に氷塊を出現させる。

「何をするかと思えば……」

 フン、と鼻を鳴らし、エルヴィンはトレイズを嘲笑した。

 トレイズの形成する氷塊は、徐々にその大きさを増していく。いつもの二倍、否、三倍以上。その巨大な氷塊を、トレイズはエルヴィンの頭上目掛けて勢いよく発射した。

「サイズが違おうが、無駄なことだッ!」

 エルヴィンは頭上の氷塊目掛けて右手をかざし、火炎を放つ。勢いよく放たれた火炎は、巨大な氷塊を溶かしていく。

「俺は熱いぞ?」

 ニヤリと笑みを浮かべたエルヴィンに、トレイズもニヤリと笑みを返す。そしてゆっくりと、エルヴィンの元へ歩み寄る。

「まだ足掻くか!」

 頭上へ向けていた右手を、エルヴィンがトレイズへ向けた時だった。

「馬鹿が」

 トレイズが呟くと同時に、水と化した氷塊が、まるで雨のようにエルヴィンへと降り注ぐ。

「な……ッ!」

 そっと。トレイズはエルヴィンの身体へ触れた。


「凍え死ね……ッ!」


 トレイズがそう言うと同時に、エルヴィンの身体は凄まじい勢いで凍らされていく。

「貴様より、ニシルの方がよっぽど熱い」

 そう呟き、トレイズがその場へ座りこんだ時には、既にエルヴィンは一つの氷塊と化していた。

 そっとトレイズは、先程の火傷の位置へ右手で触れる。すると、その部位に小型の氷が出現し、患部を冷やしていく。他の部位も同じように、氷で冷やしていく。

「……追いつくのは、まだまだ先になりそうだ」

 独り呟き、トレイズは嘆息した。



 ミラルに何度も忠告されつつ、チリーはミラルと共に奥へと進んでいた。

 相変わらずチリーは何度も罠にかかりかけ、その度にミラルの顰蹙ひんしゅくを買っていた。

「トレイズ……大丈夫かな」

 不意に、ミラルが不安げに呟く。

「大丈夫だろ。アイツはやたら強いからな」

 ニッと笑ってそう答えたチリーに、ミラルは嘆息する。

「気楽ね……。心配じゃないの?」

「そりゃ俺だって心配だ。けどな、一々気にしてたんじゃ先に進めねえ」

 そうだろ? と問いかけるチリーに、ミラルは小さく頷いた。

「俺達が見るのは後ろじゃねえ、前だ。トレイズだって、それはわかってるハズだぜ」

 だから。そう付け足し、チリーは言葉を続ける。

「進むぜ」

「……うん」

 そう答え、ミラルが頷いたのを確認し、チリーが一歩踏み出そうとした時だった。

「待った!」

 ピタリと。ミラルの言葉に従い、チリーは足を止める。チリーの足元には、やや不自然に出っ張った四角い岩。

「進むのも良いけど、罠にはかからないようにね」

「……そうだな」

 嘆息し、チリーは別の場所へ踏み込んだ。

 それからしばらく、チリー達は洞窟の奥へと進んでいった。ミラルの努力もあってか、罠にかかりかける回数は徐々に減っていった。

「ここ、どのくらい奥まで続いてるんだろ……」

「だな。相当奥に隠されて――――」

 チリーが言いかけた時だった。

「ねえ、あれ」

 不意に、ミラルが前方を指差す。すぐにチリーは、ミラルの指差す方向へ視線を向ける。

「あそこ、誰かいるわ」

「……ゲルビアか?」

 目を凝らし、チリーとミラルはその人影を凝視する。ゆっくりと、人影はこちらへと歩み寄って来る。

 チリーはミラルを自分の後ろに追いやると、素早く身構えた。

「あれ……?」

 短く声を上げ、ミラルはチリー横へ出る。

「お、おい! 下がってろよ!」

「え、でもあの人影……」

 再度、ミラルは人影を指差す。

 長身の、どこかで見た覚えのある青年だった。その青年は、歩みを止めることなくこちらへと近づいて来る。

 徐々に、青年の顔が明確に見えてくる。

「まさか……」

 構えを解き、チリーは驚嘆の声を上げた。

「青蘭!」

 チリー達の方へ歩み寄って来たのは、青蘭だった。

 長身に、端正な顔立ち。確かに彼は、かつてチリー達と共に旅をしていた青年、青蘭であった。

 すぐに、チリーとミラルは青蘭の元へ駆け寄った。

「久しぶりだな! お前も来てたのか!」

「……まあな」

 嬉しそうにはしゃぐチリーに、青蘭は微笑む。

「あれ、青蘭の仲間は?」

「さっきまで一緒だったんだが、はぐれてしまった」

 ミラルの問いにそう答え、青蘭は肩をすくめて見せた。

「なんだよ、お前らしくねえな」

 茶化すように笑いつつ、チリーはそう言った。釣られて、青蘭も表情に笑みを浮かべる。

「まあいいや。お前が合流するまで、一緒に行動しようぜ」

「そうね。色々話もしたいし」

 笑顔でそう言った二人に、青蘭は首を左右に振った。

「それより、二人に聞きたいことがある」

「何だよ?」

 不意に、青蘭は表情を一変させ、真剣な表情で二人を見つめる。

「お前達、目的は赤石か?」

「……当たり前だろ! 俺達は今、赤石を探すために旅してんだぞ? お前だって知ってるハズだ。何でそんなこと聞くんだよ?」

 語気を荒げるチリーの隣で、ミラルはどうしたの青蘭? と不安げに問うている。

「いや、確認しただけだ」

 そう言って、青蘭は二人から距離を取る。訝しげな表情で青蘭を見つめる二人に対して、青蘭は身構えた。

「――――ッ!?」

 二人の表情が、同時に驚愕で歪んだ。

「お前らが、俺の敵かどうかの確認を……な」

 敵を見据える冷たい視線で、青蘭は二人を見据えていた。

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