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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
58/128

episode58「Under ground-4」

 目の前で笑うチリーを凝視し、青蘭は呆然とその場に立ち尽くしていた。

 ――――白髪の、少年だった。

 青蘭の脳裏に、法然の言葉が蘇る。

 法然を襲撃した少年の特徴は、全て目の前のチリーと一致している。チリーが……襲撃の犯人なのだろうか? 疑う理由に、法然の証言は十分過ぎた。

 伊織はキョトンとした顔でチリーを見ており、光秀は訝しげな表情で知り合いか? と青蘭に問うてくる。

「ええ。俺が麗さん達に出会う前、一緒に旅をしていた仲間です」

 それより、と光秀に向けていた視線をチリーへ移し、青蘭は言葉を続けた。

「何故ここに?」

「当然だろ。赤石のためさ」

 目的は同じ……。

「他の皆は?」

「ああ、先に行ってるよ」

 洞窟の奥を指差し、チリーは軽く笑った。どうも不自然だ。だがその姿形、声に至るまで彼はチリーそのものだった。

「なあチリー、一つ質問して良いか?」

「なんだよ?」

「法然さん……この洞窟の入り口を守っていた人を、襲撃したのはお前か?」

 真っ直ぐに、チリーの目を見据えて問う。

「ああ、そうだな。俺だ」

「な――――ッ!?」

 あっけらかんとした様子で答えたチリーに、青蘭は表情を驚愕に歪めた。

 青蘭の隣で、スッと光秀が身構える。

「あんまり邪魔だったもんで、軽くボコっといた。文句あるか?」

「……大アリだ! チリー、お前はいつから――――」

 言いかけた青蘭の顔面に、チリーの右拳が食い込んだ。

「青蘭君っ!」

 仰け反った青蘭の傍に寄り添い、悲痛な声で伊織が叫ぶ。

「テメエ……どういうつもりだ?」

 ギロリと。光秀がチリーを睨みつける。が、チリーは意に介さぬ様子で鼻を鳴らす。

「うるせえよ、おっさん」

 吐き捨てるように言い放ち、怒る光秀を放置したままチリーは青蘭へ歩み寄る。

 青蘭は、まるで状況を把握出来ていなかった。

 ――――殴られた? チリーに……?

 チリーに……かつての仲間に殴られたという現実を、直視出来ずに青蘭は呆然としていた。

「来ないでっ!」

 チリーの前に、伊織が両腕を広げて立ち塞がる。

「何だよ。俺に用か?」

「……ふざけないで! 青蘭君の友達なんでしょ!? どうしてこんなこと……っ!」

 そう言った伊織の胸ぐらを、チリーは勢いよく掴んだ。

「――――っ!?」

「うるせえよ」

 そのまま投げ捨てるように、チリーは伊織乱暴に突き飛ばす。

「きゃっ」

 小さく悲鳴を上げ、伊織はドサリとその場に倒れる。

「伊織ッ!?」

「伊織ちゃんッ!」

 青蘭と光秀の声に、伊織は大丈夫、と小さな声で答える。

「大丈夫か!?」

 光秀の問いに、伊織は起き上がってから小さく頷いて答えた。しかし、すぐに痛っ! と小さく声を上げる。見れば、伊織の手の平に軽い擦り傷が出来ていた。

「大丈夫、大した傷じゃないから……」

 問題は、傷の大小ではない。

 ギロリと。青蘭はチリーを睨みつけた。

「どういうつもりだ?」

「どうって、こういうつもりだ」

「ふざけてるのか?」

「そうかもな」

 そう言って、まるで嘲るように笑みを浮かべたチリーの顔面に、青蘭は思い切り右拳を叩き込んだ。直撃し、チリーはその場で軽く仰け反る。

「痛ぇ痛ぇ」

「お前……ッッ!」

 怒りを露にし、青蘭は更に強くチリーを睨みつける。

「このクソガキ……ッ! いい加減にしやがれッ!」

 刀の柄に手を置き、抜刀寸前の状態で、光秀はチリーを睨みつけた。

「おっと。こんなことしてる場合じゃねーな」

 チリーは呟くと、青蘭達に背を向けた。

「おい、どこへ行くつもりだ……」

「赤石の所」

 青蘭の言葉に、チリーは振り返りもせず答えると、そのまま洞窟の奥へと駆け出した。

「待てッ!」

 慌てて、青蘭と光秀はチリーを追いかける。その後ろを、不安げな表情で伊織もついていく。しかし、意外に早かったため、すぐにチリーの背中は見えなくなっていく。青蘭が神力を使おうとした頃には、二つに分かれた道のどちらかへ、チリーは姿を消していた。

「クソッ……ッ! ふざけやがって!」

 悪態を吐き、光秀は足元の小石を思い切り蹴飛ばした。

「チリー……!」

 呟いた青蘭の瞳には、怒りの色が浮かんでいた。



 ギロリと。ダニエラは麗を睨みつける。が、麗はダニエラの視線など気にも留めていないようで、済ました顔でニシルとカンバーの方へ視線を向けた。

「大丈夫そうには見えないけれど、一応聞いておくわ。大丈夫かしら?」

「全然大丈夫じゃない、ですね」

 そう答え、カンバーは嘆息する。

「アタシのどこが……美しくないって言うんだい……?」

 怒気を込め、ダニエラが問う。

「全て」

 平然と言ってのけ、麗はクスリと笑ってそのまま言葉を続けた。

「容姿、性格、話し方、能力……いえ、その能力だけで言えば、貴女以外の女性なら美しく使えそうだわ」

「ふざけるなッ! アタシは、アタシを馬鹿にする人間が一番嫌いなんだよッ!」

 そう言うやいなや、ダニエラは髪の束を麗目掛けて伸ばす。しかし、その髪が麗へ到達するより早く、麗は懐から小刀を取り出し、鞘から引き抜くとそれを逆手に持つ。

「絞め上げてやるわッッ!」

 しかし、ダニエラの思惑通りに事は運ばない。麗は小刀で素早く、伸ばされたダニエラの髪を切り落とす。

「手刀はダメでも、刃物は有効なんでしょうか……。それとも、アレは特別切れ味の良い物?」

 思わず考察を口に出すカンバーへ、麗は技術と切れ味、と短く答えた。

「髪は女の命……! それを切っておいてタダですむと思うなよ……ッ!」

「いくらでも伸びるのでしょう? 減るものじゃないわ。それに、そんな美しくない髪を切った程度で罪に問われるなんて……。むしろ散髪代をいただきたいものだわ」

 不服そうにそう答えた麗目掛けて、何束もの髪が伸ばされる。その全てが、麗を絞め上げんとして伸ばされている。

「美しくないわ」

 呟き、一振り、二振り、三振り。一振りごとに麗は髪を切り落としていく。まるで舞うかのようなその動作に、ニシルとカンバーは言葉を失ったまま(ニシルに関しては喋れないため、失うもなにもないが)見惚れる。

「早い……ッ!」

「能力に頼り過ぎね。美しくないわ。少しは自己を――――」

 言い終わらない内に、麗は素早くダニエラの眼前まで迫っていた。

「な……ッッ……!」

 表情を驚愕に歪め、ダニエラは伸ばした髪を、麗の元まで動かそうとするが、次の瞬間――――麗は小刀を、ダニエラの首目掛けて薙いでいた。


「高めなさい」


 先程の言葉の続きを麗が言い終わる時には既に、ダニエラの首は身体から分離していた。

 麗は小刀を軽く振って血を落とし、カチンと音をさせて左手に持っていた鞘に小刀を収めた。

 血を撒き散らしながら宙を舞うダニエラは、何か言いたげに口をパクパクさせていたが、当然言葉にはならず、そのまま地面へ落下する。と同時に、ニシルとカンバーを縛っていた髪は解け、ニシルとカンバーはその場へ落下する。

 グチャリと。厭な音。苦痛と恐怖に歪んだ表情を死化粧とし、ダニエラは息絶えた。

 ドサリと音を立て、ダニエラの胴体は、首の断面から大量の血を噴き出しつつ、その場に倒れた。

 それを一瞥し、麗は嘆息する。

「痛た……」

 呟きつつ、ニシルは立ち上がる。その近くで、カンバーも眼鏡の位置を直しつつ立ち上がる。

「……助かりました。ありがとうございます」

「助けたつもりはないわ。けれど、助かったと思ったのなら、お礼を言って正解ね」

 カンバーへそう答え、麗は鞘に収めた小刀を懐へと収める。

「随分と惨いね……。まあ、僕も人のことはあまり言えないけどさ」

 グラウスの死に様を思い出しつつ、ニシルはそう言ってダニエラの死体へと歩み寄った。

「一度僕も殺しているとは言え、慣れたくないよ。人間の死には」

 呟き、ニシルは嘆息する。ニシルの言葉を聞き、カンバーは一瞬表情を暗くしたが、すぐに表情を変え、とにかく助かりました、と呟いた。

「それより貴方達、何者なの?」

「えっと……。ちょっとこの洞窟の赤石に用事がありまして……」

 麗の問いに、そう答えかけたニシルを、麗は軽く睨め付ける。

「赤石?」

「ええ、まあ。貴女こそ、一体……?」

 カンバーの問いに、麗は私も赤石に用事があるのよ、と答えた。

「あのさ、目的が同じなら、ちょっと提案があるんだけど」

 ニシルの言葉に、麗は鋭い目付きで何? と問うた。

「僕とカンバーは、罠にかかってここに落ちちゃったんだけど……」

「不服だけど、私もそうよ」

「おお、丁度良い」

 ポンと。嬉しげにニシルは相槌を打つ。

「上に戻るまでさ、僕らと一緒に行動しようよ。不必要に争いたくないし、上に戻ってから別行動取れば良いじゃん」

 ニシルの言葉に、麗はしばらく考え込むような仕草を見せたが、すぐにそれもそうね、と呟く。

「貴方達に私と争うつもりがないのなら、それで良いわ」

「じゃ、決まりだね。カンバーもそれで良い?」

 ニシルの問いに、カンバーはコクリと頷いた。

 各自お互いに自己紹介をした後、三人は麗が出て来たのと別の道へと進んで行った。

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