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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
57/128

episode57「Under ground-3」

 言葉もなく、ただ淡々と洞窟の奥へ進んで行く。

 麗の不在が、青蘭達に精神的な負担を与えているのだろう。伊織は不安げに辺りを見回し、光秀はガックリと肩を落としている。そして青蘭は、麗がいないことを忘れ去ろうとしているかの如く、必死に平静を装った状態で奥へと突き進んでいる。

「俺が……」

 ボソリと呟き、光秀は沈黙を破った。

「俺が、もう少し慎重に行動していれば……」

 ギュッと拳を握り締め、口惜しげにそう言った光秀の方を、青蘭は静かに振り返る。

「もしこのまま……麗が死んだりしたら……ッ!」

「そう、悲観的にならないで下さい」

「悲観的になるなって……お前、なんでそんな冷静――――」

 光秀が言いかけた時だった。

 勢いよく青蘭は右腕を振り、岩石の壁を砕く。その光景に、光秀は呆気に取られていた。

「これが冷静に……見えますか……?」

 抑制していた感情が、抑え切れずに溢れ出した。そんな様子だった。

 麗の安否が心配で、どうしようもなく不安なのは、なにも光秀と伊織だけではない。しかし全員が動揺していては、先には進めないのだ。

 青蘭は再び前を向き、洞窟の奥へと一歩踏み出す。

「……行きましょう」

 コクリと。その後ろで二人は頷いた。



 伸ばされた髪の束を、ニシルは右腕でガッシリと掴み、一気に焼き切る。すると、すぐさま左から別の束がニシル目掛けて伸ばされる。バックステップでそれを避けるが、髪の束は更にニシル目掛けて伸ばされる。

「しつっこい!」

 悪態を吐きつつ、ニシルはその束を左手で掴んだ――――その時だった。

「うわッ!」

 シュルリと。ニシルの右足にダニエラの髪が巻き付いた。

「髪は女の命……。焼いた代償、払ってもらうからねえ!」

 ダニエラの髪に引っ張られ、ニシルはズルリとバランスを崩す。

「ニシルさん!」

 カンバーが声を上げた時には、ニシルは髪によって上空へ逆さまに吊り上げられていた。

「釣れた釣れたァ」

 ニヤリと。ダニエラが笑みを浮かべる。

「クソッ! 降ろせババア!」

 罵倒するニシルの口元へ、ダニエラの髪が巻き付く。

「黙りなクソガキ!」

 髪に阻まれ、ニシルの言葉はくぐもった呻き声にしかならなかった。

 せめて口だけでも自由にしようと、ニシルは右手を伸ばすが、その右手にもダニエラの髪が巻き付き、動きを止める。

「よし、次はそこのヒョロいのの番だねえ……。アンタの場合、アタシと一緒に来るってんなら……」

「謹んでお断りさせていただきます」

 ペコリと頭を下げると、すぐにカンバーはダニエラ目掛けて駆ける。

「――――ッ!?」

 そして、ニシルの右足へ巻き付いている髪目掛けて、右手で手刀を叩き込む――――が、カンバーの手刀は容易く弾かれる。

「やはり、これくらいでは無理……ですか」

 呟き、カンバーは素早くダニエラから距離を取る。

「どうしてもアタシとやるってのかい……。残念だねえ」

 嘆息し、ダニエラはカンバーの足目掛けて素早く髪を伸ばす。カンバーがバックステップで髪を避けると、髪は更に伸び、カンバーを追尾する。

「切りがない……ですね」

 舌打ちしつつ、周囲を走り回ってカンバーは髪を回避する。

「もう一束ァ!」

 背後より迫り来る髪から逃げるカンバーの進行方向へ、もう一束の髪がカンバー目掛けて伸ばされる。カンバーは横っ跳びにそれを避けるが、髪は二束共カンバー目掛けて伸びて行く。

「ナイフでもあれば……ッ」

 口惜しげにそう言ったカンバーの左足へ、髪がシュルリと巻き付く。

「しまっ……たッ!」

 次の瞬間には、カンバーもニシルと同様に、逆さの状態で吊るし上げられていた。

「かわいいねえ……」

 釣り上げられたカンバーを、恍惚とした表情でダニエラは見つめている。それを一瞥し、カンバーは表情に嫌悪の色を見せたが、ダニエラはカンバーの表情など意に介さぬ様子だった。

「タップリとかわいがってあげるよォ……」

 ダニエラがそう言った瞬間、カンバーは身の毛がよだつような感情に襲われた。

 ニシルは口を塞がれたまま、モゴモゴと何か口を動かしているが、声にはならない。ジタバタと身体を動かしても、ダニエラの髪にキツく縛られているため、全く身動きが取れない状態だった。

「殺すつもり……ですか?」

 カンバーの問いに、ダニエラは首を左右に振った。

「そこのクソガキはともかく、アンタを殺すようなことはしないよ。アンタはアタシの……」

 最後の方は小声だったため聞こえなかったが、何かロクでもないことを口走ったのは明白だった。

 状況は絶望的だった。

 拘束されたニシル、吊り上げられてほぼ何も出来ない状態のカンバー。やろうと思えば、ダニエラは今すぐにでもカンバーを拘束することが出来るだろう。この状況を打開する方法は、今のところ思いつかない。

 ――――昔のように、ナイフでも持ち歩いていれば……!

 心の内で悪態を吐くが、だからと言ってどうこうなる訳ではない。

 だが、ダニエラにカンバーを殺すつもりはないらしい。どう言う訳かカンバーはダニエラに気に入られているようで、ニシルは殺されても、カンバーだけは殺されずに済みそうではある。断言は出来ないが、可能性は高い。

 ――――ナラ、生キ残レルジャナイカ。絶望的ジャナイ。

「それは……駄目です……ッ!」

 呟き、必死に首を横に振ってその考えを否定する。

 合理的な、自分の命を優先した考え。それはもう、昔の考え方だ。今の……カンバーの考え方ではない。

 ――――無理スルナヨ。オ前ハ今スグニデモ、ソイツヲ見捨テテ敵側ニツケバ良イ。

「出来ない……!」

 ――――合理的ニ考エロヨ。自分ノ命ガ、大事ダロ?

 カンバーの中で響くそれは、誰の声だったか。

「黙っていろッ!」

 頭の中で響く声へ、一喝するかのようにカンバーは叫ぶ。その声に、ニシルとダニエラは驚いたような表情を見せたが、ダニエラはすぐに、意に介さぬ様子でニシルへと視線を向ける。

「まあ良い。まずは、アタシを馬鹿にしたそこのクソガキ……死んでもらおうかッ!」

 ニヤリと。ダニエラが笑みを浮かべた時だった。


「美しくない。全く……美しくないわ貴女」


 不意に聞こえる、透き通った女性の声。咄嗟に、その場にいた全員が声のした方向へ視線を向ける。この場所から、洞窟の奥へと続くであろう二つの道の内一つ。そこから、一人の女性がこちらへ歩いて来るのだ。

「貴女は……?」

 怪訝そうな表情で問うたカンバーを、大して気にする様子もなく、彼女はこちらへ歩いて来る。

「個人的に気に入らないわ、貴女。美しくない」

 ピシャリと。麗はダニエラに言い放った。



 嘆息しつつも、洞窟の奥へと進んで行く。幾つかの別れ道を適当に進みつつ、青蘭達は洞窟の奥へとひたすら歩いていた。青蘭を含む全員の表情に、疲労の色が見える。

 その上、麗は不在だった。下へと続く道は見当たらず、ただ青蘭達は奥へと進んでいた。疲労と不安のためか、伊織の足取りは徐々に重くなっていく。

「伊織、大丈夫か?」

 青蘭の問いに、伊織は小さく頷いた。

「……平気。大丈夫だよ」

 無理をしているのは明白だった。だがそれを指摘する者はいなかった。

「…………?」

 不意に、青蘭が足を止める。

「どうした?」

「あそこ、誰かいませんか?」

 目を凝らしつつ、青蘭が指差す方向へ光秀が目を向けると、確かに誰かの人影が見えた。長い髪をした、後ろ姿である。

「もうちょっと近付いてみましょう」

 ゆっくりと、青蘭は人影に近づいていく。徐々に、そのシルエットは明確になっていく。

 人影の正体は、少年だった。白く、ボサボサの長い髪をした少年。青蘭にとっては見覚えのある後ろ姿。

「――――ッ!?」

 息を飲み、その後ろ姿を青蘭は凝視する。

「おい青蘭。あれって、まさか法然の言ってた……」

 コクリと。青蘭は光秀の言葉に頷いた。

 まさか、あり得ない。その後ろ姿が、あの少年のものだと確信するのにそう時間はかからなかった。

 そして、恐る恐る呟いてみる。

「……チリー?」

 ゆっくりと。その少年はこちらを振り返った。

「よう」

「お前……!」

 振り返ったその顔は、間違いないくチリーだった。

「久しぶりだな」

 ニッと。チリーらしきその人物は、青蘭へ笑って見せた。

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