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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
56/128

episode56「Under ground-2」

 攻撃的な視線が、ニシルとカンバーへ向けられた。二人はゴクリと唾を飲み込み、目の前の女へ視線を据える。

「結婚……出来ないだって……?」

 低い、地の底から聞こえて来るような声だった。二人は同時に肩をびくつかせる。

「このダニエラが、結婚出来ないだってェ!?」

 一斉に、ダニエラと名乗った女の髪が逆立った。逆立った髪は、まるで触手のようにうねうねと蠢いている。

「滅相もないッ!」

 反射的にそう答えたのはニシルだった。

「さっきと意見が違うじゃないですか!」

「だって怖いよカンバー! このババ……お姉さん!」

 ババアと言いかけたニシル目掛けて、ダニエラの髪が束になって襲い掛かる。バックステップでニシルはそれを避け、ダニエラを凝視する。

「媚売ろうったってもう遅いよクソガキ……!」

 あの髪、シンプルでいて、意外と厄介かもしれない。伸縮自在な上、一度縛られれば死ぬまで絞め上げられるだろう。

「チリ毛にしてやるよ」

 ニヤリと微笑したニシル目掛けて、再度髪の束が襲いかかる。ニシルはその髪の右手で束をガッシリと掴み、右手から熱を発する。

「ぐッ……!」

 右腕に感じる、苦痛。しかし、ヴィカルドでワディムと戦う際に感じたもの程ではない。

 チリチリと焦げる音がして、ダニエラの髪は焼き切られた。

「――――ッ!?」

 ダニエラは表情を驚愕に歪め、髪を一旦元の長さに戻す。

「神力使い……」

「そゆこと」

 右腕の苦痛は表情に出さず、ニシルはニヤリと笑った。



 トレイズがいなければ、チリーはとっくの昔に死んでいた。

 左の道を選んだチリー達は、順調に奥へ進んでいた。しかし、トラップの数が思いの外多く、常に細心の注意を払わなければならない状態だった。

「チリー、そこにスイッチがある」

「え? あ、おう」

 踏み出しかけた右足をずらし、別の場所へ踏み込む。数刻沈黙し、何も起こらないことを確認して三人は安堵の溜息を吐いた。

「チリー、もうこれで三回目なんだけど」

「いや、お前らすご過ぎ。俺普通」

「妙に出っ張った岩とか、すごくわかりやすいのばかりじゃない。何で気付かないのよアンタは」

 短く嘆息するミラルを、チリーは不満げに見つめていた。

「とにかく進むぞ。チリー、気を付けろ」

「わかったよ」

 ぶっきらぼうにチリーが答え、先へ進もうとした時だった。

 ゆっくりと。前方から何者かの足音が響いて来る。

「おい、トレイズ!」

「わかっている……」

 三人は耳をすましつつ、前方へと視線を据える。足音の進行方法は、こちら。何者かが、こちらへと近づいて来ているのだ。

 徐々に、人影がこちらへ近付いて来る。三人は更に神経を集中させた。

 自分達の他に、この洞窟内に誰かがいる。それは、自分達の他に赤石の在処を知った者がいる、ということだ。

「足音と話声が聞こえると思って戻ってみれば……」

 そう言ったのは、こちらへと近づいて来た人影だった。背の高い男で、トレイズと同じくらい長身である。肩まで伸びた髪を後ろで一つに縛っているその男は、チリー達を一瞥し、ニヤリと笑った。

「ふむ。まさか報告通り、本当にガキ共とはな」

 嘆息し、男はこちらへゆっくりと歩み寄って来る。咄嗟に、チリーとトレイズは身構えた。

「お前達の目的も、赤石……か」

 ボゥッと。男の右手に炎が灯った。

「――――ッ!?」

 男の右手に灯った炎は、メラメラも燃え盛り、辺りに火の粉を散らしている。

「神力使い……か」

 ボソリと呟くトレイズを見、男はニヤリと笑みを浮かべた。

「そういうことだ。これ以上お前らに、ゲルビアの邪魔をさせる訳にはいかん」

「やっぱゲルビアか……」

 呟き、大剣を出現させたチリーを、トレイズは右手で制止した。

「トレイズ……?」

「チリー、ミラルと先に行け。コイツは、俺が相手をする」

「お、おい……トレイズ!」

 躊躇うチリーに、トレイズは微笑する。

「大丈夫だ。すぐに追いつく」

 チリーは表情に多少逡巡の色を見せたが、やがてコクリと頷いた。

「ミラル、行くぞ」

「え、あ……うん」

 表情に戸惑いの色を見せつつも、ミラルはチリーに手を引かれ、奥へと進んで行く。

 洞窟の奥へとチリー達が進んで行ったのを確認し、トレイズは嘆息した。

「何故追いかけない?」

 トレイズの問いに、男はフンと鼻を鳴らした。

「この洞窟の中にいるのは、何もこのエルヴィンだけじゃない。わざわざ追いかけるより、俺はお前と遊びたくてね」

 クスリと笑う、エルヴィンと名乗った男を、トレイズはギロリと睨みつける。

「……追いつくと約束したんでな。早々に終わらせる……!」

 スッと。トレイズは右手をかざす。すると、右手の前に大人の拳大程度の氷塊が数個出現し、男目掛けて飛来する。

「氷……か」

 炎の灯った右手を、男は地面へ着いた。すると同時に、男の前に巨大な炎の壁が出現する。

「ッ!?」

 飛来した氷塊は、炎の壁に直撃し、溶けていく。

「なにも、炎が右手にだけ灯る訳じゃない。お前が出現させた氷を自在に操るように、俺も炎を操ることが出来るって訳だ」

「……相性の悪い……」

 口惜しげに、トレイズは呟いた。



 洞窟の中を、罠に警戒しつつ、青蘭達はひたすら進んでいた。

 発光する謎の鉱物により、洞窟の中は異常なまでに明るかった。

「でも良かったぁ、明るくて」

「だな。暗いと罠にもかかりやすいし……」

 そう答えた青蘭に、伊織は違うよ、と首を横に振った。

「だって私、暗いの苦手だし……」

 照れ臭そうに言った伊織を、青蘭は微笑ましく感じていた。

「大丈夫だよ伊織ちゃん……どんなに暗い所でも、この光秀が君を……」

 言いかけ、光秀は麗の視線に気が付く。

「美しくないわ」

 散々睨め付けた挙句、麗は短く嘆息すると光秀から視線を逸らし、洞窟の奥へと進んで行く。

「ああ、おい! ちょっと待ってくれよ麗!」

 慌てて追いかける光秀を無視したまま、麗はスタスタと先へと進んで行く。その足取りは、どこか怒っているようにも見えた。

 そんな二人の様子を見、青蘭が嘆息した時だった。

 光秀の足元でカチリと音がする。

「……え?」

 間の抜けた声を上げる光秀。流石にこれには反応し、麗が光秀の方を振り返った――――その時だった。

「な――――っ!?」

 麗の足元が、ガコンという音と共に穴へと変わる。

「ちょ、おい! 麗!」

 光秀の押したスイッチは、光秀の足元ではなく、麗の足元の罠を作動させるものだったらしい。

 慌てて助けようと駆け寄ったが、麗はそのまま下へと落下していく。

「麗! 麗ッ!」

 穴に向かって叫ぶが、返事はない。

「麗さん!」

 青蘭達もすぐに穴まで駆け寄ったが、既に麗は穴の中。自分が罠を作動させたことに責任を感じているらしく、光秀はガックリと肩を落とした。

「畜生……! 迂闊だった……ッ!」

 地面へ拳を叩き付け、口惜しそうに光秀は歯軋りをする。

「麗さん……死んだりしていなければ良いけど……」

 不安げに、伊織が呟く。

「わからない。とりあえず、進んだ方が良いかも知れない。どこかに、下へ続く道がある可能性だってなくはないハズだ」

 そこまで言い、それに……と青蘭は付け足し、言葉を続ける。

「法然の言っていた、白髪の少年のことも気にかかる。ここで立ち止まる訳には……」

 言いかけた青蘭の胸ぐらを、光秀は勢いよく掴んだ。

「だからって、麗を見捨てるってのかよ!」

「そうは言ってません! 俺は、ここで全員が立ち止まる訳にはいかないと言っているんです!」

 光秀は舌打ちすると、すぐに青蘭の胸ぐらを離し、嘆息する。

「……悪い。元はと言えば、俺が迂闊だったせいだしな……」

「いえ……」

 青蘭は服を整え、嘆息すると洞窟の奥を見据える。

「この穴。俺の神力を使えば飛び越えることが出来ます。二人共、こっちへ来て下さい」

 青蘭の言葉に小さく頷き、二人は青蘭へ歩み寄る。その二人を、青蘭は両腕でガッシリと抱える。

「お、おい。伊織ちゃんはともかく、俺は重くねえか?」

「……大丈夫です」

 そう答え、青蘭は高く跳躍し、穴を跳び越えた。

「……すごい」

 伊織がそう呟いた次の瞬間には、青蘭は穴の向こうへ着地していた。やはり重かったのか、息を切らしている。

「降ろし……ますよ」

 二人が頷いたのを確認し、青蘭は二人を地面へそっと降ろす。

「おい、大丈夫か?」

 光秀の問いに、青蘭は大丈夫です、と答え、一息吐く。

「奥へ、行きましょう」

 青蘭の言葉に、二人はコクリと頷いた。

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