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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
55/128

episode55「Under ground-1」

「おいミラル! どういうことだよ!」

 震えるミラルの肩を掴み、チリーが声を荒げる。しかし、ミラルは首を横に振るばかりで、答えようとしない。

「ここは東国だぞ! 何でお前が……」

 言いかけ、チリーは何かに気付いたかのように表情を一変させる。

「まさかお前、テイテスに来る前の記憶が……?」

 小さく首を横に振り、ミラルはチリーの言葉を否定した。

「うまく思い出せない……。でも私、確かにここに……来たことある」

「ということは過去に、東国へいたことがある……ということになるよね。ミラルってもしかして、東国の人?」

 ニシルの問いに、ミラルは首を横に振った。

「ううん。そういうんじゃないと思う」

「落ち着いたか?」

 トレイズの問いに、ミラルは小さく頷いた。

「ごめんなさい。もう大丈夫」

「……気にするな」

 静かに、トレイズはミラルへそう言った。

「ミラルさん、貴女は過去の記憶がないと聞きましたが……今ので何か、断片的にでも思い出せましたか?」

 そうカンバーが問いかけると、ミラルは小さく頷く。

「……うん。ここ、前はもっと綺麗な場所だった。綺麗な湖で……小さな魚とか泳いでて……木漏れ日が反射して、とにかく綺麗な所だった……」

 ミラルのその言葉に、桐香は無表情だった表情をピクリと動かす。

「何故、貴女がこの場所を?」

 桐香からの、初めての質問だった。しかし、ミラルは首を横に振った。

「ごめんなさい。詳しいことは私自身にもよくわからないの」

「……そうですか」

 再び無表情になり、桐香はそれだけ答える。

「では地下へ向かいましょう」

 桐香の言葉に、一同は静かに頷いた。



 階段を降りると、すぐに襖があった。襖とは別に、奥へ続いているのであろう道もある。

「赤石はこの奥です。ちなみにこの襖の先は私の生活する場所です。見ますか?」

 桐香の問いに、トレイズは静かにかぶりを振った。

「そうですか。では、奥へどうぞ。入り組んでいる上、罠がいくつか仕掛けられていますので、十分注意して下さい」

「わかりました」

 カンバーは桐香にそう答え、奥を見据える。

「かなり奥までありそうだな」

「チリーのアホさ加減より果てしないね」

「ニシル程小さいと、これだけデカい洞窟の中じゃどこにいるのかわからなくなるぜ」

「頭が悪いチリーはすぐ迷いそうだね。そして罠にかかってデス

小型人種チビは無意味に素早いからな。どんな罠でも避けれそうで羨ましいぜ全く」

デス

小型人種チビ

デスデスデスデスゥ!」

小型人種チビ小型人種チビ小型人種チビ小型人種チビィ!」

 ムキになって言い合うチリーとニシルの頭を、ミラルは呆れ顔で小突く。

「いい加減にしなさい!」

「「……はい」」

 声を荒げたミラルに渋々頷き、二人は小さく頷いた。

「……とにかく、奥へ進みましょう」

「……少しは気を引き締めろ、二人共」

 トレイズに軽く睨まれ、委縮する二人だった。



 桐香に別れを告げた後、上下左右岩に包まれた道を五人はひたすらに歩いていた。生物はあまり見当たらず、時折妙な虫が岩の上を這っているだけだった。

 岩の中には見たことのない鉱物が混じっているらしく、明るい光を放っていた。

「妙に明るいわね」

 辺りを見回しつつミラルが言うと、チリーは小さく頷く。

「洞窟なら、もっと暗いと思ってたんだけどなぁ」

「この鉱物……見たことがありませんね……」

 光を放っている鉱物に、右手でそっと触れつつ興味深そうにカンバーはそう言った。

 しばらく歩いていると、途中で道が二つに分かれていた。

「分かれ道、だね」

 ニシルの言葉に、カンバーは軽く頷く。

「ここは二手に分かれるべきでしょう。どうやって分かれます?」

「奇数だからな……。二人と三人だ」

 チリーの言葉に、カンバーは頷く。

「能力のないカンバーとミラルは同じ組に出来ないな……。カンバーはある程度戦えるようだが……」

 トレイズの言葉に、カンバーはコクリと頷く。

「はい。神力使いはともかく、生身の相手なら基本的に負けるつもりはありません」

「なら、カンバーと神力使いが一人の組。そしてミラルと神力使いが二人の組合わせになるな。どう決める?」

「じゃんけん」

 トレイズの問いに、ニシルはそう即答した。

「まあ、それでも良いが……」

 納得はしたが釈然としない、といった様子のトレイズだった。トレイズとしてはもう少し緊張感がほしかったようだが、どうもチリーやニシルがその思いを知ることはなさそうである。



 右の道を、ニシルとカンバーは選んだ。

 じゃんけんの結果、ニシルとカンバー、チリーとトレイズとミラル、という組み合わせに決まった後、適当に左右どちらかの道を選んだ。

「それにしても罠、ないね」

「そうですね。もっと張り巡らされてるかと思いましたよ」

 そう答え、カンバーは歩きながらも辺りを見回す。

「もしかすると、そうやって油断させておいて、更に奥の方で罠にかけられたり……」

「あり得なくはないです。まあ、警戒を怠るなってことですね」

 そうだね、と答え、ニシルは軽く微笑んだ――――その時だった。

 カチリと。ニシルの足元で妙な音がする。

「カチリ、だって」

「多分それ、何かのスイッチですよ」

「何のスイッチだろうね」

 とぼけて笑うニシルと、その横で徐々に青ざめていくカンバー。

「罠ですね」

「そだね」

 二人で顔を見合わせる。笑っていたニシルの顔も、徐々に青ざめていった。

 そして、ゴトン。そんな音がして、ニシルとカンバーの足元は不意に消えた。

「「わあああ!」」

 二人の叫び声は、徐々に下へと消えていった。



 ドスンと。鈍い衝撃。

「痛た……」

 痛む腰をさすりつつ、ニシルは身体を起こした。

「気を付けて下さいよニシルさん……」

 不満げに声を上げつつ、カンバーもその隣で身体を起こす。

「ここは……?」

 キョロキョロと、二人は辺りを見回した。先程までの道と打って変わって広い空間で、地面も平坦だった。周りには岩の壁があり、二つ程どこかへ続く道があった。無論、辺りはあの鉱物が照らしているため、明るい。

「アンタらも落ちたのかい?」

 不意に、背後から声が聞こえる。慌てて二人が振り返ると、そこには一人の女がいた。

 あまり美しいとは言えないが、長い黒髪。顔の所々にはシワが見られ、中年くらいの女だと言うことがわかる。

「おばさん、誰?」

 ニシルの言葉に、女は顔をしかめた。

「誰がおばさんだいッ!?」

「そりゃ、僕でもカンバーでもないから、おばさんがおばさんでしょ?」

 悪戯っぽく笑って見せたニシルを、女はキツく睨みつける。

「カンバー! このおばさん怖いよ!」

「……貴方が怒らせたんでしょう」

 呆れ顔で、カンバーは嘆息する。

「それで、貴女は何者ですか?」

 真剣な表情で、カンバーは女へ問うた。すると、女はフンと鼻を鳴らす。

「おやアンタら、そう言えば見ない顔だね。どこの隊に所属する兵だい? 一般兵は中に入るなと言ってあったハズだよ」

 女の言葉に、二人は表情をピクリと動かす。

「このおばさん、まさか……」

「ええ、貴方の推測で間違いないでしょう。恐らく、ゲルビアの者です」

 カンバーのゲルビアという言葉に、女は反応を示した。

「もしかしてアンタらは、報告にあったガキ共かい?」

 女の言葉を聞いた途端、二人は素早く女から距離を取る。

「へえ、こんな弱そうなガキとヒョロいのがエトラやゲイラを……ねえ」

 ちなみに、エトラとゲイラを倒したのはこの二人ではないのだが、それについてとやかく言うつもりは二人にはないらしい。

「弱そうなガキの方が、ババアよりマシだよ。若いからね」

 そう言ってクスリと笑ったニシルを、女は先程より一層強く睨みつけた。

「誰にババアだなんて言ってるんだいッ!?」

 ぞわりと。女の長い髪が逆立った。

「――――ッ!?」

 その異様な光景に、ニシルとカンバーは息を飲んだ。

「始末させてもらうよ……。ガキは生意気だけど、ヒョロい方はアタシ好みだねえ……」

 女の言葉に、カンバーは怖気を感じ、ブルッと身を震わせた。

「ねえカンバー。これってさ、僕がこの間『年上の方が好み』って言ったからかな?」

「違うと思いますが、もしそうだったら俺は貴方を恨みますよ」

 嘆息し、カンバーは女を見据える。神力を感じるため、恐らくあの女は神力使い。察するに――――髪を操るのだろう。

「いくら年上って言っても限度があるよ……。こんな二十も三十も年上のババア、おまけに性格悪そうなんだもんなぁ……。ババア、アンタ良い姑になるよ。って、結婚出来そうにないから姑にもなれそうにないけど」

 嫌味っぽく笑い、ニシルはそう言い放った。

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