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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
54/128

episode54「Fallen country-2」

 伊織の能力で坊主頭の男を治療し、適当な場所へと横にする。

「おい、向こうの部屋に布団が一式あった。青蘭、このおっさんを運ぶの手伝ってくれ」

「わかりました」

 青蘭はコクリと頷き、光秀と共に坊主頭の男を向こうの部屋、襖の向こうへ運び込んだ。襖の向こうは座敷になっており、その中心には既に光秀の敷いた布団が用意してある。青蘭と光秀は坊主頭の男を布団の中に寝かせる。

「……どう?」

 麗と伊織も中へ入り、坊主頭の男の傍へ正座する。

「傷は治したので、命に別条はないハズです……。とりあえず、目を覚ますのを待ちましょう」

 伊織の言葉に、一同はコクリと頷いた。



「……ん……」

 ゆっくりと。坊主頭の男が目を開ける。

「大丈夫ですか?」

 坊主頭の男はゆっくりと身体を起こし、小さく頷いた。

「……すまない」

「いえ、気にしないで下さい。それより、何があったんです?」

 青蘭の問いに、坊主頭の男は答えにくそうに顔をしかめた後、襲撃された、と答えた。

「……襲撃?」

「ああ。そう言えば自己紹介がまだだったな、私は法然ほうねん。赤石の守護を任された者の一人だ」

「――――ッ!?」

 法然と名乗った男を除く、全員の表情が驚愕に歪む。

「では、やはりここに赤石が?」

 麗の問いに、法然はコクリと頷く。

「赤石は、東国が所有している。だが、悪用されて世界が混乱するのを防ぐため、我々は赤石を地下へ隠した……」

「……だから、後継者である白蘭は知っていたのね……」

 呟き、麗は嘆息する。

「それで、ココを襲撃したというのは?」

「白髪の、少年だった」

「――――白髪」

 再び、青蘭の脳裏を過るチリーの姿。しかし、白髪の少年を、青蘭がチリーしか知らないだけのことであり、白髪の少年は少数かも知れないが世界中捜せば他にいない訳ではないハズだ。チリーであるという証拠はない。その上、チリーはこんなことをしないという確信が、青蘭の中にはある。

「……どんな少年だ?」

「髪の長い少年だった。ボサボサの髪の毛で、荒々しい雰囲気を持っていた」

 一致――――しなくもない。チリーの姿と。しかし、首を左右に振って青蘭はその考えを否定する。

「突然現れ、私を殴り倒した後に暴れ、奥へと進んで行った……。不覚だった……!」

 口惜しそうにそう言って、法然はギュッと拳を握り締める。

「法然さん……。頼みがあります」

 真摯な眼差しを、青蘭は法然へ向けた。

「奥にある赤石……俺達に使わせて下さい」

 青蘭の言葉に、法然はしばらく考え込むような仕草を見せたが、すぐにコクリと頷く。

「え、そんな簡単に……信じて良いんですか……?」

 驚嘆の声を上げる青蘭に、法然はニコリと微笑む。

「見たところ君達は東国の人間のようだ。それに、君の場合は目を見ればわかる」

 ジッと。法然は青蘭の相貌を見つめる。

 真っ直ぐな、曇りのない双眸。

「私達の目的は、焦土と化したこの土地を浄化し、東国を再興することです。そのためには、赤石が必要なんです」

 麗の言葉に、法然はコクリと頷いた。

「私のことはもう良い。先程の部屋の奥へ向かってくれ。中は入り組んだ洞窟になっている……。侵入者対策の罠にも注意してくれ。それと……」

 真剣な表情で、法然は言葉を続ける。

「あの白髪の少年を、止めてくれ」

 法然の言葉に、一同はコクリと頷いた。

「ああ、それと……」

 その場を立ち去ろうとする青蘭を、法然が引き止める。振り返った青蘭を見、法然は前方を指差す。

「アレは……」

 刀。鞘に収められた、厳かな何かを感じる刀。それを、法然は指差している。

「持って行ってくれ。きっと君の助けになる」

 法然の言葉にコクリと頷き、青蘭は刀を手に取った。

「……ありがとうございます」



 美しい、女性だった。長く黒い髪の先端辺りを白い布で結んでいる。チリー達の見たことのない服装で、どこか麗の服装と似ているようにも見える。服の色は赤と白で構成されており、下は真っ赤で上は真っ白。白く長い袖が美しかった。

 彼女は膝の前で手を組み、ジッとしたままチリー達の方を見ていた。

 デニスが言うには、赤と白の服を着た女性が案内してくれる、とのことだった。上空から彼女を見つけたチリー達は、適当な位置で飛行船を止め、彼女の元へと向かったのだった。

「お待ちしておりました。幸成から話は聞いています」

 感情の込められていない口調で、彼女は言う。

「私は桐香きりか。この東国で、赤石の守護を任されている者の一人です」

 表情を変えず、桐香と名乗った女性はペコリと頭を下げる。

「一人……? 他にも、赤石を守護する人間がいるということですか?」

 カンバーの問いに、桐香はええ、と小さく頷く。

「ねえ、アレ!」

 不意に、ニシルが上空を指差して叫ぶ。

「デカい……なんだありゃ!?」

 ニシルの指差す方向を見、チリーは驚愕の声を上げる。

 巨大な鳥が、チリー達の方目掛けて急降下してくるのだ。チリーは素早く大剣を出現させると、高く跳躍する。

「うらァッ!」

 鳥と同じ高さまで跳躍し、チリーは鳥目掛けて大剣を薙いだ。大剣は直撃し、鳥の身体は真っ二つに切り裂かれる。

 チリーは大剣を消すと、地面へ着地した。チリーが着地すると同時に、ドサリと音を立てて二つに分かれた鳥の身体が地面へ落下する。

「よっし」

 グッと。ガッツポーズをしてチリーは満足げに笑う。

「相変わらず人間離れしてんなあ……アイツ」

 チリーを見、ニシルは肩をすくめて見せる。

「キリトさんと同じ修行してたんだから、ニシルも出来るんじゃないの?」

 ミラルの問いに、ニシルは首を横に振った。

「無理無理。アイツがおかしいんだよ。キリトさんだってあんなに跳べないよ」

 そう言って、ニシルは嘆息する。

「……ゲルビアの爆撃の副作用で、突然変異を起こした鳥類か……。気味の悪い」

 吐き捨てるように言い、トレイズは鳥の死体を一瞥する。

「……では、案内致します」

 別段鳥を気にした様子もなく、桐香は静かにそう言った。

「ええ、お願いします」

 カンバーの言葉に、桐香はわかりました、と呟き、焦土の中を歩き始めた。



 大した会話もなく、桐香を先頭にチリー達は焦土の中を歩き続けていた。

 桐香は寡黙な人物らしく、質問されても素気なく答えるのみで、それ以上会話を続けようとはしなかった。ただ淡々と、目的地に向かって歩き続けている。

「ニシル。暇だ」

 チリーの言葉に、ニシルはコクリと頷く。

「だね。超退屈。そういやチリーさ、傷はもう良いの?」

 ニシルの問いに、チリーはニッと笑った。

「大丈夫に決まってんだろ、あれくらいの傷。治るのに三日もいらねーよ」

「……お前おかしいよ絶対」

 そう言って、ニシルは嘆息する。

「確かに、チリーさんの身体能力は全体的に異常な気もしますね……」

 チリーを見、カンバーは考え込みつつそう言う。

「そうかぁ?」

「ええ。ザハールと戦っている時だって、あれだけの攻撃を受けてまだ戦えるなんて……普通なら倒れます」

 カンバーの言葉に、ニシルとトレイズが頷いて見せた。

「でもまあ、悪いことじゃねーだろ」

「……ちょっとは疑問に思えよ」

 気楽な様子のチリーに、ニシルは呆れ顔でそう言った。

「……着きました」

 ポツリと。桐香が呟く。

「ここは……」

 水溜り。一言で言えば、水溜りだった。大き目の窪みの中に、汚い水が溜まっている。その傍にはまるで死体のような、枯れ果てた木が生えている。

「ここです」

 その木の根元へ、桐香はゆっくりと歩み寄り、砂をはらう。すると、はらった砂の下に小石が二つ、深く埋まり込んでいた。桐香はそれをつまみ、ゆっくりと左に移動させる。

「――――ッ!?」

 その部分の地面が、スライドしていき、一つの四角い穴が現れる。その先には、階段がある。

「ここが、入り口です」

「おー!」

 ニシルが驚嘆の声を上げる中、ミラルはブルブルと震えていた。寒さに震えているのとは違う、何か恐怖に怯えているかのような……そんな震え。

「ミラル……どうした?」

 不安げに、チリーは震えているミラルへ問うた。だが、ミラルは答えない、ブルブルと震えたまま、黙りこくっている。

「……ミラル?」

「…………ある……」

 ボソリと。ミラルが呟く。


「私……ここに来たこと……ある……」


「な――――ッ!?」

 暗雲立ち込める空のどこかで、雷鳴が鳴り響いた。

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