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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
52/128

episode52「In desert-9」

 チリーが目を覚ますと、そこはベッドの中だった。ゆっくりと身体を起こすと、全身に痛みが走る。

「痛……!」

 辺りをキョロキョロと見回すが、部屋には誰もいない。下の階から騒ぐような声が聞こえている。そこに皆はいるのだろうか。

「……」

 静かに、気を失うまでの出来事を反芻する。ザハールのアジトへ向かい、そこでザハールと出会って……戦った。満身創痍になりつつも、なんとか勝利をもぎ取った。かなり無茶したのを思い出し、全身が痛む理由がわかった。ザハールの砂弾を喰らい過ぎたのだ。

 嘆息し、声の聞こえる方へ向かうため、痛む身体を鞭打って立ち上がる。が、すぐにドスンと音を立ててベッドの上に座り込む。今はまだ、動かない方が良いらしい。

「目、覚めた?」

 不意に、声が聞こえた。すぐにチリーが声のした方向へ視線を移すと、そこにはミラルが立っていた。

「……ミラル。みんなは?」

「リビングにいるわ。デニスさんが帰って来たお祝いだって」

「な……!? 俺も混ぜ――――」

 勢いよく立ち上がろうとして腰を上げる。しかし、すぐに痛みを感じて、チリーはその場に蹲ってしまう。

「もう、無理しちゃ駄目じゃない」

 呆れ顔でそう言うと、ミラルはチリーの元へ歩み寄り、チリーへ背を向けた。

「……ん?」

 そのままミラルはゆっくりとしゃがむ。

「ほら、さっさと乗んなさい」

 頬を赤らめたままそっぽを向き、ミラルはぶっきらぼうにそう言った。

「大した意味はないからね……! アンタだけのけ者にするのは忍びないから、つ……連れてって……あげるわよ」

「……ありがとな」

 そう言って微笑み、チリーはミラルの背に負ぶさった。

 少女の背に乗せられるというのは、どうしようもなく気恥かしいものだが、そうでもしないと動けない。それに、折角のミラルからの好意だ。受け取るに越したことはない。

 しかし

「重いわね」

 ボソリとそう呟いたミラルにじゃあ降ろせば良いだろー、と冗談半分にチリーが答えたところ……

「わかったわ」

 本当に一回降ろされた。



 結局背負い直してもらい、チリーはミラルと共にリビングへと向かった。

 長机の周囲に椅子を並べ、取り囲むようにしてニシル達は座っていた。机の上には様々な料理が並べられており、香ばしい香りを放っている。

「やっと起きたかバカチリ」

 ミラルに背負われたチリーを見、ニシルがそう言って笑う。

「うっせぇチビニシ」

 負けじと言い返してから笑うチリーを、ミラルはニシルの隣の空いている椅子に座らせる。そしてチリーの隣に、ミラル自身も座る。

「そろいましたね」

 カンバーの言葉に、一同はコクリと頷くと、手元のグラスを手に取る。

「「乾杯!」」

 ヴィカルドがザハールから解放された記念であり、デニスが戻って来た記念でもある。



 競うように、二人は料理を頬張っていた。チリーが肉を三枚口に入れると、それに応じてニシルは四枚口の中にねじ込む。どう考えても口に入り切らない量の肉を、チリーとニシルは無理矢理口にねじ込んでいく。カンバーとデニスは苦笑い、ミラルとトレイズは呆れて嘆息し、ズラータは楽しげにそんな二人を見ていた。

「チリーさん」

 チリーが肉を飲みこんだのを確認し、ズラータはチリーへ声をかける。

「んあ?」

 グラスの中のジュースを飲みほし、チリーは間の抜けた声で返事をする。

「その……お父さんを助けてくれて……ありがとうございます」

 そう言って、ズラータはペコリと頭を下げた。そんなズラータを、チリーは照れ臭そうに見た後、ニッと彼女へ笑いかける。

「約束を守っただけだ」

 グッと。チリーはズラータへ親指を突き立てた――――その時だった。

「もらったァ!」

 素早く、ニシルがチリーの前に置いてある皿から、ハムを一枚奪い去る。

「あ、汚ェ! それ俺んだろ!」

「近くにあるだけで、別にお前のって訳じゃないだろー」

 すぐにハムを口の中へ運び、おいしそうに食べつつ、ニシルは言う。

「ホント……アンタ達は……」

 呆れて、ミラルが肩をすくめた。



 一通り料理を食べ終わると、チリー達は今後のことについて話すことになった。チリーが気を失っている間に、テイテスに関する説明は済ませてあるらしく、デニスは快く応じてくれた。話を始める際、ズラータには退室してもらうことになった。ズラータはしばらく退室を渋っていたが、デニスに優しく諭され、仕方なく部屋の外へ出た後、どこかへ遊びに出掛けて行った。

「赤石の在処……だったね」

 デニスの言葉に、カンバーは静かに頷いた。

「ええ。確か知っていたハズですよね」

 コクリと。デニスは頷く。


「簡潔に言おう。赤石は――――東国にある」


 デニスを除く、その場にいた全員の表情が、驚愕に歪んだ。

「東国って……ゲルビアに滅ぼされた……あの国、ですか?」

 ミラルの問いに、デニスは静かに頷く。

「経緯はわからないが、赤石は東国が所持し、管理していた物だ」

「東国に赤石……ってことは……!」

 そう言ってニシルがトレイズへ視線を向けると、トレイズはコクリと頷いた。

「ゲルビアが東国を襲った理由にも、説明が付くな」

 赤石を所持する東国。赤石を欲するゲルビア。

 東国の所持する赤石を得るため、交渉に失敗したであろうゲルビアは、無理矢理にでも赤石を得るために東国を襲った……と考えれば、東国戦争に説明は付く。

「――――誰だッ!?」

 不意に声を荒げ、トレイズはドアの方へ鋭く視線を向ける。

「きゃっ」

 声を上げ、ドアの向こうから顔を出したのはズラータだった。

「ズラータ……。外に出ていなさいと言っただろう」

「ごめんなさい、お父さん」

 しゅんと肩を落とすズラータ。

「……すまん」

 決まりが悪そうな顔をし、トレイズは呟くようにズラータへ謝罪する。

「とにかく、外に出ていなさい」

 デニスの言葉にコクリと頷くと、ズラータはすぐに家の外へと出て行った。

「すまないね」

 デニスの言葉に、カンバーはいえ、と答え、そのまま言葉を続けた。

「……話を戻しますね。東国に赤石があるのなら、何故ゲルビアはまだ赤石を探しているんです? あれだけやれば、赤石を奪うことは出来たハズですし、何よりゲルビアが未だに赤石を探している意味がわかりません。東国にあるとわかっているなら、東国を調査すれば良いじゃないですか」

 カンバーの言葉に、トレイズが頷く。

「赤石は、東国の地下へ厳重に隠されている。それに、ゲルビアは東国が赤石を所持していることは知らなかった。あくまで、在処を知っているだけだと思っていた」

「それで、口を割らない東国を滅ぼした……って訳だね」

 呟き、ニシルは嘆息する。

「でもそれはおかしくないか? 口を割らせたいなら、全滅させちゃ駄目だろ」

 そう言ったチリーへ、デニスを除く全員の視線が一斉に浴びせられる。デニス以外の誰もが心底驚いた、といった表情でチリーをジト目で見ている。

「な、何だよお前ら……」

「チリーが……チリーが話し合いの途中でまともなことを言ったわ……」

 口元に手を当て、何か恐ろしい物でも見るかのような様子で言う。

「お前、ホントにチリー……?」

 疑惑に満ちた表情で、ニシルはチリーへ問う。

「馬鹿な……!」

 信じられない物でも見た、といった表情で、トレイズは呟く。

「敵の罠でしょうか……」

 真剣な眼差しで、カンバーは思索を始めた。

「……お前ら酷過ぎ」

 ボソリと。チリーが呟いた。



「確かに彼の言う通りだ」

 一度静まり返った空気を、元に戻すかのようにデニスは口を開く。

「勿論、ゲルビア……ハーデンは東国の王族を数人捕虜にしたという話を聞いている。拷問して口を割らせるために」

 だが、と付け足し、デニスは言葉を続ける。

「彼らは恐らく、全員が死を選んでいる」

「な――――ッ!?」

 驚愕に表情を歪ませた一同をよそに、デニスは言葉を続ける。

「他国の者に秘密を明かすくらいなら、死を選ぶ。それが彼らの考え方だ」

 想像するに難くはなかった。捕らえられた時点で、舌を噛み切って自らの命を絶つ彼らの姿……。

 ゴクリと。一同は生唾を飲み込んだ。

「でもそんな重要な事実、どうしてデニスさんは知ってる訳?」

 ニシルの問いに、デニスは、中々鋭い質問だ、と呟き、言葉を続けた。

「デニスと言うのは偽名でな。私の本名は、幸成ゆきなり。東国の、王族の人間だ」

「……カンバーはこのこと知ってたの?」

 ニシルの問いに、カンバーはコクリと頷く。

「ズラータちゃんは、彼が東国から逃げ伸び、ヴィカルドへ住むようになってから出来た娘さんなんだそうですよ」

 カンバーの言葉に、デニスは小さく頷く。

「話を戻すぞ。今も東国の地下には、赤石を守るために数十人程の人間がいる。私が彼らに連絡を付けておこう」

「デニス……。アンタ、何で俺達にそこまでするんだ? 赤石のことだって、喋ればアンタ自身が危ないんだぜ?」

 怪訝そうな顔でチリーが問うと、デニスはそんなことか、と呟く。

「私の命の恩人、カンバー。そして私を助け、ズラータに会わせてくれた君達の頼みだ。それに、いつまでも赤石を隠し続けてもいずれは見つかる。奴らに見つかる前に君達が手に入れて、君達の島のために、使ってくれ」

 そう言って、デニスはニコリと笑った。

「そっか……」

 満足げに呟き、ゆっくりとチリーは立ち上がる。立ち上がる際、また身体が痛んだらしく、痛ッ! と声を漏らしたが、それでも立ち上がる。

「次の行き先は?」

 待ってましたとでも言わんばかりに、ミラルが問う。すると、チリーはニッと笑ってこう答えた。

「東国だッ!」



 先程トレイズに怒鳴られ、デニスに諭されたズラータは、すぐに家の外へと出ると、ザハールがアジトにしていた酒場へと向かった。

 酒場へ着くと、彼女はポケットからトランシーバーを取り出し、何やらカチャカチャと操作し始めた。ズラータくらいの年頃の少女が、トランシーバーを扱うとはどうにも考え難い。不自然な光景だ。

 案の定、彼女はズラータではなかった。

 トランシーバーを耳に当てると同時に、ズラータの輪郭が、骨格が、服が、何もかもが別の人間へと変わっていく。中肉中背の、耳を覆い隠す程度の長さの金髪の男だった。男はニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ、トランシーバーへ向けて言葉を発する。

「赤石の在処がわかりました……ええ、東国です。はい、僕も向かいます。ザハールは……はい、始末しておきます。元々あまり信用出来ませんでしたし……」

 それからしばらく話し込んだ後、男はトランシーバーの電源を切る。

 そしてニヤリと笑みを浮かべ、酒場の奥……チリーの倒したザハールが縛られている場所へと向かった。



 ヘルテュラの港で、小舟が用意されていた。荷物を含めても人が四人入る程度の、やや窮屈そうな小舟だ。既に荷物がつんである。

「青蘭君。信じて良いのね?」

 麗の問いに、青蘭はコクリと頷く。

「灯台下暗し……ってことか」

 呟き、光秀は嘆息する。

「でもこれで、次の行き先が決まりましたね」

 そう言って、伊織が微笑むと、麗はコクリと頷く。

「あの兄さんが、本当に兄さんだったのか……判断することは出来ません」

 でも、と付け足し、青蘭は言葉を続ける。

「信じたい」

「そうね。では、行きましょう」

 嘆息し、麗は海の向こうへ視線を移す。

「東国へ」

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