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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
51/128

episode51「In desert-8」

 よろめきつつも、力強く、チリーは立ち上がる。そして睨みつける。敵を――――ザハールを。

「そんなに死にてえのか……小僧ッ!」

 頬に付着したチリーの唾を拭いさり、ザハールは吠えた。自分へと吐き捨てられた唾を明確な挑発と受け取り、ザハールは怒りに表情を歪めている。

 ゆっくりと。チリーは大剣の刃先をザハールへと向けた。

「――――勝つ!」

 曇りのない、真っ直ぐな瞳。勝利だけを見つめる、真っ直ぐな視線。

「ほざけェッ!」

 ザハールはチリーから距離を取ると、すぐに床へと手を付いた。

「ッ!?」

 次の瞬間、ザハールの触れた部分から徐々に、床は砂へと変化していく。これがザハールの能力……物質を、砂へと変化させる能力。そしてその変化した砂を――――

「くたばれッ!」

 操る能力。

 ザハールの足元の砂は、大人の拳大程の塊となり、宙へ浮く。宙へ浮いた砂の塊は鋭く変形し、ドリルのような形を形成する。

 その砂弾は、真っ直ぐにチリーへと飛来した。

「だァッ!」

 大剣を薙ぎ、チリーは砂弾を砕く。そして素早くザハール目掛けて駆けて行き、高く跳躍する。

「高い―――ッ!」

 驚愕の声を上げたザハールの頭上へ、チリーは勢いよく大剣を振り降ろした――――が、その大剣は砂によって防がれる。

「何ッ!?」

 咄嗟に身を屈めたザハールは、地面の砂へと手をついていた。それにより、ザハールは砂を操り、チリーの大剣を防がせたのだ。ザハールの頭上で、砂がまるでバリアのようになって浮いている。それにより、チリーの大剣は防がれているのだ。

「おおおおッ!」

 雄叫びを上げ、そのまま突っ込もうとするチリー。

「無意味だァ!」

 そこへ、砂弾。地面から砂の塊が飛来し、チリーの腹部へと直撃する。

「ぐああッ!」

 空中で仰け反り、そのまま後方へとチリーは吹っ飛んで行く。

「コイツ……本当に人間か……? 今の跳躍力……!」

 怪訝そうに呟くザハールをよそに、チリーはゆっくりと立ち上がる。

「まだ……まだだッ!」

 キッと。チリーは前方のザハールを睨みつける。

「小僧が……ッ!」

 負けじと、ザハールもチリーを睨みつける。

「俺に盾突くなァァァッ!」

 地面に手を付いたまま咆哮し、ザハールは再び砂弾を出現させる。先程の砂弾とは比べ物にならない程の量だった。

「終われェーッ!」

 無数の砂弾は、一斉にチリー目掛けて飛来していく。

「おおおォォォッ!」

 雄叫びと共に、飛来した砂弾の内幾つかを、大剣を薙ぐことによって砕く。しかし、砂弾は更にチリーへと飛来する。

「がァッ!」

 避け切れず、チリーの左腕へ砂弾が直撃する。それによって生まれた隙に、砂弾は何十発もチリーの腕へ、足へ、腹部へ、顔面へ、直撃していく。

「ああああああッ!!」

 あまりの激痛に吠えるチリーを一瞥し、ザハールはほくそ笑んだ。

「ハッハァ! 俺の勝ちだ小僧ッ!」

 砂弾を撃ち終わり、ザハールはゆっくりと立ち上がる。

「が……ァ……ッ」

 ドサリと。その場へチリーが倒れ伏した。

「ハァ……ハァ……!」

 今の砂弾でかなりの体力を消耗したのか、ザハールは息を切らしている。

 肩で息をしつつ、倒れ伏すチリーの元へ歩み寄ろうとした時だった。

「チリーッ!」

 ザハールの背後――――つまりこの部屋の入り口から声が聞こえる。

 ザハールが振り返ると、そこにいたのはニシル、トレイズ、カンバーの三人だった。

「デニス!」

 カンバーは傍で縛られたまま倒れているデニスを発見すると、すぐにその傍へ駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「まあ、命は……な」

 カンバーの問いに、デニスは無理に笑みを作ってそう答えた。

「お前……チリーに何をした……?」

 ギュッと拳を握り締め、低く、顔をうつむかせたままニシルがザハールへ問う。

「片付けただけだ」

 平然と、ザハールはそう答えた。

「片付けた……だと……ッ!?」

 身を乗り出し、ニシルが殴りかかろうとした時だった。


「手ェ出すんじゃねェッ!」


「――――ッ!?」

 よろよろと。倒れていたチリーが立ち上がる。あれだけの砂弾を喰らい、既にボロボロのハズだというのに、よろめきながらもチリーは立ち上がる。

 その瞳から、闘志は微塵も消えていなかった。それどころか、先程よりも強い意思を感じることさえ出来る。

「小僧……ッ!」

 対峙する、二人の視線。

「これは……俺の戦いだ……ッ!」

 スッと。チリーは大剣の刃先をザハールへと向ける。

 ――――刺突の構え。

 身体の奥そこから、湯水のように溢れ出ようとする神力。

「待てよ……今、思いっきり暴れさせてやるからよォ……ッ!」

 それは、誰に向けられた言葉だったのか。

 己か、己の神力か。

 描くイメージは、ザハールへと大剣で突進する自分の姿。止まることなく、突き進む。その手に、勝利を掴むまでは。

「喰らいやがれェェェェェッッ!」

 大剣の柄から、一気に膨大な量の神力が放出される。その神力の勢いで、チリーはザハール目掛けて突っ込んで行く。

「小僧がァァァッ!!」

 いくつもの砂弾が、チリー目掛けて飛来する。が、そのどれもが、今のチリーの前では無力に等しい。チリーに直撃した砂弾は、全て砕かれ、ただの砂へと戻り地面へ落下する。

「クソがァ!」

 ザハールの前に出現したのは、巨大な砂の壁だった。

「ぶっ壊すッ!」

 咆哮。そしてチリーは、そのまま砂の壁へと突進して行く。

「おおおおォォォッ!」

 チリーの大剣が、砂の壁へと直撃した。しかし、壁は簡単には崩れない。チリーを押し返さんと、ザハールが全力で神力を送っているのだ。

「負けるかよォォォォォッッ!!」

 更に勢いを増す、チリーの神力。しかし負けじと、ザハールの神力も勢いを増していく。


 そんな二人の様子を、四人は固唾を飲んで見守っていた。

 誰も言葉を発することなく、ただ黙って、瞬きすることすら惜しんで二人の戦いを見守っていた。

 まるで、彼らの義務が、最後まで見届けることだとでも言わんばかりにだ。


「「押し勝つッ!」」

 同時に叫び、二人の神力は更に勢いを増す。

「だァァァァァッッッ!!」

 まるで削られているかのように、砂が辺りへ飛び散り、壁へ直撃してピシピシと音を立てる。

「――――ッ!?」

 ザハールが、驚愕に表情を歪めた。

「俺が……押し負ける……ッ!?」

 焦り、戸惑い、憤り。様々な感情で歪んだザハールの顔にも、ピシピシと砂が飛び散る。


 そして――――壁は砕かれた。


「馬鹿……な……ッッ」

 神力を出し切ったのか、ザハールはそのまま仰向けに倒れていく。ドサリと音を立てて倒れたザハールの前には、神力の放出を止めたチリーが、威風堂々と立っていた。

「俺の……勝ちだ」

 ニッと。チリーが笑みを作った。

「チリー!」

 そんなチリーの元へ、ニシルとトレイズ、カンバーと、解放されたデニスが駆け寄って来る。

「ホント無茶苦茶するよなお前って。そのボロボロの姿見たら、またミラルに怒られるよ」

 そう言ってクスリと笑うニシルへ、チリーはそうかもな、と笑って答えた。

「それが、話に聞いたお前の剣……か」

 呟き、トレイズは微笑する。

「まさか一人でザハールを倒すなんて……見直しましたよチリーさん」

「おう……って、見直したってことは今までどう思ってたんだよ!」

 怒号を飛ばすチリーへ、カンバーはクスリと笑った。

「……ありがとう。君達には、感謝してもし足りない」

 そう言って、デニスはペコリと頭を下げた。そんなデニスへ、チリーは気にすんな、と微笑んだ。

「とにかく……!」

 グッと拳を握り締め、チリーは思い切り突き上げる。

「俺の勝ちだァッ!」

 豪快にそう叫び、チリーはそのまま後ろに倒れ込んだ。

「チリー!」

 慌ててニシルは駆け寄ったが、チリーの顔を見、すぐに肩をすくめる。

「どうした?」

「……寝てるだけみたい」

 問うたトレイズへそう答え、ニシルは笑うと、倒れているチリーをやや乱雑に背負った。

「さあ、帰ろう。ミラルとズラータちゃんが待ってる」

 ニシルの言葉に、三人は微笑み、コクリと頷いた。

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