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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
50/128

episode50「In desert-7」

 身構えるとほぼ同時に、チリーは大剣を出現させる。しかし、既に臨戦態勢に入っているチリーとは対照的に、ザハールは座ったまま動こうとしない。あろうことか、チリーを嘲笑うかのように微笑している。

 それを一瞥し、怒りに表情を歪めると、チリーは大剣を構えてザハール目掛けて駆けた。

「お前のように威勢の良い奴は……」

 言いつつ、ザハールは咥えている葉巻へ右手で触れた。

「嫌いじゃねえ」

 ザハールはそう言うと同時に、加えていた葉巻を右手で口から離し、チリー目掛けて投擲する。投擲された葉巻は、ザハールの手を離れた時点で砂の塊へと変化する。

「――ッ!?」

 砂の塊と化した葉巻は、一気にスピードを増し、まるで弾丸の如くチリー目掛けて飛来する。言うならば――――砂弾。

 素早くチリーは大剣を盾にし、砂弾を防ぐ。一瞬、大剣によってチリーの視界が塞がれる。

 砂弾を防ぎ、チリーが大剣を構え直した時には、既にザハールは眼前まで迫って来ていた。

「な――――ッ!」

 ザハールを振り払おうと、チリーは大剣をザハール目掛けて薙いだ。しかし、ザハールはそれを素手で受ける。と同時に、大剣は砂へと変化し、辺りへ飛び散って行く。

「無意味だッ!」

 驚愕するチリーの胸ぐらを、ザハールは右手で勢いよく掴み上げ、左拳でチリーの顔面を思い切り殴りつけた。

「が――ッ」

 鈍い音と共にチリーの呻き声。チリーはそのまま後方へ――――部屋の外まで吹っ飛ばされ、ザハールの部屋の正面にあった黒いドアへと背中から直撃する。

 背中から全身を駆け巡る苦痛。チリーは歯を食いしばり耐えると、よろけつつも立ち上がる。

 しかし、チリーが構え直すよりも、ザハールが近づく方が早かった。

「ッ!?」

「ハッハァ! 楽しいな小僧ッ!」

 心底喜んでいる――――そんな様子で、ザハールはチリーへ右足で強烈な前蹴りを喰らわせた。

 チリーの腹部へ先程より強い苦痛が走ると共に、鈍い音がし、チリーは背中から黒いドアへ再度激突し、どうやら木製だったらしいドアを粉砕して中の部屋へと吹っ飛んで行く。部屋の中央辺りで何らかの障害物へ激突し、チリーはその場へ倒れ伏す。

「うおッ!?」

 チリーの後ろで、何かが倒れると同時に、男の声が聞こえる。

 苦痛に歯を食いしばりつつ、チリーはすぐに声のした方へ視線を移した。

「……アンタは……?」

 短髪で、筋肉質な男だった。おじさんと言うよりはまだお兄さん、と言った風貌だ。その男は、縄で椅子へ座らされたまま縛られていた。

 チリーの問いに男が答えるよりも早く、部屋の中へザハールが入って来る。

「よぅデニス。元気か?」

 ニヤリと。厭な笑みを浮かべて、ザハールは男へ問うた。

「デニスって……まさかアンタが!」

 コクリと。デニスと呼ばれた男は頷いた。

 男が頷いたのを見ると、すぐにチリーは男を縛り付ける縄へ手をかけた。

「勝手なことしてんじゃねえ!」

 ザハールはチリーの元へ歩み寄ると、デニスの縄を大剣で切ろうとするチリーの顔面へ、右足で前蹴りを喰らわせる。

「がァ――ッ」

 呻き声を上げ、チリーはその場へ仰向けに倒れる。

「退いてろ。俺は今からこの小僧と遊ぶんだよ」

 そう言うと、ザハールはデニスを乱暴に後方へ蹴り飛ばす。

「やめ……ろ……!」

 呻くように言い、チリーは立ち上がる。

「何をだ?」

 厭な笑みを浮かべ、ザハールはチリーの長い白髪を掴み、持ち上げる。

「ぐ……ッ!」

 持ち上げたチリーの顔へ、ザハールは自分の顔を近づけると、再びニヤリと厭な笑みを浮かべる。

「悪いが、アイツが赤石の在処を喋るまでは、解放する訳にはいかねえんだ」

「何故お前が……赤石を……?」

 チリーの問いへ、ザハールは当然だろ、と答える。

「俺はこれでもゲルビアの軍人でなぁ……。国のためにも赤石の在処をハーデン様に伝えなきゃなんねえんだ……」

「お前……ゲルビアの人間だったのか……!」

「おうよ。ハーデン様のためにも頑張んなきゃなァ!」

 そう言って豪快に笑うザハールを、チリーはきつく睨みつける。

「冗談だ。赤石は……俺が手に入れる!」

 そして! とザハールは付けたし、言葉を続ける。

「赤石の力で、俺が世界を手に入れるッ!」

 鼓膜が痛む程の声量で言い放ち、ザハールは豪快に笑った。ザハールの笑い声が響く中――――


 その顔へ、チリーは唾を吐き捨てた。


「絶対渡さねえ。お前なんかにはッ!」

 負けじと言い放ったチリーを、ザハールは冷めた視線を向け、その場へ投げ捨てた。

「ぐあッ!」

 地面に勢いよく激突し、チリーは苦痛の声を上げる。

「テメエ……誰に唾吐いてんだ……?」

 倒れているチリーを見降ろし、ザハールは冷たく言い放った。



 ネストルの腕を背に回し、右手で捻り上げたままカンバーはネストルを立たせた。

「さあ、案内して下さい。デニスはどこです?」

「そう急かさないでくれよ、すぐ連れて行く」

 そう言ってネストルがニヤリと笑ったのを、後ろにいたカンバーは見ていない。

「中にいる仲間に、内側から開けてもらわねえと入れねえんだ……。連絡して良いか?」

「ええ、構いません」

 カンバーがそう答えると、ネストルはポケットの中に入った小型の機械を取り出した。

 これは、緊急連絡用の機械だった。ボタンを押すと、ザハールとワディムの持つ同じ機械へ信号が発信される。その信号は、ボタンを押した者の現在地を知らせることが出来る。これを押したということは、押した者の身が危険な状態にあるという証拠だった。

 ――――ワディムの手を借りる。それがネストルの狙いだった。

 元より、これから向かう場所へデニスはいない。デニスが監禁されているのは、先程チリーが向かった場所だ。

 ニヤリと。ネストルは笑みを浮かべつつボタンを押した。

「よし、OKだ。外へ出よう」

「……デニスはこの店の中にはいないということですか?」

「ああ」

 そう言って、ネストルはコクリと頷き、店の入口へと歩いて行く。それに、ネストルの右手を掴んだまま、カンバーはゆっくりとついて行く。

 ――――ワディムのことだ。すぐにこちらへ駆けつけるに違いない。

 再度笑みを浮かべ、ネストルはドアを開けた。

「…………」

「どうしました?」

 ドアを開け、すぐに立ち止まって沈黙したネストルへ、カンバーは問う。

「あ、いや……何でもない」

 ――――おかしい。ワディムならもう近くまで駆けつけているハズだ。

 舌打ちし、ネストルは辺りを見回すが、ワディムらしき者は見当たらない。

 機械の故障で呼べなかったのかとも考えたが、それはないだろう。これまで、壊れるような扱いはしていない。

「……おや?」

 カンバーが声を上げる。

 ――――来たか!

 ネストルはほくそ笑んだ。が、ワディムらしき人物は未だ見当たらない。

「カンバー!」

「ニシルさんに、トレイズさん!」

 こちらへ駆け寄って来るのは、ワディムではなくニシルとトレイズだった。

「あれ、そいつは?」

 傍まで駆け寄ると、ニシルはネストルへ視線を移し、カンバーへ問うた。

「俺が倒しました。どうやらデニスは別の場所に監禁されているらしいので、今から案内してもらうところです」

「……どういうことだ?」

 静かに、トレイズが問う。

「カンバー。僕達が戦ったワディムって人は、そこの酒場の地下にいるって言ってたんだけど……」

 ギクリと。ネストルの肩がびくついた。

「へぇ、そうなんですか……。おかしいですね」

 ゆっくりと。ネストルはカンバーの方へ視線を移す。

 その表情は、微笑んでいた。が、目が笑っていない。

 先程から何度も浴びせられている、冷たい視線。ああ、どうやらネストルはまたカンバーを怒らせてしまったらしい。

「どうなんです?」

 静かに、カンバーはネストルへ問うた。

「え、あ……いや……」

 ネストルが冷や汗を感じると同時に、彼の右手はカンバーによって強く捻り上げられた。

「ぐああああッ!!」

 ニコニコと微笑んだまま、カンバーは右手を捻り続ける。

「無駄な抵抗はしないと……約束しませんでしたっけ……?」

 ギリギリと捻り上げた後、カンバーは素早く左手でネストルの首筋へ手刀を打ち込む。

「がッ!」

 苦痛に声を上げ、ネストルはその場へ昏倒した。カンバーはネストルの右手を離すと、両手をパンパンとはたいた。

「さて、中に入りましょうか」

「う、うん……」

 ニシルとトレイズは表情に驚嘆の色を表しつつ、頷いた。

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