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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
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episode5「East surviver-3」

 ゆっくりと。閉じていた目を開くと、最初に視界に入ったのは木造の天井だった。

「あ、大丈夫?」

 青蘭が身体を起こすと同時に、心配そうな様子で少女が声をかける。

 声のした方へ視線を移すと、栗色の長い髪の少女が椅子に腰かけていた。青蘭が駅で出会った少女である。

「もう三日も寝てたのよ?」

 青蘭が目を覚ましたことに安堵したのか、少女は二コリと微笑んだ。

「……ここは?」

「私達の借りてる宿よ。貴方がどの宿を借りてるのかわからなかったから……ごめんね、勝手なことして」

 申し訳なさそうに言う少女に青蘭は礼を言うと、辺りを見回した。

 どうやら本当に彼女達が借りている宿らしく、青蘭が数日前に借りた宿とは別の部屋だった。彼女の話から察するに、青蘭はこの部屋のベッドで三日も寝込んでいたらしい。

「こちらこそすまない。迷惑かけたな」

「いえ、こちらこそ。あの馬鹿を助けてくれて、ありがとう」

 あの馬鹿? 助けた?

 少しずつ、青蘭の中で三日前――――青蘭が倒れる前の記憶が蘇る。

 青蘭を追跡してきた仮面の男、エトラに殺されかけていたところを、大剣を持った白髪の少年に助けられた。そしてエトラとの戦闘で危機に陥っていた彼を、最後の力を振り絞って青蘭は助けたのだった。

「いや、助けられたのは俺の方だ。あの時彼が来なければ、俺は確実に殺されていた」

 青蘭は苦笑し、目の前の少女の顔をまじまじと見つめた。

「あの……何か?」

 栗色の髪、強気そうな釣り目……過去に、どこかで見たような少女だ。もっと彼女が小さかった頃に……。

「いや……そういえば自己紹介がまだだったな。俺は青蘭」

「あ、そうね。私は、ミラル」

 ――――ミラル。

 その名前を、青蘭は知っている。もう何十年も前の記憶だが、確かに覚えている。

 ミラル。彼女は過去に、青蘭と出会っている。が、彼女はそのことを覚えていないらしく、「青蘭」という名前を聞いても反応を示さなかった。

「もしかして、君は――――」

 青蘭が言いかけた時だった。

「ただいまー」

 バタンとドアが開き、中に二人の少年が入って来る。

 あの時青蘭を助けた白髪の少年と、その少年が危機に陥った際、真っ先に助けようとした少年だった。



 チリー達が部屋に戻ると、既に青蘭は目を覚ましていた。

「お、目が覚めたのか」

「すまないな。巻き込んだ挙句、いらぬ迷惑をかけた」

 青蘭が申し訳なさそうに言うと、ニシルは気にしないで、と微笑んだ。

「あの時止めてくれなきゃ、僕は例えチリーを助けられたとしても大怪我してたと思う。そのお礼だと思って、これくらいのことは気にしないで」

「俺なんて二回も助けられたしな」

 そう言ってチリーは軽く笑った。

「そうか……。ありがとう」

「そういえばアンタ、名前は?」

 チリーが問うと、青蘭はニコリと微笑んだ。

「青蘭だ。君達は?」

「僕はニシル。んで、こっちがバカチリ」

 ニシルはチリーを指差し、ニヤニヤ笑いながら青蘭の問いに答えた。

「バカは余計だろ!」

 チリーがニシルを軽く小突くと、ニシルはすかさず小突き返した。そのまま何度もお互いに小突き合い、低次元な争いをしている二人を眺めながら、青蘭は苦笑した。

「青蘭は何をしている人なの?」

 不意に、ミラルが問う。

「いや、仕事はしていない。少々訳があってな……ゲルビア帝国へ向かう旅の途中だ」

 そう言った瞬間、青蘭の表情に影が差したのを、ミラルは見逃さなかった。

「良かったら、話してくれない?」

 ミラルの言葉に、青蘭は沈黙する。

 低次元な小突き合いを続けていたチリー達もピタリとそれを止め、青蘭の方へ視線を移した。

「お前達になら、話しても良い……かもな」

 そう呟き、青蘭はコクリと頷いた。

「東国戦争って、聞いたことあるか?」

 青蘭の問いに、ミラルはコクリと頷いた。

「何だっけそれ」

 と、間の抜けた顔で呟くチリーに、ニシルが概要を説明する。

「ゲルビア帝国が随分前に大量の軍隊で東国って国を襲った事件だよ。相当有名な話なのに、何で知らないの?」

「興味がなかったからな」

「少しは島の外のことにも興味を持て!」

 ニシルがまたしてもチリーの頭を小突いたのを皮切りに、再び小突き合いという低次元な争いが、二人の間で勃発した。

「俺は、その東国の生き残りだ」

 青蘭の言葉に、ミラルは青蘭に目を据えた。

 チリーを小突いていたニシルも手をピタリと止め、ミラルと同様に青蘭に目を据える。

 チリーはどういうことなのかまったくわかっておらず、は? と間の抜けた声を上げながら、ニシルとミラルを交互に見ている。

「東国戦争の最中、俺は兄さんに助けられ、辛うじて東国から逃げ出したんだ……。俺が東国を出てから数日後、辿り着いた国をうろうろしている間に、東国を完全に滅ぼしたという話を聞いた」

 ギュッと。青蘭は拳を握りしめる。

「俺は……東国を滅ぼしたゲルビアが許せない。何らかの理由があったにせよ、あそこまでする必要はなかったハズだ……。俺がゲルビアへ向かう目的は、東国への攻撃を命じたゲルビア国王を――――殺すためだ」

 青蘭の、強い意志の込められた「殺す」という言葉に、一瞬場が凍り付く。

 数秒の沈黙の後、チリーはそうか、と呟いた。

「だったら、丁度良いじゃねえか」

「え? 何がよ?」

 ミラルが不思議そうに問うと、チリーはニッと笑い、青蘭の元へ歩み寄る。

「旅するんなら、一緒に行こうぜ?」

「え……?」

 チリーの提案に、一瞬青蘭は唖然とした。

「俺達も訳あって旅の途中だ。丁度ゲルビアはテイテスから西の方角……。道は同じだ」

 チリーの言葉に、考え込むような素振りを見せていたニシルがなるほど、と呟いた。

「一緒に行こうぜ。青蘭」

 そっと。チリーが青蘭に手を差し伸べる。


 一緒に行こうぜ。青蘭。


 一瞬、手を差し伸べているチリーが、青蘭の中で兄の姿と重なって見えた。

「……わかった」

 苦笑し、青蘭は差し伸べられたチリーの右手をそっと握った。

「良いよな?」

 振り返り、チリーが問うと、ニシルは当然だろ、と親指を突き立て、ミラルは構わないわ、と微笑んでいた。

「んじゃ、決まりだな」

 ニッと笑ったチリーにつられて、青蘭も微笑んだ。

 幼い頃、兄に逃がされ、東国を出てからもう何年も経つ。

 しばらくとある家にお世話になってはいたが、ある程度成長するとその家も出、ただゲルビアへの復讐のためだけに旅をして来た――――独りで。

 目の前で笑っている三人……これから、共に旅をすることになる三人。仲間という感覚を、青蘭は久しぶりに感じた。

「それじゃ、お前達のことも教えてくれないか?」

「何が?」

 青蘭が問うと、チリーは不思議そうな顔で問い返した。

「俺だけ過去語ったんじゃ不釣り合いだろ? お前達の旅の理由、教えてくれないか?」

 青蘭の言葉に、チリーは頷いた。

「えっと……そうだな……」

 チリーがどう説明しようかと一所懸命に考えていると、ミラルがポンとその肩を叩いた。

「私が説明するわ」

 静かに、ミラルがそう言う。

「バカチリじゃ説明出来そうにないしね」

「うるせえバーカ!」

 クスクス笑うニシルを見て、チリーは低レベルな台詞と共にニシルを小突いた。小突かれたニシルはすぐさま小突き返し、第三次低次元戦争が二人の間に勃発した。いい加減にしてほしいものである。

「テイテスって、知ってる?」

 そんな二人をよそに、ミラルは青蘭に問うた。

 青蘭はミラルの問いに、コクリと頷いた。

「あの島国だよな?」

 ミラルはええ、答えると、話を続けた。

「テイテスは、私達の故郷なの」

 そう言ってミラルは私は違うけど、と付け足した。

「そのテイテスを治めている王様が、突然姿を消したの」

 この言葉を皮切りに、ミラルは語り始めた。

 チリー達三人が旅立つに至るまでの、数日間の話を……。

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