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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
47/128

episode47「In desert-4」

 素早く、トレイズ目掛けてワディムの棍は突き出された。防ごうとするニシルの手も間に合わず、突き出されたワディムの棍はトレイズの腹部へドスリと直撃する。

「が……ッ!」

 ワディムは棍を一旦引き、回転させると、先程トレイズ突いたのと反対側の先端を、よろめいたトレイズへ突き出す。

「トレイズッ!」

 ガッシリと。トレイズ目掛けて突き出された棍を、急いで傍まで駆けて来たニシルが掴む。

「む……ッ!」

 ワディムが顔をしかめた……その時だった。何かが焼けるような音を立て、棍のニシルが掴んだ部分から煙が上がり始める。ニシルの神力によって焼かれていることに気が付いたらしく、ワディムはニシルの腹部目掛けて前蹴りを放つ。前蹴りが腹部へ直撃し、一瞬ニシルの手が緩んだ隙に、ワディムはニシルの手から棍を引き抜くと、バックステップで二人から距離を取る。

「氷の能力に……熱の能力か……。熱の方はともかく、氷の方は問題ないな」

 その言葉に、トレイズは口惜しそうに舌打ちする。

「僕だけで十分だよ。お前なんて……ッ!」

 そう言い、ニシルは勢いよくワディム目掛けて駆けた。それを迎撃するため、棍の間合いへ入ったニシルの頭部目掛けて、ワディムは棍を突き出す。ニシルは頭部を横に逸らし、ワディムの棍を回避すると、その棍を右手で掴もうとする。しかし、ワディムは掴まれる寸前で棍を振り上げると、今度はニシルの腹部目掛けてワディムは棍を薙いだ。

「おっと!」

 ニシルはすかさず前転し、棍を回避すると同時にワディムへ接近する。

「――――ッ!」

「もらった!」

 素早く立ち上がり、ニシルは神力を発動させ、高熱を帯びた右手をワディムの顔面目掛けて伸ばした――――その時だった。

「――――――――ッッ!!」

 伸ばした右腕を、ニシルはすぐに引っ込め、左手で掴む。

「ああああッ!」

 突如右腕を掴み、絶叫を上げたニシルを、ワディムは怪訝そうに見る。


 ――――痛い!

 想像を絶する激痛が、ニシルの右腕に走った。あまりの激痛に、ニシルは右腕をおさえてその場へ倒れ、のた打ち回る。

「……ッッ……ッ!!」

「……ニシル! どうした!?」

 後方から、トレイズの声が聞こえる。それに答えることすら出来ず、ニシルはあまりの激痛に、絶叫し続ける。

「何だ……これ……ッッ!!」

 くつう。クツウ。苦痛。

 右腕を駆け巡るのは「苦痛」という名の化け物。その化け物はニシルへ痛みを与えんと暴れ回り、踊り狂い、怒り狂う。化け物の思惑通り、ニシルの右腕は、これは危険だと脳へ信号くつうを送る。

「腕が……腕が引き千切られそうな……ッッ!!」

 明らかに、異常な状態だった。


「ニシル!」

 異常を察し、トレイズは素早くニシルへ駆け寄る。

「く……ゥ……ッ」

 痛みが落ち着いたのか、のた打ち回っていたニシルは少しだけ動きを和らげる。

「大丈夫か!?」

「何……とか」

 痛みが引いたらしく、ニシルは右腕を抑えたままゆっくりと身体を起こす。

「下がれ。既に負傷している人間と戦うつもりはない」

「うる……さい! 僕は、まだ……やれる……ッ」

 よろめきつつも立ち上がり、ニシルは右腕を抑えたままワディムを睨みつける。

「そうか。なら止めはしない」

 そう答え、ワディムは棍を構え直す。しかし、ワディムと対峙するニシルの前に、それを制止するようにトレイズが出る。

「トレ……イズ?」

「下がれニシル。俺が戦う」

「……ッ! 何言ってん……だ! お前今……能力使え……ないだろ!」

 咆哮するかの如く、そう叫んだニシルの方へ、ゆっくりとトレイズは顔を向けた。


「もう……俺に大切な物を失わせるな」


 トレイズの言葉に、ニシルは呆気に取られたような表情でトレイズを見る。

「トレイズ……」

 そうしている内に、トレイズはニシルを押し、自分の後ろへやる。ニシルは抵抗しようとせず、そのまま数歩下がった。

 ――――失う訳にはいかない。

 全てを諦め、死を望んでいた自分を救ってくれた王。その王を、トレイズは守ることが出来なかった。みすみすと死なせてしまった。失ってしまった。

 これ以上、失いたくない。大切な仲間を――――弟を、失う訳にはいかない。今度こそ、守り抜くのだ。

 ――――俺の手で……!

「わかったよ……。任せた」

 右腕を抑えつつ、ニシルはそう言って微笑んだ。

「……ああ」

 背を向けたままそう答え、トレイズはワディムを睨みつける。

「待たせて悪かったな」

「……いや」

 ワディムはトレイズへそう答えると、棍を再び構え直す。それに応じ、トレイズはスッと身構える。

「神力無しで戦うつもりか?」

「元より神力のみに頼るつもりはない。素手で十分戦える」

 そう答えると、トレイズはワディム目掛けて駆けた。そのトレイズへ、ワディムは棍を突き出す。トレイズは素早く身をかわして棍を避けると、左手でワディムの棍を掴む。そしてそのまま勢いよく、棍を引き寄せると同時にワディムの頭部目掛けて右肘を突き出す。

「ッ!」

 ワディムは素早く棍を手から離し、右足をトレイズの方向へ踏み込む。そのまま身体を回転させ、トレイズが掴んでいる棍を右手で掴み、そのままトレイズの方へ身体を向ける。それに対し、トレイズはすぐに掴んでいた棍を離すと、バックステップでワディムと距離を取る。

「少しはやるようだな」

 ワディムの言葉に、トレイズは答えない。

「神力を使えぬ相手には酷だが……。仕方あるまい」

 呟き、ワディムは構えを解いた。

「……ッ!?」

「貴方達のような超常現象を起こすタイプ――――超常系の能力に比べ、私達のような武装系の能力者は劣って見える」

「……それがどうかしたか?」

 トレイズの問いに、ワディムは微笑する。

「それ故かは知らないが、私達武装系能力者の武器には、ほぼ必ずと言って良い程に、特異な能力が備わっている」

「特異な能力……?」

 ふと、チリーのことをトレイズは思い出す。

 チリーも、ワディムの言う武装系の能力者だろう。まだ見たことはないが、ミラルの話によれば、神力を放出することによって凄まじい威力で相手へ突進することが可能らしい。それと同じように、ワディムの棍にも、特異な能力が備わっているというのか。

「……悪いな。使わせてもらうぞ」

 ワディムがそう言った時だった。

「何……!?」

 スゥッと。ワディムの持つ棍が、徐々に姿を消していく。

「反則だろ……!」

 後方で、ワディムの右手を凝視しつつニシルが言う。

「見えざる棍、それが私の能力」

 まるで景色と一体化するかの如く、ワディムの棍は姿を消した。まるで空を掴んでいるかのようなワディムの右手を、トレイズとニシルは凝視する。

「ザハール様のためにも、私は貴方達を排除せねばならない。……悪く思うな」

 そう言って、ワディムは見えない棍を構えた。

「行くぞ……!」

 呟くようにそう言うと、ワディムはトレイズ目掛けて駆け、トレイズ目掛けて棍を振り上げる。

 見えないが故の、一瞬の戸惑い。咄嗟に回避することは出来たが、見えない棍はトレイズの胸部をかすめる。

 そのまま、ワディムは棍を斜めに振り上げる。

「――――ッ!」

 直撃。

 鈍い音と共にワディムの棍は、トレイズの腹部へ直撃した。

「ぐ……ッ」

 呻き声を上げ、トレイズは後ろへよろめく。ワディムは身体をトレイズへ向け、畳み掛けるようにトレイズの腹部へ棍を突き出す。

 痛む腹部を押さえつつ、トレイズはバックステップでその棍を避ける。

「……厄介だな」

「そうだろうな」

 そう言って、ワディムは微笑した。

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