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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
46/128

episode46「In desert-3」

 酒場を後にし、チリー達はデニスの家へと戻った。元より、ヴィカルドではデニスの家に泊めてもらう予定(本人の承諾は得ていないが)だったため、チリー達は一晩、デニスの家に泊まることにした。

 タダで泊めてもらうのも忍びないので、荒らされた状態の家を全員で片付けた。とは言っても、チリーとニシルはほとんど遊んでいたのだが……。

 ミラルとカンバーに、適当な夕食を振舞ってもらい、これからのことについて話し合うことにした。

「まずは、デニスを救出することが最優先です。ズラータちゃんのためにも」

 カンバーの言葉に、一同はコクリと頷く。

「だがそこで問題なのが……ザハールか」

 静かに、トレイズが言う。

「チリーさん。ザハールの能力、見当は付きますか?」

「……ああ。直接見てきたしな」

 口惜しそうに答え、チリーは言葉を続ける。

「砂だ。砂の能力……。あの野郎、俺の大剣を砂に変えやがった……!」

 ギュッと拳を握り締め、チリーはあの時のことを思い出す。

 ――――ハッ! 無意味だッ!

 ザハールに受け止められ、砂と化した己が大剣。それを呆然と見つめることしか出来なかった自分。あまりの悔しさに、チリーは拳を一層強く握り締める。

「砂、ですか。それなら、ヴィカルド周囲の砂漠化も納得がいきますね」

「でも、一人の能力でここまで出来るものなのかしら……」

 小首を傾げてミラルが問うと、コクリとトレイズが頷く。

「……前に、暴走していた俺がドゥナイを氷漬けにしたことがあっただろう? それと同じで、神力は使い手によってはそれだけのことが出来る可能性がある……。あの時の俺は、単に実験で能力が底上げされていただけだったが……」

 あの時のことを思い出したのか、そこでトレイズの表情に少しだけ影が差す。

「チリー、ザハールに暴走した様子や、洗脳されているような様子はなかったか?」

「……なかったな」

 呟くようにチリーが答えると、トレイズは短く溜息を吐いた。

「ならザハールは、かなりの使い手だ」

 トレイズの言葉に、一同はゴクリと唾を飲み込む……ただ一人、チリーを除いて。

「関係あるかよ……ッ! あの野郎……ぶっ飛ばさねえと気が済まねえッ!」

 怒りを露にし、チリーは怒号を飛ばす。すると、それと同時に近くでズラータが小さく悲鳴を上げた。

「おいチリー、なに興奮してんだよ。ちょっと落ち着け」

 いきり立つチリーをなだめるように、ニシルはチリーの肩へ手を置いた。

「悔しいのはわかる。でも今はそれを露にするところじゃない……そうだろ?」

 諭すように言うニシルへ、チリーは静かに頷き、視線をニシルの方へ向ける。

「……悪い」

「わかれば良いよ」

 そう言って、ニシルは微笑んだ。

「とにかく、デニスを救出するのなら、ザハールとの戦いは避けられませんね……」

 カンバーの言葉に、一同はコクリと頷く。

「まずは、アジトを突き止める必要があるな」

「そうね。少し聞き込みをすればわかると思うわ」

 ミラルの言葉に、カンバーはそうですね、と答える。

「明日、聞き込みをしてみましょう。ザハールのアジトがわかるかも知れません」



 夜。よく眠れずに目を覚ましたズラータが二階へ下りると、チリーがいないことに気が付いた。ズラータとミラルは同じベッドで寝、ジャンケンに勝ったニシルはデニスのベッドへ、残りの三人は一階の適当な位置で寝ることになっていたのだが、ソファの上で寝ているのはトレイズとカンバーの二人だけだ。気になって捜してみたが、チリーの姿は見えない。

 外にいるのではないかと思い、ズラータは部屋に戻って上着を着込むと、今度はニシルが寝ている部屋……デニスの部屋へと向かった。

 ニシルを起こさぬよう、クローゼットからデニスの上着を取り出し、ズラータは一階へ下りると、すぐに外へ出て行った。

 案の定、ズラータの予想通りチリーはそこにいた。

 家の前で、ボンヤリと空を見上げている。

「……寒い、ですよ?」

 ズラータが後ろからそう声をかけると、チリーはゆっくりと視線をズラータへ向ける。

「よう」

「あの、これ……」

 陽気に返事をしたチリーへ、ズラータがデニスの上着を差し出すと、チリーはキョトンとした表情でその上着を見つめる。

「俺に?」

 コクリと。ズラータは頷く。

「ありがとな」

 チリーはニッと笑い、上着を受け取ると、ちょっとデカいな、などと呟きながらそれを着込んだ。

「何、してるんですか?」

「ちょっと眠れなくってな」

 そう答え、チリーは再度空を見上げた。

「さっきは驚かせて、悪かったな」

「あ、いえ……」

 少しの沈黙。が、すぐにチリーは口を開く。

「なあ、ズラータ。お前、母親は?」

 沈黙を破ったチリーの問いに、ズラータはうつむく。

「……いないよ。私が小さい時に、死んじゃったから……」

 チリーはズラータへと視線を戻し、ニッと笑った。

「だったら、俺と同じだ」

「……え?」

 短く声を上げ、ズラータはうつむかせていた顔を上げる。

「俺も、母親がどんな顔だったか思い出せないくらい前に、死んじまってる」

 切なげにそう言い、チリーは言葉を続ける。

「だから、わかるんだ。親父を攫われて、独りになったお前がどんなに寂しいか」

 ――――デニスを攫って、こんな子供に寂しい思いさせやがって…………ッ!

 昼間のチリーの言葉が、ズラータの脳裏を過る。

 だからだ。ズラータの気持ちがわかるからこそ、チリーは耐えられなかった。ザハールのしたことへの怒りを、抑えきれなかった。止める声も聞かず、飛び出してしまう程に。

 優しい人だなと、ズラータは感じた。

 荒々しく、乱暴な印象さえ受ける。それでも、その真っ直ぐな瞳の中に、優しさを感じ取ることが出来る。

「ズラータ。俺達に任せてくれ」

「チリーさん……」

 スッと。チリーは星空へ手を伸ばす。

「必ず、お前の親父を助けだす。そして、この町を元に戻す」

 ギュッと。まるで星を掴むかのように、チリーの拳は握られた。

「絶対だ」

 そう言って、チリーはズラータへ微笑みかけた。



 翌日、チリー達はザハールのアジトを突き止めるため、聞き込みを開始した。

 ズラータを一人で家に残しておく訳にはいかないため、ミラルはデニスの家に残り、ズラータと共にチリー達の帰りを待つことになった。

 効率良く聞き込みをするため、チリー達は二手に分かれることになった。チリーとカンバー、ニシルとトレイズの組み合わせだ。

「この砂ってさ、ザハールの能力なんだよね?」

 足元をトントンと足で叩き、ニシルが問うと、トレイズは恐らくな、と答える。

「砂を出しているのか、それとも何かを砂に変えているのか……」

「チリーの話から考えれば、後者だな」

 トレイズの言葉に、ニシルは短く頷く。

「これだけのことが出来るってのはすごいね……。勝てるかな、僕ら」

「……さあな。だが、最初から諦めていては、勝てる戦いにも勝てない」

 トレイズがそう言った時だった。

「いいえ、諦めようが諦めまいが、貴方達はザハール様を倒せない」

 不意に、男の声が響く。その男の姿を見た町の人々はざわめき、慌ててその場を離れて行く。

「お前は……」

「……アイツ、ザハールの部下だよ。昨日、ザハールと一緒にいたところを見た」

 ゆっくりと。ニシルとトレイズは身構える。

「答えろ。貴方達は何をしようとしている?」

 男の問いに、ニシルとトレイズは答えようとしない。

「まあ良い。どちらにせよ、貴方達からは私に対する明確な敵意が感じられる。すなわち――――」

 神力を発動させたらしい。男の手には鉄製の、長い棒状の物が握られていた。

 こん、と呼ばれる棒状の武器だ。アルモニア大陸にはない武器、恐らくイレオーネ大陸の武器だろう。ニシルもトレイズも、文献くらいでしか見たことがない。

「私には、貴方達を倒す理由がある……! 違うか?」

 男の問いに、ニシルはニヤリと笑った。

「違わないよ」

 ゆっくりと。ニシルは両手の包帯を外し、その場へと投げ捨てた。傷痕は残っているものの、ニシルの両手は既に治っている。

「このワディム、全力で貴方達を排除する!」

 ワディムと名乗った男は、勢いよくニシルとトレイズの方へと駆け出した。

 それに応戦するため、トレイズは素早く右手をワディムへとかざす。氷塊を出現させる構えだ。

「……ッ!?」

 しかし、出現しない。

 トレイズの右手の前に現れるハズの氷塊は、一向に姿を見せない。

「……トレイズ!?」

 数秒経ち、やっとのことで氷塊は出現したが、かなりの小ささだ。まるでコルク栓のような、そんな小ささだった。

 飛来したソレを、ワディムは鬱陶しそうに左手で弾く。容易く弾かれたその氷塊は、地面へと落下し、じんわりと溶けていく。

「大気中の水分が……少な過ぎるんだ!」

 絶望的なニシルの言葉とほぼ同時に、ワディムがトレイズの眼前まで迫っていた。

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