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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
45/128

episode45「In desert-2」

「もしかしてズラータちゃん……ですか?」

 そう、カンバーが問うと、少女はゆっくりと視線をカンバーへ向ける。

「カンバーさん……?」

 やや安堵した表情で少女に問われ、カンバーはニコリと微笑んだ。

「はい、カンバーです」

「カンバーさんっ!」

 少女は机の下から這い出すと、すぐにカンバーへ飛び付いた。

「……お前、ロリコンだったのか」

「違います! 何でそういう言葉だけは知ってるんですか貴方は!」

 若干引き気味の表情で呟いたチリーを、カンバーはそう怒鳴り付けた。



 とりあえずチリー達はお互いに自己紹介を済ませた後、散らかっているリビングを片付け、ソファの上に座った。とは言え、人数的に全員は無理なので、ジャンケンに負けたチリーとトレイズは立ったままだ。

「ズラータちゃん、一体何があったんです?」

 カンバーが問うと、ズラータと呼ばれた少女は悲しげにうつむいた。

「お父さんが、連れて行かれたの」

「……ッ! デニスが連れて行かれたんですか!?」

 カンバーの問いに、ズラータはコクリと頷く。

「それで、家の中が荒らされていたのね……」

 まだ誰かが暴れたのであろう痕が残るリビングを、ミラルは見回しつつ言う。

「それで、一体誰にです?」

 焦り気味な様子でカンバーが問うと、ズラータはボソリと、ザハールと呟いた。

「ザハール?」

 腕を組み、チリーが首を傾げる。

「去年、ゲルビアからこの町に来た領主だよ……」

「ゲルビア……!」

 少女の言葉に、トレイズはそう呟く。

 ヴィカルドは、ゲルビアの領土である。随分と昔の話だが、ゲルビアとの戦争で敗戦したヴィカルドは、ゲルビアの植民地となっているのだ。恐らくそのザハールと言う男が領主として現れる前にも、ゲルビアの領主がこの土地を支配していたのだろう。

「何でその領主が、デニスって奴を――――」

 言いかけ、途中でハッとチリーは気付く。

「赤石か!」

 チリーの言葉に、カンバーはコクリと頷く。

「そう考えるのが妥当でしょうね。むしろ、今までデニスが無事だったことの方が不思議です」

「ザハールは、来た時からお父さんが何かを知っていること、知ってたみたいで……。最初は月に一度のペースでうちに来てたんだ……」

 それが段々エスカレートし、現在に至ったと言う。

「ズラータちゃん。俺が前に来た時から三年間、ザハールが来たこと以外に変わったことは? 例えば、周りが砂漠になっていることについては、何か知りませんか?」

 カンバーの言葉に、ズラータはコクリと頷く。

「周りの砂は、ザハールがやったの」

「――――ッ!?」

 ズラータの言葉に、その場にいた全員が表情に驚愕の色を見せる。

「神力使いって訳だね」

 ニシルが言うと、傍でトレイズが頷く。

「それで、ザハールはお水や果物を高い値段で売ってるの……」

「周囲を砂漠化して、水や果物等を高額で売りさばいて、それで多額の収入を得てるってこと……?」

 ミラルの問いに、カンバーは恐らくそうでしょう、と答える。それを聞いた途端、勢いよく目の前の机が、チリーによって叩かれた。

「ふざけんなッ! んな酷いことが許されるかよ! その上……!」

 チラリと。チリーはズラータの方へ視線を移す。

「デニスを攫って、こんな子供に寂しい思いさせやがって…………ッ!」

 チリーの怒りに呼応するかのように、その場にいるズラータ以外の全員が険しい顔付きになる。

「許さねえッ!」

 怒りを露にしてそう叫ぶと、チリーは勢いよく駆け出した。

「ば、バカ! どこに行くつもりよ!」

 ミラルの止める声も聞かずに、チリーはそのまま家の外へと飛び出して行く。

 バタンと勢いよくドアの閉まる音が聞こえると同時に、ミラルは呆れ顔で嘆息する。

「もう、ホントにバカなんだから!」

「このまま飛び出したところで、ザハールの居場所はわかってないのに……」

 同じく嘆息し、ニシルは肩をすくめる。



 ヴィカルドのとある酒場で、ザハールは二人の部下と共にワインを飲んでいた。

 真っ赤なワインの注がれたグラスを、ゆっくりと口へ運んでいく。

「……良質な物を仕入れたな」

 ザハールがそう呟くと、聞こえていたらしく、店主の男はありがとうございます、と微笑んだ。

 ザハールの隣では、同じようにサングラスの男とワディムが、ワインを飲んでいる。

「ネストル。飲み過ぎなのでは?」

 ワディムが問うと、ネストルと呼ばれた男は大丈夫大丈夫、と軽く答えた。

「金は腐る程あるんだからよ。ワインくらいケチケチすんなっつの」

 そう言ってネストルが豪快に笑うと、その隣でザハールも違いねえ、と豪快に笑った。それに釣られ、ワディムも笑みをこぼした――――その時だった。


「そのワインのために、何人の人が苦しい思いをしてると思ってんだッ!」


 ザハールと部下、そして店主しかいなかったハズの店内に、別の人間の怒号が響き渡る。

 怒号の聞こえた方向、店の入り口へとザハール達は視線を移す。

「何だ、お前は?」

 大して気にした風もなく、ワインを飲みつつザハールは白髪の少年――――チリーへ静かに問うた。

「んなこたぁどーでもいいんだよ! さっさと町を元に戻しやがれ!」

「……ハッ! 何を言うかと思えば……」

 笑い飛ばし、ザハールはワインを一口、口に含む。

「この町の領主はこの俺だ。何をしようがテメエには関係ねえ」

「なんだと……ッ!」

 怒りを露にするチリーの前へ、素早くネストルが現れ、チリーを睨みつける。その表情に、先程までの軽薄そうな様子は一切感じられない。

「小僧。いい加減にしろよ?」

「いい加減にするのはお前らの方だろ。退け、そのふざけたグラサン叩き割るぞ」

 チリーの言葉に、ネストルは表情を険悪にする。

「ザハールさん……。コイツ、殺っても良いッスかね?」

「まあ待てネストル。面白ェじゃねえか。続けさせな」

 殺意を発したネストルに、ザハールはそう言った。

「で、テメエはこの町を元に戻してぇんだな?」

「当たり前だろッ!」

 再び怒号を飛ばしたチリーを見、ザハールは豪快に笑う。

「だが、俺に戻すつもりはねえ。どうすんだ?」

 ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ、ワインを飲みつつザハールが問う。そしてザハールが顎でネストルへ合図すると、ネストルはコクリと頷き、チリーの前から退いた。

「お前をぶっ飛ばせば良いんだろッ!!」

 大剣を出現させ、チリーは勢いよくザハールへと突っ込んだ。

「……神力使い……!?」

 大剣を振り上げ、ザハールの頭部目掛けて振り降ろした――――その時だった。

「ハッ! 無意味だッ!」

「――――ッ!?」

 砂。

 チリーの大剣を受け止めたであろうザハールの右手からは、パラパラと砂が零れていた。

「これ……は……ッ!?」

 大剣が、砂へと変えられたのだ。ザハールの神力により、砂へと変化した大剣はパラパラと音を立てて床へと落ちていく。その内一部は、グラスの中へも落ちていった。

 ザハールが触れた部分のみ、大剣が砂へと変えられている。

 驚愕し、その場に停止しているチリーを見、ザハールが笑みを浮かべた時だった。

「チリーッ!」

 勢いよく入口のドアが開き、店内へニシルとミラルが入って来る。

「仲間か」

 呟き、ザハールは砂の混じったワインの入っているグラスを手で払い、床へと落とす。グラスは床で砕け、辺りに破片とワインを飛び散らせた。店主は一瞬驚愕の表情を見せたが、すぐに箒を用意し、グラスの破片を片付けに来た。

 ザハールが立ち上がると、隣に座っていたワディムも同様に立ち上がる。

「ワディム、ネストル。行くぞ」

 ザハールがそう言うと、二人はコクリと頷き、ザハールと共に店を後にした。

「今の奴……もしかしてザハール?」

 ニシルが問うと、チリーはコクリと頷く。

「……ああ」

 大剣の残りを消し、チリーはザハールの出て行った方向、店の外を一瞥する。

「完敗だった……!」

 ギュッと拳を握り締め、悔しそうに呟く。

「チリー、どうしてここにザハールがいるってわかったの?」

「いや、勘だけど……」

 あっけらかんとした様子でそう答えたチリーに、ミラルは肩をすくめる。

「お前らこそ、何で俺がここにいると?」

「聞き込みしたんだよ。チリーの特徴はわかりやすいから、すぐに聞き出せたよ」

「なるほどな……」

 そう言い、チリーは嘆息する。

「あの野郎……このままじゃ終わらせねえ……ッ!」

 歯を食い縛り、チリーは悔しげにそう言った。

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