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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
44/128

episode44「In desert-1」

 ヴィカルド。イレオーネ大陸西端に位置する、観光地として有名な町だ。

 そのヴィカルドの中に、カンバーの友人は住んでいるらしい。

 飛行船により、テイテスを出発したチリー達は、最短距離でイレオーネ大陸のヴィカルドへと向かった。

「……何かおかしい」

「おかしいって、何がだよ?」

 窓からヴィカルドを見降ろし、怪訝そうな表情で呟いたトレイズに、チリーが問う。

 飛行船の中はあまり広くない。現在チリー達がいる客席、その奥にある操縦席。飛行船の後部には、食堂とチリー達と乗組員達の部屋が計五つと、必要最低限のものしかない。が、テイテスの経済状況をトレイズから聞いたところ、この設備はかなり無理をしているらしい。一体いつ頃からこの飛行船を用意していたのやら……。

 それはさておき、トレイズの感じた違和感である。

「確かにおかしいですね……」

 腕を組み、トレイズと同じように窓からヴィカルドを見降ろしつつ、カンバーが呟く。

「ヴィカルドってさ、僕ら行ったことないんだけど……」

 そう言いつつ、ニシルは窓からヴィカルド一帯を一瞥し、怪訝そうな表情でカンバーへと視線を移す。

「砂漠に囲まれてたっけ?」

 この飛行船の窓から見下ろすが出来る目的地――――ヴィカルド。そこは、どういう訳か砂漠に囲まれていたのだ。

「いえ。ヴィカルドの周囲に砂漠はないハズです。イレオーネ大陸内に砂漠は存在しますが、そこはヴィカルドの周囲ではありません」

 俺が前に来た時は違ったのですが……。と呟き、カンバーは嘆息する。

「それって何年前の話なの?」

「確か三年程前です」

 そう答え、カンバーは再度怪訝そうな表情でヴィカルドへと視線を移す。

「三年か……。カンバーが見ていない三年間で、一体何があったんだろ……」

 う~んと唸り、ニシルは考え込むような表情を見せたが、すぐに肩をすくめ、わかんないやと呟いた。

「考えても仕方なさそうだな……。ヴィカルドに降りて、町の人達に聞いてみようぜ」

 チリーがそう言うと、ニシルはクスリと笑みをこぼす。

「確かに、チリーは考えても仕方ないよねー」

「どういう意味だ?」

「いや、だってチリーってバカじゃん」

 そう言って大笑いし始めたニシルを見、ミラルは嘆息する。

「上等だニシル! ぶっ飛ばしてやるッ!」

 眉間にしわを寄せ、チリーはニシルの元へ早足で向かうが、すぐにニシルはチリーから距離を取り、ニヤニヤと笑みを浮かべる。

「おい、その辺にしろ」

 ニシルとの距離を詰め、殴ろうと拳を振り上げたチリーを一瞥し、トレイズがピシャリと言い放つ。

「着くぞ」



 上から見るよりも、下で直に見た方がわかりやすい。

 ヴィカルドの周囲は、確かに砂漠に包まれていた。

 町は普通に機能しているようなのだが、その周囲は砂に包まれている。

「砂漠化していること以外は、前と同じようですね……」

 周囲を見回しつつ、カンバーが言う。

「ヴィカルドの近くは砂漠化するような地域じゃなかったハズだ……。海も近いし、山脈の風下にある訳でもない……」

「雨の降らない地域って訳でもないですし……。一体何があったんでしょう」

 まるでわからない、といった様子でカンバーは肩をすくめて見せた。そんなトレイズとカンバーの会話を聞きつつ、チリーはカンバーとは違う意味でまるでわからない、といった様子で肩をすくめた。

「まあ、とりあえずカンバーの友達んとこ行ってみようぜ。赤石の在処も聞く必要があるし、ついでに聞けば良いじゃねえか」

 楽天的な表情でチリーが言うと、カンバーはそうですね、と答えた。

「ここで考え込んでも仕方がありません。俺の友人の元へ向かいましょう」

「ねえ、カンバーの友人ってどんな人?」

「ああ、そう言えばまだ話してませんでしたね」

 ニシルの問いにそう答え、カンバーは苦笑する。

「デニスと言う男です。俺みたいなのと違って、屈強で頑丈なナイスガイです」

「つまりマッチョなのね……」

 やや嬉しげな様子で、ミラルが呟くと、ニシルは怪訝そうな表情でミラルを見る。

「何で嬉しそうなの……?」

「何か良いじゃない。マッチョって……。こう、男らしくて……」

 うっとりし始めたミラルに、全員が苦笑した。



 町の中は、地面が砂漠化していることを除けば普通の町と変わらない。

 ヴィカルドの市場の中を、チリー達は歩いていた。

 様々な店が並んでおり、野菜や果物等が売られていた。が、水気の多い物は基本的に量が少ないか、売り切れとなっていた。

「喉乾いた……」

 ボソリと。チリーが呟く。すると、その隣でニシルも同じように、喉乾いた、と呟いた。

「我慢しなさい。喉が渇いてるのは、別にアンタ達だけじゃないのよ」

 呆れ顔で、ミラルが諭すように二人へ言う。

「えらく乾燥してますね……。本当にここ、ヴィカルドなんでしょうか……」

 不安そうにカンバーは嘆息する。

「……場所はあっているハズだ」

 そう言って、トレイズは地図を取り出し、位置を確認する。

「地図的には、ヴィカルドはこの場所であってるんですけどねえ……」

 そう言って、カンバーは額の汗を拭った。

 そんな様子でしばらく歩き続けていると、カンバーはある家の前でピタリと足を止めた。

「皆さん。着きましたよ」

 どうやらそこがデニスの家らしい。

「よっしゃ! そのデニスって奴に水もらおうぜ!」

「うん、賛成。僕もう喉乾いちゃって、ミイラになりそうだよ」

 そう言って、二人は家を眺めつつ安堵の溜息を吐いた。

「ええ、水くらいもらえるでしょう」

 そんな様子の二人に微苦笑しつつ、カンバーは呼び鈴を鳴らした。

「…………変ですね」

 数秒待つが、中から人が現れる気配はない。

「留守……でしょうか」

 呟き、カンバーはドアノブに手をかけ、回す。すると、驚く程簡単にドアが開いた。

「おいおい、鍵かかってねえじゃねえか」

 開かれたドアの奥を、チリーが覗き込む。と同時に、チリーは表情を一変させた。

「――――ッ!」

「どうしたの?」

 中を覗き込んでいるチリーへ、ミラルが問う。

「お前ら……中、見てみろ」

 そう言って退いたチリーの後から、ミラルやニシルも中を覗き込む。

「こ、これって……!」

 家の中は、荒らされていた。中に入ってすぐ傍にある階段の手すりが、見事に破壊されており、木屑と化して床に散乱している。このことから、奥は更に酷い有様なのだと伺える。

「デニスに……何かあったんでしょうか……!」

 不安げに呟いたカンバーを先頭に、チリー達は急いで家の中へと入って行く。

 家の中は想像通り酷い有様で、家具等が荒々しく倒され、その内のいくつかは破壊されていた。まるで、何者かが家の中で暴れたかのような……そんな様子であった。

「一体……何が……」

 チリー達がリビングへ入ると、不意にガタンと物音が聞こえる。素早くチリー達が物音のした方向へ視線を移す。

「ひ……!」

 そこには、机の下で蹲っている、小さな女の子の姿があった。



 男が、椅子に縛りつけられていた。

 殺風景な部屋、辺りはコンクリートで包まれており、絵の一つも飾られていない。

 扉が二つ。奥へと続いているのであろう扉と、外へと続いているであろう扉。その内、奥へと続いているであろう扉から、大柄な男が現れる。

 短く刈りあげた髪、白いロングコートを着た筋肉質な男だ。火のついた葉巻を咥え、男の傍まで歩み寄ると、身を低くして視線を合わせた。

「よう」

 ニヤリと。厭らしい笑顔でその男は男へ声をかける。

「ここから……出せ」

「……デニス。テメエ自分の立場わかってんのか?」

 デニスと呼ばれた男は、目の前の男を睨みつける。

「私を、娘の所へ帰せ」

 そう言い放ったデニスの胸ぐらを、男は勢いよく掴んだ。

「いい加減にしろッ! テメエが赤石の在処さえ喋りゃあいつでも帰してやるよ!」

「それは出来ない」

 眉一つ動かさず、そう答えたデニスの顔を、男は右腕で思い切り殴りつけた。勢いよく、デニスは椅子ごと後ろへ吹っ飛ぶ。

 男が、椅子ごと倒れているデニスの元へ歩み寄ろうとした時だった。ガチャリと扉が開く。

「ザハールさん。その辺にしといてやって下さいよ」

 短い金髪を逆立てた、如何にも軽薄そうなサングラスの男が、部屋の中に入ってくる。ザハールと呼ばれた男は、その言葉を聞いて舌打ちをする。

「どうせ耐え切れずに喋りますよ、そいつ」

 そう言って、男はクスリと笑った。それを見、ザハールはそれもそうだな、と呟くと、葉巻をその場に吐き捨てた。

「片付けとけ」

「はいなー」

 男はそう答えると、ザハールの吐き捨てた葉巻を拾い上げると、扉の奥へと戻って行った。それと入れ違いに、今度は別の男が扉の奥から現れる。

「ワディムか」

「はい」

 ワディムと呼ばれたその男は、ペコリとザハールへ一礼する。

 誠実そうな顔立ちの、肩まで伸びた髪が特徴的な男だった。

 数秒後、葉巻を捨ててきたらしい先程の男が、扉の奥から現れる。

「よし。お前ら、気晴らしに飲みに行くぞ」

「はい」

「はいなー」

 ワディムは無表情で、サングラスの男は嬉しそうに答えると、ザハールを先頭に、別の扉から部屋の外へと出て行った。

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