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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
41/128

episode41「Hallucination-3」

「兄……さん……!」

 恐る恐る、そう口にしてみる。すると、目の前の男――――白蘭は平然とした表情で何だ? と問うてくる。

 ――――あり得ない。あり得るハズがない。

 兄は……白蘭は既に死んでいる。その瞬間を、青蘭は目撃しているのだ。しかし、目の前にいるのは兄、白蘭だった。

 青蘭よりも高い身長、耳を隠す程度に伸ばされた髪、優しそうな目つき……変装でここまで似るとは思えない、神力か何かで変身しているのか……? だとしても、似過ぎている。姿形だけではない、雰囲気までもが白蘭そのものだった。青蘭が記憶している通りの、兄の物だった。

「青蘭君……これってどういう……?」

 隣で、表情を驚愕に歪めたまま伊織が青蘭へ問う。

「わ、わからない……」

 生きているハズがない。だとすれば、目の前にいる白蘭は偽物だろう……。しかし、そう判断することの出来ない何かが、目の前の白蘭にはある。彼は本物の白蘭だと、そう思ってしまうような何かが、彼にはあったのだ。

「……生きてるよ。足だってあるだろ?」

 優しく微笑み、白蘭はほら、と自分の右足を上げて見せた。

「本当に……兄さん……?」

「嘘吐いてどうするんだ? 俺だよ……白蘭だ」

 そう言ってニコリと笑ったその表情は、正しく兄の物。既に、疑念は確信へと変わっていた。

「生き……てた……?」

 コクリと。白蘭は頷いた。

「兄さんが……生きてた?」

 もう一度、白蘭は頷いた。

「実の兄をいつまで疑う気だよお前は……」

 呆れたように嘆息し、白蘭はもう一度微笑んだ。

「心配、かけたな」

 今にも泣き出しそうなのを、必死に堪えている青蘭の肩に、白蘭はそっと右手を置いた。

「ソフトクリーム、食べるんだろ? 一緒に行こうぜ。青蘭」



 青蘭と伊織、そして白蘭の三人でソフトクリームを購入し、時計塔を眺めながら三人で食べた。

 この三人が揃うというのは、もう随分と久しぶりで、三人の間にはどこか妙な緊張感が漂っていた。

「……それにしても兄さん、どうやって助かったんだ?」

 不思議そうに、青蘭が問う。

 あの日、白蘭は死んだハズだった。青蘭達を逃がした直後、背後から現れたゲルビア兵により、胸部を貫かれ、大量の出血をしながらその場で死んだハズだった。だが、今青蘭の隣には、その死んだハズの白蘭が、平然とソフトクリームを食べている。

「奇跡的にな。致命傷ではあったが、何とか生き延びた。それで、爆撃が始まるほぼ直前に東国から逃げたんだ」

「そう……だったんだ……」

「すぐに会えなくてごめんな。俺も、お前を捜してたんだぜ?」

 そう言って、白蘭はポンと右手を青蘭の頭の上へ置いた。

「兄さん……」

 優しく微笑む白蘭を見つめ、青蘭はそう呟いた。

「良かったね青蘭君……。白蘭さんが生きてて……私も、嬉しいよ」

 心底嬉しそうにはしゃぎながら、伊織は屈託なく微笑んだ。

「ああ、本当に……良かった」

 頭の上へ置かれた白蘭の右手、そこから伝わる温かみは確かに兄の物。もう、疑う必要はない。


 兄は、生きていた。そして今、目の前にいる。


「昔はよくこうして、三人で集まったなぁ」

 ぺロリとソフトクリームをなめ、感慨深げに白蘭は呟いた。その言葉に、青蘭はコクリと頷く。

「そうそう。いっつも青蘭君が私の家まで迎えに来てくれたよねー」

「……そうだったか?」

 首を傾げて青蘭が問うと、伊織はそうだったよ、と答えた。

「そういやそうだよな。お前、俺と出かける時いつも『伊織も呼んで良い?』って聞いてきたしな」

「へぇ、そうだったんだぁ」

 ニヤリと笑い、伊織は青蘭の顔を覗き込む。

「そうだった……かも知れない」

 呟くように青蘭がそう言ったのを聞き、白蘭は豪快に笑った。それにつられ、伊織もクスリと笑う。

「も、もう良いだろその話は!」

「そう怒るなよ」

 そう言い、顔の前で両手をついて白蘭はすまん、と謝罪の意を示す。そんな白蘭に嘆息しつつも、青蘭は微笑んだ。

「ねえ、白蘭さんのこと、麗さん達に伝えようよ!」

 伊織のその言葉に、青蘭はコクリと頷いた。

「そうだな。麗さん達、驚くだろうな」

「そうだね」

 そう言って、伊織はクスリと笑った。

「麗……? あー、あの子か」

「兄さん、知ってるのか?」

 青蘭の問いに、白蘭はコクリと頷く。

「ああ。お前らより一つか二つ上でな、よく俺に質問してきたもんだ」

「例えば?」

「学問関係が多かったかな……」

 懐かしそうに、白蘭はそう呟いた。

「麗さんも生きてるんだ。俺達、赤石の力で東国を再興するために、旅をしてるんだ」

 その言葉を聞いた瞬間、ピクリと白蘭の表情が動いた。

「……そうか。で、麗はどこにいるんだ?」

「多分、宿に戻ってると思う。白蘭さんも一緒に行こうよ」

 伊織がそう言うと、白蘭は小さく頷いて立ち上がる。

「よし、それじゃあ行こうか」

 ソフトクリームも食べ終わり、三人が麗達が待っているであろう宿へと向かおうとした、その時だった。

「待って下さい」

 後ろから、男の声が三人を呼びとめる。振り返ると、時計塔の絵を頼んだ画家らしく男が、完成した絵を抱えて立っていた。

「すっかり忘れるところだったな……。すいません」

 ペコリと頭を下げ、青蘭は絵を受け取って代金を手渡す。

「わぁ、すごいね。写真みたい!」

 絵を見、伊織は嬉しそうに顔の前で両手を叩いた。

「中々の物だな。記念か?」

 白蘭が問うと、青蘭は小さく頷いた。

「麗さん達にも、時計塔を見せたかったんだよ」

 なるほどな、と答え、白蘭は微笑んだ。

 白蘭とそんな会話を交わす青蘭達を見、男が怪訝そうな顔をしていたことに、青蘭達は気が付かなかった。



 宿へ向かいながら、青蘭と伊織は、白蘭と共に様々な昔話をした。東国での思い出を、三人で反芻した。

 家族のこと、友達のこと、伊織のこと、いくら話しても話題が尽きることはなかった。

「そう言えば、兄さんが巨大な魚を釣ったことがあったよな?」

「あ、懐かしいねー。あの魚、私も間近で見てすっごく驚いたよ。だってあんなに大きい魚って滅多に見られないし」

「アレ、大きさの割にはおいしくなかったよな」

「だよねー。ちょっと味が素気ないって言うか……」

 そんな会話を、伊織と二人で続けつつ、不意に青蘭は問うた。

「そう言えば兄さんはどうしてヘルテュラに?」

 問うてから数秒……白蘭からの答えはなかった。そればかりか、白蘭の姿すら見えない。

「……あれ?」

 伊織も不思議そうに小首を傾げ、辺りをキョロキョロと見回すが、白蘭の姿を見つけることは出来なかった。

「おかしいな……。さっきまで傍にいたハズなのに」

 考え込むような表情を見せ、青蘭がそう呟くと、伊織はなんでだろうね、と不思議そうな顔で答えた。

「もしかしたら、先に宿に行ってるんじゃないのかな?」

 伊織のその言葉に、青蘭は首を横に振る。

「それはないと思う。兄さんに、宿の場所を教えてない」

「あ、そっか……。じゃあ、どこに……」

 再度辺りを見回したが、結局白蘭が見つかることはなかった。



 二人が諦め、宿に戻ると既に麗達は帰って来ていた。既に昼食を済ませているらしく、麗は二人に、さっさと食べて来なさい、と素気なく言った。

「それより麗さん! 兄さんがいたんだ!」

「……何ですって?」

 麗の言葉に、青蘭はコクリと頷き、時計塔で白蘭に出会ったことを伊織と共に説明した。

 麗はしばらく黙って聞いていたが、すぐに嘆息する。

「美しくないわ」

「何が……?」

 キョトンとした表情で、青蘭が問う。

「本物のハズがないでしょう」

 ピシャリと。麗はそう言い放つ。

「……何を根拠に?」

 険しい表情で青蘭が問うと、その隣で伊織もそうですよーと不満そうに声を上げる。

「その白蘭……どんな姿をしていたの?」

「どんなって……昔と変わらない姿だ」

 青蘭のその言葉を聞き、麗はもう一度嘆息する。

「そう、なら偽物ね。美しくないわ」

「偽物って……!」


「もうあれから何年経ったと思っているの? 彼が昔と同じ姿のハズがないじゃない」


 麗のその言葉に、青蘭はピタリと動きを止めた。そんな彼を見、光秀はやれやれと呆れたように呟き、肩をすくめる。

 ボトリと。青蘭の手から時計塔の絵が取り落とされる。

「兄さんは……生きてる」

「貴方こそ、何を根拠に?」

 冷たく、麗は言い放つ。

「……ッ!」

 勢いよく、青蘭はその場から駆け出した。

「青蘭君っ!」

 伊織は、部屋の外へ飛び出した青蘭を追いかけ、勢いよく駆け出した。そんな二人を止めようとして手を伸ばした光秀を、麗は右手で制止する。

「おい、麗……」

「認めたくないだけなのよ。放っておきなさい」

 麗の言葉に、光秀は逡巡した表情を見せたが、すぐに伸ばした手を降ろし、小さく溜息を吐いた。

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