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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
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episode4「East surviver-2」

 追跡者は、青蘭が全快の時なら容易に逃げ切れる程度の速度で追いかけて来るのだが、先程から青蘭と追跡者の距離は縮むばかりだ。やはり、青蘭はかなり衰弱している。逃げ切ることは不可能に等しい。

「諦めて死んで楽になった方が良い……。でも諦められない。そうだね? 青蘭?」

 後ろから追跡者が問いかける。が、答えている余裕などなく、青蘭は黙ったまま走り続ける。

 限界が近い。自分でもわかっている。必死に走っているが、今にも足が縺れてしまいそうだ。いつ転んで追跡者に捕らえられてもおかしくない。

「かなり消耗してるね? もうこれ以上は逃げられない……。そうだね? 青蘭?」

 腹立たしいが追跡者の言っていることは本当だ。もうこれ以上は走れそうもない。

 せめて町の外くらいにまでは逃げようと思っていたが、それもままならないらしい。まだ大通りすら抜けられていない。

「捕まえた」

 青蘭の肩に手が置かれる。追跡者の手だ。ついに……追いつかれた。

 グッと。青蘭の肩に置かれた手から、引っ張られるような力が加えられる。青蘭はその場に仰向けに倒された。

 背中や腰に衝撃が走る。

 追跡者は身体を起こそうとする青蘭の前に立ち、ニヤリと笑った。

「諦めた方が良い。わかってるね? そうだね? 青蘭?」

 じっとりと。額に汗が滲む。青蘭を見降ろすこの仮面の男――――追跡者からは、明確過ぎる程の殺意が向けられている。

「何故……俺を殺そうとする?」

 大方の予想はついているのだが、あえて問う。この男が何故自分を狙うのか。自分の意思で殺そうとしているのか、それとも誰かから命じられて殺そうとしているのか。

「殺される前に殺される理由くらいは知っておきたい。そうだね? 青蘭?」

 いい加減疑問符を繰り返すこの男の口調には、ぶん殴ってやりたいくらい苛立ちを感じるのだが、残念なことに今の青蘭にはぶん殴れる程の体力がない。

「良いよ。在り来たりな言葉だけど冥土の土産ってやつだね? ありがたく聞くんだよ? 青蘭?」

 疑問符を繰り返し、男はクスリと笑った。

「東国戦争……覚えているね? 青蘭?」

 東国戦争。その単語を耳にした途端、疲労と死への恐怖で弱気になっていた表情が一変し、怒りに歪んだ。

 目の前でクスクスと笑う追跡者を、青蘭は力いっぱい睨んだ。

「顔付きが変わったね? 青蘭?」

「お前……ッ!」

「察しが良いね? 既に青蘭の殺害を僕に依頼したのが誰かわかったんだね? そうだね? 青蘭?」

 グッと。奥歯を噛みしめながら追跡者を一層強く睨みつけた。

「ゲルビア帝国……ッ!」

 怒りと憎しみを込めて、青蘭はその名を呟いた。

「別に殺す必要はないよ? アレの在処を喋りさえすれば、命までは取らないよ?」

「アレ……? 何のことだ……?」

「往生際が悪いね? なら、東国戦争で死んだ仲間達の元へ行くしか、選択肢はないね? そうだね? 青蘭?」

 東国戦争――――否、アレが戦争などと呼べるものだろうか。

 アレはただの――――一方的な虐殺である。

 何の宣告もなく平和主義国である東国全土を襲い、ゲルビア帝国は全国民を残らず焼き払った。最新技術によって造られた大型爆弾は生物だけでなく土地すら焼き尽くし、今や東国全土が焼け野原……。草木一本生えない、爆弾に含まれていた化学物質により突然変異を起こした奇怪な生物が徘徊する地獄のような場所と化していた。

 兄に助けられ、青蘭だけは無事生き残っているが、青蘭は東国戦争で全てを失っていた。

「貴様らは……ッ! 東国全土を焼き払い、地獄に変えても尚足りないと言うのかッッ!」

 力を振り絞り、よろめきながらも青蘭は立ち上がる。

「無駄だね? そのボロボロの身体で僕と戦おうという意思だけは称賛しても良いけどね?」

 追跡者が仮面の裏で、ニヤリと笑った気がした。

 追跡者は右手を横に広げると、大きく青蘭目掛けて振った。

「ッ!?」

 風を切る音がして、追跡者の手の平から伸びた鉄製の細いワイヤーが。青蘭の首に巻き付く。

 いつの間にか青蘭達を取り囲んでいた人々の数名が、事態を把握し、悲鳴を上げた。

「これは……神力しんりょく……ッ!」

「そういえば言ってなかったね? 僕も能力者だよ?」

 グッと追跡者が右手を引くと、青蘭の首を絞めているワイヤーが更にキツく青蘭の首を締めあげる。

「ぐ……ッ!」

 首に巻き付いたワイヤーを両手で握るが、鉄製であるため、衰弱した今の青蘭では千切れそうにない。否、全快であってもこのワイヤーを千切ることは不可能だ。

「この僕、エトラのワイヤーは簡単には千切れないよ?」

 追跡者――――エトラがニタリと笑う。

「そろそろ終わりだね? そうだね? 青蘭?」

 青蘭を絞殺せんとエトラが更に右手を引こうとした時だった。

「ちょっと待ったァッ!」

 エトラの右手から伸ばされ、青蘭の首を絞めていたワイヤーは、突如乱入した少年の大剣によって切り裂かれた。



 観衆が歓声を上げた。突如現れた少年――チリーが、己の身の丈程もある大剣で、エトラのワイヤーを切断したからだ。

「僕の相手は青蘭だけだったよね? そのハズだよね?」

 エトラは自分の右手から伸びる切断されたワイヤーと、チリーの持つ大剣を交互に見比べながら焦った様子で疑問符を繰り返す。

「これで借りは返したな」

 チリーは振り向き、後ろで唖然としている青蘭へと視線を移すと、ニッと笑った。

「お前……」

「チリー!」

 人込みをかき分け、ニシル、ミラルもチリー達の元へと駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」

 ミラルは青蘭の元へ駆け寄ると、心配そうに問うた。

「あ、ああ……」

 正直、青蘭は今にも倒れそうな程衰弱しているのだが、いらぬ心配をかけぬため大丈夫だ、と答えた。

「チリー、コイツ……」

「ああ、俺と同じ能力者だ……。ニシル、下がってろ」

 チリーの言葉にニシルはコクリと頷くと数歩下がった。

「どんな事情か知らねえが、俺の恩人を殺そうってなら……」

 チリーは大剣を構え直し、エトラをギロリと睨んだ。

「容赦しねえぞッ!」

 素早く、チリーはエトラめがけて駆け出した。

「誰かは知らないけど、邪魔する気だね? そうだね?」

 エトラはそう言うと、右手を真横に振った。すると右手が振られた軌跡の延長線上をワイヤーが駆け、チリーの横から首目掛けて巻きつかんとうねる。

「邪魔だッ!」

 チリーがワイヤー目掛けて大剣を振ると、金属音と共にワイヤーは弾かれた。

「ワイヤーを出せるのは右手だけじゃないね? わかってるね?」

 エトラはニヤリと笑うと、今度は左手を横に振った。すると、今度は逆方向からチリーの首目掛けてワイヤーが飛んでくる。

「な――――ッ!?」

 もう片方からのワイヤーは予想していなかったらしく、反応が遅れたチリーは跳躍する。

「無駄だね? そうだね? 少年?」

 風を切る音がして、エトラのワイヤーは空中にいるチリーの左足首に巻き付いた。

「げッ!」

 チリーの左足首にワイヤーが巻き付いたのを確認すると、エトラはクスリと笑い、左手を素早く引いた。

「チリー!」

 ミラルが叫ぶとほぼ同時に、左足首に巻き付いたワイヤーに引っ張られ、チリーはドサリと勢いよく地面に叩きつけられた。

「ぐ……ッ!」

 呻きつつ立ち上がろうとするチリーを見て、エトラは立てないよ? と笑みを浮かべ、左手を強く引いた。

 左足首に巻き付いたワイヤーにより、チリーの身体は地面を引きずられ、エトラの目の前まで引き寄せられる。

「こんの糞仮面野郎がァッ!」

 チリーが悪態を吐きながら、大剣をエトラの左手から伸びたワイヤー目掛けて振ろうとすると、エトラがクスリと笑い、右手から伸びたワイヤーで大剣を持ったチリーの手をパシンと鞭打った。

「ぐあッ!」

 あまりの激痛に、チリーは持っていた大剣を取り落とす。

「痛いね? 当然だね? 鉄製のワイヤーで、鞭の要領で叩かれたら痛いよね? そうだね? 少年?」

 エトラはクスクスと笑うと、右手のワイヤーでチリーの胸部を強く鞭打った。

「がァッ!」

 苦痛で呻き声を上げるチリーを見下ろしながら、エトラはクスクスと笑った。



「チリー!」

 泣きそうな顔でミラルが叫ぶと同時に、先程まで黙っていたニシルが拳をギュッと握りしめた。

「アイツ絶対許さない。僕が一発ぶん殴ってくる」

 肩をいからせながらチリーとエトラの元へ駆けだそうとしたニシルを、そっと青蘭が制止した。

「何で止めるの……!?」

「俺が行く……。アイツを助けた後、俺は多分倒れるだろうから、後のことを頼む」

 真摯な眼差しで、ニシルの目を真っ直ぐに見る青蘭に、ニシルは渋々頷いた。

「ありがとう」

 そう言うと、青蘭は凄まじい速度でチリー達の元まで駆けた。



「変なもん左足に巻き付けやがって……!」

 悪態を吐いたチリーをワイヤーで叩くと、エトラはそのワイヤーをチリーの首に巻き付けた。

「そろそろ死ぬべきだね? そうだね? 少年?」

「ぐ……ッ!」

 ギリギリと。チリーの首に巻き付いたワイヤーは締め上げられていく。

「さよならだね?」

 エトラがクスリと笑った――――その時だった。

「――――ッ!?」

 鈍い音がして、エトラの身体に凄まじい速度で何かが激突する。

「アンタ……ッ!」

 青蘭であった。チリーをワイヤーで締め上げるエトラに、青蘭は凄まじい速度で突進したのだ。

「借りるぞ!」

 青蘭は落ちていた大剣を拾うと、まずエトラの右手から伸ばされている、チリーの首に巻き付いているワイヤーを切り裂いた。次に、チリーの左足首に巻き付いているワイヤーを切り裂く。

「後は頼むッ!」

 そう言って青蘭はエトラの動きを止めるため、もう一度突進する。

「む、無茶をしているね!? そうだね!? 青蘭!?」

 エトラがそう問うた時には既に青蘭は意識を失いつつあった。もう後数秒後には倒れてしまいそうな程に。

 だが、


 十分だった。


 チリーが、拳を振り上げてエトラの眼前まで迫っていた。

「ま、待った方が良いね!? そうだね!? 少年!?」

 エトラは必死に逃げようともがくが、青蘭ががっしりと押さえていて離さない。

「うるせえんだよ」

 チリーは呟くと、ニヤリと笑った。

「そろそろ諦めた方が良いな? そうだな? この糞仮面野郎ッッッ!!」

「うわああああああああッ!」

 一発。

 エトラの仮面を付けた顔面にチリーの右拳が直撃する。

 仮面は音を立てて砕け、その中から気絶した男の顔が露わになり、エトラはそのままその場に倒れた。

「よし! 終わり!」

 青蘭と共にその場に倒れているエトラを見下ろし、チリーは両手をパンパンとはたくと、ニッと笑った。

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