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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
39/128

episode39「Hallucination-1」

 とある宿の一部屋で、青蘭はベッドの上に腰掛けていた。

 前に泊まっていた宿より高級な宿なので、布団の質は良く、部屋も広かった。更に、前のように一つの部屋へ四人が泊まっているのではなく、一部屋に二人なため、尚更広く感じることが出来る。

 青蘭の隣のベッドでは、光秀が後頭部で腕を組んで寝転がっている。目は閉じられているが、寝ているのかどうかはわからない。

 先程チリー達の船を見送ってから、既に数時間が経過している。

 どうもまだ、慣れることが出来ない。

 少し前……数時間前までは、一緒にいることが当然だったチリー達は、もう傍にはいない。これからまた会えるかどうかさえ、定かではないのだ。

 ――――これで良かったのか?

 そう自問するが、答えはいつも同じだった。

 ――――これで良かったんだ。

 この選択は、間違っていない。元々青蘭は、チリー達と旅していた訳ではない。ハーデンへの復讐を遂げるため、独りで旅を続けるつもりでいたくらいだ。

 ――――だから、これで良い。

 頭ではそう理解しているハズなのに、どこかで後悔している自分がいた。チリー達と一緒に、旅を続けていたかった……復讐など忘れ、チリー達と共に、テイテスのために旅をするのも、悪くないと思えた。

 それでも、自分は選んだのだ。ハーデンへの復讐を、東国の再興を。

 これ以上、考えるのはやめておこう。今日はもう休みたい。そう思い、水を飲もうと青蘭が立ち上がった時だった。

 トントンと。ドアが叩かれる。

 ドアの方まで歩み寄り、鍵を開けると、ドアが開き、麗と伊織が部屋の中へと入って来た。

「邪魔するわ」

「お邪魔しまーす」

 伊織は中に入ると、すぐに青蘭の方へ視線を移す。

「青蘭君だ」

 まるで、宝物を見つけた子供のように、伊織はそう言って嬉しそうに微笑んだ。

「伊織……」

 陰鬱とした気分を晴らしてくれるような、そんな笑顔に釣られ、青蘭も伊織へ微笑みかけた。

「お、伊織ちゃん」

 ガバリと。光秀は身体を起こすと、伊織の方へ視線を向け、嬉しそうに微笑む。

 そんな光秀に、伊織はこんばんは、と笑顔で返すと、青蘭が腰掛けていたベッドへ腰掛ける。

「麗さん、話があるって。青蘭君もこっち来て座ろうよ」

 そう言って手招きする伊織に、青蘭はコクリと頷いてその隣へ座った。そんな二人を見、光秀は顔をしかめる。

「青蘭……テメエいつの間に伊織ちゃんとそんなに仲良く――――」

「光秀、美しくないわ」

 光秀が言い切る前に、麗は光秀を軽く睨みつけ、ピシャリと言い放った。委縮したのか、光秀はすまんと言った切り、黙り込んでしまった。

「青蘭、伊織の言う通り少し話があるのだけれど、良いかしら?」

「……ああ」

 青蘭が頷くと、麗はそう、と小さく呟き、光秀が座っているベッドへ腰掛ける。青蘭は麗と向かい合うように、腰掛けていた場所の反対側へと腰掛ける。すると、伊織も付いて来て青蘭の隣へ座る。それを見、光秀が何か言いかけたが、麗に睨まれて黙り込んでしまった。

「一応確認するけど、貴方は白蘭の弟よね?」

 コクリと。青蘭は麗の問いに頷いた。

「なら、知っているかしら……? 赤石の在処を」

「――――ッ!?」

 真剣な眼差しで、麗は青蘭を見据える。

「白蘭の弟である貴方なら、知っている可能性が高いわ」

「ちょっと待ってくれ。何で兄さんの弟だったら、赤石の在処を知っている可能性が高いんだ?」

「白蘭は……赤石の在処を知っていた……。興味本位で何度か聞いたけど教えてくれなかったわ……」

 白蘭の弟である青蘭なら、赤石の在処を知っているかも知れないと、そう考えたのだろう。だが、それは間違っている。何故なら青蘭は、赤石の在処など知らない。もし知っていたのなら、チリー達へ在処を教えているハズだ。

 ――――アレの在処を喋りさえすれば、命までは取らないよ?

 あの時エトラが言っていた「アレ」とは、恐らく赤石のことだろうと、今になってようやく気が付いた。エトラは、青蘭が白蘭の弟だと知っていて、あんな質問をしたのだろう。

 しかし、それより青蘭が驚いたのは、白蘭が赤石の在処を知っていたということだ。赤石の話など、青蘭は一度も白蘭から聞かされていない。

「どうなの?」

 麗の問いに、青蘭は首を横に振った。すると、麗は嘆息し、そう、と呟いた。

「知らないのね」

「……すまない」

 ゆっくりと、青蘭は麗へ頭を下げた。

「マジかよ……」

 先程まで黙っていた光秀が、やっとのことで口を開く。

「麗、だったらこれからどうすんだよ? やっぱ最初の予定通り、アルケスタに向かうのか?」

「……そうなるわね。青蘭が知っていれば、アルケスタへ行く手間が省けたのだけど……」

 アルケスタ――――通称、知識の町。ありとあらゆる書物が、知識が、一つの町に収められているという、ゲルビア帝国内にある町だ。青蘭も名前くらいは聞いたことがある。

「白蘭は、貴方を逃がす時に何か言わなかったの?」

 ――――じゃあな。

 脳裏を過ったのは、命を失う直前の白蘭の言葉だった。脳にこびりついて離れない、あの日の記憶。

「……特には、何も」

 赤石の手がかりになるような情報は、与えられていない。それ以前に、当時の青蘭は赤石の存在すらよく知らなかった程だ。

 麗は嘆息し、そう、と呟くと腰を上げた。

「なら、アルケスタに向かうわよ。あそこになら、赤石のことが何かわかるかも知れないわ」

 麗の言葉に、一同はコクリと頷いた。



 深夜、不意に青蘭は目を覚ました。これと言って理由はない、ただ、目が覚めてしまっただけのこと。眠りが浅かったのだろうか。

 妙に喉が渇いていた。青蘭は身体を起こすと、ベッドの横にある水差しの中の水を、傍にあったコップの中に注ぎ、飲み干した。

 喉が潤う心地良い感覚。口元についた水滴を右手で拭い、青蘭はベッドから出た。

 どうにも、このまま眠れそうにはない。何故か目が冴えてしまっている。

 疲労はあった。出来れば眠っていたかったのだが、こうも目が冴えていては無駄だろう。少し散歩でもしてこようと思い、青蘭は着替えると、光秀を起こさないよう、静かに部屋を後にした。



 部屋を出、階段を降りてロビーへ向かい、そのまま正面玄関から宿の外へと出る。

 外は真っ暗な上、月は雲で隠れてしまっているため、電灯だけが明かりだ。

 ――――昔は、兄さんと夜中によく散歩に出かけたな……。

 そんなことを思い出し、兄との思い出を反芻する。

 夜中、眠れずに困っていた青蘭の元へ現れ、両親に内緒でこっそりと兄――――白蘭は青蘭を外に連れ出し、眠くなるまで辺りをうろついていた。

 ただ散歩するだけだったが、その時にする兄との会話が、当時の青蘭にとってはたまらなく楽しかった。会話だけなら、別にわざわざ夜中に散歩してまでしなくても出来る。だが、夜中の散歩中にする会話は、どういう訳か格別だった。どうでも良い話題が、たまらなく楽しく思えた。両親に内緒、という背徳感が、妙に青蘭をワクワクさせてしまっていたのだろうか。

 もし兄が生きていて、青蘭と共に旅をしていたら、どうなっただろう。

 兄は止めただろうか。ハーデンへの復讐を誓う青蘭を。

 兄はどちらを選択させただろうか。チリー達と行くのか、麗達と行くのか。

 いや、それ以前に、白蘭が生きていたのなら、復讐のための旅になど出ず、白蘭と二人でひっそりと暮らしていたことだろう。

 しかし、それは全てもしもの話だ。白蘭はいない。自分の目の前で、彼は命を落としたのだから。

 嘆息し、青蘭は独りかぶりを振った。

 いつまでも、いない人間のことを考えていても仕方がない。白蘭はいない、その事実は遠の昔に受け入れているハズだ。

「そろそろ、戻るか」

 散歩をした訳でもない、ただ夜風に当たっただけだった。明日は恐らく、アルケスタに向かうのだろう。支障をきたす訳にはいかない。もう眠るべきだと考え、青蘭が宿へ戻ろうとした時だった。

 トンと。青蘭の肩が叩かれた。

「――――ッ!?」

 慌てて後ろを振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

 小柄な、平凡な容姿をした男だった。男の撫でつけられた髪から発せられる整髪料らしき臭いが、青蘭の鼻をついた。

「ああ、すいません。驚かせてしまいましたか。こんな時間に私以外の人が歩いていると言うのも珍しいものでして……。少し気になっただけです」

「そ、そう……ですか」

 男ははい、とだけ答え、ニコリと微笑んだ。

「方向からして、同じ宿に泊まっているみたいですね」

「ええ、まあ……」

 曖昧に答える青蘭に、男は再度微笑む。

「ここで会ったのも何かの縁、少し自己紹介でもしておきましょう……。私は、バルターと申します」

「俺は、青蘭だ」

 青蘭が名乗ると、バルターと名乗った男は少し訝しげな表情を見せた。

「セイラン? あまり聞かない類の名前ですね……。おっと失礼、失敬なことを申しました」

「……いえ、気にしないで下さい」

 それから、二人は一言も会話をすることなく、宿へと戻った。バルターと別れた後、青蘭は部屋に戻り、着替えてすぐにベッドへ横たわった。

 やはり疲れているらしく、数分としない内に青蘭は眠りについた。

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