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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
38/128

episode38「My mind」

 いつもの砂浜で、鳴り響いているのは波の音と金属音。昨日もやっていたと言うのに、チリーとキリトは今日も戦っている。

 チリーは父と互角以上に戦えるのが嬉しいらしい。そしてキリトは、息子が実力を付けたことが嬉しいようだ。二人共随分と楽しげに戦っている。

 そんな二人の様子を、少し離れた場所でミラルは見守っていた。いつもと、同じように。

 だが、いつもと違うのはその隣にニシルがいることだろう。いつもならチリー達に混じって戦っているハズなのだが、今日はどういう訳か混じらず、ミラルの隣で同じように二人を眺めている。

「ねえ、ニシルは二人に混じらないの?」

 ミラルが問うと、ニシルは小さく頷いた。

「面倒じゃん」

「いや、面倒って……」

「疲れるし、ここは親子の仲に水をさすのはどうかな……って」

 そう言って、ニシルは肩をすくめて見せた。

「ニシルだって、チリー達とは家族みたいなものじゃない。遠慮すること、ないと思うな……」

 ミラルがそう言うと、ニシルは首を横に振る。

「確かにそれはそうなんだけどね……。ま、なんというか。今日は気が乗らない」

 ニシルは悪戯っぽく笑うと、ミラルが抱えているバスケットへ視線を移す。

「ねえ、それは?」

 ああ、これね。とミラルはバスケットにかけられている布を取り、中をニシルへ見せた。

 中に入っていたのは、サンドイッチだった。どうやらミラルのお手製らしい。

「いつもいつもよく作るよ。僕だったら面倒でやめちゃうな」

「うん。でもね、私のサンドイッチ、チリーが喜んでくれるから」

 チリーが? とニシルが問うと、ミラルは嬉しそうに頷いた。

「昨日ニシルがいない時にね、二人にサンドイッチ持って行ったのよ。あんまりチリーが期待するから『期待しないで』って言ったら、何て言ったと思う?」

 もったいぶるように、ミラルはニシルへ問うた。

「……何て言ったの?」

 微笑し、ニシルが問うと、ミラルは待ってましたと言わんばかりに微笑んだ。

「チリーがね、『そのいつものサンドイッチが食いたかったんだ』って」

「あのチリーがねえ……」

 あの時、そう言ってチリーは嬉しそうにミラルの作ったサンドイッチを頬張っていた。その時のことを思い出し、ミラルは嬉しそうに微笑んだ。

 そんなミラルの様子を見、ニシルも微笑んだ。

「ミラルってもしかしてさ……」

「何?」


「チリーのこと好きなの?」


 ニシルが問うた瞬間、ピタリとミラルの動きが停止した。流石にバスケットを取り落とすようなことはなかったが、停止したまま動かない。

 数秒後、ミラルの顔はみるみる内に真っ赤になり、恥ずかしそうに、何言ってんのよ! と怒鳴りつけた。

「そ、そんな訳ないじゃない! サンドイッチのことは、喜んでもらえるのが嬉しいだけで……」

「じゃあ、嫌いなの?」

 ニシルがそう問うと、ミラルはすぐさま首を横に振った。

「え、いや……そういう訳じゃないんだけど……」

 口籠るミラルを見、ニシルは悪戯っぽく笑うと、どうなの? と問うた。

「好きっていうか……その、大事な…………友達……」

「ごめん。聞こえない。もう一回」

 ニヤリと。ニシルは笑っている。

 ――――絶対わざとね。コイツ、私が困ってるのを見て楽しんでるんだわ……。

 短く嘆息し、ミラルは呆れたように仕方ないわね、と呟いた。

「……好きよ。チリーのことが……。これで、良いでしょ?」

 プイッとニシルから目を背け、ミラルが渋々そう答えると、ニシルはやっぱりね、と嘆息する。

「や、やっぱりって……」

「それ、気付いてないのチリーくらいだよ。トレイズはわかんないけど、青蘭は気付いてたし」

 そう言い、ニシルは多分トレイズも気付いてるよ、と付け足した。

 それ聞いて、ミラルの顔はますます赤くなっていく。そんなミラルの様子を見、ニシルは何やら楽しそうに微笑している。

「チリーのどんなとこが好きなのさ?」

「どんなとこって……」

 ミラルは思索する。自分は何故、チリーのことを好きになってしまっているのか。

 過去に特別何かあった訳ではない。旅の中で、何度も彼には助けられたが、それは理由にならない。ミラルがチリーを好きになったのは、旅に出る前の話だ。

「アイツ馬鹿だし、考え無しだし、口は悪いし、行儀悪いし、僕のことすぐ叩くし……」

 指で数えつつ、ニシルはチリーの悪い点を並べていく。

「……でも」

 途中で、ミラルが口を挟んだ。

「でもチリーは、真っ直ぐだから」

「真っ直ぐ?」

 ニシルの問いに、ミラルはコクリと頷く。

「馬鹿だけど、真っ直ぐなの、アイツは。私が……ついうっかり好きになっちゃうくらいにね」

 そう言い、ミラルはキリトと戦うチリーの姿を眺める。

 真っ直ぐで曇りのないチリーの瞳は、しっかりとキリトを捕らえている。凛々しく、雄々しく、猛々しく、チリーは戦っていた。

 ニコリと。ミラルは微笑んだ。

「そんなに……好き?」

「……うん。って何言わせてんのよ馬鹿!」

 ニシルの頭を、ミラルは軽く叩いた。ニシルは痛そうに頭を押さえつつ、ミラルへ視線を据える。


「僕が――――ミラルのことが好きだって言っても、ミラルはチリーのことが好き?」


 一瞬、ミラルは何を言われたのかわからず、間の抜けた表情でニシルを見つめていた。

「え……?」

 しばらく、ニシルは真剣な眼差しでミラルを見つめていたが、すぐに視線を逸らした。

「ニシル?」

 ニシルは肩をすくめて見せると、ミラルの方へ視線を戻す。

「冗談だよ。僕は年上が好みだから」

 そう言って、ニシルは悪戯っぽく笑った。

「も、もう! ビックリしちゃったじゃないっ!」

 再び、ミラルはニシルの頭を叩いた。それも、先程より強くだ。

「ごめんごめん」

 叩かれた頭を痛そうに押さえ、ニシルは冗談っぽく謝罪の言葉を告げる。


 微笑んではいるが、その瞳に憂いの色が見えたのを、ミラルは見逃さなかった。



 テイテスに滞在して丁度三日。チリー達はアグライから呼ばれ、城へ来ていた。場所は室内ではなく、広い、城の庭だった。

 特に何がある訳でもなく、芝生が生い茂っているだけの庭で、アグライの言う「考え」らしき物は見当たらない。

 庭の中心にアグライ、その横にはカンバーが、そして彼ら二人の前に、チリー達四人が適当に並んでいる。

「おっさん。で、どうやって俺達はイレオーネに行けば良いんだよ?」

 問うたチリーを小突き、失礼でしょ、とミラルが耳打ちするが、チリーは気にしていない様子だった。

「正直、君達をこのまま行かせるのは不安だ。命を失うことになりかねない」

「大丈夫だよ。トレイズもいるし、バカチリや僕だって、一応戦力にはなるし」

 そう言ったニシルへ、バカは余計だとチリーが騒ぎ立てるが、それには誰も取り合わない。

「君達と共に送り出した、数人の兵士がいただろう?」

 アグライの問いに、チリーとニシルはコクリと頷く。

「彼らは全員、消息を絶っている」

「「――――ッ!?」」

 アグライの言葉に、チリーとニシル、そしてミラルの表情が驚愕に歪む。しかしすぐに、チリーは不敵に笑みを浮かべた。

「心配ねえよ。俺達なら」

 そう言って、同意を求めるようにチリーは一同の顔を順番に見る。それに答えるように、一同は力強く頷いた。

「……頼もしいな」

 小さく溜息を吐き、アグライは肩をすくめて見せた。

「それより、さっさとどうやってイレオーネに行くのか教えてくれよ」

「まあ待て。すぐに準備する。カンバー」

 急かすチリーをなだめ、アグライがそう声をかけると、カンバーはコクリと頷き、ポケットから何やらスイッチの付いた機械を取り出し、アグライへ手渡した。

「皆、少し離れてくれ」

 機械を受け取ると、アグライはカンバーと共に数十歩下がる。それに倣い、チリー達も後ろへ数十歩下がる。

「では行くぞ」

 カチリと。アグライはスイッチを押した。

「――――ッ!?」

 不意にまるで地震でも起きたかのように地面が揺れ始める。アグライとカンバーを除く全員が、驚愕に表情を歪めていた。

「マジかよ……!」

 凝視しているのは、何の変哲もない芝生……だった場所だ。芝生だけが生い茂っていた地面がスライドし、その下にある空間を露にしたのだ。

 揺れが収まる頃には、芝生の下に何が隠されているのか容易に見て取れた。

「流石にビックリだね……」

 凝視しつつ、ニシルが驚嘆の声を上げる。

 スライドした地面の下、その床らしき物は徐々に上がって行き、隠されていた巨大なソレを露にした。

「時代はこんなに進歩していたのか……ッ」

 驚嘆の声を上げたチリーの目の前にあるのは、巨大な白い物体。瓜のような形をしたソレを凝視する一同を眺め、アグライはニヤリと笑った。

「飛行船だ」

 白い、飛行船。飛行船としては大した大きさではないのだが、何よりチリー達を驚かせたのは、テイテスに、こんな飛行船を用意出来る程の財力があったことだった。

「中に食料や資金を乗せてある。パイロットも含め、五人程乗組員もいるぞ」

「……よくこんな物を用意出来たな」

 流石のトレイズもこれには驚いているらしく、表情を驚愕に歪めたまま呟く。

「島そのものの一大事だからな。なりふり構ってられないさ」

 そう言って、アグライは微笑した。

「ま、何にしても用意は整ったね」

 ニシルがそう言ってニコリと笑うと、チリーはおう、と答え、飛行船を見つめる。

「さあ行くぜ……イレオーネ大陸に!」

 コクリと。アグライを除く全員が頷いた。

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