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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
35/128

episode35「Knowledge man」

 本の山から人間が顔を出す。このちょっと不思議な状況に、アグライを除く四人は呆気に取られた様子だった。

 そんな彼らの様子を気にも留めず、顔を出した男――――カンバーは、再び本の方へと視線を戻し、ひたすら読んでいる。

 そんな彼の様子に、アグライは嘆息する。

「カンバー。客だ。読書を止めなさい」

「……」

「カンバー!」

 ビクンと。アグライが怒鳴りつけると同時に、カンバーが肩をびくつかせる。

「お前に客が来た。読書を一旦止めなさい」

「……了解です」

 カンバーはそう答えると、渋々持っていた本を、自分の真横に積んである本の上に置き、ゆっくりと立ち上がった。すると、彼の後ろで音を立てて本の山が崩れていく。

 細身の、小柄な男だった。ニシル程ではないが、一般的な男性としては低めの身長で、全体的に細かった。しかし、痩せていて細いと言うよりは、しばらく何も食べていなくてやつれている……そんな様子だった。手入れしていないのか、短い髪はボサボサになっており、カンバーはそんな頭をポリポリとかき、眼鏡の位置を人差し指でクイクイと直した。

「ああ、初めまして。カンバーです」

 カンバーがペコリと一礼すると、一同も頭を下げる。その後、四人は順番にカンバーへ簡単な自己紹介をした。

 どうやらカンバーは全員の名前を知っているらしく、誰が自己紹介をしてもああ、貴方ですか、と言いたげな表情で頷いていた。

「国民名簿も読書の一環で読破してしまいまして……。大抵の名前は覚えていますよ」

 そう言ってカンバーはニコリと微笑んだ。

「……変な奴だな」

「よく言われます」

 苦笑するチリーに、カンバーはニコリと微笑む。

「それで、俺に用事があるんですよね?」

 カンバーの問いに、一同はコクリと頷く。

「赤石の場所を知っていると聞いてな」

 腕を組み、低くトレイズがそう言うと、カンバーはしばらく考え込むような素振りを見せたが、すぐにああ、赤石ですか、と納得したように両手を叩いた。

「ええ、知ってます。正確には俺の友人が」

「――――ッ!?」

 それぞれに、表情へ驚愕の色を見せる一同を見、カンバーは微笑んだ。

「世界大半を占めるとは言え、大陸はアルモニアだけではない……ということはご存じですね?」

 カンバーの問いに、チリー以外はコクリと頷く。唯一チリーだけは、マジで!? と驚嘆の声を上げていたが、説明するのが面倒らしく、誰もそれには反応を示さなかった。

「赤石は、他の大陸にあるってことですか?」

 ミラルがそう問うたが、カンバーは首を横に振る。

「いえ、そうとは限りません。あくまで、赤石の場所を知っている人間が他の大陸にいるだけです」

「ふむ。お前にそんな友人がいたとは……初耳だぞ」

 呆れたように、アグライが嘆息する。

「すいません。まさか『核』が破壊されるなんて思ってもいませんでしたから……。赤石の話は、必要ないかなと思いまして」

「馬鹿者。そういう話は必要、不必要以前の問題だ。それに、『核』と赤石はほぼ同一の存在……テイテスに関係あるに決まっているだろう」

「でも俺、『核』が小赤石だなんて最近聞きましたし、普通島が『核』で出来てるだなんて思わないじゃないですか。知らなかったんだから仕方ないです」

「うむぅ……」

 小さく声を上げ、アグライは口籠る。そんなアグライの様子に苦笑しつつ、カンバーは話を続ける。

「俺の友人――――つまり、赤石の場所を知る人間は、テイテスからは随分と遠い位置になりますが、イレオーネ大陸にいます」

「……イレオーネかぁ……」

 感慨深げに呟いたニシルに、ミラルは何かあるの? と問うた。

「別に。何もないよ。言ってみただけ」

「アンタね……」

 小さく溜息を吐き、ミラルは呆れた様子でニシルを一瞥する。

「イレオーネか……。確かに遠いな」

 トレイズはそう呟き、嘆息する。話についていけないらしく、チリーはぶすっとした表情で本の山を眺めつつ、何だよイレオーネって知るかよばーかなどとボソボソ呟いている。

「チリーが拗ねた……」

「拗ねてねえ!」

 そう答え、ニヤニヤ笑うニシルの頭をチリーは小突く。後はいつもと同じ流れで、二人の小突き合いが始まった。

 そんな彼らを見、アグライは嘆息する。

「イレオーネ大陸か。どうするんだ?」

 アグライが問いかけると、チリーとニシルはピタリと小突き合いをやめる。

「そんなの、聞くまでもないでしょ」

 そう言ってニシルが、ね? とチリーの方へ視線を移す。

「当然だ。イレオーネ大陸上等! どこだか知らねえけど、そこに赤石の手がかりがあるんだろ? だったら何を迷う必要があるんだよ」

 行くしかねえよな? そう問うたチリーに、一同はコクリと頷く。

「でも、イレオーネに行くなら、かなりの時間がかかるハズよ。船に乗るお金だって馬鹿にならないし……」

「いや、その件については私に考えがある。任せなさい」

 そう言って、アグライは微笑した。

「カンバー、少し休暇を取れ。というかお前はいつも休暇みたいなものだが……」

「……クビ、ですか?」

 恐る恐るカンバーが問うと、アグライは小さく首を横に振った。

「いいや、ただの休暇だ。図書室の管理は他の者に任せる、お前はイレオーネ大陸へ行け」

「イレオーネに……?」

 カンバーが問うと、アグライはコクリと頷いた。

「そこにいるチリー達と共に、イレオーネ大陸へ……いや、赤石探しの旅へ行け」

「俺が、ですか?」

 カンバーの問いに、アグライはそうだ、と小さく頷いた。

「イレオーネにいるのはお前の友人だろう? どの国の……どの町にいるのかくらいはわかっているのか?」

「ええ、まあ……一応はわかります」

 それなら尚更だ、とアグライは呟いた。

「チリー達だけでは、その友人の居場所はわかるまい。お前が同行し、彼らを案内してくれ。それに、図書室に籠り切りでは得意の体術も廃れるだろう?」

「まあ、それもそうなんですが……」

 カンバーは足元に散らばる本を一瞥し、逡巡するような表情を見せたが、すぐに諦めたように小さく頷き、嘆息した。

「……わかりました。同行しましょう」

「そうしてくれるか。助かる」

 カンバーにそう答え、アグライはチリー達に異論はないな? と問うた。

「ああ」

 アグライの問いに、チリー達はコクリと頷いた。

「それなら……決まりですね」

 カンバーはそう呟くと、チリー達の元へゆっくりと歩み寄る。

「改めて自己紹介させていただきます。カンバーです」

「おう。よろしくな」

 そう答え、チリーはそっと右手を差し出した。

 カンバーはそれを見、ニコリと微笑むと、その右手を左手でゆっくりと掴んだ。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 握手を交わし、カンバーはもう一度ニコリと微笑んだ。

「ああ、カンバーさんみたいな頭の良い人が入ると、チリーの馬鹿さ加減が浮き彫りになっちゃう……ってもう遅いか」

「誰が馬鹿だ誰が!」

「お前だよお前」

 怒声を上げるチリーを指差し、ニシルはクスクスと笑う。そんな二人の様子を見、アグライは本日何度目かもわからない溜息を吐いた。

「他の大陸すら知らない奴は、馬鹿以外の何者でもないよ」

「うるせえ! あんま馬鹿馬鹿言ってっとぶん殴るぞ!」

「暴力反対。この野蛮人めー」

「誰が野蛮人だこの小型人種チビ!」

「小型人種と書いてチビって読ますな!」

 呆れた奴らだ、とトレイズは呟き、嘆息する。

「でも、楽しそうですね」

 そう言って、カンバーはトレイズへ微笑んだ。それに釣られたのか、トレイズも微笑する。

「全くだ」

 そんな会話を交わす二人をよそに、チリーとニシルは互いに罵り合っていた、低次元の域をまだ出てはいないのだが、そろそろ本気の喧嘩が始まりかねないので、ミラルが二人の間に割って入る。

「はいはいそこまで! アンタら仲良くしなさいよね」

 既に拳を握った右腕が、頭上まで上がっているチリーを何とか押さえ、ミラルはその場を何とか収める。

「とにかく、次の目的地は決まったな」

 コホンと咳払いし、アグライがそう言う。

「……だな」

 未だに振り上げていた右腕を降ろし、チリーはそう答える。

「次の目的地は……」

 そう言い、ミラルがその言葉の続きを求めるかのように、チリーの方へ視線を移す。その視線に気づき、チリーはニッと笑った。

「――――イレオーネ大陸だ!」

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