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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
34/128

episode34「Native place」

 懐かしい景色だった。この港も、そこから見渡すことの出来る市場も。全てが懐かしく思えた。

 トランクケースを引きずりながら歩いていた足を、ピタリと止めると、チリーはグッとのびをした。

「着いたな……テイテス!」

 故郷――――テイテス。地面が、空気が、景色が、空でさえもが懐かしい。

 テイテスを出てから二ヶ月程度、テイテスから離れていた時間はその程度だと言うのに、随分と懐かしく感じた。

「懐かしいね……。まさかこんな形で帰って来ることになるとは思わなかったけど」

 そう言って、ニシルは苦笑した。

「ホント……懐かしい。みんな元気かなぁ……」

 辺りをキョロキョロと見回しながら、ミラルは嬉しそうにそう言う。

 トレイズは、何も言いこそしないが、どこか懐かしそうに辺りを見回している。

 そう、彼らはテイテスへと帰って来たのだ。



 ヘルテュラで青蘭と別れ、旅の資金不足を解決するために、チリー達は旅を中断してテイテスへ一度戻ることを決めた。

 悲しむ姿を見せたくなかったのか、それとも見たくなかったのか、青蘭はチリー達の見送りには現れなかった。

「ホントに、青蘭と別れて良かったのかな……」

 城へ向かいながら、寂しげにミラルが呟くと、チリーは静かに、あれで良いと答えた。

「青蘭の目的は、俺達と一緒に旅することでも、テイテスのために赤石を探し出すことでもない。アイツは、アイツの目的を果たせば良いんだ……」

 口ではそう言っているが、チリーの表情はどこか寂しげだった。

「とにかく、今はアグライさんのとこに行こうよ。テイテスには時間がないんだよね?」

 ニシルが問うと、トレイズは小さく頷く。

「ああ。少しでも早く赤石を手に入れなければな……」

 嘆息し、トレイズは歩を早めた。それに合わせて、他の三人も同じように歩を早めた。



 ヘルテュラから出発する際、事前にアグライへ連絡を入れていたため、チリー達はすぐに城の中へと案内された。

 昼食がまだだったため、案内されている途中で、ミラルが止めるのも聞かずにチリーが、腹減った! と訴えたところ、チリー達はすぐに食堂へと案内された。

 食堂へ入ると、長い机の一番奥に、アグライが座っていた。どうやらどの道食堂へ案内するつもりだったらしい。

「……話は聞いている。四人共座りなさい」

 アグライに言われた通り、四人は順番に席へと着いて行く。

「ただいま。アグライさん」

 ニシルがそう言うと、他の三人も同じようにアグライへ挨拶をする。すると、アグライはニコリと微笑んだ。

「ああ、お帰り」

 それから数分すると、チリー達の元へ料理が運ばれて来た。トレイズはともかく、他の三人からすれば今まで見たこともないような豪勢な料理が目の前に並べられていく。

 食欲をそそる料理の数々に、チリーは幸せそうに目を輝かせている。ニシルもニシルで、平静を装ってはいるが、その料理の豪勢さには歓喜の色を隠せない。

「おいしそうね……」

 ミラルはそう呟き、料理をジッと見つめる。

 ――――初めて見るような料理のハズなのに、何故か驚きを感じない。

 自分の感情に違和感を覚えたが、大して気にすることもないだろうと高をくくり、このことについては自分の中で深く追求しないことにした。

「さあ、旅の後で疲れているだろう。ゆっくりと食べなさい」

「よっしゃ! いただきます!」

 歓声を上げ、ナイフとフォークを手に取ると、チリーはすぐに料理へ手を付けた。



 食べ始めて数十分。ゆっくりと食べるミラルとトレイズを見つめつつ、チリーとニシルは不満の声を漏らしていた。

「早く食べろよー」

「僕達暇なんですけどー」

 食べ始めてから数分で食べ終えた二人は、退屈そうに声を上げるが、トレイズはそんな二人に一切取り合おうとしない。それどころか、更に丁寧に食べているようにも見える。

「アンタ達の行儀が悪過ぎるのよ! こういう料理は味わって、丁寧に食べなさいよ!」

「親父は『誰よりも早く、誰よりも多く!』っていつも言ってたぜ?」

 得意気に、チリーがそう言うと、その正面でニシルがうんうんと頷く。

「……キリトさん……」

 そう呟いて嘆息するミラルを見、アグライはクスリと笑った。

「まあ二人共、少し辛抱しなさい」



 更に経つこと数分。やっとのことでミラルとトレイズは食べ終えた。二人が食べ終えたのを確認し、アグライがコホンと咳払いをすると、後ろで控えていた召使い達が、すぐにチリー達の食器を片づけていく。

「連絡の際に大抵のことは聞いているが、王はまだ見つからないのだね?」

 不意に、アグライが問う。

「……いや、既に見つかっている」

「――――ッ!」

 トレイズの言葉に、アグライが表情に驚愕の色を見せる。と、同時にチリーが勢いよく机を叩いた。

「おいトレイズ! 伏せとくっつったのはお前じゃねえか!」

「いや、やはりアグライにだけは話しておくべきだろう。赤石の件も説明しなければならないしな」

 静かにそう答え、トレイズはヘルテュラでの出来事を、包み隠さずアグライへ話した。

 アレクサンダーの死を聞いた時、アグライはまるでこの世の終わりかのような表情を見せたが、しばらくすると落ち着きを取り戻した。

「それで、赤石が必要なのか……」

 コクリと。アグライの言葉に四人は頷く。

「実は、これから『核』について話そうと思っていたところだ。君達の言う通り、テイテスの『核』は破壊されている」

「そもそも、『核』って何なんですか?」

「良い質問だ。元々、私は破壊された『核』について説明しようと思っていた」

 ミラルの問いに、アグライはそう答えると、そのまま説明を始めた。


 数百年前、「赤い雨」と呼ばれる現象が、アルモニア大陸ほぼ全土で起こった。

 大陸全土に降り注いだ「赤い雨」、もしくは「神の雨」と呼ばれる謎の赤い液体は、幾つもの不可思議な現象を引き起こした。

 そして、「赤い雨」を浴びた者の内大半が、不可思議な能力を手にした。

 人はその能力を神の力――――「神力」と呼んだ。

 そして、「赤い雨」の水滴は、一部結晶となり、個体として残った物が存在する。それが――――赤石。膨大な量の神力を宿した、赤い石。


「その『赤い雨』ってのを浴びた者の遺伝子……それを受け継いでるのが、僕ら神力使いってこと?」

 ニシルが問うと、アグライはその通りだ、と頷く。

「そして赤石は神力の塊……か」

 ボソリと。呟くようにトレイズは言うと、この話と「核」の関連性は? とアグライへ問うた。

「『核』は、結晶化した『赤い雨』の中でも比較的小型の、小赤石しょうせきせきから生成されている。『核』とは、小赤石をテイテスの初代王の神力によって変質させたものなのだ」

 なるほどな。と、トレイズは呟く。

 確かにそれが事実なら、アレクサンダーの言っていたことにも納得がいく。それなら、赤石を「核」の代用品としてしようすることは可能だ。

「でも、小赤石を『核』に変質させたのは、初代王の神力でしょ? 赤石だけ手に入れても僕らじゃどうにも出来ないじゃん」

「いや、詳しくは知らんが、聖杯せいはいと呼ばれる赤石を受け入れるための器が存在する。聖杯は、赤石を自在に変質させることが出来る。お前達は、赤石を探すと同時に聖杯をも探さねばならない」

 重々しく、アグライは告げた。

 赤石の成り立ちなどについては、あまり把握出来ていない様子だったチリーだが、赤石と聖杯の二つを同時に探さねばならない、というのは理解出来たらしく、険しい表情でアグライの話を聞いていた。

「アグライ、テイテスが崩壊するまで後どれくらいだ?」

「長く見て……一年後だろう」

 アレクサンダーと、同じ見積もりだった。

「赤石の在処について、何か知っていることはないんですか?」

 ミラルが問うと、アグライは考え込むような仕草を見せた。

「私自身は知らないが、知っていそうな人物なら知っている」

「ホントか!?」

 チリーの問いにコクリと頷き、アグライはゆっくり腰を上げ、立ち上がった。

「着いて来なさい」

 そう言って、アグライはゆっくりと歩き出した。四人は立ち上がり、先を歩いて行くアグライの後をついて行く。



 アグライが向かった場所は、城の図書室だった。図書室に到着すると、アグライはゆっくりとドアを開き、中へと入って行く。

「赤石に関する本でもあるの?」

 ニシルの問いに、アグライは微笑する。

「確かに、この図書館にはそんな本もあるかも知れないが、私がここへ君達を連れてきたのは、『知識の塊』へ赤石について聞くためだよ」

 知識の塊? 怪訝そうな顔をする四人に説明をせず、アグライはただゆっくりと図書室の中を歩いて行く。

「うわ、何だこれ……」

 図書室の一角に、本の塊があった。様々な種類の本が無造作に積まれ、一つの山を形成している。

「カンバー。出て来なさい」

 その山へ向かって、アグライはそう言うと山の方へと歩み寄り、本を少しずつどかしていく。まるで穴を掘っているかのようだった。

「まさかその中に……人が?」

 ミラルが問うと同時に、本の山から人間の足が見えた。その光景に、一瞬ミラルは肩をびくつかせる。

「本は片付けろといつも言っているだろう」

 呆れたようにアグライがそう言ったと同時に、本の山から人間の顔が覗く。

「すいません。後もう少しで、この図書室の本を読破出来そうなんですよ」

 そう言って、本の山から現れた男は微笑んだ。

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