表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
32/128

episode32「East person-3」

 ぶっ殺す。男の放ったその言葉からは、明確な殺意が感じ取られた。

「斬るぞ……」

 ゆっくりと。鞘から刀が抜き放たれた。鞘から解放された刀は、日の光を浴び、刀身をキラリと光らせた。

「光秀さん! やめて!」

 伊織の声も、光秀と呼ばれたその男には届いていなかった。刀を構え、青蘭をギロリと睨みつけている。

 一歩、光秀が踏み出す。

 ――――来る!

 そう判断し、青蘭は素早く身構えた。

「伊織、離れてて!」

 不安そうに青蘭と光秀を交互に見る伊織を、自分の後ろへ追いやり、青蘭は光秀へと視線を戻す。

「伊織ちゃんに……触ってんじゃねえッ」

 叫び、光秀は一気に青蘭との距離を詰め――――一閃。青蘭目掛けて刀を横に振った。

「誤解です! 俺は別に伊織をたぶらかしてなんか……」

 バックステップで光秀の刀を避け、何とか弁解しようとするが、光秀は青蘭の言葉に一切耳を貸そうとしない。話し合うどころか、更に青蘭との距離を詰める。

 ――――この光秀という男、強い。

 直感的にそう判断し、青蘭は神力を発動させる。身体の内側から力が沸いて来る感覚……。

 光秀が、刀を青蘭の右肩目掛けて振り降ろす。青蘭は素早く状態を反らし、光秀の刀を避ける。そして横から、刀を持つ光秀の両手を、刀の柄ごと掴む。

「やめて下さい!」

 光秀は青蘭の言葉には答えず、舌打ちするとすぐに青蘭の手を振り払い、青蘭から数歩距離を取る。

「神力使いか……」

 ボソリと呟き、光秀は刀を鞘に収める。

 一瞬、光秀が誤解していることに気が付き、武器を収めてくれたのかと青蘭は思ったが……どうやらそうじゃないようだ。

 光秀は、先程から絶えず青蘭へ殺気を放っている。それに、刀を鞘に収めただけで、光秀はまだ構えを解いていない。

「なら、遠慮はいらねえな……!」

 ギュッと。光秀が刀の柄を強く握った――――その時だった。


「美しくないわ。光秀、やめなさい」


 透き通るような、女性の声が辺りに響いた。瞬間、青蘭達どころか周囲に集まりつつあった野次馬達ですら、その声のした方向へと視線を一斉に移した。

「……麗」

 彼女を見、ボソリと光秀が呟く。

 そこにいたのはおかっぱ頭の、美しい女性だった。柄や色は違えど、伊織と同じような服装をしている。

 麗と呼ばれた彼女は光秀を一瞥し、嘆息した後に青蘭へと視線を移すと、青蘭達の方へゆっくりと歩み寄って来る。

「伊織、彼は?」

「え、えと……この間話してた、青蘭君」

 不意に麗に問われ、慌てて伊織は答える。

「そう。貴方が青蘭……。白蘭の弟さんね」

「――――ッ!?」

 麗が口にした名前――――白蘭という名前に、青蘭は動揺を隠せなかった。だがそんな青蘭の様子を、気に留める様子もなく、麗は言葉を続ける。

「私は麗。もうわかっているとは思うけれど、貴方と同じ東国の生き残りよ」

 そう言い、麗はよろしくね、と青蘭へ右手を差し出した。

「こ、こちらこそ……」

 表情に同様の色を見せつつも、青蘭はそっと麗の手を握る。

「光秀。いい加減青蘭へ殺気を放つのはやめなさい。往生際が悪いわね……美しくないわ」

 そう言い、麗が光秀を睨みつけると、渋々光秀は構えを解き、麗の元へと歩み寄って来る。


「青蘭、単刀直入に言うわ。貴方、私達の仲間になりなさい」


 視線を青蘭に据え、麗は言い放つ。

「お、おいマジかよ麗! いくら生き残りとは言え、そんな得体の知れない奴を――――」

「光秀さんだって、元々得体の知れないおっさんだったじゃない!」

 そう言い放ち、伊織はプイッと光秀から目線を逸らす。

「そりゃないぜ伊織ちゃん……俺ぁまだおっさんって歳じゃ……」

「で、どうなの? 青蘭」

 光秀の言葉を遮るように、麗は青蘭へ問うた。

「……待ってくれ。話が急過ぎる。俺にだって色々事情はあるし、何を目的として麗さんが俺を必要とするのかがわからない」

 青蘭の言葉に、麗はそれもそうね、と呟く。

「丁度良いわ。そこの喫茶店で話しましょう」

 麗の提案に、一同はコクリと頷き、喫茶店の中へと入って行った。



 喫茶店内は、それなりに人が多く、二人以上が一緒に座れる席は既に空いていなかった。

 仕方なく四人は二人ずつ座ることにし、青蘭は麗と、伊織は光秀と同席する。伊織を見つめ、終始ニヤニヤしている光秀を麗がギロリと睨むと、睨むなよ、と光秀は肩をすくめて見せた。

「美しくないわ。慎みなさい」

 言い放ち、麗は静かにコップの水を一口飲んだ。

「……それで、麗さんの……いや、麗さん達の目的は?」

「赤石」

 ボソリと。呟くように麗が呟く。

「――――ッ!?」

 赤石、その単語に、青蘭は動揺を隠し切れなかった。

「そう、知っているのね。なら話が早いわ」

 そう言って微笑し、麗は口元で両手を組み、青蘭の目を真っ直ぐに見つめた。


「赤石の力で、東国を浄化する」


 一瞬、麗の言葉が把握できず、青蘭は動きを数刻止めた。

「東国の……浄化……?」

 青蘭の問いに、麗はコクリと頷く。

「ゲルビアの爆撃で、地獄と化した東国の地を浄化し、東国を再興する。そしてハーデンへの復讐を遂げる……それが私達の目的」

 東国の再興。あの地獄と化した東国を、赤石の力で再興しようと言うのか。

 ゴクリと。青蘭は唾を飲み込む。

 この麗という女性、これ程大それたことを平然と……まるでそれが可能であるかのように口にする。

「赤石の強大な力を聖杯で利用すれば、汚染された東国の地を浄化することは不可能ではないわ。後は人材を集め、私達の手で故郷を……東国を再興する」

 今まで、考えてみたこともなかった。ただハーデンへの復讐を考え、これまで旅を続けていた。その途中でチリー達と出会い、テイテスの事情に巻き込まれつつあった。ゲルビアの陰謀が関わっている限り、最終的にハーデンに行きつくだろうと高をくくり、このままチリー達とテイテスのために赤石を探す――――それでも良いと思っていた。

 だが、本来の目的は何だ?

「どうなの青蘭。私達と、協力する気はあるのかしら?」

 青蘭を真っ直ぐに見据え、麗は問うた。

「俺は……」

 旅を続ける理由は――――ハーデンへの復讐。テイテスのためではない。

 赤石の力で、東国の再興が出来るのなら、テイテスのためではなく……。

 そこまで考え、青蘭は小さくかぶりを振った。

「……もう少し考えさせてくれ。明日までには、答えを出す」

「そう……。なら明日の正午、この喫茶店で待ってるわ」

「……ああ」

 短く答え、青蘭は席を立ち、喫茶店を後にした。



 ガチャリと。部屋のドアを開く。

「お帰り」

 中に入った青蘭を見、ニシルが微笑む。それに青蘭はただいまと答え、いつものようにベッドの上へ腰掛ける。

「だぁーッ! 勝てねえ!」

 突如、チリーが机を勢いよく叩く。その音に驚き、青蘭は机の上へと視線を移す。

 机の上にはチェス盤と駒が置かれており、チリーとトレイズが向かい合うようにして座っていた。

「だからやめときなさいって言ったのに……。アンタじゃトレイズに勝てる訳ないでしょ」

 そう言ってミラルが嘆息すると、チリーはうるせえと怒鳴りつけ、先程机を叩いたせいでバラバラになってしまっている駒を、チェス盤の上に並べ直す。

「……まだやるのか」

 少し呆れた、といった様子でトレイズが問うと、チリーは当然、とぶっきらぼうに答えた。

「チリー、チェスはね。馬鹿向けのゲームじゃないんだ……」

 チリーの肩へ手を置き、諭すようにそう言ったニシルの頭を、チリーは軽く小突く。

「だからって負けっ放しでいられるかよ!」

「何で僕が叩かれなきゃなんないんだよ!?」

 そう言ってニシルがチリーの頭を小突くと、負けじとチリーもやり返す。いつの間にか、二人の間で低次元な争いが始まってしまっていた。

 そんな二人を一瞥し、青蘭、トレイズ、ミラルの三人はほぼ同時に嘆息する。

「ホント、やれやれね……」

 そう言って肩をすくめるミラルへ同意するかのように、青蘭は微苦笑する。


 麗達に付いて行くと言うことは、彼らと離れなくてはならないということだ。

 チリー達を見つめ、青蘭はそんなことを考える。

 ハーデンへの復讐、東国の再興、赤石の力、テイテスの危機、ゲルビアの陰謀……。

 自分にとって本当に大切なのは、どれだ?

 心の内で自問したが、答えを出すことを躊躇っている自分がいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ