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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
31/128

episode31「East person-2」

 ガチャリと。部屋のドアが開いた。

「お帰り」

 ドアを開けたのが青蘭だとわかり、ニシルはそう声をかける。すると青蘭はすぐに、ただいまと答え、ベッドの上に腰掛けた。

「どこ行ってたの?」

「ちょっと、散歩にな」

 そう答えた青蘭の口元から、微かな笑みがこぼれたのを、トレイズは見逃さなかった。

「……何かあったのか?」

 静かに、微笑しつつトレイズが問う。

「ああ……。古い友人に、偶然出会ったんだ」

 青蘭の言葉に、古い友人? とチリーが問うと、青蘭はコクリと頷いた。

「幼馴染だよ」

 青蘭のその言葉に、その場にいた一同が目を丸くして青蘭を凝視した。

「幼馴染って……まさか……」

「ああ、東国のな」

 チリーの言葉にそう答え、青蘭は微笑した。

「東国の生き残りって、青蘭だけじゃなかったの……?」

 ニシルの問いに、青蘭はコクリと頷いた。と同時に、チリーとミラルが顔を見合わせ、二人同時に、あ、と短く声を上げた。

「おいミラル、青蘭にアイツの話、したか?」

 チリーが問うと、ミラルは首をふるふると横に振る。

「話してないわよ。アンタのことで大変だったんだからね!」

 それには言い返せず、チリーはうぅと小さく声を上げるだけだった。

「……何の話だ?」

 青蘭が問うと、ミラルは東国出身と思しき女性が現れた時の話をした。不思議な服装をしていたこと、東国の者かと問われ、それを肯定する返事をしていたこと、ゲルビアへ尋常ではない程の怒りを向けていたこと。

 青蘭はしばらく黙ったまま聞き、ミラルが話し終えると、なるほどと納得したような表情で呟いた。

「伊織が言っていた麗って人。その人のことかも知れないな」

 青蘭の言葉に、ニシルは伊織? と問う。

「ああ、さっき会った幼馴染の名前だよ」

「女の子?」

「ああ、そうだが……それがどうかしたか?」

「……彼女?」

 ニシルの問いに、青蘭は少し間を空けてからいや、違うよと静かに答えた。

「反応つまんないなぁ……」

 呟き、ニシルはふてくされたような表情でベッドの枕へ顔を埋めた。どうやら青蘭が慌てて否定するのだと思っていたらしい。

 そんなニシルの様子に、ミラルは苦笑する。

「話を戻すけど、私達が会ったのはその麗って人なのかな……」

 ミラルの言葉に、青蘭はコクリと頷く。

「かもな」

 これで、三人。あの東国戦争で、青蘭は自分以外全滅したものだと思っていた。だが、違う。青蘭自身を含め、三人も生き残っていたのだ。

 再び、青蘭は微笑した。



 如何に活気のある町も、夜になれば厭になる程静かになる。

 昼間の内は鬱陶しい程に人々が歩いていたこの通りも、夜になれば人の姿は見当たらない。見当たるとすれば、電灯に群がる蛾くらいのものだった。

 そんな通りを、一人の女性が歩いていた。

 その女性は、あまり見ない服装をしていた。花柄のあしらわれた、一枚のピンク色の布を身体に巻き付けているかのような服だった。

「……おい」

 低い、殺気の込められた男の声が、後ろから女性へとかけられた。

 しかし女性は、その声に別段気にした様子もなく、表情一つ変えずに首だけを動かし、後ろへと視線を移す。

「あら、誰かと思えば……」

 後ろにいた男を見、女性はクスリと笑った。

 後ろにいた男は、背の低い、一見少年と見間違えてしまいそうな――――そんな男だった。男の服は何故か所々破れており、随分とみすぼらしく見えた。

「今日は一人? 部下の皆様はどうしたのかしら?」

 口元に笑みを浮かべ、女性が問う。すると男は怒りを露にし、女性をギロリと睨みつけた。

「うるさい……ッ」

「もしかして、あの白い子に負けた挙句、部下に見捨てられちゃったのかしら?」

「うるさいッ!」

 図星を指されたのか、男は語気を荒げる。

「俺が悪いんじゃない……俺が弱いんじゃない! アイツらが情けないから負けたんだ!」

 男の言葉に、女性は心底呆れた、といった様子で嘆息する。

「そんなことばかり言っているから、捨てられたのではなくって?」

 嘲りの意味を込め、女性はもう一度クスリと笑った。

「お前を殺せば……東国の人間であるお前を殺せば、俺の力は証明されるッ!」

 そう言うと同時に、男の右腕は刃へと変化する。

 それを見、女性はすぐにそれが神力によるものだと判断した。

「今日は逃げずに向かってくるのね」

 女性はそう言うと、懐からナイフのような刃物――――小刀を取り出した。アルモニア本土にも幾つか伝わってきていはいるが、あまり知られていない東国の道具だ。それを好んで使う彼女は、やはり男の言う通り東国の人間なのだろう。

 女性は小刀を鞘から抜き、右手で裏手に持つと、素早く身構えた。

「そんな物で……そんなちっぽけな武器で俺と戦うつもりか……ッッ! なめやがって……なめやがってェェェッ!」

 叫び、地団駄を踏むと、男は右腕の刃を構えて女性の方へと駆け出した。

「……美しくないわ」

 呟き、眼前まで迫った男の右腕目掛けて小刀を――――一閃。

「……ッ……ッ……!?」

 次の瞬間、男の右腕の肘から下は、ボトリと音を立てて地面へと落下していた。

 地面に落下した途端に、男の右腕は刃から元の右腕の姿へと戻る。

 一瞬、男は足元に落ちている右腕を見、驚愕に表情を歪めたが、すぐに笑みを浮かべる。

「ハハ……ッ! ハハハッ! 何勝ち誇ってやがんだ……ッ!? ふざけやがって……俺の……俺の腕が、俺の腕が地面に落ちてる訳ないだろッ!?」

 既に、男の表情は狂気に満ちていた。

 切断された右腕からは大量の血が溢れ、男の肘の切断部からはポタポタと血が滴り落ちていた。

 ドサリと。男はその場に倒れた。

 それを一瞥し、女性は嘆息すると、倒れている男へ背を向けた――――その時だった。

「……待てよ……ッ! 何背ェ向けてんだよォ…ッ! 俺を見ろよォ……俺をォォ……この俺をだよォーッ!」

 残された左腕で、男はよろよろと立ち上がった。

 女性は男の方を振り返ると、再び嘆息する。

「ふざけんな……ふざけんなァァッ!」

 左腕を刃に変え、男が女性へと駆け出そうとした――――その瞬間、女性は素早く男の左腕を小刀で一閃――――切り落とす。

「ああああああッッ!」

 両腕を切り落とされ、男はあまりの苦痛に絶叫する。やはり左腕も肘から下が綺麗に切り落とされており、ポタポタと音を立てて血が地面へと滴り落ちている。

「哀れね……」

 呟き、女性は小刀を鞘へ収め、再び己が懐へと戻す。

「ああああッ! ああああッ!」

 絶叫し続ける男へ、女性は一瞬哀れみの視線を浴びせた。が、すぐにキッと男を睨みつける。

「美しくない……美しくないわ貴方……っ! せめて散る時くらい……美しく散りなさいっ!」

 女性はそう言うと、男の足元の血へと手を当てる。すると、男の足元で水溜りを作っていた血が、まるで意思を持っているかのように動きだし――――細く鋭い刃となって男の腹部を指した。

「がァッ!」

 血の刃は男の腹部を貫き、その向こう側へと到達する。その衝撃で、男の身体は後ろへ反った。しかし、間髪入れずに背後から伸びた血の刃が、男の背中を指す。今度はその衝撃で、男の身体は前のめりになる。そしてその次の瞬間には、右から、間髪入れずに左から――――前後左右から交互に血の刃が男の身体を貫く。

 貫かれる旅に身体を反らすその姿は――――さながら舞踊の如き姿だった。

 既に男は絶命しているらしく、叫び声をもう上げなかった。

「汚い舞ね。所詮、貴方には美しさなど欠片もないようだわ」

 呟き、女性が男へ背を向けると、血の刃は全て元の血液へと戻り、地面へ滴り落ちる――――と同時に、男はその場にドサリと倒れた。


 その衝撃で、音を立てて血が数滴跳ねた。



 伊織と出会った次の日の午前。伊織と出会った喫茶店へと歩いて行く。周囲では、昨夜この町のどこかで惨殺死体が放置されていたことばかり話している。近くを、武装したこの町の自警団らしき人達が、警備のためかウロウロしていた。そんな中、辺りを見回しても伊織らしき姿は見当たらない。

「ここに来れば会えるなんて、流石に虫が良過ぎるか……」

 伊織のおかげで回復し、既にギプスを外している右腕を見つめつつ呟き、青蘭は嘆息する。

 同じ場所に伊織が何度も現れるとは限らないし、この町にいつまで滞在しているのかもわからない……。そう言えば、あの時は会話らしい会話をあまりしていなかった。もっと伊織と、東国での日々について語り合いたかったし、今の仲間達――――チリー達のことも伊織に紹介したい。

 ――――伊織が生きている。

 その事実が、復讐に囚われ苦しんでいた青蘭の心を、幾らか楽にしてくれていた。

「あ……」

 短く声を上げ、青蘭は喫茶店の前でピタリと足を止めた。

 喫茶店の前、一人の少女が壁に寄り掛かかり、しきりに辺りを見回している。まるで誰かを捜しているかのようにも見えた。

 少女は青蘭が見ていることに気付き、視線を青蘭へと移すと、途端に表情を笑顔に変えた。

「伊織……」

 伊織だった。伊織は青蘭に気が付き、すぐにこちらへと駆け寄って来る。

「青蘭君!」

 伊織はすぐに青蘭の目の前まで来ると、上目遣いに青蘭を見、ニコリと微笑んだ。

 自分の胸元くらいまでの身長の彼女が、すぐ傍でこちらを上目遣いに見ている。その事実に気が付き、青蘭は妙な恥ずかしさを感じた。

「い、伊織……どうしてここに?」

 青蘭が問うと、流石に距離が近過ぎたことに気付いたのか、数歩下がってもう一度青蘭へ微笑んだ。

「昨日はちゃんと話せなかったから……今日またここに来れば、青蘭君にもう一度会えるかなって」

「……そっか」

 そう言って、青蘭も微笑む。自分も同じ理由でこの喫茶店へ向かっていたなどとは、恥ずかしくてとてもじゃないが言えない。

「今日は時間あるし、色々話そうよ」

 そう言ってそっと。伊織は俺の手を握った。

「え……」

 青蘭が間の抜けた声を上げたことなど気にも留めず、伊織は青蘭の手を引っ張り、喫茶店の中へと入ろうとした――――その時だった。

「伊織ちゃん!」

 突如、二人の後ろから男の声がする。二人が振り返ると、そこには二人を凝視する一人の男がいた。

「み……光秀さん……」

 呟き、伊織はやってしまったと言わんばかりの表情で嘆息する。

「お前……そこで伊織ちゃんと何してる?」

 腰には刀。髪は後ろで一つに結われており、口元には無精髭が蓄えられている。

「ま、まさか……」

 男を凝視し、青蘭は驚嘆の声を上げる。が、男はそれを気にも留めず、青蘭の方を睨みつけている。

「たぶらかしやがったのか……伊織ちゃんを……ッ」

「ちょっと待ってよ光秀さん! それは勘違――――」

 伊織が言い終わらない内に、光秀は腰の刀へと手をかける。

「――――ぶっ殺す」

 低く、男が言い放った。

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