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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
3/128

episode3「East surviver-1」

 東に、国があった。

 独自の文化を持つ、あまり大きくはない島国だった。小さいながらも発展していたその国は、ある秘密を抱えていた。

 その秘密を原因に、国は滅びた。


 焦土だけを、残して。



「やっと着いたか……。かなり退屈だったぜ」

 駅に到着した汽車から降りると、チリーは持っていたトランクケースをその場に置き、グッとのびをした。フェキタスからエリニアに到着するまで、汽車で二時間。チリーを退屈させるには十分過ぎる時間と空間であった。

「僕は、最初のボートの旅よりは何十倍も快適だったと思うよ」

 チリーに続いてニシルも汽車から降りて来る。

「退屈って……アンタらほとんど寝てたじゃないの……。私の方がよっぽど退屈だったわよ」

 呆れた顔で降りて来たのはミラルだった。如何にも気だるそうに車輪の付いたトランクケースを引きずっている。

「まあとにかく。エリニアに到着だ」

 フェキタスを出たチリー達は、その更に西へ向かうため、ここエリニアまで汽車に乗って来た。エリニアはフェキタスよりは大き目の町で、アギエナ国の首都でもある。

「ここの名産って何かな……」

「何だっけなぁ……町で調べてみようぜ」

「名産より先に、王様でしょ」

 呑気な会話をしているチリーとニシルに、呆れ顔でミラルはそう言った。

「この町にいるかなぁ」

「どうだろうな……。まあ、とりあえず捜すか」

 チリーとニシルが、そんな会話をしていた時だった。

 汽車の中から中年くらいの男が降り、そろそろとチリーのトランクケースに近づいている。

 チリーとニシルは会話に夢中で、ミラルは気付かずに地図を眺めている。男はトランクケースをそっと抱えると、すぐに全速力で駆けだした。

「――――ッ!? 俺の荷物ッ!」

 男が駆け出してやっと気付いたのだろう。チリーは逃げる男を指差して叫ぶ。

「荷物盗られるなんて……ダサいよチリー」

 そう言ってニシルはチリーを指差してケラケラと笑っている。呑気なものだ。

「うるっせえ! 笑ってる場合かッ!」

「そうよ! 追いかけなきゃ!」

 チリーとミラルは(ニシルはまだケラケラと笑っている)急いでトランクケースを抱えた男を追いかけた。しかし、二人が男に追いつく前に、鈍い音がして男はその場に尻餅をついた。

「ッ!?」

 男の目の前に一人の青年が立ちはだかったからだ。

 端正な顔立ちの、長身の青年であった。年齢は、二十代のようにも、十代後半のようにも見える。短く切り揃えられた髪型からは、清潔な印象を受ける。

「な、何だお前! そこをどけッ!」

 男が怒声を上げるが、青年は腰に両手を当て、仁王立ちのまま動こうとしない。

「そのトランクケースは貴方の物ではないハズだ。今なら見逃す、ちゃんと持ち主に返すんだ」

 真摯な眼差しで、青年は言い放った。チリーとミラルは、その状況に呆気に取られ、ただ立ち尽くして青年を見ていた。先程までケラケラと笑っていたニシルでさえ、笑うのをやめて青年の方へ視線を向けている。

「うるせえッ! お、お前には関係ないだろ!!」

 男の言葉を聞き、青年は残念そうに溜息を吐いた。

「そうか……。なら仕方がないな」

「ハァ!? 何が仕方な――――」

 男が言い終わらない内に、男の腹部に青年の膝が食い込んでいた。

「か……はァ……ッ」

 口から胃液を吐きだしながら、男はその場にドサリと倒れた。

「一応加減はしてある。これに懲りたらもう盗みなんてするなよ」

 青年はそう言うと、男が抱えているチリーのトランクケースを強引に奪い、チリー達の方へ歩み寄る。

「このトランクケース……君のだろ?」

「あ、ああ……。ありがとう……」

 丁寧に青年から差し出されたトランクケースを、チリーは頭を下げながら受け取る。

「困った時はお互い様だよ」

 青年はニコリと、爽やかに微笑んだ。が、不意にピタリと表情が固まった。

 青年と、ミラルの目が合う。

「あの、何か……?」

 ミラルが問うと、青年は何か考え込むような表情を見せた。

「君は……」

「……?」

「いや、何でもない。気にしないでくれ」

 何かを言いかけたが、青年は気のせいか、と呟き、首を左右に振った。

「それじゃ、俺はこれで」

 もう一度微笑み、そう言い残すと、どこかへと去ってしまった。

「あの人……」

 怪訝そうな表情で、ミラルは青年の背中を見つめていた。



 追われている。そんな意識が、青年の中にはずっとあった。移動中は勿論、宿での寝食の際すら誰かに監視されているような気がしている。否、監視されている。

 故にここしばらく安眠など一度も出来ていない。ベッドの中ですら常に意識を研ぎ澄まし、いつ襲われても対抗出来るようにしている。

 いい加減休みたいのだが、姿を見せない追跡者は一向に休ませてはくれない。時折感じる殺意から察するに、追跡者は自分を殺すつもりでいるのだろう。

 エリニア……。ゲルビア帝国を目指し、ココまで来たは良いが、地図から考えてゲルビア帝国はまだ遠い。それまでの間ずっと追跡者の影に怯えなければならないのか……。

「ふぅ……」

 青年は溜息を吐いた。

「ん、兄ちゃん、どうかしたのかい?」

 不意に声をかけられ、慌てて返事をする。

「いえ、何でも……すいません」

 市場で買い物の途中であった。青年は買った物(主に服などの生活用品)を受け取り、お金を渡すとその場を離れた。

 恐らく、今の自分は相当衰弱しているだろう。なんせここ一週間程まともに眠れていないのだから。自分が追跡者だったとしたら、確実に今を狙う。

 そろそろ限界かも知れない。そんなことを考えつつ歩いていると、いつの間にやら大通りに出ていた。沢山の人や馬車が行き交う大通りの中でも、青年を追跡する気配は消えない。いや、むしろ今までより近く感じられた。

「やぁ、青蘭せいらん

「――――ッ!?」

 不意に、耳元で囁かれた自分の名前。青年の額を嫌な汗が流れる。

「よく頑張ったけど……そろそろ限界みたいだね? そうだね? 青蘭?」

 青蘭と呼ばれた青年はゴクリと唾を飲み込んだ。

 間違いない。この声の主こそ、ここしばらく青蘭を狙い続けていた追跡者だ。

東国とうごくが消えて寂しいよね? 仲間がいなくて寂しいよね? ね? そうだね? 青蘭?」

 耳元で疑問符を繰り返す声に、青蘭は苛立ちを覚えたが、今はそんなことよりも如何にこの追跡者から逃れるかだ。

 衰弱した今の自分では、確実に殺される。

「でも心配しなくて良いよ。すぐに僕が青蘭を仲間の所に連れて行くからね? 仲間の所に行きたいよね? そうだね? 青蘭?」

 仲間の所に連れて行く……。やはり追跡者は青蘭を殺すつもりらしい。

 一刻も早く追跡者から離れなくては……。

「今逃げようと思ったね? そうだね? 青蘭?」

 見透かされている。追跡者は青蘭の耳元から顔を離す。

「逃げてみても良いよ。でも衰弱し切った君が僕から逃げ切れるとは思えない。自分でもわかってるんだよね? そうだね? 青蘭?」

 追跡者の言う通りだ。例え逃げ切れても、追跡者は必ず青蘭をもう一度見つけ出すだろう。

「駅での事件が弱った身体に更なる負荷を与え、今青蘭は体力をかなり消耗している。そうだね?」

 どうやら何もかもお見通しらしい。だが、こんな所で死ぬ訳にはいかない。

 青蘭は追跡者から逃れるため、思い切り駆け出した。

「無駄な消耗を避けるために能力は使わない……。そうだね? 青蘭?」

 大通りの真ん中に立っている小柄な男――――追跡者は走っていく青蘭の背中を見つめ、ニヤリと笑うとその背中を全速力で追いかけた。



「ねえ、あの人。さっき駅で助けてくれた人じゃない?」

 チリー達が大通りに出ると、不意にミラルが大通りの真ん中辺りを指差す。

 ミラルが指差した方向をチリー達が見ると、確かにそこに立っていたのは、先程駅で盗難にあったチリーを助けた青年であった。

 その青年の背後を、小柄で、仮面を付けた男がベッタリと張り付くように立っていた。

「だな……。でも後ろに立ってるあの妙な男は何だ?」

「多分、同性愛者なんだよ二人共。チリー、そっとしといてあげて」

 怪訝そうな顔をしていたチリーは、ニシルの言葉になるほど、と頷く。

「ば、馬鹿っ! アンタ達何言ってんのよ……! お、男の人同士なんて……っ!」

 何故かミラルは頬を赤らめ、頬に両手を当ててきゃーきゃーわめいている。

 ミラルが頬を赤らめている理由が、チリーには到底わかるハズもなく(ニシルはわかったらしく、クスクスと笑いを抑えている)、ミラルを眺めつつ首を傾げるばかりだった。

「あ、おい。アイツ走りだしたぞ」

 先程まで立っているだけだった青年は、突如として走り始めた。まるで逃げているかのようだ。

 青年が逃げるように走りだしてから数秒後、青年の後ろに立っていた男も、後を追うように走り始めた。

「ねえ、あの人逃げてるんじゃないかな?」

「あの変な男からか?」

 チリーの問いに、ニシルはコクリと頷く。

「僕達も追ってみようよ。あの人が困ってるなら、チリーは恩返しするべきだしね」

 ニシルの言葉に、チリーはだな、と頷いた。

「よし、行くぞ」

「うん」

「男の人同士だなんて……っ!」

 コクリと頷いたニシルの隣で、ミラルは未だにきゃーきゃー騒いでいた。

 そんなミラルの姿に、チリーは呆れ顔で溜息を吐いた。

「いつまでやってんだ……。ほら、行くぞ」

「え、あ……うん……って、ちょっと待ちなさいよ!」

 やっと正気に戻ったらしく、ミラルは慌てて走りだした二人の後を追いかけた。

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