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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
28/128

episode28「Awakening blade-4」

 まただ。またこの映像だ。またこの映像が……。

 夢なのはわかっている。既にこれは過去の出来事だ。

 しかし生々しく、何度でも蘇る。眠っていても、目覚めていても。

 砕ける剣。微笑するライアス。呆然とする――――自分自身。

 敗北の二文字が、チリーの中に叩きつけられた。


 ――――何度見れば、この映像から逃れられるのか。




 ガバリと。勢いよくベッドからチリーは身体を起こした。額を拭うと、ベットリとした厭な汗で濡れていた。

「チリー、随分うなされてたみたいだが、大丈夫か?」

 隣で、青蘭がベッドに腰掛けていた。心配そうな表情で安否を問う青蘭に、チリーは大丈夫だと答えた。

「チリーも起きたし、ミラルも連れて食堂行こうよ。僕お腹空いちゃってさ」

 そう言ってニシルは笑うと、ベッドから出た。

 何やら考え事をしているらしく、トレイズは無表情なまま、気まずそうな顔で自分を見ているニシルには反応を示そうとしなかった。

「ああ、そうだな。俺も何か腹減ったよ」

 そう言って頭をポリポリとかき、チリーはベッドから出た。

「ミラルは俺が連れて来るよ」

「ああ、頼む」

 青蘭が小さく頷いたのを見ると、チリーは部屋を後にした。



 部屋を出、ミラルのいる隣の部屋の前で、ピタリとチリーは動きを止めた。

「ミラル……」

 ボンヤリと。昨日のことを思い出す。

 薄らとだが覚えている。ライアスへの恐怖のあまり泣き叫ぶチリーを、ミラルは優しく抱擁してくれたのだ。彼女から感じる温かさに安堵し、チリーはミラルの胸の中で眠りについたのだった。

 今思い出すと、とてつもなく恥ずかしい。ミラルには感謝しているが、ニシル達の目の前であんなことを……。

 どんな顔で会えば良いのかわからないが、自分が連れて来ると言ってしまった以上、今更部屋に戻る訳にもいかず、チリーはミラルの部屋のドアを軽くノックした。

 コンコンというノックの音。そこから数秒待ったが、ミラルからは何の反応もない。

「寝てんのか……?」

 訝しげな表情で、再度ドアをノックするが、ミラルからの反応はない。

「おーいミラル。開けるぞー」

 ドアノブに手をかけ、ガチャリとドアを開けると、チリーは部屋の中へと入った。

 ミラルの部屋も、チリー達と同じ二人部屋なので、中はチリー達の部屋とあまり変わらない。

「朝飯食いに行こうぜー」

 しかし、ミラルからの返事はなかった。

 すぐにチリーは部屋の中をキョロキョロと見回すが、ミラルの姿はない。

「いない……のか?」

 妙なことに、ベッドの中はもぬけの殻だった。あのミラルが、先に朝食をとりに行くとも思えず、チリーは首を傾げてベッドを見つめる。

「……?」

 ベッドの上に、一枚の紙切れが置いてあった。何か書いてあるようなので、ミラルの書き置きかと思い、チリーはその紙切れを拾い上げる。

「――――ッ!?」

 内容を読み、チリーは絶句した。



「大変だッ!」

 勢いよくドアが開き、チリーの声が部屋に響く。

「何? どうかしたの?」

 呑気な顔で問うニシルの元へチリーは駆け寄ると、先程の紙切れをニシルへ手渡す。

 数刻、真剣な表情でニシルはその紙切れに書かれた文字を読み、読み終えるとすぐに表情を驚愕に歪めた。

「ミラルが……攫われた……?」

「「――――ッ!?」」

 全員の視線が、一瞬にしてニシルへと集められる。あまり周りのことへ反応を示さないトレイズでさえ、ニシルの方をジッと見ている。

「レオールって奴からだよ。研究所跡のある森の中で、白い奴を待ってるって。……白い奴?」

 すぐに、全員の視線がチリーへと移される。

 チリーのその白い髪は、正に「白い奴」と形容するに相応しかった。

「アイツ……ッ」

 ギュッと拳を握り締め、チリーは怒りで顔を歪めた。が、すぐにその表情は怯えに変わる。

 ――――絶対に殺してやるッ!

 脳裏を過る、レオールの「殺す」という言葉。

 気が付けば、無意識の内にチリーの身体はブルブルと震えていた。

「……チリー?」

 不意に動きを止めたチリーの肩に、ニシルがそっと右手を乗せた。

「お前……!」

 震えが、ニシルの右手へと伝わった。

「……悪い。俺じゃ駄目だ……。行けない……ッ」

 ゆっくりとニシルの右手を肩から払いのけ、チリーはどこか諦めたような表情で、ベッドへ腰掛けた。

「怖いんだ……。戦うのが……。殺されるかも知れないって戦いが、俺は怖いんだ……」

 ――――俺はもう、戦えない。そう呟き、チリーがうつむいたその時だった。

「おいバカチリ、ちょっとこっち向け」

 怒気の込められた、ニシルの声が聞こえる。

 ゆっくりとチリーが顔を上げると、そこには怒りで表情を歪めたニシルの顔があった。

「ニシル……」

 チリーの胸ぐらをニシルは勢いよく右手で掴むと、ニシルはチリーの頬を左手で殴りつけた。

 一瞬何をされたのかわからず、チリーは左頬に痛みを感じながらも、呆然とニシルを見つめる。

「何だよそれ……ッ! ミラルが……ミラルが攫われたんだぞッ!?」

 呆然とするチリーの胸ぐらを掴んだまま、ニシルは更に語気を荒げて言葉を続ける。

「僕は……青蘭やトレイズや……お前みたいになりたいって思ったんだ! どんな相手でも、どんな戦いでも、怯えることなく挑むことが出来るお前みたいに! そのお前が何だッ! 怖い? もう戦えない? 冗談じゃないぞッ! そりゃお前はライアスって奴に殺されかけたかも知れない……怖い目にあったかも知れない……だけどそれが何だ! 僕の知ってるチリーは、そんなことで怖気づくようなヘタレ野郎じゃないッ!」

 言い返す言葉もなく、チリーは呆然としたままニシルの言葉を黙って聞いていた。そんなチリーへ、ニシルは畳み掛けるように叫んだ。

「――――お前は、何をするために島を出たんだッ!?」

 ニシルのその言葉に、チリーの表情が一変した。

 ――――何をするために島を出たんだ?

 自問し、答えを思索する。

 王を、捜すため。既に王はいない。故に今の目的は、王の遺言通り赤石を探し出し、島の危機を救うためだ。

 決して――――決して戦いへの恐怖に囚われるために、島を出た訳ではない。

 カッと。チリーの双眸が見開かれた。

「チリー、お前が行かないなら、僕が行くぞ……」

 そう言ってニシルは背を向け、ドアへと歩み寄った。が、その肩を、チリーはガッシリと右手で掴んだ。

「おい、ちょっとこっち向け」

 チリーの言葉にニシルが振り返ると、チリーはすぐさまその左頬へ右拳を叩き込んだ。

「な、何を――――」

 言いかけ、ニシルはチリーの表情を凝視する。

 先程までの恐怖に囚われた表情はなく、そこにはいつもの……ニッと笑うチリーの表情があった。

「お返しだこの馬鹿ニシルッ!」

「この――――!」

 ピタリと。やり返そうとして振り上げた右腕を、ニシルはそっと降ろして微笑する。

「俺が行く……ッ! 呼ばれてんのは俺だからな!」

 そう言ってドアの方まで行き、ピタリと足を止めると、チリーは振り返り、ニシルの方へ視線を移す。

「サンキュな。目、覚めたぜニシル」

 ニシルはチリーに言葉では答えず、笑みを浮かべることで答えた。

 笑みの意味を察してか察せずか、チリーはすぐに駆け足で部屋を後にした。

 チリーの姿が見えなくなったのを確認し、青蘭は嘆息すると、ニシルへと視線を移した。

「ニシル……手、無事じゃないだろ? ホントは拳を握るのもやっとなんじゃないのか?」

 図星を指された、といった様子でニシルは微笑し、肩をすくめてみせると、大丈夫だよと答えた。

「トレイズ」

 そう言って、ニシルはトレイズの方へ視線を移した。

「昨日は……ごめんね。ついカッとなってさ……。謝る。何なら僕の顔に一発ぶち込んでも良い」

 ニシルの言葉に、トレイズは微笑し、いやと答えた。

「俺の方こそ悪かったな。お前が俺に謝る必要はない」

 トレイズの言葉に、ニシルはそっか、と答え、微笑んだ。



 景色が、凄まじい勢いで切り変わって行く。

 速く、もっと速く。ミラルの所へ……。それだけを考え、ひたすらチリーは森へ向かって走った。

 何人もの通行人を追い越し、チリーは森へとひたすらに走り続ける。

「待ってろよ……ミラル!」

 自分を急かすように呟き、チリーは更に足へ力を込めた。

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