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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第二部
25/128

episode25「Awakening blade-1」

 数百年前、「赤い雨」と呼ばれる現象が、アルモニア大陸ほぼ全土で起こった。

 大陸全土に降り注いだ「赤い雨」、もしくは「神の雨」と呼ばれる謎の赤い液体は、幾つもの不可思議な現象を引き起こした。

 そして、「赤い雨」を浴びた者の内大半が、不可思議な能力を手にした。

 人はその能力を神の力――――「神力」と呼んだ。





 研究所での戦闘から数日……。ヘルテュラのとある宿で、彼らは傷を癒すため滞在していた。

 青蘭はベッドに腰掛け、ギプスで固められている右腕をしげしげと眺め、ニシルは包帯の巻かれた両手の平をつついては痛い! と呻いている。そしてトレイズは、右腕全体に巻かれた包帯には目もくれず、険しい顔で何か考え事をしている。

「三人共怪我してるんだから……しばらくはここに滞在して、傷を癒しましょう」

 腰に手を当て、ミラルが心配そうに言う。すると、頭をポリポリとかきながら隣でチリーが仕方ねえなと呟いた。

「流石にこの怪我じゃ、このまま旅を続けるのは無理だよね」

 そう言って、ニシルは嘆息する。

「……そうだな。今は休んで、全員完治してから出発しよう。それで良いよな? トレイズ」

 そう言って、青蘭はトレイズの方へ視線を移す。

 青蘭の言葉に、トレイズは何も言わずに頷いた。

「そういえば、トレイズは私達と来るの?」

 コクリと。小さくトレイズは頷く。

「ああ。一人で動くよりは良い。それに、お前達なら足手まといにはならなさそうだ」

 そう言って、トレイズは腕を組んだ。

「意外だな。お前がそんなこと言うなんて」

 そう言ってチリーが笑むと、トレイズは微笑し、見たままに判断しただけだ、と呟いた。

「そうかい」

 そう言い、チリーはゆっくりと歩み寄るとトレイズへ右手を差し出し、ニッと笑った。

「とにかく、これからよろしくな」

「……ああ」

 左手で、しっかりとトレイズは差し出されたチリーの右手を握った。そして互いに目を合わせ、微笑する。見れば、他の三人もトレイズへと視線を向け、微笑んでいた。

 トレイズを、全員が受け入れた証拠である。

「それにしても、トレイズみたいに強い人が仲間になってくれるなら、チリーみたいに弱いのはいらないよねー」

 クスクスと。チリーを見ながらニシルが笑う。それを見、チリーは何だと!? と怒りを露にしながら拳を振り上げ、ニシルの方へ早足で近づく。が、「弱い」という言葉に反応し、チリーの脳裏をある映像が過る。


 鳴り響く凄まじい破壊音。目の前で砕けていく――――己の剣。

 圧倒的なまでに己へと叩きつけられた――――敗北。

 ――――やっぱり、気持ち良いよね……何かが爆ぜると。

 生々しく蘇る、ライアスの言葉。


 ゆっくりと。振り上げていた拳を、チリーは降ろした。それを見、ニシルは不思議そうに小首を傾げる。

「そう……だよな」

 呟き、チリーはニシルへ背を向けた。

「チリー……どうしたの?」

 心配そうにミラルが問うたが、チリーはその問いには答えず、部屋のドアへ歩み寄ると、ノブへと手をかけた。

「……どこに行くんだ?」

 青蘭が問うと、チリーは振り返って青蘭へと視線を移す。

「悪い。ちょっと外の風に当たってくる」

 そう言って微笑すると、チリーは部屋の外へと出て行った。

 バタンと音がし、ドアが閉まったのを確認すると、一斉に一同の視線はニシルへと写される。状況が把握出来ず、え? え? と三人の顔をニシルは交互に見ている。

「もしかして……僕のせい?」

 自分の顔を指差し、ニシルが問うと、三人はほぼ同時に頷いた。

「でも変だな……。いつものチリーなら、あそこはニシルと小突き合いを始めるところなんだが……」

 そうよね。と、ミラルは青蘭の言葉に頷く。

「アイツの剣は、砕かれた」

 呟くように、トレイズが言う。砕かれた? と問うたミラルにコクリと頷き、トレイズは言葉を続ける。

「お前は気絶していて見ていないようだが、あのライアスとか言う奴との戦いで、チリーの能力――――あの大剣は砕かれた。恐らくだが、あれがアイツにとって初めての……圧倒的な敗北だったのだろうな」

 そう言って、トレイズは嘆息する。

 圧倒的な、敗北。よくよく思い出してみれば、今までチリーがキリト以外の人間に負けたことなどあっただろうか。それも、圧倒的にだ。

 今まで負け知らずだったハズが、ある日突然圧倒的な敗北を喫した時の気分は、一体どのようなものなのか……。ミラルには想像も出来ない。しかしそれでも、チリーの心に何か大きな穴のような物が空いたのではないか、それくらいは容易に想像出来た。

「……私、チリーの所へ行って来る」

 そう言い残すと、ミラルは駆け足で部屋の外へと出て行った。

 そんな彼女の後ろ姿を見、ニシルは青蘭達の方へと視線を移す。

「……やっぱり、僕のせい?」

 気まずそうに苦笑するニシルに、青蘭とトレイズは静かに頷いた。



 部屋を出て階段を降りると、ミラルは宿の広間へ向かった。

 規模の小さな宿故、ロビーに人は少なかった。チリーは外の風に当たってくる、と言っていたので、ロビーにいる可能性は低かったが、ミラルはチリーの姿を捜し、辺りをキョロキョロと見回す。

 すると、幾つかある席の一つに、白く長いボサボサの髪に包まれた頭を見つけた。どこにいても目立ってしまいそうなその後ろ姿は、紛れもなくチリーの物だった。

 ミラルは、その後ろ姿にゆっくりと歩み寄ると、隣の席に座った。

 隣にミラルが座ったことに気付き、ピクリと頭を動かすと、チリーは隣のミラルへ視線を移した。

「外の風に当たってくるんじゃなかったの?」

 微笑し、ミラルが問いかける。

「……気が変わったんだよ」

 呟くようにそう言うと、チリーはミラルから目線を逸らした。

 何かあったの? と。そう問いかけたかったのだが、ミラルから目を逸らしたことから察するに、チリーはこのことに関して触れられたくないのだろう。

 昔からそうだった。チリーは、触れられたくないことに関して問われると、必ず相手から目を逸らす。昔、ミラルがチリーの母親について問うた時もそうだった。チリーのお母さんって、見たことないけどどんな人? というミラルの問いに、チリーは視線を逸らして関係ないだろと、ぶっきらぼうに答えた。その時はあまりにぶっきらぼうな答えに多少腹を立てたものだが、あの後キリトから、チリーの母親が既に亡くなっていることを聞き、何だかチリーに申し訳なくなって謝りに行ったのをミラルは覚えている。

 変わってないなぁ。そう思い、ミラルは再度微笑した。もう、あの質問をした時から何年も経っている。キリトとの修行で随分と強くなったし、身体も大きくなった。なのに、変わってない。それがミラルには嬉しく感じた。

「王様のこと、聞いたよ」

 ミラルがそう言うと、チリーはミラルへ視線を戻し、表情を驚愕に歪めた。

「聞いたのか!?」

 コクリと。ミラルは頷く。

「青蘭から、私が聞いたの。チリーは、『ミラルには黙ってろ』って皆に口止めしてたみたいだけど……。青蘭は、『やっぱり事実を知っておくべきだ』って」

 ミラルの言葉に、チリーは口籠る。

「心配、してくれたんだよね?」

 そう言って、ミラルは微笑んだ。

「そんなんじゃねえよ……。お前に、また気絶されちゃ困るからな」

 ぶっきらぼうに答え、チリーはミラルから目を背けた。

 その様子を、ミラルの言葉に対する肯定だと受け取り、ミラルはクスリと笑った。

「確かにすごく怖かったし、信じられなかった。だけど、それでも私は……受け入れなくちゃいけない」

「……。島に戻っても、良いんだぞ」

 目を背けたままチリーが言うと、ミラルは首を振り、嫌と答えた。

「私が、自分で決めたことだから」

 ミラルのその言葉に、チリーはゆっくりと視線をミラルへと戻した。真っ直ぐで、真摯な目が、チリーをしっかりと見据えていた。

「チリー達と、外の世界を見るって……王様を捜すって、私が決めたことだから。最後まで、私は一緒にいる」

 駄目? 不安気な表情で、ミラルはチリーへ問うた。

「強いな。お前は」

「え?」

 ニッと。チリーはミラルに微笑んだ。

「変なこと言って、悪かったな。島に戻っても良いだなんて……」

 チリーの言葉に、ミラルは静かに首を横に振った。

「ううん。心配して言ってくれてるのは、わかってるから」

 そう言って、ミラルが微笑んだその時だった。

 ガチャリと音がして、玄関のドアが開き、数人の男達がロビーの中へと入ってくる。

 サングラスをかけ、厳しい恰好をした男達の中に、背の低い……まるで少年のような風貌の男がいた。その男は、カウンターまで歩み寄ると、従業員の男性におい、と声をかけた。

「ゲルビアのレオールだ。少し、聞いても良いか?」

 ゲルビアという単語にピクリと反応し、チリーとミラルはほぼ同時にカウンターの方へと視線を移す。

「は、はい……。どうぞ……」

 相手はまるで少年のような人物だというのに、ゲルビアという単語を聞いたせいか、男性は完全に委縮している様子だった。

「五人組が、ここに泊まっていないか?」

「五人組……と言いますと?」

「ガキを数人を含んだ五人組だ。そうだな……白い、ロン毛の奴がその中にいる」

 レオールと名乗った男が、そう言うと同時に、従業員とミラルの視線がチリーの方へと移される。それに気付き、レオールもチリーの方へ視線を移した。

「……お前か」

 呟き、レオールは微笑した。チリーは席から立ち上がると、レオールをギロリと睨みつけた。

「だったらどうなんだよ……?」

 チリーが問うと同時に、レオールの両腕が、刃へと変わる。両腕で弧を描くように曲がった刀身が天上の電球に照らされ、キラリと光った。

 一目で、神力使いだと判断出来た。

「研究所を壊滅させた五人組の一人……との報告が入っている。大人しく俺と来てもらおうか」

「はいそうですか、ってついて行くとでも思ってんのか?」

 嘲るように、チリーが微笑すると、レオールは右腕の刃を構え、チリー目掛けて突っ込んで来た。

「行くぜ……ッ!」

 チリーが身構え、大剣を出現させようとした――――その時だった。

「――――え?」

 短く、チリーが驚愕の声を漏らす。その隣でミラルも、状況が把握出来ずに表情を驚愕に歪めている。

 その間にもレオールはチリーとの距離を詰め、チリー目掛けて右腕の刃を突き出した。

 素早く、チリーは身をかわすが、その表情は驚愕に歪んだままだった。

「どういう……ことだよ……?」

 本来なら、大剣が握られているハズの自分の右手をチリーは見つめる。

「剣が……出ねえ」

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