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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
23/128

episode23「Broken blade」

「どういうことだよ……ッ!?」

 ギロリと。チリーはライアスを睨みつける。

「そのままの意味だよ。僕は君を殺しにきた。それ以上でも、それ以下でもない」

 ライアスはニコリとチリーに微笑み、トレイズとアレクサンダーの方へ視線を移す。

「ああ、そっちは続けてて良いよ。君らには用、ないから」

 クスリと笑い、ライアスは再度チリーへ視線を移した。

「何で俺が殺されなきゃならないんだッ!? 訳わかんねーよッ!」

「そうだね。僕にもわからない」

「な――――ッ!?」

 ライアスはポリポリと頭をかき小首を傾げた。

「でもね。ハーデンはチリーが邪魔みたい。よくわかんないけどね」

「ハーデンって……誰だ……?」

「王様だよ。ゲルビアの。知ってるでしょ?」

 尚更訳がわからない。何故ゲルビアの王ともあろう人物が、神力使いとは言えただの少年であるチリーを殺さねばならないのか。確かに島を出てから、ゲルビアからすれば害になるような行為ばかり行った。フェキタスでの基地壊滅、エリニアでの青蘭暗殺妨害、ドゥナイでは隊長を一人撃退。しかし、王直々に命を狙われるようなことをした覚えはない。

 不可解だった。

「もう良いからさぁ……爆ぜてよ、チリー」



 ジッと。アレクサンダーはトレイズを睨み続けている。いつ飛びかかって来るかわからないため、トレイズもアレクサンダーから目を離さない。

「王……ッ」

 スッと。トレイズはアレクサンダーへ右手をかざす。すると、トレイズの右手の前へ数個、大人の拳大程度の大きさの氷塊が出現する。

「オオォォッ」

 アレクサンダーが唸り声を上げた――――と同時に、氷塊はアレクサンダー目掛けて発射される。

 鈍い音がし、氷塊はアレクサンダーの身体に全て直撃する。

「オオッ!?」

 悲鳴にも似た声を上げ、アレクサンダーはそのまま勢いよく派手に吹っ飛んだ。が、アレクサンダーは壁の方まで吹っ飛ぶと、空中で受け身を取り、両手両足で壁に着地するとそのまま壁で踏み込み、トレイズ目掛けて跳びかかって来た。

 飛びかかるアレクサンダーを、トレイズは素早く避けるが、振られたアレクサンダーの腕までは避け切れず、胸部に爪による軽い擦過傷を受ける。

 アレクサンダーは地面へ着地すると、すぐに方向を転換し、トレイズの方をギロリと睨んだ。

「オオオォオォォッ!」

 アレクサンダーは雄叫びを上げると、再度トレイズへ跳びかかって来た。トレイズは素早く身をかわし、アレクサンダーへ右拳で殴りかかる。しかし、アレクサンダーは身を屈め、トレイズの拳をかわした。

「ッ!?」

 そして突き出されたトレイズの右腕に、アレクサンダーは勢いよく噛み付いた。

「ぐ……ッ!」

 腕を振り、アレクサンダーを引き離すと、トレイズは数歩退き、アレクサンダーから距離を取った。



 ゆっくりと。ライアスはチリーの方へと歩み寄って来る。その速度の緩さが、逆にチリーへ恐怖を与えた。

 先程の現象から察するに、ライアスの能力は――――触れた物を破壊する能力。でなければ、爆ぜたディートの頭部を説明することが出来ない。

 チリーは大剣を出現させ、構えると、ゆっくりと歩み寄って来るライアス目掛けて駆け出した。

「お前の能力が触れた物の破壊なら……触れさせないッ!」

 ライアスの眼前まで迫ると、チリーはライアス目掛けて大剣を斜めに振り降ろす。が、チリーの大剣は、ライアスの身体へ達する前に停止した。

「な――――ッ!?」

 素手で。素手でライアスはチリーの大剣を止めていた。その手は無傷で、血すら滲んでいない。

 よく見れば、大剣を止めるライアスの右手には、何やらエネルギーのような物が迸っていた。恐らく、物質を破壊する際に使用する神力だろう。それを放出せずに右手へ留めておくことで、チリーの大剣を止めているのだ。

「応用すればこんなことも出来る。早く離さないと、壊すよ?」

 慌ててチリーは大剣をライアスの右手から離し、バックステップでライアスから距離を取る。

「……厄介だな。その能力……ッ」

「みんなそう言うよ。そしてその後、爆ぜて死ぬ」

 ニコリと。ライアスは微笑んだ。



 両手の平が痛む。この手では、ドアノブを握ることさえままならない。

 ニシルは、ドアさえ開けられない自分の現状に歯噛みした。

「やっぱ無茶するんじゃなかったなぁ……」

 嘆息し、これからどうするか思索しようとした時だった。

 ガチャリと。後方でドアの開く音がする。

 慌てて振り返ると、そこにいたのは右腕を押さえている青蘭だった。

「青蘭!」

 青蘭は苦痛に顔を歪めつつも、左手を上げた。

 そしてゆっくりとニシルの元へ歩み寄って来る。

「大丈夫? 腕、折れてるの?」

「多分……な。それよりも、お前の両手の方が心配だよ」

 青蘭の右腕を包むように差し出されたニシルの両手を一瞥し、青蘭は苦笑した。

「そう言えばさっき、変な奴がここを通らなかったか?」

 青蘭が問うと、ニシルはコクリと頷いた。

「通ったよ。アイツ……何者なんだろう。大通りで一度僕達に話しかけてきた奴なんだけどさ……。ここ通る時、チラリと僕の方見ると、微笑してそのまま奥に行っちゃったんだ。訳わかんなくて、ついついそのまま行かせちゃったけど……」

「敵なら……チリー達が危ないな」

 コクリと。青蘭の言葉にニシルは頷いた。

「あ、そう言えば怪我してるとこ悪いんだけど……この手じゃこのドア、開けられそうにもないんだ。頼めるかな?」

「ああ、任せろ」

 青蘭はドアの前まで歩き、左手でそのドアを開けた。

「チリー達は、この先か?」

「うん。王様も、この先にいるって」

 二人は顔を見合わせコクリと頷くと、ドアの向こうへと歩いて行った。



 ――――凍らせる。

 何らかの方法でアレクサンダーの肉体へ直接触れ、凍らせることで動きを止める。もしかすると、一度気絶させれば自分のように自我が戻るかも知れない。

 そこまで考え、トレイズは目の前のアレクサンダーへと視線を移す。

 如何にしてアレクサンダーの肉体へ触れるか……簡単なことだ。

 ――――噛み付かせれば良い。

 ディートの命令通り、アレクサンダーはトレイズを餌と認識している。故にアレクサンダーは噛み付いて来るのだ。そこを逆に利用する。

 苦痛を伴うが、そんなことを一々気にしている場合ではない。

 スッと。アレクサンダーへ右腕を突き出す。

「オオオォォォッ!」

 咆哮し、トレイズの思惑通りにアレクサンダーは大口を開けて跳びかかって来た。

 ガブリと。アレクサンダーは突き出されたトレイズの右腕に噛み付いた。

「ぐ……ッ!」

 呻き声を上げ、歯を食いしばってトレイズは苦痛に耐える。

 そして左手で、アレクサンダーの身体に触れる。

「おおおおおッ!」

 凄まじい勢いでアレクサンダーの身体は凍っていく。次の瞬間には、アレクサンダーの身体は完全に凍り、その場にドサリと落ちた。

「ハァ……ハァ……」

 力を使い果たし、息を荒げながらトレイズはその場に座り込む。

「チリー……」

 そして呟き、ライアスと戦闘を続けるチリーの方へと視線を移した。



 またしても、チリーの大剣はライアスの右手に受け止められる。すぐにチリーはライアスの右手から大剣を離し、舌打ちする。

「鬱陶しい……ッ!」

 まるで遊ばれているかのようだ。

 その証拠に、攻撃が当たらないためチリーは苛立ち、ライアスはそんなチリーを眺め、笑みを浮かべている。

「そろそろ……こっちから行こうかな」

 クスリと笑みライアスはゆっくりとチリーの方へと歩み寄る。

 あの手に触れられると……破壊される。

 無意識の内に、チリーは後退していた。

「行くよ」

 呟くように言うと、ライアスは右手を構え、チリー目掛けて駆け出した。

「ッ!?」

 眼前まで迫り、チリーの頭部目掛け、ライアスは右手を突き出した。

 すかさずチリーはそれを防ぐために大剣を盾のように構える。その大剣に、ライアスの右手が触れた。

 その時、ガチャリとドアが開き、部屋の中へとニシルと青蘭が入って来る。

「チリー、トレイズ!」

 二人が辺りを見回した――――その時だった。


 凄まじい破壊音と共に、ライアスの手によってチリーの大剣が砕けた。


 砕けていく大剣をチリーは驚愕の目で見、そんなチリーを見てライアスはクスリと笑った。

「チリーッ!」

 そのまま勢いに押され、チリーはその場にドサリと尻餅を付いた。

「やっぱり、気持ち良いよね……何かが爆ぜると」

 呆然とした表情でその手に握られた……破壊されずに残った大剣の柄を見つめるチリーを、ライアスは恍惚とした表情で見つめた。

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