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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
22/128

episode22「Remodeled king-2」

 アレクサンダー。小国、テイテスの失踪した王。

 そのアレクサンダーが、チリー達が捜していた王が、今目の前にいる。変わり果てた姿でだ。

 アレクサンダーはこちらを睨みつけ、歯を剥き出して唸っている。その姿に、過去の面影と風格は微塵も感じられなかった。

 まるで――――獣。

「おい……ッ! どういうことなんだよッ!? これはッ!?」

 怒りを剥き出しにするチリーを鼻で笑い、ディートはアレクサンダーを指差した。

「こういうことさ。テイテスから連れて来られた王、アレクサンダーは、王の求めるアレの在処を知らなくてね……。役にも立たないし、処分するのも面倒だから、グラウスが洗脳兵にしようとした結果、失敗して今の状態になったのが彼だよ」

「洗脳兵……だとッ」

 グッと。拳を握りしめたチリーの隣で、トレイズが早歩きでディートの元へ歩み寄った。

 凄まじい形相で睨みつけ、トレイズはディートの胸ぐらを掴んだ。

「元に戻せ……」

 その声は、怒りに打ち震えていた。

「王を……元に戻せッ!」

 叫ぶトレイズに、ディートはククッと笑って見せた。

「無理だよ。ばぁーか」

 次の瞬間、鈍い音がしてディートはその場に倒れた。

「トレイズッ!」

 殴ったのだ。怒りで震えるその右拳で、トレイズはディートの顔面を全力で殴ったのだ。

 トレイズは倒れたディートの胸ぐらをもう一度掴み、持ち上げる。

「元に戻せッ!」

「無……理……」

 もう一発。トレイズの拳がディートの顔面に直撃する。

 ディートはそのまま吹っ飛び、後方の壁へと背中から激突する。

「……糞ッ! 俺がいながら……ッ」

 アレクサンダーの方へ視線を移し、トレイズは歯噛みする。

「何なんだよ……畜生ッ!」

 ディートを先に殴られたせいもあってか、怒りをどこにぶつければ良いかわからず、チリーは足元を思い切り殴りつけた。

「こんなの……アリかよ……ッッ! 俺は……俺はどうしたら……ッ!」

 歯噛みする二人を嘲笑うようにクスクス笑いながら、ディートがゆらりと立ち上がる。

「王様ァ……テイテスの王様ァ……ッ! この僕を二度もぶったそいつをさァ……ぶっ殺してよォ……ッ!」

 ニタニタと笑いながら、千鳥足でアレクサンダーの檻へと近付いて行く。

「貴様……ッ!」

 トレイズを押し退け、アレクサンダーの檻の傍まで来ると、ディートは檻を開け、中へと入ると、白衣のポケットから鍵を一本取り出した。そしてその鍵を、アレクサンダーの右腕を繋いでいる鎖の鍵穴へと差し込む。

「洗脳だけは成功しててさァ……。言う事だけは聞くんだよねェ……ッ! 実験のため、毎晩町の愚民共を餌代わりに食わしたりもしてたんだよォ……! 実践だァ! アレクサンダー君ッ!」

「毎晩町の……まさかッ!?」

 チリーの脳裏に、大通りで老人に聞いた話が過る。

 毎晩、老若男女問わず一人は殺されている。

 恐らく、ディートがアレクサンダーにやらせたのだろう。町の人達を、毎晩餌代わりにアレクサンダーに食べさせていたのだ。

 ガチャリと音がして、アレクサンダーの右腕を繋いでいた鎖が外れる。

 ディートは素早くその場から離れ、檻の隣まで来ると、トレイズの方へ視線を移し、ニヤリと笑った。

「さあアレクサンダー君! ちょっと早いが今日のご飯だッ! そこのロン毛を食っちまえェェ!」

 右腕が自由になったアレクサンダーは、左腕を繋いだ鎖に手をかけると、勢いよく引き千切った。

 両腕が自由になり、両足の鎖も同じように引き千切ると、咆哮した。

「オオオオオオオオォォォォォォッッ!!」

 アレクサンダーの咆哮が、部屋中に響いた。

「王……何故このような……ッ」

 ギロリと。アレクサンダーがトレイズを睨みつける。

「トレイズッ!」

 危険を察したチリーが、素早く大剣を出現させ、構える。が、トレイズはチリーを制止した。

「来るなッ! 王は……俺がッ」

「どうするつもりだトレイズッ!」

「俺が、俺の手で……王を、王の名誉のために……ッ」

 ――――殺す。

 そう言い、トレイズは四つん這いでこちらを睨みつけるアレクサンダーへと視線を移す。

「貴方の名誉は……俺が守ります!」

「オォォオオォォォッ!」

 アレクサンダーは一吠えすると、口を大きく開き、トレイズ目掛けて飛びかかって来た。

 トレイズはそれを素早くかわし、着地したアレクサンダーへ右手をかざす。

「王……ッ」

 その右手の前に、氷塊は出現しなかった。

「トレイズ! 躊躇ってる場合じゃねえッ!」

「――――ッ!?」

 チリーが叫んだ時には既に遅く、かざされたトレイズの右手には、アレクサンダーが噛み付いていた。

「ぐあ……ッ!」

 激痛に呻き声を上げ、トレイズは噛み付かれた右腕を振る。思いの外簡単にアレクサンダーは腕から離れ、トレイズから距離を取った。

「く……ッ」

 アレクサンダーの歯は、人間の歯とは思えぬ鋭さであった。まるで犬か狼。その鋭い歯で、トレイズの右腕は噛み付かれたのだ。

 トレイズは服の左袖を引き千切り、右腕の傷口を素早く縛り、止血する。

「おい! 大丈夫かッ!?」

 安否を問うチリーの声には答えず、トレイズはアレクサンダーを凝視する。

「ハハハハハハーッ! 食われちまえ糞ロン毛ェーッ!」

 ディートはトレイズを指差し、ゲラゲラと笑うと、眼鏡の位置を右人差し指で直した。

「ォォォオオオオオッ!」

 雄叫びを上げるアレクサンダーの前で、トレイズは左手を前に突き出した。

「貴方に刃を向けることを……どうかお許し下さい」

 トレイズの左手で、徐々に氷がある形を成していく。

 ――――剣。氷によって構成された、長い剣がそこに形成されたのだ。

 トレイズは左手で剣を握り、構えた。

「オオオォォォッ!」

 アレクサンダーは雄叫びを上げるとトレイズ目掛けて、大口を開けて突っ込んで来た。

 その口目掛けて、トレイズは勢いよく剣を突き出す。が、剣はアレクサンダーに刺さらなかった。

「噛んだッ!?」

 チリーの叫んだ通り、アレクサンダーはトレイズの剣の刃先を、歯で止めていたのだ。そして更に強く剣を噛み、やがて氷によって構成されたその剣は、音を立てて折れた。

「俺の剣でも壊せない氷だぞッ!!」

「いや、ドゥナイで使っていた氷は洗脳の副作用で硬度が底上げされていた……ッ! だが、あの時より硬度が随分落ちているとは言え、俺の氷は歯で噛み砕かれるような硬度ではないハズだッ!」

 トレイズは折れた剣を投げ捨て、アレクサンダーの方へ視線を移した。その時だった。

 ガチャリと。チリーの背後でドアが開いた。

「ニシルと青蘭かッ!?」

 チリーが振り向くと、そこにいたのはニシルでも青蘭でもなかった。

「お前……は」

 大通りで、チリー達に道案内を頼んだあの少年であった。

「ふぅん。侵入者の話を聞いて来てみたけど……。君だったんだ」

 少年は興味深げにチリーを見、ディートの方へ視線を移した。

「何だお前はッ!? 勝手に僕の拷問部屋に入って来るな!」

 少年を指差し、ディートは少年を睨みつけた。

「うるさいな……。ちょっと黙ってよ」

「何だとお前! 僕に向かって何なんだその態度はッ!」

「ああ、そっか。僕のこと知らないのか」

 喚くディートの方へと、少年はゆっくりと歩み寄る。

 そしてそっと。少年はディートの頭を掴んだ。

「何をする……!?」

「もう一度だけ言うよ? うるさいから、ちょっと黙っててよ」

 その二人の様子を、チリーとトレイズはおろか、アレクサンダーでさえもが凝視していた。

「僕に命令するなッ! クソガキの分際でェ!」

 怒鳴り散らすディートを一瞥し、少年はクスリと笑った。

「馬鹿だなぁ」

 次の瞬間、チリーとトレイズの顔は驚愕に歪んだ。


 凄まじい破裂音と共に、ディートの頭部は爆ぜた。


 ディートの頭部に爆弾が仕掛けてあったとは到底思えない。もし今のが爆弾による爆発ならば、少年は無事では済まないだろうし、派手に炎が燃え上がっても良いハズだ。しかし、実際少年は無傷。炎など燃え上がらず、ディートは頭部だけが爆ぜ、残りの身体はドサリと音を立ててその場に倒れた。

「これは…………ッ!」

 ディートの頭部は跡形もなく消え、頭部を失った首からは、ドクドクと大量の血が溢れ、その場に赤い水溜りを作っていた。

「あぁ、快感……。何かが爆ぜると気持ちが良いね」

 少年は恍惚とした表情で笑うと、尚も血を流すディートの身体を一瞥する。

「馬鹿だなぁ……。静かにしておけば、別に殺す必要もなかったのに」

 少年は微笑むと、チリーの方へと視線を移した。

「こんにちは」

「お、お前……ッ」

「僕はライアス。チリー、だよね? 聞いてるよ。ハーデンから」

 少年――――ライアスはニコリとチリーに微笑みかけた。

「殺しに来たよ。チリー」

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