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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
21/128

episode21「Remodeled king-1」

 暗い一本道の廊下を、三人は走っていた。次のドアまでは意外に遠く、先は中々見えてこなかった。

 本当にこの先に、テイテスの王――――アレクサンダーはいるのだろうか。グラウスは確かに「この奥で待っている」と答えた。しかし、それが真実である確証などどこにもない。むしろ偽りである可能性の方が十分に高い。

 それでも、この奥にアレクサンダーがいる。そう仮定しなければ進めない。有力な情報はグラウスの言葉だけなのだから。

 不意にピタリと。トレイズが足を止めた。それに釣られてチリーとミラルも足を止め、不思議そうな顔でトレイズへ視線を移す。

「どうしたんだよ?」

「一つ……お前達に謝らなければならないことがある」

 小さく言い、トレイズは振り向き、チリーとミラルを真っ直ぐに見た。

「俺はお前達のことを誤解していた」

「誤解……?」

 ミラルが問うと、トレイズはコクリと頷き、言葉を続けた。

「俺はお前達のことをただのクソガキくらいにしか思っていなかった。こうして島の外に出ているのも、単なる好奇心だけで王の捜索など二の次にしているような連中だと……勝手に思っていた」

 だが、違うんだな。トレイズは小さくそう付け足した。

「トレイズさん……」

「トレイズで良い」

 初めて、トレイズがチリー達へ微笑んだ。

「だったら、俺も謝らなきゃだな」

 腕を組み、チリーはうんうんと何かを納得したように頷く。

「俺も、お前のことを自分勝手で融通の利かないクソヤローだと思ってた。でも、違うんだよな。お前は、少しだけだけど俺達のことを仲間だと思ってて、青蘭やニシルにも、ちゃんと礼が言えるような……そういう奴なんだよな」

 チリーの言葉にクスリと笑い、トレイズはそっと手を差し出した。

 それを見、チリーもニッと笑い、その手を握った。

「王様を、絶対に助けだそうぜ」

「当然だ。お前に言われなくてもな」

 二人は顔を見合わせてニッと笑い、手を離すと前を向いた。

「進むぞ」

 チリーの言葉に、トレイズとミラルはコクリと頷き、また走り出した。


 しばらく進むと、やっとのことでドアが見えた。

「この先に……王様がいるのね」

 ミラルの言葉に、隣でチリーがコクリと頷く。

「助けるぜ……王様を! そしたら王様を連れて、みんなでテイテスに帰ろう。青蘭も連れてさ……。島の外で見て来たこと、親父に日が暮れるまで語ってやろうぜ!」

 そうだな。と呟いて同意し、トレイズは微笑んだ。

「そうね。私も、おじさん達に黙って出ちゃったから……」

「行くぞ」

 チリーの言葉に、二人がコクリと頷く。

 そしてチリーはドアノブを握り、ゆっくりと回し、ドアを開けた。

 その先は、妙な部屋だった。

 暗く、殺風景な部屋であった。飾りも何もない、石で出来た壁と床に囲まれた殺風景な部屋。よくよく見れば様々な拷問道具と思しき道具達が壁にかけられていたり、無造作に床へ転がっていたりした。

 そしてこの部屋の中心――――大きな、ライオンでも入れるかのような檻が一つ置いてあった。暗くて中に何が入っているのかわからない。が、ガタガタと時折揺れるため、何かが入っていることは明白であった。

「王は……どこに?」

 呟き、トレイズが辺りをキョロキョロと見回した――――その時だった。

「ようこそ、僕の拷問部屋へ」

 不意に、男の声が聞こえる。数歩足音が聞こえ、その声の主は闇の中からチリー達の前へ姿を現した。

「僕はディート。君達侵入者のことは、上の研究員から聞いてるよ」

 ディートと名乗ったその男は、ニヤリと笑った。

 小柄な体躯、全く手入れをされていないようなボサボサの頭、ディートは眼鏡の位置を右の人差し指でクイクイと直し、もう一度チリー達へと視線を移した。

「お前の名前なんて今まで食ったパンの枚数よりどうでも良いんだよ。俺達の質問にだけ答えろ。テイテスの王様はどこだ?」

 チリーの問いに、ディートはククッと厭らしく笑う。

「何がおかしい?」

「いいや別に……」

 ディートは神経質そうに眼鏡の位置を直す。

「いるのかいないのか、答えろ。死にたいのか?」

 眉間にしわを寄せ、トレイズが問う。

 そんなトレイズを見、ディートはクスリと笑った。

「さっきからテメエ何笑ってんだ!? 言いたいことがあんならハッキリ言えこの根暗眼鏡ッ!」

「根暗眼鏡とは心外だな……。確かに僕は根暗で眼鏡だけど……」

「ピッタリ当てはまってんじゃねーかッ!」

 ディートはクスリと笑うと、傍にある大きな檻へよりかかった。

「会いたいかい? 君達の王様に」

 ディートの問いに、当然だ。とトレイズが静かに答える。

「そうだよねェ……。そのためにここまで来たんだもんねェ……。仲間を犠牲にしてまでさ」

「犠牲じゃねえ……ッ! アイツらは、俺達を先に行かせるために……ッ!」

「犠牲になったんだろ? 認めろよ。否定する程卑劣なことじゃない」

 チリーにそう言い、ディートは再度眼鏡の位置を尚した。

「そんなことより、会いたいんだろ? 王様にさ。会わせてやるよ……。優しいだろ? 僕ってさ」

 ディートは微笑むと、檻に寄りかかるのを止め、檻の前へ立った。

「テイテスの王であり、そして天才科学者グラウスの失敗作――――アレクサンダー君の登場だよ君達ッッ! 拍手で迎えたまえッ!」

 パチンと。ディートが指を鳴らすと同時に、天井の電球が光り、ディートの後ろにある巨大な檻を照らす。

 光りに照らされ、檻の中に閉じ込められていた何かの姿がチリー達の視界に飛び込む。


「――――――――――え?」


 小さな、驚愕の声。

 突然過ぎて、叫ぶことさえままならない。

 檻の中に閉じ込められていたのは――――人だった。紛れもない人間。一人の人間。

「嘘よ…………っ!」

 その場に、檻を凝視したまま驚愕に表情を歪めたミラルが膝を付く。

「だって……この人は……何で……どうして……っ!」

 チリーは、ミラルは、トレイズは――――この男を知っている。随分前から、島にいる時から知っている。

 同時に、捜し求めていた人物でもあった。

 傷だらけの身体、その両腕と両足は、檻の中で鎖に繋がれていた。

 美しい金髪は全て抜け落ちたのか、男の頭には毛が一本も生えていなかった。

 上半身は衣類を一切身につけておらず、その傷だらけの身体を露にしている。

「嘘……だろ……ッ!?」

 驚愕に顔を歪め、チリーが檻の中を凝視する。

「そうだッ! その顔だよッ! 僕はお前達のその顔が見たかった! 後世まで残したい程に傑作だッッ! 写真に写しておきたい……。残念ながらカメラを持ち合わせていないがね」

 驚愕で硬直する三人を見、ディートはニヤニヤと笑っている。

「こんなの……信じられる訳ないじゃないっ! 嘘よ! 全部出鱈目よっ! あり得るハズがないじゃないっ!」

 金切り声を上げ、頬を両手で包み、ミラルが首を振りながら金切り声を上げる。

「おい、ミラル! 落ち着け!」

「いやっ! いやいや! 絶対嘘よっ!」

「ミラルッ!」

 チリーの声は既に届いておらず、ミラルは尚も金切り声を上げながら首を振り続けている。

「俺だって……信じられねえよ……ッ!」

「そうよ! 夢よっ! 全部夢よ!」

 暴れるミラルを、チリーはそっと抱き寄せた。

「そうだ。夢だ……。だから、見なくて良い。お前は……もう見なくて良い」

 ギュッと。震えるミラルの肩を抱き寄せる。抱き寄せているチリーの手もまた、震えていた。

「夢……」

「ああ。少し休んでろ」

 カクンと。ミラルの肩から力が抜けた。

 ミラルは、気を失っていた。

 そんな彼女をそっとその場に寝かせ、チリーは再度、目の前の現実を見据えた。

 この部屋の中心、檻の中で鎖に繋がれとその人物を、チリーは真っ直ぐに見据えた。

「貴方は……ッ」

 沈黙していたトレイズが、口を開いた。

 そして、檻を凝視し、決定的な一言を呟いた。

「王…………ッ!」

 ――――一瞬、世界が壊れたように感じた。

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