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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
19/128

episode19「Machine body-1」

 青蘭がヘルマンとの戦闘を開始している頃、チリー達はドアの先へと進んでいた。

 あのドアの先にはしばらく廊下が続いており、その奥にはドアがあった。

 何も言わず、トレイズがガチャリとドアを開き、四人はその中へと入って行く。

「ここは……」

「どうやら、人体実験の部屋らしいな」

 小さく、トレイズが呟く。

 その部屋の周囲は、謎の液体で満たされているカプセルに囲まれていた。左右に数個ずつ、カプセルが設置されており、何も入っていないカプセルもあるが、中には人間らしき物の入ったカプセルも存在した。

「人体実験の部屋って……! 命を何だと思ってるのよ!」

 辺りのカプセルを見回し、ミラルが言い放った――――その時だった。

「見て!」

 ニシルの指差す方向――――この部屋の中央へ三人が視線を移すと、床が動いているのだ。まるでスライドするかのように床がずれて行き、やがて巨大な長方形の穴が出現した。そして機械音と共に長方形の穴から何かがせり上がって来る。

「命を何だと思っているのか……その問いに、我々科学者は答える義務がある」

 しわがれた、老人の声が穴の下から響いて来る。

「――――っ!」

 せり上がって来たソレを凝視し、ミラルは口元に手を当てて絶句した。

 せり上がって来たのは手術台と一人の老人だった。その老人は一目で老人とわかる容姿なのだが、普通の老人とは違い、白衣の下からでもわかるような鍛え上げられた筋肉を持っている。

 そして手術台。この手術台にこそ、ミラルが絶句した理由がある。

 乗せられているのだ――――人間が。成人男性らしき人間が一人、その手術台には乗せられているのだ。既に絶命しているのか、男性はピクリとも動かない。

「お答えしようお譲さん。我々科学者は、命を『実験材料』としか見ていない。それ以上でも、それ以下でもない。我々科学者は発展のためなら我が身すら平気で差し出すさ」

 ニヤリと。老人は口元で厭な笑みを浮かべた。

「ようこそ。私の実験室へ……。この部屋の主、グラウスが案内致そう……。とは言っても、この部屋と下の実験室だけなのだが……」

 ペコリと。老人――――グラウスはチリー達に礼をした。

「おじいさん、その人……実験に使ったの?」

 手術台を指差し、ニシルが静かに問う。

「うむ。先程まで実験をしていたところだ。やはり人間の身体を機械で強化するのは容易なことではないな……」

 グラウスはポンポンと男性の身体を軽く叩く。

「殺したのか……ッ」

 ギロリとグラウスを睨みつけるチリーに、グラウスは笑んだ。

「彼は科学の犠牲になったのだ……。彼は科学の役に立てたのだぞ? 光栄なことだと思わんかね?」

「狂ってる……」

 チリーの隣で小さく、ミラルが呟いた。

「お前の実験結果などどうでも良い。単刀直入に聞く、王はどこにおられる?」

 トレイズが問うと、グラウスはクスリと笑った。

「何がおかしい?」

「いや、別に……。ただ、お捜しの王様に出会った時、お前がどんな顔をするのか想像してねえ……。後でディートに知らせておかないとな」

 スッと。グラウスは親指で背後のドアを指差した。

「この奥だ。私の友人であるディートと共に、お前達を待っているぞ……。だが、タダで通す訳には行かん」

 グラウスは右手の人差し指を立て、言葉を続けた。

「一人……。神力使いを私の実験台としてここに置いて行け。それが条件だ」

「ふざけんな! 誰もお前の実験台になんか――――」

 チリーが言いかけた時だった。

 そっと。ニシルの右腕が上げられる。

「ニシル!?」

「チリー、ここは僕に任せて。この糞ジジイ……。ぶっ飛ばさないと気が済まないから」

 ニシルが手を上げていることを確認し、グラウスがニヤリと笑った。

「駄目よニシル! 実験台なんて……っ!」

「僕が簡単に実験台になる訳ないじゃん。ジジイぶん殴って昏倒させて、すぐみんなに追いつくからさ。みんなは早く、王様を助けに行って」

 冗談っぽく笑うニシルに、トレイズが視線を移す。

「良いのか?」

「心配してくれるの?」

「……いや」

 口元に笑みを浮かべ、トレイズは奥のドアへと視線を移した。

「ニシル、感謝する」

「どういたしまして」

 冗談っぽくそう言ったニシルに背を向け、トレイズは奥のドアまで駆けて行く。

「ニシル……」

「何してんだよ二人共! さっさとトレイズと行けって! 僕は大丈夫だから」

 ニッと笑ったニシルに、チリーはコクリと頷くと、右拳をそっと突き出した。

「絶対、追いつけよ」

「おう」

 コツンと。チリーの右拳を、ニシルは自分の右拳で小突いた。

「行くぞ、ミラル」

「う、うん……。ニシル、気を付けてね!」

 不安そうな顔をしながらも、ミラルはチリーと共にドアの方へと駆けて行った。

 三人がドアの向こうへ行ったのを確認すると、ニシルはグラウスの方へと視線を移した。

「で、僕でどんな実験をするのかな?」

「神力使いの実験は経験が少なくてな……。色々試してみたいことが山程ある」

「気持ち悪ぅ。どうせ身体いじられるなら、美人のお姉さんが良いな」

「悪いがその望みは叶えられんな」

「それは残念」

 肩をすくめ、ニシルはニッと笑う。

「さて、実験に移るぞ」

「出来るんならね」

 スッと。ニシルは身構えた。

「やはり簡単にはいかぬか」

 呟き、嘆息するとグラウスは右手をニシルへ向けた。

「――――ッ!?」

「実験は殺した後でも問題なかろう!」

 何かが外れるような音がし、グラウスの右手首が不自然な方向へ曲がった。本来なら曲がらない方向……上へ曲がり、グラウスの右腕から手首が外れた。

 手首のあった部分には円形の空洞が出来ている。

「粉々にはせんさ」

 ――――発射された。

 グラウスの右腕にある円形の空洞から、小型のミサイルが発射されたのだ。そのミサイルは、真っ直ぐにニシル目掛けて飛んで来る。

「嘘でしょッ!?」

 驚嘆の声を上げつつも、ニシルは横っ跳びにそのミサイルを避ける。

 ミサイルはそのまま飛び、後ろの壁に直撃し、爆発音と共に爆散する。規模は小さかったが、まともに喰らえば重症となるのは明白であった。壁は小さく抉れ、破片をパラパラと落としている。

「無茶苦茶だ! 腕からミサイルなんて!」

「これが科学の力」

「科学ってなんでもありだね!」

 皮肉っぽく言うと、ニシルはグラウス目掛けて駆け出した。

 グラウスは駆けて来るニシルへ右腕を向け、再度ミサイルを発射する。が、ニシルはそれを素早くかわし、グラウスの眼前まで迫る。

 かわされたミサイルは壁に直撃し、爆発音と共に爆散。

「本体を叩けばッ!」

 ニシルは右足でグラウスの右腕を蹴り上げると、そのまま右手でグラウスの顔面へ裏拳を叩きこんだ。が、グラウスはピクリとも動かなかった。それどころか、ニヤリと笑ってさえいた。

「――――痛ッ」

 声を上げたのはニシルの方だった。

 左手で拳を押さえ、バックステップでグラウスから距離を取る。

「何これ……人間の硬さじゃない……ッ!?」

 驚愕するニシルに、グラウスはニヤリと笑んだ。

「これが科学の力」

 グラウスは、再度右腕をニシルへ向ける。

「私の身体はディートの協力で機械と化している……。頭部も金属で補強してあるのでな。生身の拳で殴れば、痛いのは当然ということだ」

 そう言い、グラウスはニシル目掛けてミサイルを発射した。

 とっさに身を屈め、ニシルはミサイルを回避する。背後で爆発音がし、ミサイルが爆散する。

「なるほどぉ……機械の身体かぁ……それなら殴れば痛いのは当然だねッ!」

「そうだろうそうだろう」

「科学って何でもありだねッ!」

「そうだろうそうだろう」

 数秒の沈黙……。が、すぐにニシルが勢いよく床を踏みつける。

「ふざけんなーッ!」

 ニシルの叫びが、部屋中に木霊する。

 機械で改造された身体……そんな物を見せられたら誰だって驚く。おまけにその機械と今から戦わねばならないのだ。叫びたい気持ちもわからないでもない。

「どうだ? お前もなってみるか?」

 右腕を振り、グラウスがニシルにアピールするが、ニシルはその場に唾を吐き捨て、グラウスを睨んだ。

「誰がなるかッ! そのふざけた身体、ぶっ壊してやる!」

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