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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
18/128

episode18「Chimera-2」

「神力使いを食ったことはないんでね……。お前さんを食えば、お前さんの能力が手に入るかどうかわからんが……」

 ニヤリと笑い、男は青蘭に右腕の鋏を向けた。

「俺の一部になる前に覚えとけ。俺はヘルマン。ここで合成獣――――キメラ共の世話係をやってる者だ」

 男――――ヘルマンは顎を小さく動かし、アンタは? と問うた。

「俺は青蘭……。お前らゲルビアの滅ぼした……東国の生き残りだ」

 ギロリと。青蘭はヘルマンを睨みつけた。ヘルマンはそれを大して気にした様子もなく、興味深げに青蘭を眺めている。

「へえ。お前さん、あの東国の……」

 呟き、うんうんと頷くとヘルマンはニヤリと口元を歪めた。

「丁度良い……。東国の生き残り……お前さんを殺せば、俺も世話係から隊長クラスに昇進だな!」

 ヘルマンは鋏の刃先を青蘭に向け、勢いよく飛びかかって来た。

 青蘭が素早く身をかわすと、ヘルマンの鋏は青蘭が先程まで立っていた地面を大きく穿ち、コンクリートで固められていた地面の破片が辺りに飛び散った。

 ヘルマンは素早く身体を動かし、青蘭の方を向くと今度は鋏を突き出し、青蘭へ突っ込んで来た。

 突き出された鋏を、青蘭は身を屈めて避けると、右拳でヘルマンの顎目掛けてアッパーを繰り出した。

 青蘭の右拳はヘルマンの顎へ見事に直撃し、ヘルマンはたたらを踏んだ。

「こちとら……タフさが売りなんだよォッ!」

 追い打ちをかけようとした青蘭目掛けて、ヘルマンは鋏を左へ振った。

 青蘭は素早くバックステップで鋏をかわす。

「ちょこまかと……ッ!」

 ヘルマンは右腕を少し引き、一歩踏み出して青蘭目掛けて鋏を突き出した。

 青蘭が身を屈めて避けると、ヘルマンの鋏は青蘭の背後の壁に直撃し、穿つ。青蘭の頭に、壁の小さな破片がパラパラと降り注ぐ。

「うおらァ!」

 ヘルマンはそのまま青蘭目掛けて鋏を振り降ろす。

 青蘭は左へ転がって鋏を避け、素早くヘルマンの眼前へ近づき、ヘルマンの頭部目掛けて左回し蹴りを放つ。

 回し蹴りはヘルマンの頭部へ直撃し、ヘルマンはそのまま右へ吹っ飛んで鉄格子へ激突する。

「あの鋏……なるべく喰らいたくないな……」

 呟き、青蘭は起き上がって来るヘルマンの方へ視線を移す。

 この男、異常にタフである。筋肉等から考えて、かなりの鍛錬を積んでいるのがわかる。それ故に、能力で強化された青蘭の攻撃を何度受けても立ち上がることが出来る。

 ――――厄介だな。

 青蘭は小さく舌打ちした。

 青蘭の能力は、一定時間内だけだ。簡単に見積もって十分程度。それ故に素早く勝負を決めなければならない。が、ヘルマンのようにタフな人間が相手だと、能力が切れてしまう可能性がある。そうなってしまえばこちらが不利だ。能力に頼り、青蘭自身が鍛錬を怠っている訳ではないが、能力で強化された青蘭の攻撃を受け切れる程に鍛錬を積んだ相手と、能力無しで渡り合うというのは厳しいものがある。

「まだまだ行けるぜェ……」

 ヘルマンは両肩を回し、ゴキゴキと音を鳴らすと、青蘭の方へ視線を移した。

「もうすぐ……時間切れかな?」

 ニヤリと笑ったヘルマンの眼前へ素早く青蘭が近づき、顔面目掛けて思い切り右拳を突き出す。しかし、ヘルマンの右腕に防がれる。

 ヘルマンは右腕で青蘭の右拳を弾くと、空いている左拳を青蘭目掛けて突き出した。

 青蘭は突き出されたヘルマンの左拳を、頭をそらしてかわすと、身を屈め、ヘルマンの腹部を左拳で殴りつける。

 ヘルマンは少しよろめいたが、すぐに体勢を立て直し、右腕を青蘭目掛けて左へ振った。

「しまっ――――ッ!?」

 言いかけた時には既に遅く、ヘルマンの右腕は青蘭へ直撃し、青蘭はそのまま左へ吹っ飛び、鉄格子へ激突する。

 鈍い音と共に青蘭の身体に激痛が走る。

「ガハハハハハ! やっとこさ直撃だァ!」

 ヘルマンは、立ち上がり右腕を押さえながらバックステップで距離を取る青蘭を眺めつつ豪快に笑った。

「右腕、やられちまったかァ?」

 ニヤリと。笑みを口元に浮かべ、ヘルマンが問う。

「さあな……ッ」

 ギュッと。青蘭は痛む右腕を左手で握った。

 折れている。もしくはひびが入っている。どちらにせよ、もう右腕が使えないのは明白だった。

 それに気付いているのかいないのか、ヘルマンはガハハともう一度豪快に笑った。

「お前さんを殺して……昇進だッッ!」

 ヘルマンは青蘭の眼前まで迫ると、右腕を左に振った。青蘭は素早く身を屈めて左に転がり、それを回避する。

 破壊音と共に鉄格子が破壊され、棒状の鉄がその場に数本転がった。

 ――――あの腕をどうにかしなければ勝機はない。

 ヘルマン自身は異常にタフだ。しかしそれでも、もうかなりのダメージを与えているハズだ。

 問題はあの、右腕……。壁も、地面も、鉄格子をも問答無用で破壊するあの鋏。

 ヘルマンは挟んで切るということはせず、殻に包まれているその部分の硬さと、ヘルマン自身の腕力を利用して打撃に使っている。

 甲殻類の甲殻の中身は非常に柔らかい。故に硬い殻で覆い、身を守っているのだ。

 食べた生き物の特徴を得るヘルマンの能力から考えて、その特徴も変わらないだろう。あの殻の中身は柔らかいハズだ。だが、どうあの殻を破壊する? 素手での攻撃では破壊出来ない。チリーの大剣なら破壊出来なくもなさそうだが、今ここにはいない。

「もう終わりかァ?」

 青蘭目掛けて、ヘルマンは右腕を斜めに振り降ろす。青蘭は右に転がり、右腕を避けると同時に転がっている鉄格子の、棒状の鉄を左手で一本掴む。

 そのまま青蘭は牢の外に出ていた。

「そこに逃げても……狭いだけだッッ!」

 蟹を――――どう食べるか?

 殻の内側の、柔らかい部分を如何に多く引きずり出し、その味を楽しむか。殻の内側の柔らかい部分を、如何にして引きずり出すのか……?

「そうか……ッ!」

 ――――――――関節。

 殻と殻との間に存在する――――間接。蟹を食す際、関節を曲がらぬ方向へ折り曲げ、中の柔らかい部分を引きずり出す……。殻に比べ、関節は比較的柔らかいのだ。

 ヘルマンの右腕にも当然、関節はある。殻と殻との間に存在する……。比較的柔らかい関節が。

「行くぜェーッ!」

 ヘルマンは牢から出て来ると、青蘭目掛けて鋏を突き出した。

 青蘭は右に転がることでそれを避け、ニヤリと笑んだ。

「何がおかしい!?」

 ヘルマンの問いには答えず、青蘭は左手に持った棒状の鉄を、ヘルマンの右腕の関節、殻と殻の間にある比較的柔らかい部分へと突き刺した。

「がァァァァッ!!」

 これは流石に効いたらしく、ヘルマンは絶叫した。

 青蘭は更に深く鉄を関節へ突っ込み、そのまま貫通させた。青みがかった体液が飛び散り、青蘭の顔を汚した。

 青蘭は棒状の鉄から手を離し、絶叫し続けるヘルマンの背後へ回ると、思い切り前方へと蹴飛ばした。

 ヘルマンはそのまま前方へ吹っ飛び、目の前の鉄格子の扉を破壊し、牢の中へと突っ込んで行く。

 その牢の中に入っていたのは、獅子の頭に虎の身体をした如何にも獰猛そうなキメラだった。

 ヘルマンは眠っていたキメラに激突する。

「ぐ……ゥ……ッ!」

 ヘルマンは呻き声を上げつつも、右腕の関節に突き刺さった棒状の鉄を引き抜く。

 更に多くの体液が関節から噴射され、キメラの体毛に降り注ぐ。

「グルルル……」

 ヘルマンが激突した衝撃で、目を覚ましたキメラはヘルマンの方をジッと見つめている。

「そうだ……! あそこにいるアイツを殺せ! 餌だ! 食っても良い!」

 左手で青蘭を指差し、ヘルマンが叫ぶが、キメラは寝そべったまま動こうとせずにヘルマンの方をジッと見つめている。

「どうした!? 言う事を聞け!」

「グルルル……!」

 スッと。キメラが立ち上がる。

「そうだ……ッ! 良い子だァ……ッ! さっさとアイツを殺してこォい!」

「グルル……ッ!」

 小さく唸り、キメラは一歩ずつヘルマンの方へと歩み寄る。

「おい、どうした!? 何故こっちへ来る!?」

 悲痛な叫び声を上げつつ後退りするヘルマンを眺め、青蘭はクスリと笑った。

「どうやら、そいつの餌は俺じゃないらしいぜ」

「ま、待て……やめろォォォォォォォッッ!!」

 絶叫し、あまりの恐怖のせいかヘルマンはその場で気を失った。

 青蘭はヘルマンが気を失ったのを確認すると、素早く牢の中へ入り、キメラ目掛けて思い切り右回し蹴りを喰らわせた。

 キメラは呻き声を上げてそのまま吹っ飛び、壁へ激突するとその場で気を失った。

「お前がキメラの餌になれ……って言いたいところだが、命は助けてやるよ」

 嘆息し、青蘭は牢の外へ出ると、奥のドアへと視線を移した。

「チリー達の元へ追いつかないと……」

 痛む右腕を抑えつつ、青蘭はドアの方へと歩いて行った。

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