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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
17/128

episode17「Chimera-1」

「壊されてる……」

 そう言ってミラルは、目の前にあるドアの残骸を見つめる。

「俺達より先に誰かここに辿り着いたって訳か」

 ヘルテュラの郊外の森の中に、その研究所らしき建物はあった。石造りの建物で、随分と整備されていないらしく、建物の壁には苔や蔦が張り付いている。

「多分トレイズだよ」

 ニシルの言葉に、青蘭が頷く。

「そうだな……。とりあえず中へ入ろう」

 青蘭に促され、チリー達は研究所の中へと入った。



「……地下か?」

 研究員の胸ぐらを掴んだままトレイズが問うと、研究員は必死で首を縦に振った。

「そこの隅に……地下への隠し通路がある。鍵なら私のポケットの中だ」

 トレイズは答えもせずに研究員の胸ぐらから手を離すと、乱暴に彼の白衣のポケットから鍵を奪い、まじまじと眺めた。

「この鍵で合っているか?」

「ああ、間違いない……。地下にアンタの探している『王』とやらがいるかは知らないが、研究所に何か隠されているとしたらそこしかない……」

「なるほどな」

 呟き、トレイズは部屋の隅の、隠し通路がある場所へと歩み寄った――――その時だった。

「トレイズ!」

 乱暴に部屋のドアが開き、中へと入って来たのはチリー達だった。

「……僕達より先に見つけてたんだね」

「お前らがノロいだけだ」

 その発言にカチンと来たらしく、チリーがトレイズをギロリと睨む。

「誰がノロいって……!?」

「待てチリー。落ち着け」

 今にも殴りかかりそうな勢いで凄むチリーを、青蘭が制止する。

「トレイズさん、この研究所であってるの?」

 ミラルの問いに、トレイズは小さく頷いた。

「だがここに王がおられるかどうかはわからない」

 そう言い、トレイズは足元の床の鍵穴を見つけると、先程研究員から奪った鍵を差し込み、回した。カチリと音がしたのを確認すると、トレイズは鍵穴の付いた床と普通の床との隙間を利用し、鍵穴のついた床を持ち上げた。すると、地下へと続く階段の姿が露になる。

「それは……」

 驚嘆の声を上げるニシルを気にも留めず、トレイズは階段を降りて行った。

「……俺達も行くぞ」

 チリーの言葉に、三人はコクリと頷き、チリー達は階段を降りて行った。



 長い階段を数分程降りると、そこにはドアがあった。

 上から赤い電球が、ドアを赤い光で照らしており、どこか薄気味悪かった。

「この上のやつでんきってやつだよな……?」

 赤い電球を指差しチリーが言うと、ニシルはクスリと笑った。

「電気も知らないの?」

「知ってるよ! ただちょっと珍しいなって思っただけだ。ニシルだってでんきはあんまり見ないだろ」

「まあ、それもそうなんだけどね。テイテスで電気があるのって、城の中くらいの物だったし、僕らが使ってるのもランプだしね」

 そんな二人に一瞥をくれ、嘆息するとトレイズはドアをゆっくりと開いた。

「あ、おい待――――」

 中に入るトレイズの後を追おうとしたチリーは、不意にピタリと動きを止めた。

「……チリー?」

 心配そうにミラルがチリーの顔を覗き込むと、チリーの顔は驚愕に歪んでいた。

「何だ……これ……」

 ――――牢獄。

 その部屋は正に牢獄であった。

 真っ直ぐ、次のドアへと続く一本道。その両脇にはいくつもの牢が並んでいた。そしてなにより、牢の中に閉じ込められている生き物に対して、チリーは絶句した。

「これって……?」

 この世の生き物ではない。

 獅子の身体に鳥類の翼、尾の代わりに蛇の頭。まるでいくつかの生き物を合成したかのような……そんな生き物が牢の中には閉じ込められていたのだ。

 前述した獅子の化け物だけではない。他にも面妖な、様々な生き物が牢に数匹閉じ込められている。

「酷い……」

 トレイズを先頭に、五人は奥へと進んで行く。なるべくここには長居したくない。五人全員が同じ思いであった。

「命を玩具にするなんて……っ!」

 拳を握りしめ、ミラルが言い放った時だった。

 ガチャリと。前方で牢の開く音がした。

「――――ッ!?」

 牢の中から現れたのは大柄で筋肉質な男だった。上半身に何も衣類を身に着けておらず、剥き出しの二の腕には鍛え上げられた筋肉がついている。

 男はスキンヘッドの頭をポリポリとかき、蓄えられた無精ひげをゆっくりと撫で上げると、チリー達の方へ視線を移した。

「上が騒がしいと思ったら……侵入者か」

 男を一瞥し、素早く大剣を出現させ、チリーが身構える。

「良い反応だ。白髪の坊主……。お前さん、才能あるぜ」

「さんきゅーおっさん。で、退いてくれる?」

 男はチリーの言葉を聞くと、ガハハハと豪快に笑った。

「冗談の才能もあるぜ坊主」

「……そうかい」

 大剣を構え、男目掛けてチリーが駆け出そうとした時だった。

 スッと。チリーの前に青蘭が立ち塞がる。

「お、おい……」

「俺がここで時間を稼ぐ。お前達は、先に行け」

 小声で言うと、青蘭は男を睨みつけた。

「お、アンタが相手かい?」

 青蘭は男の問いに答える代わりにニッと笑うと、男目掛けて高速で突っ込んだ。

 ――――青蘭の能力、身体能力の強化。

 瞬時に男の眼前へ迫ると、青蘭は男の腹部に思い切り右拳を突き出した。

「が……ッ!」

 男が呻くと同時に青蘭は一歩退き、男の頭部目掛けて左回し蹴りを放つ。

 青蘭の強烈な回し蹴りが男の頭蓋骨まで響き、鈍い音をさせて男はそのまま右の牢の中へ吹っ飛んだ。

 そしてそのままその牢の中の壁に激突し、ドサリと倒れる。

「す、凄い……」

 目を見開き、ニシルが驚嘆の声を上げる。

「早く行け! 今ので倒した訳じゃない!」

「感謝する」

 小さく言い放ち、トレイズはスタスタと早歩きで奥のドアへと進んで行く。

「でも、青蘭はっ!」

「コイツを片付けた後で必ず追いつく! だから先に行っててくれ!」

 青蘭の言葉に、チリーとニシルはコクリと頷き、躊躇うミラルを促し、奥へと駆けて行った。

 そしてトレイズを先頭に、四人はドアの先へと進んで行った。

「よし……」

 しばらくドアの方を見つめた後、青蘭は倒れている男へと視線を移す。

「やるじゃねえの……」

 ゆっくりと。男は立ち上がると、パンパンと身体に付着した埃を払う。

「必ず追いつくと約束したんでな……。アンタには――――倒れてもらう!」

 立ち上がった男の眼前へ素早く近づくと、青蘭は男の顔面を右拳で思い切り殴りつけた。

 後ろへたたらを踏んだ男の腹部へ、追い打ちとばかりに青蘭は左拳を叩きこみ、一歩退いて距離を取ると、男の頭部目掛けて右回し蹴りを放つ。

 鈍い音と共に男の身体は左へ吹っ飛び、壁へ激突する。

「……焦り過ぎだぜ……ッ」

 男は起き上がると、ニヤリと口元を動かした。

「お前さんの焦る理由……わかるぜ? お前さんの能力……時間制限付きの肉体強化だろ?」

 能力を言い当てられ、青蘭の表情が一瞬驚愕に歪む。が、すぐに落ち着きを取り戻す。

「それがどうかしたか?」

「いいや……何も……」

 怪しげに男が笑う。

 訝しくはあったが、こんなことを一々気にしている暇はない。時間制限が切れる前にこの男を倒し、チリー達に追いつかねばならない。

 青蘭の制限時間――――感覚的には、十分と言ったところか。

「俺もそろそろ何かするかぁ……」

 男の言葉を気にも留めず、青蘭は男の眼前へと迫り、男の頭部目掛けて右足によるハイキックを繰り出す。が、その足は男の頭部へ直撃する前に硬い何かによって防がれた。

「――――ッ!?」

「さっき食った蟹の合成獣だな」

 青蘭の右足を防いだのは、男の腕――――否、腕と同じ場所に存在するだけで、それは人間の腕ではなかった。

 赤く、硬い殻に覆われ、先にはトゲの付いた鋏があった。

 正しく、蟹の腕だ。

 危険を感じ取った青蘭は素早く右足を降ろし、バックステップで距離を取り、その腕を凝視する。

「食った生き物の特徴を得る……! そういう能力だよ俺ァ」

 ニヤリと笑い、男は右腕の鋏をジョキジョキと動かした。

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