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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
16/128

epiosde16「Institute」

 ドゥナイから馬車で数時間、チリー達はヘルテュラへと到着した。

 ヘルテュラは、現在チリー達のいる国――――アギエナ国とゲルビア帝国の国境に位置する都市である。故に、他の国よりもゲルビアとの交流が深い上、ヘルテュラ内にあるゲルビアの軍事基地や研究施設の規模は、他の町の物より大きい。


 このヘルテュラの中に、テイテスの王、アレクサンダーが実験台にされている研究所があるのだ。


 ヘルテュラへ到着したチリー達は、適当な宿を借りて荷物を置き、早速研究所の場所を調べに向かった。

 大勢の人々が歩いている大通りの中、不意にトレイズだけがチリー達から離れ、別の方向へ歩き始めた。

「おい、どこに行くつもりだ?」

「研究所は俺一人で探す。別にお前らと仲間になったつもりはない。馴れ馴れしく話しかけるな」

 冷たく言い放つトレイズに、チリーは眉間にしわを寄せて怒りを露にした。

「何だと……!?」

 殴りかかろうとするチリーを、青蘭が素早く制止する。

「やめろチリー。今揉めても仕方がない」

「でも、アイツ……!」

 トレイズはチリーに一瞥をくれ、フンと鼻で笑うとチリー達へ背を向け、そのまま歩いて行った。

「なんて自分勝手な野郎なんだ……ッ!」

 歩いて行くトレイズの背中を睨みつつ、チリーが悪態を吐くと、隣でニシルが頷き、同意した。

「アイツ……溶かしてやろうか……。チリーのついでに」

「今小さくチリーのついでにって付けなかった!?」

「気のせい気のせい。幻聴だよチリー。僕がチリーを溶かさない訳がないじゃない」

「やっぱり幻聴じゃない!?」

 そんなやり取りをする二人を眺めつつ、ミラルと青蘭は微笑んだ。

「トレイズさんはともかく……私達は私達で研究所について調べましょう。もしかしたら、研究所とは関係なくても、何か有力な情報が得られるかも知れないわ」

 ミラルの言葉に、青蘭はコクリと頷いた。

「そうだな。まずは聞き込みから始めてみよう」

 大通りは人が多いため、人を探す手間が省ける。四人は見失わないよう一定の距離を保ったまま二手に分かれた。


「研究所?」

 チリーとニシルが問うと、老人は不思議そうな顔で首を傾げた。

「ヘルテュラのどこかに、ゲルビア帝国の研究所があるハズなんですけど……知りませんか?」

 ニシルの言葉に、老人は首を横に振った。

「知らないねえ……。最近は物騒だから、あまりそういうことには関わりたくないねえ……」

「……物騒?」

 チリーが問うと、老人はコクリと頷いた。

「ここしばらく変な殺人事件が続いててねえ……」

「どんな殺人事件ですか?」

 ニシルが問うと、老人は説明し始めた。

「毎晩、老若男女問わず必ず一人は殺されてるんだよ……。現場に残っているのは被害者の首のみ……。他の部位は一つ残らず消えているんだ……」

「ホラーだな……」

 ゴクリと。チリーが生唾を飲み込む。

「現場にはまるで食い散らかしたかのような血痕が大量に残ってる……。噂じゃゲルビアの実験動物か何かの仕業だとか……」

 老人が知っていたのはここまでで、それ以上の情報は得られなかった。チリー達が老人に礼を言うと、老人はどこかへと去って行った。

「ねえチリー。もしさっきのお爺さんの言ってた事件の犯人が、ゲルビアの実験動物か何かなら、やっぱりヘルテュラには研究所があるってことだよね?」

 ニシルの言葉に、チリーはコクリと頷く。

「そうだな……。王様も、トレイズのように実験台になっている可能性が高い……。急いで研究所を探すぞ」

「うん」



 チリー達が大通りで聞き込みを開始している頃、トレイズは研究所の前に立っていた。

 アレクサンダーを連れて行ったような研究所が、町のど真ん中や目立つ場所に立っているハズがない。故に郊外にあると踏み、トレイズが向かったのは郊外の森だった。少し進んで行くとすぐに、研究所らしき建物を発見することが出来た。

 石造りの建物で、あまり整備されていないのか建物の周りには苔や蔦が張り付いている。しかし、中に人がいない訳ではないらしく、窓を見れば人影が忙しなく動いているのが見えた。

「……ここか」

 呟き、トレイズはギュッと拳を握りしめた。

 あの日、アレクサンダーを救うことが出来なかったことが口惜しくて仕方がない。


 今度こそこの手で救って見せる。


 そう心の内で強く誓い、トレイズは研究所の入口へと歩み寄り、入口のドアへ手をかけた。

 当然の如く鍵がかかっており、トレイズはドアを開けることが出来なかった。

 小さく舌打ちし、トレイズは目の前のドアを思い切り蹴った。すると、木製のドアは勢いよく倒れた。

「誰だ!?」

 中から音に気が付いた研究員達の声が聞こえてくる。

「急いでいなければ……ここまで荒っぽい方法を取る必要はなかったのだがな」

 呟き、トレイズは研究所の中へと侵入した。



 あれからしばらく、チリーとニシルは有力な情報を得られないでいた。老人と同じように、皆研究所とは関わりたくないらしく、知っていそうな人間も硬く口を閉ざしていた。

 青蘭達も似たような状況なのか、見れば誰かに質問をする度に困ったような表情を浮かべていた。

「ねえ、ちょっと良いかな?」

 チリーとニシルが考え込んでいると、不意に背後から声をかけられる。

「何だよ?」

 後ろに立っていたのは小柄な少年であった。

 中世的な顔立ちで、身長はチリーよりは低いがニシルよりは高い。肩まで伸ばされた髪を後ろで一つに縛っている。少女にも見えなくはない。

「僕はこの町の人間じゃないから、この辺に詳しくないんだ。良かったら案内してくれないかな?」

 少年の言葉に、チリーとニシルは首を横に振った。

「悪いな。俺達もこの町の人間じゃないんだ」

「そっか……」

 残念そうに呟いた少年が、一瞬青蘭達の方を一瞥した気がした。

「わかった。他の人に頼んでみるよ」

 そう言って少年はどこかへ駆けて行った。

「何だアイツ……」

「さあ? それより、早く研究所の場所を探さないと」

 ニシルに促され、チリーが聞き込みを再開しようとした時だった。

「チリー! ニシル!」

 青蘭達がこちらへ駆け寄って来る。有力な情報を得たのか、二人の表情は明るかった。

「研究所の場所がわかったわ!」

「ホントか!?」

 ミラルと青蘭はコクリと頷く。

「どうやらこの町の郊外にある森の中に、研究所はあるらしいんだ。お前達は何か有力な情報は手に入ったか?」

 青蘭の問いに、ニシルは肩をすくめて見せた。

「全然……。変な殺人事件の話くらいだよ」

「それ、私達も聞いたわ。研究所と何か関係あるのかも知れないわね……」

 ミラルの言葉に、青蘭は小さく頷いた。

「そうかも知れないな。とりあえず研究所へ向かおう」

「トレイズはどうするの?」

 ミラルが問うと、チリーはニヤリと笑った。

「知るかよあんな自己中野郎。勝手にどっかで迷ってろっつーの! 俺らはさっさと研究所へ向かって、王様助けようぜ」

「まあ、トレイズなら大丈夫だろう」

 嘆息し、青蘭が呟く。

「とにかく、研究所へ急ぎましょう!」

 ミラルに促され、三人はコクリと頷くと、郊外の森へと向かった。



「答えろ。王はどこにおられる?」

 周りには四散した研究道具と倒れている研究員。薬品の臭いが漂う研究所の一室で、トレイズは右手で一人の研究員の胸ぐらを掴んで問いかけていた。

 研究員は完全に怯えており、トレイズの問いに答えず、ブルブル震えながら首を横に振っている。

「言え。死にたいか?」

 トレイズの左手には氷で造られた小振りな剣が握られていた。その氷の剣の刃先を研究の首元へ突き付け、トレイズは問うた。

 研究員は首を振り、死にたくないと答える。

「だったら話せ。王はどこにおられる!?」

 ダラリと垂らされていた研究員の右腕が上がり、人差指でこの部屋の隅を指差した。

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