表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
15/128

episode15「Freezing town-6」

 ソファの上に横たわるその男の顔には、どこか見覚えがあった。

 ニシルは男の顔をジッと眺め、どこで見た顔だったのかを懸命に思い出そうと頭を捻っていた。

「どこで見たんだったかなぁ……」

「知っているのか?」

 腕を組み、ジッと男の顔を眺め続けるニシルに、青蘭が問う。

「うん。見たことのある顔なんだ……。どこで見たのか、いつ見たのかは思い出せないんだけど……」

「会ったことあるのか?」

「そうかも。それに……コイツ見てると、何かモヤモヤする……」

 そう言ってニシルが嘆息すると、コトリと音がして、ニシルと青蘭の前に紅茶が置かれる。紅茶を置いた手の先を見ると、マテューの母親がこちらに笑顔を向けていた。


 能力の発現により、男を倒して町と青蘭を氷から解放したニシルは、気絶した男を連れてマテューの家へと向かった。町の氷が消えるので、恐らくチリー達も気付いてマテューの家に向かうだろうと考えてのことだ。

 マテューと両親は、ニシル達を快く受け入れ、あろうことか町を凍らせた張本人である男すら中に入れたのだ。


「チリーやミラルに聞いたら、何かわかるかも知れない」

「ということは、テイテスにいた頃に見た顔……ってことか?」

 青蘭の問いに、ニシルはコクリと頷いた。

「うん。僕達が島の外に出たのはほんの数週間前の話だから……その間に出会った人なら、そう簡単には忘れないと思う。それに、この顔を見たのはテイテスだった気がするんだ」

 言い、ニシルが男の顔を眺め続けていると、ガチャリと玄関で音がした。

 数秒後、少しよろよろと歩いているチリーと、そんなチリーを心配そうに見ながら歩くミラルが、ニシルと青蘭のいる部屋……居間へと通された。

「あの氷、お前達がなんとかしたのか?」

 チリーが問うと、ニシルは澄ました顔でまあね、と答えた。

「流石青蘭だな……」

 うんうんと頷きながらチリーは青蘭へと視線を移す。

 そんなチリーに青蘭は苦笑し、その横でニシルはムッとした表情になった。

「チリー、『アイツ』を倒したのは俺じゃない。ニシルだ」

「……え!?」

 青蘭の言葉に、チリーは驚嘆の声を上げる。

 その横でミラルも心底驚いた、といった様子でニシルの方へ視線を向けている。

「僕の神力、発動したんだよ」

 ニシルはチリー達に、その時の出来事を全て説明した。

「すごいじゃない!」

 とミラルは感嘆の声を上げ、

「ニシルの癖に」

 と、チリーはやや不満気な様子で、意味のわからないことを呟いていた。

「で、そっちはどうだったんだ?」

 青蘭の問いにミラルが答え、ゲイラとの出来事を簡潔に説明した。

「やはり……ゲルビアか」

「そうね。ゲイラは『アイツ』のことを実験体と呼んでいたわ……。それで、そのソファに寝そべってる人が……『アイツ』?」

 ミラルの問いに、青蘭がコクリと頷くと、ミラルはソファに横たわる男の顔を覗き込み――――口元に手を当てて絶句した。

「ミラル、どこかで見たことあるよね!?」

 男の方へ上体を乗り出し、やや興奮気味にニシルが問うと、ミラルはコクリと小さく頷いた。

「言われてみりゃ……どっかで会ったことあるよな、コイツ」

 そう言ってチリーも男の顔を覗き込む。

「チリー、ニシル……この人……」

 チリーとニシルの記憶の中に、この男の名前は浮かんでこなかったのだが、ミラルは違った。ミラルはこの男を知っている。テイテスにいた頃に、一度見たことがあるのだ。

「――――トレイズさんよ」

「「ッ!?」」

 ミラルの言葉に、チリーとニシルは驚愕で表情を歪めた。

「トレイズってあの……王様の側近の?」

 ニシルが問うと、ミラルはコクリと頷いた。

「間違いないわ。私達と余り変わらない年齢で王様の側近になったから、すごく話題になってたわ……」

 ミラルの言葉に、ニシルはなるほど、と胸の前で両手を叩いた。チリーも思い出したらしく、男の――――トレイズの顔を眺めている。

「この男がそのトレイズだとして、何故テイテスの王の側近がこんな場所にいるんだ?」

「わからないわ……。でも、王様のことで何か手掛かりがわかるかも知れないわね……」

 そう言って、ミラルがトレイズの方へ再度視線を移した時だった。

「おい、起きたぞ」

 ゆっくりと。閉じられていたトレイズの目が開かれる。

「…………」

 怪訝そうな顔をし、トレイズはゆっくりと身体を起こした。

「ここ……は」

 小さく呟き、トレイズは辺りをキョロキョロと見回す。

「おい、大丈夫か?」

 チリーが問うた――――その瞬間、トレイズは血相を変えた。

「王はッッ!?」

 突如叫び、激しく辺りを見回し始めたトレイズに、チリー達は息をのんだ。

「ゲルビアが……ッ!」

 舌打ちするように言い放つと、トレイズは立ち上がった。

「ちょっと! どこ行くのよ!?」

「王を……助けに……ッ!」

 駆け出そうとする。が、突如身体中に走った激痛にトレイズはよろめき、動きを止めてその場にうずくまった。

「無理するなよ!」

 駆け寄り、差し伸べられたニシルの手をトレイズは鬱陶しそうに振り払う。その行為に、ニシルは顔を驚愕に歪めた。

「うるさい! お前達には関係ない! こうしている間にも……王はッ!」

 痛む身体を押さえながらも、トレイズは立ち上がる。が、その行く手をチリーによって阻まれる。

「邪魔だ……!」

「とにかく落ち着けよ。俺もそこにいる二人も、テイテスの出身で、失踪した王様を捜してる。王様について何か知ってるなら、俺達に教えてくれ」

 チリーの言葉に、トレイズは数秒沈黙したが、コクリと頷いた。

「……わかった」

 トレイズはふらふらとソファへ戻り、その上へ腰掛けた。

「俺はチリーだ」

 チリーに続いて、他の三人も手短に名乗り、チリー達が王を捜すことになった経緯を簡単に説明した。

 説明後、納得したらしくトレイズは小さく頷いた。

「……俺はトレイズ。テイテスで王の側近をしていた者だ」

「なあ、教えてくれ。王様とアンタに何があったんだ?」

 チリーが問うと、トレイズは静かに説明を始めた……。

「王は――――誘拐された」

「な――――ッ!?」

 トレイズの言葉に、その場にいた全員が息をのむ。

「誰がそんなことを!?」

 目の前にある机を勢いよく叩き、チリーが問う。

「ゲルビアだ」

「帝国が……!?」

 ゲルビア帝国。アルモニア大陸内で、規模、軍隊、権力、共に大陸内最大の帝国だ。その繁栄の陰に、人体実験や他国への必要以上の侵略等、良くない噂も流れている。

 その帝国が、何故テイテスの王を?

 テイテスの存在など帝国からすればないに等しいハズだ。たかが小規模な島国の王を、何の理由があって帝国が誘拐する必要があるのか……。異常な程に不可解に感じられる。

「何で帝国が……王様を?」

 ニシルが問うと、トレイズはかぶりを振った。

「わからない……。あの夜、帝国の者と思しき人物が、城の内部へと侵入した……。その侵入に気が付いたのは、情けないことにこの俺一人だった」

 重い溜息を吐き、トレイズは言葉を続ける。

「だが、不覚にも侵入者を撃退出来ず、あろうことか王と共に攫われてしまう始末だ……」

 王に会わせる顔がない……。そう呟き、トレイズは更に言葉を続けた。

「攫われた後、俺と王は別々の研究所へと連れて行かれた」

「どうして、研究所に?」

 ミラルの問いに、トレイズの代わりに青蘭が答える。

「恐らく、神力研究のためだろう。トレイズもそうだし、テイテスの王も神力使いだった……そうだな?」

 トレイズの方へ視線を移し、青蘭が確認するとトレイズはコクリと頷いた。

「だが不可解だな。たかが研究目的くらいで一国の王を攫う必要性がわからない……。神力の研究だけならトレイズだけでも事足りるハズだ。もう一人必要だとしても、わざわざ王を選ぶ理由がわからない。部外者が横やりを入れるようで悪いんだが、何かわからないか?」

 青蘭が問うと、トレイズは静かにかぶりを振った。

「それがわからない……。ゲルビア……何を考えている……?」

 自問するように呟き、トレイズは言葉を続けた。

「それで……王様はどこにいるんだ?」

 チリーが問うと、トレイズは何か思い出すかのように険しい表情になる。

「……ヘルテュラ。研究所の研究員達は確かそう言っていたハズだ。不鮮明な記憶だがな……」

「ヘルテュラ……」

 トレイズの言葉を繰り返し、チリーは大きく頷いた。

「行くぞ。ヘルテュラに!」

 チリーの言葉に、トレイズを含む四人はコクリと頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ