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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
11/128

episode11「Freezing town-2」

 少年の家の中は暖かかったが、家のほとんどが氷に覆われていた。この家は町の中でもかなり奥の方へ位置しているためか、完全に凍りついてはいなかった。ドアを開けることが出来るのもそのせいだろう。

 奇跡的にも暖炉は無事だったらしく、中でパチパチと音を立てながら薪が燃えている。が、その暖炉の前に、明らかに異質な物が置かれていた。

「これって……まさか……」

 暖炉の前に置いてあるソレを凝視し、ミラルが息をのんだ。

「うん。そうだよ……」

 少年は静かにソレに歩み寄り、悲しげな表情を見せた。


「僕のお父さんとお母さん」


 わかってはいたものの、その場にいた少年以外の全員が驚愕に表情を歪めた。

 暖炉の前に置いてあるソレは紛れもなく――――凍りついた人間そのものであった。

 中年くらいの男性と女性が、何かの作業中だったのであろうポーズのまま、氷に覆われてピクリとも動かない。

「やっぱり、凍ってたみたいだね……」

 ゴクリと。ニシルが唾を飲み込む。

「酷ぇ……」

 そっと。呟きながらチリーはその氷に触れた。

 ――――冷たい。当然だが、元は温かな体温を持った人間だったことを考えると、その冷たさは非常に寂しく感じられた。

「……君、名前は?」

 青蘭が問うと、少年はボソリとマテュー、と答えた。

 次に青蘭が名乗ると、他の三人も順々に名乗っていった。

「マテュー。少し質問しても良いかな?」

 コクリと。マテューは頷いた。

「まず、何故町の外で凍っている人はいないんだ?」

「町が凍ったのは……夜だったから。多分、皆家の中で凍ってるんだと思う」

 窓の外に一瞥をくれ、マテューは答えた。

「君は、何故助かっているんだ?」

 青蘭の問いに、マテューは数秒、黙り込む。

「僕は……家の外の、氷が届いていない場所にいたから……」

 この家の近く。唯一凍っていない場所があった。恐らく氷結が始まった時、マテューはその場所にいることで逃れることが出来たのだろう。

「マテュー、俺からはこれで最後だ。さっき言ってた『アイツ』って言うのは?」

 青蘭が問うた途端、少年の顔が恐怖で引きつった。

「アイツ……。長い髪の、変な男……」

 呟くように、マテューは続ける。

「町が凍ってから、いつもうろついてるんだ……。昨日アイツに見つかった時、僕はアイツに襲われたんだ……!」

 青蘭は小声で、チリー達にそいつが犯人かも知れない、と囁いた。

「そういえば、何で夜中に家の外にいたの?」

 ニシルが問うと、またしてもマテューは黙り込んでしまった。

 しばしの沈黙の後、涙目で口を開いたのはマテューであった。

「僕……お父さんに……我が侭言って、それで……」

 目から涙をボロボロとこぼしながらも、嗚咽混じりで一所懸命にマテューは続ける。

「それで……お父さんは悪くないのに……僕が、僕が怒って……外に飛び出してたら……」

「町が凍り始めた……って訳だな」

 不意に、膝を屈めてマテューと視線を合わせると、チリーはマテューの頭の上にポンと手をのせた。

「二人を……この町を元に戻したいか?」

 真っ直ぐに。チリーはマテューの瞳を見据える。

 マテューはコクリと頷き、涙声でうん、と答えた。

「だったら、約束だ」

 そう言って、チリーはマテューへ右手の小指を突き出した。

「絶対に俺達がお前の両親と、この町を元に戻す。だから、ちゃんとお父さんに謝るんだぞ」

「チリー兄ちゃん……」

 呟き、マテューはそっと自分の小指を突き出されたチリーの小指に絡めた。

「指切りげんまん。嘘吐いたら針千本のーます」

 チリーは指を離すと、約束だ、と微笑んだ。

「……うん!」

 ゴシゴシと袖で涙に濡れた両目を拭い、マテューは微笑んだ。



「まったく……チリーはすぐ情に流されるんだから……」

 マテューの家を出た後、呆れ顔でニシルは嘆息した。

「し、仕方ないだろ……! あんなの見せられたら……」

 暖炉の前に置かれた凍りついたマテューの両親、涙を流しながら訳を話すマテュー、そして、氷に覆われたこの町。

「そうよニシル、いくら王様捜しが一刻を争うからって、この町をこのままにしておける訳がないじゃない!」

「冷静なだけなのに僕が悪者みたいじゃないか……」

 やや肩を落とし、ニシルは溜息混じりに呟いた。

「まあニシルの言う通り、王捜しを優先しなくてはならないのも確かだと思うな」

 ニシルをフォローしつつ、青蘭は言葉を続けた。

「だが、この町が凍り始めた時にこの町に王様がいて、一緒にこの町で凍っている可能性だってなくはないんだ。マテューのことも考えれば、この町のことは解決しといて損はないと思うぞ」

 そう言って、青蘭はそのまま言葉を続ける。

「乗りかかった船だ。何とかしてこの町が氷結した原因を探って、解決しようぜ」

 チリーの言葉に、三人はコクリと(ニシルは渋々と)頷いた。

「とりあえずはマテューの言ってた『アイツ』って言うのを捜した方が良いかも知れないわね」

 ミラルの言葉に、青蘭はコクリと頷いた。

「ああ。そいつが町を凍らせた犯人である可能性は極めて高いな」

「んじゃ、二人一組で手分けして捜そうぜ? その方が効率高いだろうし」

「そうだな」

 青蘭は頷き、言葉を続けた。

「もし『アイツ』が犯人なら、十中八九神力使いだ。俺とチリーは組まずに、能力者と無能力者で組んだ方が良い」

 青蘭の提案に、ニシルは小さく頷く。

「それじゃミラル、じゃんけんして勝った方が青蘭と、負けた方がチリーとペアってことで」

「わかったわ」

「ちょっと待て! 何で俺のペアが負けた方なんだ!? 俺がハズレみたいじゃねーか!」

 頷き合う二人に視線を移し、大声でチリーは抗議したが、二人に黙殺されてしまった。

「じゃーんけーん!」

「ぽいっ!」



 じゃんけんに負けたのは、ミラルであった。

「チリーより断然青蘭の方が頼りになるから助かるよ」

 勝ったニシルはそう言って笑い、それを聞いて怒るチリーを見ながら青蘭は苦笑していた。

「まあ、じゃんけんだから仕方ないわね」

 一方、負けたミラルは悔しがる様子もなく、うつむきながら若干頬を赤らめつつそう呟いていた。

 ニシル、青蘭組は町の中を。

 チリー、ミラル組はマテューの家付近の、凍っていない場所を探索することになった。

 チリー達は範囲が狭い分すぐに終わるので、終了次第、ニシル達と合流することになっている。

 凍っていない場所は、雑木林のようになっており、町とは違って剥き出しになった地面に、背の高い木が何本も立っていた。

「ねえ、もし『アイツ』が神力使いだったとしても、町を丸ごと凍らせるくらい強力な能力って、流石にあり得ないんじゃないかな……」

 ミラルの言葉に、チリーは唸りながら考え込む。

「確かに俺も青蘭もそんな大規模なことは出来ないしな……。世の中にはもっとスゲー奴がいるんだよって言われりゃそれまでだが……」

「もしかすると神力使いの仕業じゃない……とか?」

「もしそうなら、こんなふざけた現象どうやって起こすんだよ?」

 しばし沈黙し、二人で考え込む。が、一向に答えは見つからない。

「あーわっかんねえ!」

 痺れを切らしたチリーは頭をボリボリとかいた。

「とにかく、『アイツ』を捜しゃ良いんだよ!」

「アバウトね……」

 ミラルは嘆息し、微笑んだ。

「まあ、確かにチリーの言う通りだわ。とりあえず『アイツ』、捜しましょ?」

「おう!」

 チリーがそう言い、探索を再開しようとした時だった。

「待ちたまえ」

「――――ッ!」

 突如、背後から聞こえた声に二人はすぐに振り返る。

「ここで、何をしている?」

 背後にいたのは、金色の長い髪をした男だった。中性的な顔立ちで、背丈はチリー達と変わらない。腰には鞘に収められた剣が提げられている。

 男は右手で前髪をかき上げ、クスリと笑った。

「おや、こんなところに素敵なお譲さんが……」

 早足でミラルに歩み寄り、男はミラルの眼前で片膝を付き、呆然としているミラルの右手を取った。

「初めましてお譲さん。僕はゲイラ……。ゲルビア帝国軍の一小隊で隊長務めさせてもらっている」

「は、はあ……」

 苦笑しているミラルに、ゲイラと名乗った男は微笑み続ける。

「おい」

「ああ美しい。その栗色の髪も、まるで吸い込まれそうなその瞳も、全てが美しい……。僕は何故、これ程まで輝いている宝石を今まで見つけ出すことが出来なかったのだろう……」

「おい」

「でも、僕らはこうして出会えた。僕はこうして君と言う名の宝石を見つけ出すことが出来た……。なんて幸せなんだろう」

「おいっつってんだろこの金髪ロン毛野郎ッ!」

 散々無視され、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、激昂したチリーが怒鳴り散らす。

 やっとのことでチリーの存在に気付いたらしく、ゲイラはチリーの方へ視線を移す。

「ああ、男か。帰れ帰れ」

「扱いに差があり過ぎるだろッ! っつか何なんだお前はさっきから!」

 ゲイラはフンと鼻を鳴らし、肩をすくめた。

「男には興味ないんだよ。僕に相手してほしかったら性転換でもしてくるんだね」

「ゲイラ隊長!」

 妙なやり取りをしていると、後方から大量の足音が聞こえてくる。

「こいつらは……!」

 気が付けばゲイラの後ろには十人程度の兵隊らしき男達が並んでいた。先程のゲイラの話から察するに、ゲイラの小隊のメンバー達だろう。

「で、君達はここで何をしている?」

 腕を組み、ゲイラが問う。

「そりゃこっちの台詞だ。ゲルビア帝国軍の皆様方が、こんな所で何をしていらっしゃるのか、是非お聞きしたいものだぜ軟派野郎」

 ギロリと。チリーはゲイラを睨みつける。

「口が悪いな。君は」

「んじゃお前は性格悪いんじゃねーの? お前みたいな節操のない女好きは大抵性格悪いんだよ! 大体ミラルを口説くなんて節操がないにも程が――――」

 チリーが言い終わらない内に、チリーの脛をミラルの蹴りが直撃する。

「痛ッ!」

 脛を押さえ、チリーはその場でピョンピョン飛び跳ねる。

 それを眺めながら、ゲイラがクスクスと笑った。

「まあ良いよ。この町については口外される訳にはいかない」

 不意に、ゲイラの表情が一変し、真剣なものになる。

「ここで始末させてもらうよ」

 スッと。ゲイラは腰に提げていた剣を鞘から抜いた。

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