表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第三部
108/128

episode108「Resistance-4」

 チリー達がブルーノと結託した翌日、ブルーノが言っていた通り同じ部屋で会議が行われ、ゲルビアの各地区に存在するレジスタンスの長が、一室に集まっていた。

 集まったレジスタンスはブルーノを含めて合計六名。チリー達も数に入れれば、部屋の中には十三人の人間が文字通り「詰まって」いた。席はレジスタンス達に譲り、チリー達はその後ろに立った状態で会議に参加している。

「そこにいる彼らが、先程話した協力者の方々です。ほぼ全員が神力使いですので、戦力としては申し分ないかと……」

 ブルーノの言葉に、レジスタンスの一人――メディアナのアヒムが顔をしかめた。

 顎鬚をたっぷりと蓄えた中年男性のアヒムは、如何にも不満がある、といった様子でブルーノへ視線を向けている。

「こんなガキ共が戦力ゥ……? ブルーノよ、ワシらは遊びでやっているわけではない。ゲルビア帝国に反旗を翻すということは、奴らに戦争を仕掛けるのと同じことだ」

 言いつつ、アヒムはゆっくりとポケットの中に手を突っ込んだ。

「こォんな風に……」

 アヒムがポケットの中から取り出したのは、一本のナイフだった。しかしそれに気付いている者はおらず、全員がアヒムの行動ではなく言葉に注目を向けている。

「――ッ!」

 カンバーがアヒムの行動に気付き、表情を一変させた頃には既にアヒムは後ろにいる青蘭の方を振り向き、ナイフの刃先を向けていた。

「咄嗟に襲われて反応も出来ないようなクソガキじゃ――」

 言いかけ、突き出したハズのナイフがピタリと止められていることに、アヒムは気が付いた。

「勝手に侮るのは構わない……。だが、刃を向けるのはやめてもらえませんか……手加減、出来そうにない」

 青蘭は、アヒムの突き出したナイフを右手の人差し指と薬指で見事に止めているのだった。だいぶ力を込めているらしく、青蘭の指はプルプルと震えている。

「わ、悪かった……」

 アヒムが謝罪するのと同時に、ナイフの刃先はパキンと音を立てて折れていた。青蘭の指に挟まれたナイフの刃先を見、アヒムは情けなく小声で悲鳴を上げる。その様子を見、ニシルはクスリと笑みをこぼした。

わたくしは賛成です。アヒムさんのナイフを止めた青年も含めて、そちらの方々からは何かしら『強い意思』のようなものを感じます。強い力、何かを切り拓くために必要な力を、彼らは持っています」

 静かな口調で、アヒムの隣でそう言ったのはローリアのレジスタンス、ビアンカであった。彼女はブルーノと同じくらいの年齢に見える女性で、長く美しい金髪を後ろで一つに縛っている。上品な服装や物腰から、貴族のような印象を受ける女性だった。

「……よろしいですか、アヒムさん」

 確認するようにそう言ったブルーノへ、アヒムは小さく頷いた。ブルーノはその様子を確認すると、会議の本題へ入るべくもう一度口を開いた。

「我々レジスタンスは、結成から今日まで、ゲルビア城を陥落させるために様々な準備を行ってきました。武器、資金、そして人材。中でも我々に足りなかったのは、神力使いの存在です」

 そこで一度言葉を切り、数瞬間をおいてブルーノは言葉を続けた。

「ゲルビア側には強力な神力使いが存在するのに対して、徴兵によって神力使いを失った我々側に神力使いは皆無……そのため、ゲルビア城へ直接攻め込むのは不可能に近かったのですが……」

 チラリと。ブルーノの視線がチリー達に向けられる。

「このパンドラへ辿り着くまで、様々なゲルビアの神力使いと戦い、勝利してきた彼らの力を借りることが出来れば、ゲルビア城を陥落させることは不可能ではありません」

 そこで不意に、一人の男が手を挙げた。

 老衰した雰囲気を持った男だったが、決して年老いているわけではなく、見た目だけならアヒムよりも若く見える男だった。

 フベールタのレジスタンス、エメリヒだった。

「念のため確認しておきたい。そこにいる彼らには少年に見える者もいるわけだが……そこにいる全員がゲルビアの神力使い数人分に匹敵する力を持っているのか?」

 エメリヒの言葉に、隣にいた老人が頷いた。

「エメリヒの言う通りじゃ。ビアンカやお主の言うこともわからんでもないがの……そこにいる彼らが本当に力を持っておるのか、わしには不安で不安で仕方ないわい」

 カルエダのレジスタンス、カールはそう言うと、机の上にある紅茶を一口口にした。

「何ならココで見せてやろうか……ッ」

 眉間にしわを寄せ、剣を出現させようとするチリーを、隣にいたニシルは慌てて止めた。

「落ち着けって! あのおじいさんの言うことも一理どころか二理も三理もあると思うし……!」

「ほほ……血の気が多いのぅ」

 そう言って笑みをこぼすカールに対し、チリーは更に怒りを露わにする。

「エメリヒさん、カールさん。確かにそうかも知れませんが……そこにいる白髪の少年、チリーさんが『ニューピープル』だと言えば、少しは彼の力を信じてもらえますか?」

 ブルーノの言葉に、エメリヒとカールだけでなく、その場にいたレジスタンス全員と青蘭ら東国の人間達の表情が変わった。

「……俺が説明しましょう」

 嘆息し、カンバーは先日ブルーノにしたのと同じ説明を、他のレジスタンスにもした。



 カンバーが話し終える頃には、レジスタンス達のチリー達に対する疑惑の視線は既になくなっていた。カンバーの語る壮絶な内容、そしてそれに伴うチリー達から発せられる「凄み」が、レジスタンス達を信用させたのだ。

「神力使いである彼らの戦力を主軸に置いて、僕はゲルビア城を攻め、最終的には王を打破して革命を起こしたいと考えています。王、ハーデンを倒すという点において、我々とチリーさん達の目的は一致しています……そうですね?」

 これには、トレイズが頷いて答えた。

「赤石の奪還と、攫われたミラルの救出……これには、ハーデンの打破が必要不可欠だ……」

「赤石については戦いの後にでも話しましょう……。まずは、赤石をハーデンから奪い返すことが先決だわ」

 そう言った麗に、トレイズはああ、と小さく答えた。

「ゲルビア城自体は、防衛のためというよりはゲルビアの栄光を示す象徴に近い建築物です。数十年前……戦争が数多く起こっていた頃のゲルビア城は、正に要塞と呼べる建築物でしたが、今のゲルビア城はただ巨大なだけの王の家でしかありません。これはハーデンの先代の先代が、防衛よりも住みやすさに重点を置いて改築を行ったからです。その頃には既に、ゲルビアはこのアルモニア大陸を支配していると言っても差支えのない程の力を持っていましたし、実際ゲルビアがアルモニアを掌握してからは、ゲルビアと他国との間に戦争は起きていません。安心し切った先代の先代の王は、城が住みにくいなどと間抜けなことを抜かし、今のゲルビア城に至ったわけです」

 そこで一度言葉を切り、間を置いてからブルーノは語を継ぐ。

「問題は城よりも兵の数です。ゲルビア城には圧倒的な数の兵が雇われていますし、その中には神力使いも存在します……」

「御託はいい、策があるならさっさと策を言いな」

 不機嫌そうにそう言ったのは、ゴルベタのレジスタンス、ブロルだった。やや幼さの残る顔立ちをしてはいるが、その風貌からして年齢はブルーノと同じくらいだろう。

「……失礼致しました」

 ブルーノはペコリと頭を下げた後、壁に貼られた紙に簡素なゲルビア城の図を描いた。

「ゲルビア城には正門と裏門があります。作戦を簡単に言えば、ゲルビア城正門を直接我々レジスタンスが攻めて兵を集中させ、裏門を神力使いの方が極少人数で攻め、ハーデンを打破する……という簡単な作戦です」

 そこで、ニシルが手を挙げた。

「裏門から攻めるのは、チリーじゃないとダメだと思う」

 何故です? というビアンカの問いに、ニシルはチリーへ視線を向けつつ答えた。

「ハーデンは究極のニューピープルって言って、他のニューピープルの数倍は強いんだ。その究極のニューピープルと渡り合えるのは多分、同じ究極のニューピープルであるチリーだけだ」

「なるほど……。ですが、城内にハーデンの護衛が残っているハズです。それら全員を彼が相手するのは不可能なのでは?」

「なら、僕が護衛につく。チリーがハーデンと万全の状態で戦えるようにね。裏門から攻める極少人数ってのは、僕とチリーの二人だけで良いかな?」

 ニシルの言葉に、ブルーノはコクリと頷いた。

 異論を唱える者は、いなかった。

「残りは全員、正門だ……。兵を集中させるには、集中するまでの間にこちら側が優勢である必要がある。数では向こうに勝てん、こちらは質で攻めるしかない……」

 トレイズがそう言うと、ブルーノはそうですね、と同意を示した。

「良いのか青蘭……ハーデンをアイツに任せて」

 そう言った光秀に、青蘭はああ、と答えた。

「アイツの力はよくわかっている。俺の感情よりも、作戦の成功の方が大切だ……」

 大人だねぇ、と茶化す光秀に、青蘭はほんの少しだけ微笑んで見せた後、チラリとチリーへ視線を向けた。

「チリー」

 すぐに、チリーは青蘭へ目を向けた。

「死ぬなよ」

「テメエこそ」

 言い合って、チリーと青蘭は微笑し合った。その様子を見、ニシルも安心したように笑みをこぼす。

「作戦の決行は三日後です。拠点はこのアジトで、各地からレジスタンスが兵として集まることになっています」

 よろしいですか? 最後にそう付け足したブルーノに、その場にいた全員が頷いた。

「待ってろよ……ミラル……ッ!」

 グッと。チリーは拳を握りしめた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ