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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第三部
106/128

episode106「Resistance-2」

「で、何でお前ゲルビア兵なんかに囲まれてたんだ?」

 路地裏を出た後、そう問うてくるチリーに、少年は少し答えにくそうに口をつぐんだ。

「ま、別に言いたくねーなら良いけどよ……。もう掴まんじゃねーぞ」

 ややぶっきらぼうにそんなことを言ったチリーへ、少年はニコリと微笑んだ後小さく頷いて見せた。

 カンバーやニシルは、少年に対して何か聞きたそうな顔をしていたが、ゲルビア兵にあれだけ詰め寄られ、剣を向けられても話そうとしなかったことだ、自分達がちょっとやそっと質問したくらいでは簡単に話してはくれないだろう、と判断したらしく、チリーと少年のやり取りを静かに見守っているだけだった。

「そんじゃな」

「うん」

 チリーに手を振られ、少年がその場を立ち去ろうとした――その時だった。

「ヴィレム!」

 若い男性の声が不意に聞こえ、ヴィレムと呼ばれた少年はすぐに声のした方向へ視線を向ける。そこには、やや焦った様子でヴィレムの方へ駆けてくる青年の姿があった。

「あ、兄ちゃん」

「中々帰ってこないから心配したんだぞ……!」

 青年はヴィレムの傍まで駆け寄ると、小さく安堵の溜息を吐いた。

「何かあったのか?」

 青年の問いに、ヴィレムはしばらく答えたくなさそうに視線をそらしていたが、やがて路地裏の方を指差した。

 青年は路地裏に倒れているゲルビア兵を見た後、すぐにヴィレムへ視線を戻すと、またか……! と口惜しそうに言葉を漏らした。

「ゲルビア兵に捕まってたのか!」

 ヴィレムはコクリと頷いた後、すぐにチリーの方を指差した。

「あの人が助けてくれて……」

 青年はチリーの方を向くと、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべつつペコリと頭を下げた。

「どなたか存じませんが、ありがとうございます」

「い、いやいや、良いって別に……大したことはしてねーって……!」

 照れ臭そうに苦笑するチリーだったが、それでも青年はありがとうございます、と繰り返し感謝の意を告げた。

「僕はコイツの……ヴィレムの兄のブルーノと言います。よろしければお礼がしたいんですが……」

 ブルーノと名乗ったその青年の言葉に、ニシルはピクリと反応を示した後、一瞬だけニヤリと笑みを浮かべた。

「えっとじゃあ、一晩だけでも良いから泊めてもらえないかなー……なんて……」

 わざとらしい口調でそんなことをのたまうニシルを、カンバーが右手でつついて咎めたが、ブルーノは思いの外簡単に頷いた。

「わかりました。見たところ、貴方方はこの町の人間じゃないようですし、アジトで良ければ泊まって行って下さい。既に三人ほど別の客も泊まっていますが……」

 アジト、と言う言葉が気にはなったが、チリー達はブルーノに案内されるがままについて行った。





 町から少し外れた場所にある家へ、チリー達は案内された。

 木で出来たその小さな家は、最近建てられたばかりなのか外観は随分と小奇麗に見えた。中には既に人がいるようで、窓から人影が数人分見える。

「ベッドが人数分ないので、何人かは雑魚寝してもらうことになってしまいますが……」

 申し訳なさそうにそう言いつつ、ブルーノは小屋のドアを開けた。

 小屋の中は、外観と同じく小奇麗な感じで、よく手入れが行き届いているような印象を受けた。木製の床を、ギシギシと音を立てつつ居間へと向かうと、ソファに二人の青年が座っているのをチリー達は見つけた。

 一人は、口元に無精髭を蓄えた男で、青年というよりおじさんに見えるような男だった。そしてもう一人――

「テメエ……ッ!」

 そのもう一人を見た瞬間、チリーはギュッと拳を握り締めた。

「何でテメエがこんな所にいやがる……ッ!」

 今にも襲い掛からんばかりの勢いで身を乗り出すチリーを、慌てて後ろからニシルが止めるが、それでもチリーはギリギリと歯軋りをしながら青年を睨みつけた。

「青蘭ッ!」

 怒気の込められたチリーのその言葉を聞いて初めて、青年は――青蘭はチリーへ視線を向けた。

「スカしてんんじゃねェぞテメエッ! 表ェ出やがれコラ! こないだの決着……今ここで着けてやらァ!」

 青蘭はスッと立ち上がると、傍に立てかけていた刀を取った。

「俺は構わない」

 表情一つ変えない青蘭のその態度に、チリーの怒りのボルテージは更に高まっていく。

「おい青蘭……」

 隣に座っていた男が制止の言葉をかけるが、青蘭はそれを無視してチリーの方へ歩み寄って行く。

「おい離せニシルッ! コイツだけはいっぺんぶっ飛ばさねェと気がすまねえ!」

「おいやめろってバカチリ! 今青蘭ともめたって何にもならないだろ!」

 ブルーノはしばらく、呆気に取られた様子でチリーと青蘭をポカンと見つめていたが、やがて事の大きさに気が付いたのか、すぐに青蘭の方へ駆け寄って青蘭を制止した。

 青蘭はピタリと足を止め、ブルーノへチラリと視線を向けると、すまない、と謝罪の言葉を告げた。

「ああもういい加減にしろって!」

 青蘭がソファへ戻っても尚、襲いかかろうと暴れるチリーに、トレイズとカンバーが嘆息した――その時だった。

「あら、少し席を外している間に人が増えているわね」

 別の部屋から、おかっぱ頭の女性が居間へ姿を現した。



 無精髭の男性の名は光秀、おかっぱ頭の女性の名は麗と言い、ヘルテュラから青蘭と行動を共にしていた東国の人間だった。

 青蘭へ襲い掛かろうとするチリーをなんとかいさめ、全員で自己紹介を終えた後、ブルーノが会議室と呼んでいる部屋へチリー達は通された。その際ヴィレムは、どこか別の部屋へとブルーノに連れて行かれていた。

 部屋の中心には長机が置かれており、それを囲むようにしていくつもの椅子が置かれている。部屋の奥の壁には、大きな白紙が貼り付けられていた。

 チリー達と青蘭達が向かい合うようにして座り、ブルーノは白紙の貼り付けられた壁の前へ立った。

「チリーさん……でしたよね?」

 ブルーノがチリーへそう問うと、チリーはおう、と返事をする。

「ゲルビア帝国国王ハーデンから、直々に指名手配されている、あのチリーさん……で間違いないですか?」

「――――!」

 表情を一変させたチリー達へ、ブルーノは心配ありません、と微笑みかけると、そのまま言葉を続けた。

「僕は貴方をハーデンの所へ突き出そうとは思いません」

「何か目的があるのか?」

 腕を組み、そう問うたトレイズへ、ブルーノははい、と小さく頷いて見せた。

「このパンドラには……いや、パンドラだけではありません。このゲルビア帝国内の至る所に、現在のゲルビア帝国へ反旗を翻しているレジスタンスが存在します。僕は――――そのレジスタンス達を束ねる長です」

 ブルーノのその言葉に、その場にいた全員が驚きを隠せなかった。





 まるで金縛りにあったかのように、身体を思うように動かせない。元々縛られているため、身体が自由に動かせないのは当然なのだが、それとは別の要因――隣にいる男の威圧感に圧倒されて、ミラルは身体を動かすことが出来ずにいた。

「どうした? 喜ばんのかね……親子の感動の再会ではないか?」

 優しげな笑み……一見そう見えるが男の――ハーデンの目は少しも笑っていなかった。彼がミラルへ向けている視線は、父親が愛娘に向けるソレとは明らかに違っていた。

「ふむ。感動で声も出んか」

 そう言って立ち上がると、ハーデンはミラルの正面へ立った。

 顔も、声も、髪も、ほぼ全てがミラルの知る父親ハーデンそのものだったが、彼の纏う雰囲気はミラルの知る父親の雰囲気ではない。圧倒的な威圧感を持つ彼の纏うそのオーラは、人間を超越した人間ではない別の何かであるかのような印象を受けた。

 超越者。

 体内に小赤石を宿す究極のニューピープル。

 その二体の内の一人。

 同じ超越者でありながら、チリーとは対極にある存在――――黒き超越者。

「……えしてよ……」

「何……? 聞こえんな」

 ブルブルと奮えながらも、精一杯絞り出したその声は、ハーデンには届かなかった。

 ミラルは意を決したかのようにハーデンを睨みつけると、小さく息を吸い込み、思い切りハーデンへ投げつけるかのように叫んだ。

「お父様を返してよっ!」

 目に涙を浮かべながらも、懸命にハーデンを睨みつけるミラルを、ハーデンはしばらく無表情なまま見つめていたが、やがて顔を右手で多いながら豪快にハーデンは笑い始めた。

「返すだと? 何を馬鹿なことを!」

 ハーデンはミラルへ顔を近づけると、ニヤリと笑みを浮かべた。

「残念ながらあの日以来、このがハーデンだ。お前の知る父親ハーデンは……今頃研究所で骨にでもなっているだろう」

 一瞬、アルケスタの研究所で見た白骨死体がミラルの脳裏を過ると同時に、ミラルの頬を一筋の涙が流れた。

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