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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第三部
103/128

episode103「Transcendence-4」

 水晶を身にまとうその姿は、美しくありながらも荒々しく、矛盾を孕むが故にその姿は美しい。光が反射し、白く輝く透き通ったその鎧に、高密度の神力が圧縮されているのだと、ニコラスは一目で理解した。

 白髪。そして白く輝くその姿は正に――

「白き超越者……」

 凛としたチリーの瞳が、真っ直ぐにニコラスを捕らえた。

「終わりだ……ニコラス……ッ!」

 そう言い放つチリーをしばらく見つめた後、ニコラスは不意に笑みをこぼした。

「何がおかしい……?」

「確かに凄まじい神力です。流石は『白き超越者』……とでも言っておきましょう。ですが……お忘れですか? 私の能力を」

 相手の神力を無効化する能力。

 これまで、ニコラスに対する神力での攻撃はことごとく無効化されてきた。チリーの剣ですらいとも容易く無効化するニコラスの能力は、恐らくこれまでチリーが見てきた能力の中では「最強」と言っても過言ではなかった。

 しかしそれでも、チリーの中に「負ける」という発想は微塵も生まれなかった。

 ただ一点だけ、勝利だけを見つめるその瞳に、霧がかかることはなかった。

「その自信、無に帰してあげましょう」





 ビクンと。ニシルは肩をびくつかせた。

 何かとてつもない、強大な何かを感じて反応したのはニシルだけではなかった。同じ神力使いであるリエイだけでなく、能力を持たないカンバーとクルスですら、何かを感じ取ったかのような反応を見せていた。

「これは……!」

 どこか笑んでいるようにも見える表情で、カンバーは驚嘆の声を上げつつニシルへ視線を向けた。

「うん、間違いない……アイツだ。チリーだ……!」

 建物の中から感じる、外に漏れ出す程に強大な神力。それがニコラスの物ではないことは、考えるまでもなく理解出来た。

「――! 見て!」

 不意に、ニシルが声を上げた。

「ミレイユが……」

 表情一つ変えないハズの彼女の顔が、どこか笑っているように見えた。そう見えたのはニシルだけではないらしく、カンバーも同じように感じたのか、ええ、と強く頷いた。

 安らかな、笑顔。何かに安堵したかのようなその表情は、彼女がチリーの勝利を確信しているかのように見えた。





 対峙する二人を見つめつつ、ミラルはゴクリと生唾を飲み込んだ。

 能力者ではないミラルにとって、感じられるのは薄らとだけだが、単純な神力の量だけなら圧倒的にチリーの方が勝っている。しかし、ニコラスの表情から読み取れる余裕が、ミラルを安心させてはくれなかった。

「チリー……!」

 ギュッと拳を握り締め、チリーを見つめる。

 雄々しく、猛々しく、荒々しく、しかしそれでいて美しく輝くその姿に、ミラルは数刻見惚れた。


「しねェな……ああ、全ッ然しねェ!」

 確かめるように両手へ視線を向け、チリーはニッと笑みを浮かべた。

「負ける気がよォ……全然しねェなァ!」

 ――――そうだろ? ミレイユ!

 チリーの心の内で微笑むミレイユにそう問いかけ、チリーは改めてニコラスへ視線を放った。

「行くぜ……!」

 それはニコラスへ向けた言葉だったか、それとも己の内で暴れ出さんとする神力へ向けた言葉だったか。

 水晶に包まれたチリーの背に、徐々にチリーの神力が集中していく。その異常な程に高密度な神力の塊は、能力者ではないミラルにすらハッキリと見える程だった。

「くらいやがれェェェェェッッ!」

 瞬間、背に集中した神力は、チリーを背中から押し出すようにして放出される――と同時に、チリーは両手を――両の剣をニコラス目掛けて突き出した。

 残光。

「だァァァァァッ!」

 弾丸の速さで直進するチリーに対して、ニコラスは悠然と両手の平を前へ突き出した。

 そしてチリーの剣と、ニコラスの両手の平が触れた瞬間、轟音が鳴り響く。

「これは……ッ!」

 先程の突進とはまるで違うことに気が付き、ニコラスはそんな声をもらした。

 無効化し切れずに漏れたチリーの神力が、周囲の床を凹ませている。それだけではない、壁や天井にすら、漏れた神力はひびや傷を入れている。

「消せやしねえよ! テメエなんかに……テメエなんかにはなァァァァ!」

 脳裏を過るは、二人の笑顔。

 同じ顔でも、別の二人。

「コイツは……コイツは俺だけの力じゃねェェェェ!」

 自分をかばって命を落とし、それでも尚、自分の背中を押してくれたミレイユ。

 想像を絶する苦痛と、絶望の中、それでも……それでも自分を信じ続け、待っていてくれたミラル。

「三人分だッ! 俺と、ミラルと、ミレイユだ! この力はッ! 俺一人だけの力じゃねェんだよ! テメエ一人で――――」

 更に、放出される神力は勢いを増した。


「消せると思うなァァァァァッッ!」


 ニコラスの両手で、赤が跳ねた。

「無効化……し切れない……ッ!」

 ここでついに焦りの色を表したニコラスの額には、汗が滲んでいた。

「ッッたり前だろォォォォがァァァッ!」

 そして剣は、突き抜けた。

 両手の平を貫通し、胸部をも貫通した二つの剣が、ニコラスの背中から突き抜けていた。

「俺の……勝ちだ……ッ」

「か……ァ……ッ」

 血反吐をチリーの顔面へ吐き出しつつ、ニコラスは短く呻き声を上げた。

 赤く濁っても尚、その白き姿から美が損なわれることはなく、またその瞳にも、一点の曇りすら見つけ出すことは不可能だった。

 勢いよく、チリーが両手をニコラスから引き抜くと同時に、ニコラスの身体はその場へうつ伏せに倒れた――と、同時に、チリーの纏っていた鎧は消えていき、剣と化していた両手は元の両手に戻っていく。

「ハァッ……ハァッ……」

 疲労故か呼吸を荒げつつも、チリーはミラルへ視線を向けた。

「チリー……っ!」

 今にも泣き出してしまいそうな顔は、安堵と歓喜に満ちていた――が、

「――――ッ!」

 それをかき消すかのように、部屋の中に轟音が鳴り響いた。

 音の方へ視線を向けると、そこにいたのはチリーの倍近い身長がありそうな大男だった。彼の頭上にあるハズの天井にはポッカリと穴が空いており、縄の梯子が垂らされていた。そしてその梯子の先には、プロペラを回転させて浮遊する飛行物体が存在した。

「む……」

 大男の太い右腕は、まるでドリルのようになっており、そのドリルで天井をぶち抜いてきたのであろうことは、容易に想像することが出来た。

「そうか、やられたか」

 倒れているニコラスへ視線を向けた後、まるで虫の死骸でも見るかのような顔で、大男は呟くと、すぐにミラルへ視線を向けた。

「テメエは……ッ!」

 見覚えのあるその顔に、チリーは険しい表情を浮かべた。

 東国の地下洞窟で、赤石を奪った大男――ニューピープルの一人だった。

 大男はチリーへ一瞥もくれず、ミラルを縛り付けている十字架を床から無理矢理引き抜いた。

「ちょ、ちょっとアンタ……!」

 困惑するミラルをよそに、大男は十字架ごとミラルを担いだまま縄梯子の方へ歩を進めていく。

「テメエミラルをどこに――」

 チリーが大男の方へ駆け出そうとした瞬間、不意にチリーの身体はその場へドシャリと崩れた。

「お、おい……! ふざけんな! 動きやがれッ!」

 どれだけ叱咤しようとも、チリーの足は動こうとしなかった。

「あれだけの神力で身体に負担をかけておいて、動けるハズがなかろう」

 呟くようにそう言いつつ、大男は縄梯子へ手をかけた。

「チリー! チリーっ!」

 必死にチリーへ手を伸ばすミラルの手を掴もうと、チリーはミラルへ手を伸ばす――が、届くハズもなく。

「ミラルッ!」

 大男が右手で十字架を担いだまま縄梯子へ両足と左手をかけると、縄梯子は徐々に上へと釣り上げられていく。

「チリーっ!」

 徐々に遠くなっていくミラルの声。

 ミラルと大男を乗せたままの浮遊物体は、夜空へ少しずつ溶けていく。

「嘘だろ……ッ」

 やがて、プロペラの回転する轟音さえもその場からは消え去った。

「ミラル……ミラルッ! ミラルゥゥゥゥゥゥッ!」


 その叫びは、静寂に飲み込まれて消えた。



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