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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
10/128

episode10「Freezing town-1」

 辺り一面が氷で覆われている。

 まるでこの町だけ氷河期になったかのような光景であった。が、雪も降っていないし、太陽は変わらず照りつけている。

 それなのにこの町は凍っていた。


 町そのものが、だ。


 地面も、建物も、全てが凍りついており、足元には凍ってしまった鳥が無造作に転がっていた。

 四人共がその光景に唖然とし、ただただ凍った町並みを眺めていた。

「これ、どういうことなの……?」

 しばしの沈黙の後、ミラルが口を開く。

「さあ……な」

 驚愕に顔を歪めたまま、チリーが答える。

 話は数時間前に遡る。


 エリニアで青蘭を助け、共に旅することになりお互いの旅の目的を話し終えた翌日(青蘭が気絶している間に王を捜索してはいたが、エリニアにはいなかった)、チリー達はエリニアから西の町、ドゥナイへと向かった。

 エリニアからドゥナイへは汽車は通っていないが、大した距離ではないので徒歩で十分な距離だった。しかし、歩いている内に異変に気付く。

 ドゥナイ付近の地面や草木が凍っているのだ。

 不審に思いながらも四人がドゥナイへ辿り着くと、ドゥナイは完全に氷結していたのだ。


「この鳥……本当に凍ってる」

 足元に転がっていた凍りついた鳥を拾い上げ、ニシルはしげしげと眺める。

「ああ、完全に凍っている……。しかし、何故……」

 訝しげな表情で、青蘭は考え込みながら辺りを見回した。が、やはり視界に映るのは氷ばかりだった。見回したところで仕方がない。

「人も……凍ってるのかな」

 ボソリと。凍りついた鳥を眺めながらニシルが呟く。

「こ、怖いこと言わないでよ! そんな訳……ないでしょ?」

 ブルッと身震いしながらミラルはそう言ったが、可能性は否定出来ない。それどころかその可能性は高いくらいだ。

「……凍ってるだろうな」

 ニシルに歩み寄り、凍りついた鳥を青蘭が覗き込む。

「鳥は俺達人間よりも体温が高いんだ。その鳥が凍りついてるってことは……」

 ゴクリと。青蘭以外の三人が唾を飲み込む。

「この町の人間も……凍ってるってことか……?」

 チリーの言葉を聞いた途端ミラルの顔から血の気が引いた。

「嘘……」

 身体から力が抜け、倒れかけたミラルの身体を慌ててチリーが支える。

「大丈夫か?」

「あ、うん……。ごめん」

 申し訳なさそうに謝り、ミラルは改めて辺りを見回した。本当に、辺り一面氷ばかりである。うんざりする程氷、氷、氷。全てが凍りついたこの町が一種の地獄のようにも思えた。

「ここで立ってても仕方ないよ。どこか入れそうな家でも探して休もうよ」

「でも、勝手に入っちゃまずいわよ」

 ニシルの提案にミラルが不安げな顔で言う。

「どうせ人間も全員凍ってるだろ。関係ねえよ。ついでに、人間が本当に凍ってるかどうか、確かめようぜ」

 チリーの言葉に、ニシルと青蘭はコクリと頷き、ミラルも渋々納得した。



 ほとんどの家がドアごと凍っており、とても入れたものではなかった。おまけに地面が全て凍っているせいで、滑らないように用心して歩かねばならないため、移動が非常に不便だ。

 そんな状況に嘆息し、チリーは歩きながらも辺りを見回す。

 本当に氷ばかりだ。先程ドアごと凍った家の氷をあの大剣で破壊しようとしてみたが、氷は異常なまでに硬く、その気になれば鉄さえ切り裂くチリーの大剣でも、破壊することは出来なかった。火も試してみたが、表面が少し溶ける程度で、ドア周辺だけでも溶かそうものなら、日が暮れても足りないくらいであった。

「この氷……神力によるものかも知れないな」

 不意に立ち止まり、傍で凍っている建物の氷をコンコンと青蘭が叩く。

「そういえばそれ……神力ってなんなんだ?」

「お前知らないで使ってたのか!?」

 不思議そうに問うチリーに、驚いた様子でニシルが問う。

「知らねえよ。お前は知ってんの?」

「僕だって知らないよ! キリトさんからもアグライさんからも結局説明されてないし……」

 そんな二人に、青蘭は呆れ顔で溜息を吐く。

「私も……気になる」

 そう言って、ミラルが青蘭の方を見ると、青蘭は仕方ない、と呟いて説明を始めた。

「神力ってのはチリーの大剣や、この間のエトラのワイヤーみたいなのを言うんだ」

 青蘭がそう言うと同時に、チリーが大剣を出現させ、これか? と問う。

 青蘭はコクリと頷き、説明を続けた。

「神力ってのは文字通り、神の力みたいな物だ。神力の使える者……神力使いはその神の力で通常では実現不可能な現象を引き起こすことが出来るんだ。チリーのように武器を出したり、炎や水等を自在に操れる奴もいるだろう。ちなみに俺は一定時間内の肉体強化だ」

 青蘭の肉体強化。エリニアでエトラとの戦闘でピンチになっていたチリーを助けた際に見せた高速の移動。あの状態が能力を……神力を発動した青蘭の状態なのだろう。

「神力が使える人の基準って何?」

「規則性はわからないが、神力使いは体内に未知の遺伝子を宿しているらしい。そして能力発動のきっかけは人によって様々だから、遅ければ老人になってから発動する奴だっている……。ゲルビアの人体実験でわかったことだけどな……」

 言葉の中の、「ゲルビア」の部分だけどこか怒りが込められていた。

「なあ、本当に俺は……お前達と一緒に来ても良かったのか?」

 不安げに、青蘭が問う。

「何でそんなこと聞くんだよ?」

「エリニアで襲われていたように、俺はゲルビアから命を狙われている。俺といると恐らく……いや、確実にゲルビアからの刺客との戦いにお前達を巻き込むことになる。アイツらは基本的に神力使いだぞ。下手をすれば、お前達は――――」

 青蘭が言い切らない内に、ポンと。チリーの手が青蘭の肩に置かれる。

「関係ねえよ。そん時は、こないだみたいにぶっ飛ばせば良いだろーが」

 ニッと。チリーが笑った。ニシルとミラルもチリーと同じ思いだということを伝えるかのように、青蘭に微笑みかけた。

「そうか……。ありがとう」

 本当に、良い仲間が出来た……。

 青蘭は心底そう思うことが出来た。

「それにしても、チリーがねえ……」

 呟き、不思議そうにニシルはチリーの持っている大剣を眺める。

「何だよ?」

「いや、チリーに未知の遺伝子って……バカなのにねえ……」

 ニヤニヤと笑うニシルの頭をチリーは右手で小突いた。

「誰がバカだ誰が! 能力とバカは関係ないだろ!」

「お前そうやってすぐ叩くのやめろよバカチリ!」

 素早くチリーの頭をニシルが小突く。

 最早恒例となったこの風景に、嘆息しつつも青蘭とミラルは苦笑した。

 と、その時であった。

「ねえ、アレ!」

 チリーの頭を小突くのを止め、不意にニシルが前方を指差す。

 慌てて三人がニシルの指差す方向へ視線を移すと、一人の小さな男の子が大量の木の実が入った小さな籠を抱えて走っていた。

「この町の子かも知れない……。追いかけるぞ」

 青蘭の言葉に、三人はコクリと頷くと、四人は少年の後を追いかけて行った。



 気付かれぬよう、まるで尾行するかのように四人は少年の後を追った。

 少年は凍りついた地面に慣れているらしく、滑ることなく平然と走り続けている。やはり、この町の住人なのかも知れない。

 しばらく少年を追っていると、凍りついた一件の家に辿り着いた。その家の左側から先だけ、何故か氷に覆われておらず、そこだけまるで別世界のようだった。

 その家のドアは凍りついておらず、少年はドアを開けると中へ入っていった。

「この町の子……みたいね」

 ミラルの言葉に、チリーがそうだな、と頷いた。

「この町について、あの子に聞いてみるのが手っ取り早いんじゃないか?」

 チリーの提案にニシルがコクリと頷く。

「僕もそう思う。もしかするとこの町の中でまともに動けるのは、僕達とあの子だけかも知れないし……」

 青蘭は考え込むような仕草をしながら、少年の入っていった家を見つめた。

「もしこの町を覆う氷が神力によるものなら、本体がいるハズだ。考えたくはないが、この氷はあの少年……もしくは関係者という考え方も出来る」

「ま、とにかく本人に聞くのが一番だろ。中に入ってみようぜ」

 チリーはそう言うと家の前まで歩いて行き、トントンとドアを叩いた。

「おーい。俺だー」

「いやそれおかしいから。退いてチリー」

 チリーを押し退け、ニシルはトントンとドアを叩く。

「すいませーん。誰かいますかー?」

 しばらくそのまま待っていると、ガチャリとドアが半分程開いた。

 ドアの陰に隠れ、顔だけを出してあの少年がオドオドとした様子でこちらの様子を伺っていた。

「ねえ、この町、どうしてこんなことになってるの?」

 屈んで少年と目線を合わせ、微笑みながらミラルが問うと、少年はビクンと肩をびくつかせた。

「え、えと……あの……」

 かなり動揺しているらしく、視線が泳いでいる。

「おお悪い悪い。ミラルは怖いよな」

 ミラルに一瞥をくれ、少年の方へ視線を移すとチリーはニヤニヤと笑った。

「怖くないわよ!」

 そんなチリーの脛にミラルは右足で蹴りを入れる。クリーンヒットしたらしく、チリーは絶叫しながら痛そうに脛を押さえて片足で飛び跳ねている。

 そんな二人を見ながら嘆息し、青蘭は屈んで少年と視線を合わせた。

「なあ、この町のこと、俺達に教えてくれないか?」

 少し落ち着いたらしく、少年はジッと青蘭を見つめた後、小さくコクリと頷いた。

「ほら見ろ! 青蘭なら素直に頷いたぞ! やっぱミラルが怖か――――」

 チリーが言い終わらない内に、もう片方の足へミラルの蹴りが入ったのは最早言うまでもない。

 ニシルはそんな二人を見ながらケラケラと笑っている。

「入って良い……よ。お兄ちゃん達は、アイツと関係ないみたいだし」

 そう言って少年はドアを完全に開け放ち、どうぞ、と呟いた。

「アイツ……?」

 四人は少年の言った「アイツ」という言葉が気になったが、今は聞かずに家の中へと入っていった。

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