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The Legend Of Red Stone  作者: シクル
第一部
1/128

episode1「Opening-1」

外伝と短編を除けば、今作で七作目となりました、シクルです。

「The Legend Of Red Stone」は、過去に「超会!」と同時連載をしていましたが、私の勝手な都合により修正のための削除をしていました。

執筆済みの部分を全て修正し終わりましたので、また初回から連載を開始しようと思います。


話の本筋はあまり変更していないので、「なにこれ全然違う」とかそういう状況にはならないと思います(多分)。

違和感のある表現や、不足していたシーンを追加していますので、読みやすくなっているハズです(きっと)。


前置きが長くなりましたが、楽しんでいただければ幸いです^^

 薄れ行く意識の中で、男は少女の顔を思い浮かべた。脳裏を過るあどけないその笑顔に、男は微笑んだ。

「アルドっ! アルドっ!」

 男の背後にあるドアの向こうから、ドアを何度も叩く音と少女の声が聞こえてくる。男はそれを無視するかのようにかぶりを振り、夜空を仰いだ。曇り一つないこの夜空と同じように、男の心の中も曇り一つなくスッキリとしていた。

 死が、迫っているというのに。

 突きつけられた銃口に、男は少しの怯えも見せなかった。それどころか、満足げに笑みさえ浮かべていた。

 ――――悔いはねえ。いや、なくはないかな……。

「じゃあな。…………」

 静かに、背後のドアへとそう言葉をかけた。と、同時に――――


 銃声が、鳴り響いた。





 フェキタス。町の中心にある巨大な噴水が特徴的な小さな町である。

 町の西部には活気のある市場が並んでおり、品ぞろえに関しては大きな町にも引けを取らない。あまり豊かな町ではないため、店を持つ商人よりも圧倒的に屋台のようなもので商品を売っている商人の方が多い。

 そんな市場の中、少し胡散臭い屋台があった。

「……これ、本物か……?」

 やたらと真剣な顔で、一人の少年が目の前に並ぶ黒いリンゴをまじまじと見ている。みた感じ、年齢は十六歳くらいだろうか。前髪は彼の両目を隠す程に長いが、分けているのか隠れているのは右目だけだった。別に見えないとか、なくなっているとかではないらしく、前髪を右手で避け、しっかりと両目でリンゴを眺めている。

 店主はニヤニヤと笑いながら勿論ですよ、と自信満々に答えている。

 白い、ボサボサの長い髪に包まれた頭を、少年はボリボリとかきつつ唸ると、やがてポケットから財布らしき袋を取り出した。

 その瞬間、店主は口元だけでニヤリと笑う。

「じゃ、じゃあこの黒いリンゴを――――」

 少年が言いつつ、並んでいる黒いリンゴの内一つに手を伸ばそうとした時だった。

「馬鹿っ!」

 素早く、少女の声と共に少年の頭に背後から鋭い平手打ちが飛ぶ。驚いた少年は、伸ばしていた手を引っ込め、慌てて背後を見る。

 そこに立っていたのは、腰まで伸びた美しく長い栗色の髪と、強気そうな釣り目が特徴の、かわいらしい少女だった。見た目や雰囲気から、少年と同年代であることが察せられる。

「な、なにすんだよミラル!?」

 少年は先程平手打ちを食らった頭を右手でさすりつつ、ミラルと呼んだ少女に問う。

「そのリンゴ、どう考えても怪しいでしょうがっ!」

「でも、黒いんだぜ? 俺こんなリンゴ初めて見た!」

「私はそんな、墨で塗りたくっただけのリンゴを堂々と売る店を初めて見たわ」

 ミラルの言葉に、図星だったのか店主は肩をびくつかせる。

 少年は再度黒いリンゴへ手を伸ばし、自分の顔の近くまで持っていき、眺める。やがてハッと何かに気付くと眉間にしわを寄せて怒鳴り散らし始めた。

「テメエ騙しやがったなッ!」

 店主に掴みかからんばかりの勢いで怒鳴る少年をなだめつつ、ミラルは小さく溜め息を吐く。

「さっさと行くわよチリー」

 そう言って、チリーと呼ばれた少年を連れて立ち去ろうとしたが、あ、と何か思い出したかのように声を上げると、ミラルは店主の傍へと駆け寄った。

「あ、あの……」

 ミラルは、ポケットから細かく折り畳まれた紙を取り出すと、それを広げて店主に見せた。

「この人、知りませんか?」

 ミラルの広げた紙には、一人の男性が描かれていた。端正な顔立ちの、年齢で言えば三十代前半と言った感じの金髪の男性だった。

 店主はその絵を眺め、しばらく考え込むような素振りを見せたが、すぐに首を横に振った。

「すまないね。見たことのない顔だよ」

「そうですか……ありがとうございます……」

 ミラルは一瞬沈んだような表情になったが、軽く笑ってお礼を良い、紙を細かく折り畳むと、ポケットの中へ戻した。

「チリー、ミラル」

 不意に、二人の背後からまだ幼さの残る少年の声が聞こえる。二人が振り向くと、そこには背の低い少年が立っていた。

 短髪で少し童顔の少年だった。背は前述した通り、チリーよりも頭一つ分程低い。彼もまた、チリーやミラルと同年代だと見受けられる。

「ニシル」

「その様子だと、そっちも駄目だったみたいだね」

「そっちはどうだったのよ?」

 ミラルの問いに、ニシルと呼ばれた少年は、肩をすくめて見せた。

「全然。誰も見てないってさ」

「やっぱ駄目か……」

 チリーはがっくりと肩を落とすと、深く溜息を吐いた。

「どこ行ったんだよまったく……」

「……ここにはいないのかもね、王様」

 ニシルの言葉に、チリーはかもな、と頷く。

「よし、んじゃ一旦宿に戻るか。ミラルはどうする?」

「私は少し買い物してから戻るわ」

「へぇ……。何かあるのか?」

「何かあるのか? じゃないでしょ。ふざけて落として、一つしか持って来てないランプを破壊したのは一体どこの誰だったかしら?」

 ミラルの言葉に、図星であったチリーは多少たじろぐ。

「あ、あのランプはニシルがだな……」

「僕のせいにするなバカチリ! お前が一人でぶん回した挙句に落として壊したんだろ!」

 ニシルに軽く頭を小突かれ、チリーは頭を抑えて唸る。ニシルが言っていることは事実なので、反論することも反撃することも出来ない。

「とにかく、私はランプ買ってくるから、二人は先に戻ってて」

 チリーとニシルはコクリと頷き、宿のある方向へと歩いて行った。


 失踪した王の捜索。それが、チリー達三人が島を出た理由だった。

 小国、テイテスでのんびりと暮していた三人だったが、ひょんなことから彼らは、失踪した王、アレクサンダーを捜索することになったのだ。

 王自らが島の外へ出たのか、それとも何者かに連れ去られたのか。書き置き一つ残さずに消えた王を、三人は捜している。



「適当なので良いよね」

 先程買ったランプの入った袋を片手に、ミラルは呟いた。フェキタスの雑貨店には様々な物が置いてあり、ランプは勿論他にも沢山の日用品が並んでいた。

 ランプにも様々な種類の物があったが、残金が少ないためあまり選べず、結局最も安いカンテラ型のオイルランプを購入した。

 雑貨店は思いの外遠い場所にあり、チリー達の待つ宿屋に徒歩で戻るには二十分以上かかりそうだ。

 ミラルは軽く溜息を吐くと、宿屋に向かって歩き始めた。

 まだ昼間なため、町の中には沢山の人達が忙しそうに歩いている。フェキタスは小さい割に人口が多いので、賑やかさでは大きな町にも負けないだろう。

 忙しそうな彼らにぶつからないよう歩いていると、不意にどこからか人間を突き飛ばす音が聞こえた。

 辺りを見回すが、近くに倒れているような人間はいない。ふと路地裏の方を見ると、そこにはしりもちをついている小さな男の子と、一人の大柄な兵士がいた。

 不審に思い、ミラルは路地裏の中へと入っていく。

「小僧……この俺様にぶつかってただで済むと思うなよ……?」

 兵士の方は若く、二十代前半といった感じの男であった。男の子の方はまだ七歳か八歳程度の子供だ。

「ご、ごめんなさい……」

 男の子は怒気を発している兵士の男に怯え、しりもちをついたままブルブルと震えている。

「ごめんなさいで済むと思ってんのか……? この俺様はあのゲルビア帝国の兵士様だぞ!? 誰のおかげでこの町にいられると思ってんだ!? あァ!?」

「その子のお父さんとお母さんのおかげでしょ。普通に考えて」

 気が付けば見ていられなくなって、ミラルは兵士と男の子の会話に割って入っていた。

「何だお前は……!?」

 兵士の男は突如現れたミラルを怪訝そうな顔を見る。

「どうだって良いでしょそんなこと。それよりも、ぶつかったくらいで大人が小さい子苛めるなんて……。大人気ないにも程があるわ」

 呆れたように溜息を吐きながらそう言うと、ミラルはしりもちをついたままの男の子に手を差し出した。

「立てる?」

「う、うん……。ありがとうお姉ちゃん」

 男の子は戸惑いながらも礼を言い、ミラルの手を取ると少しだけ笑った。

「おい女! 俺様はゲルビア帝国の兵士様だぞ!! なめた態度とってるとこの町から追い出すぞこらァ!」

「お生憎様。私、この町の住人じゃないから。用も済んだし、追い出したきゃ追い出せば?」

 怒鳴り散らす兵士の男を、ミラルは負けじと睨む。

「反抗的な態度取りやがって……! ゲルビアの兵士である俺を侮辱するということは、ゲルビア帝国そのものを侮辱するってことだ!」

 無茶苦茶である。

 そんなゲルビア兵士の様子に、ミラルは呆れ顔で溜息を吐いた。ゲルビア帝国は大国なため、時折何を勘違いしたのか、今ミラルの目の前にいる兵士の男のように、暴論を振りかざして好き放題やっている連中が最近は増えてしまっている。

「連行だ。こっちに来い」

「連行!? アンタ、それは流石に無茶苦茶――――」

 ミラルが言い終わる前に、素早くミラルの首筋に男の手刀が入る。

 徐々に意識が遠のいて行き、ミラルの視界はブラックアウトした。


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